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2014年1月18日 (土)

よぶ【STAND FLOWER】140117

2014年01月24日 シアトリカル應典院 (120分)

う~ん、・・・いい。素晴らしい。
こういう作品に出会えるから、観劇って辞められないんだよっていう典型的な絶賛作品の一つだろうな。
演劇ねえ・・・なんて言う方々に、四の五を言わずにとにかく観ろよと言って、観させたら、マジっ、人生変わりましたみたいな言葉が聞けるんだろうななんてことを想像しながら、実際には申し訳ないことにそんな誘う人もいないのに、その時のことを考えてテンションが上がるような作品でした。

観て欲しいな。
うん、とにかく観て欲しい。

(以下、ネタバレは許容範囲と判断しますが、何も知らずに観た方が感じることも多いような気がしますので、公演終了まで白字にします。ネタバレとかどうでもいいから観てください。公演は日曜日まで)

写真家の卵、迎。
学生時代のクラブ活動から、そのまま人生の仕事にしようと奮闘中。そこそこの歳を喰ってしまっているが、まだ諦めていない。というか、諦めきれないような状態なのか。
日常を日常らしく写すというのがコンセプトらしく、あまり受けが良くなさそうなのも芽が出ない原因の一つか。
口うるさいけど、絶対的に味方となってくれるような姉との二人暮らし。
父は迎が幼き頃に亡くなり、今は世界中を駆け巡り、写真家として活躍する母の手一つで育てられてきたらしい。もう母とは数十年会っていない。
大阪らしいボケとツッコミトークで日常を過ごすような、色々と互いに悩みはあるのだろうが、楽しい二人。
写真家として生計を立てるなどとはまだまだな状態で、姉には頼りっぱなしだ。
知り合いからの依頼仕事を将来の繋がりと言い聞かせ無料でこなすかたわら、コンテストの写真を撮って応募してはなかなかいい結果が出ないことを繰り返している模様。

迎の周囲の人たちは姉を始め、楽しく優しい人たちばかりだ。
学生時代のクラブの同期である友達は、今は写真を辞めて、料理店の責任者をしている。そのつてで迎に仕事を紹介してくれる。もっとも、その打ち合わせと称し、飲み会を頻繁に繰り返し、友達の奥さんにはいい顔をされていないようだが。
後輩はまだ趣味として写真をやっている。写真撮影の基礎に関しては勉強不足で、迎が今でも色々と教えているみたいだ。でも、コンテストとなると、後輩の方が評価されたりする不条理な現実もあったりする。
迎はそんな現実にも悔しい気持ちを抑えながら、自分を言い聞かせるように信じて頑張らなくてはいけない。まあ、そんな悔しさも打ち消してしまうくらいに、後輩を甘やかしまくる引いてしまうような天然の母親が介在しているのだが。
クラブ時代の先輩は今でも迎のことを色々と気づかってくれる。姉とは同期らしく、今の仕事と絡んだりもしているみたいだ。先輩は卒業後、フリーカメラマンとして活躍し、その後、今の会社で大きな仕事を任されている。いつもおちゃらけているような軽い感じの先輩だが、それだけに色々な厳しさを知っているのだろう。今の迎に対して、現実的な今後を真摯に突きつけてくる。それに対して、迎はもう少し夢を追わせて欲しいというのが精一杯だ。
本当に歳の割には軽い先輩で、ずいぶんと若く自由奔放な彼女もいる。写真家としては、一般的には成功事例と言えるのだろう。

このあたりの背景を描くのが最初の30分ぐらいだろうか。
ここまでは楽しくて仕方が無い。個性的な魅力ある役者さんがキャラを立たせたいわゆるいい人キャラで掛け合うので、ほのぼのとした幸せ一杯の時間。なので、大きな勘違いを犯す。
人生ってなかなか上手くはいかないよねえなんてことを感じるレベルに留まる。
この作品を観劇する前から、この作品は阪神大震災を意識した作品であることが創り手の方から言及されている。それを知っていたので、この後にあの悲劇が起こり、幸せな生活から一転、どうしてこんなことになるのかという事態にみまわれ、そこから生きることを見出すような感じで話が進むのかと思う。
実際にどのぐらいの時間でその悲劇が起こり、話が転換するのだろうか、それを知ってしまっているのは大きなネタバレであり、本当は知らない方が良かったのではないかなんて思いながら観ていた。
でも、それは全く違う。阪神大震災はもう既に起こっているという時間軸で話は進んでいる。
だから、上記したことで一つ嘘がある。迎の母親に関する記述は虚実、言うなら迎と姉の間で自分たちが未来に向かって歩を進めるために作り出した虚構のようだ。

ここまでで迎を観て、ずっと思っていたこと、話の流れで他の登場人物の言葉から感じていたことがある。
迎は今という現時点で生きるという時間軸を止めている。
未来はタラレバ。夢や希望を持ちながらも、それに対して、本当の意味での輝く未来が見出せていないように感じる。過去の楽しい時間の積み重ねで終わっているようだ。現在、そして、そこが起点となる未来に疑問があるかのよう。
そんな人間が、未来を打ち消すような事態にみまわれたらどうなるかと思っていたが、それは上記したように違う。既にそんな事態にみまわれていたからそうなっていたのかもしれない。

話は迎が写真家としての未来を見出すために、先輩の彼女をモデルにして、人生をかけた最高の写真を撮る旅に出掛けることに繋がる。
その旅行には、姉、同期の友達、その妻、後輩、その母も付いていくことになる。
メンツがメンツだけに楽しい旅だ。
ちょっと先輩の彼女がなかなかの自由奔放さで、先輩という彼氏がいるのに、迎に思わせぶりな態度を示すものだから、姉がイライラするなんてギグシャクするところもあるのだが。
それでも、この旅は、迎にとっては将来を決めるような大事な勝負の時間であり、他の人たちにとっては、普段の生活では気付かなかった母や妻の想いを感じる大切な時間となる。

そんな素敵な旅を終えて、また日常へと戻ることが出来ればどれほど良かっただろうか。
でも、そうはいかない。
これが演劇作品だから。
・・・でもない。演劇作品だから、急展開で話を盛り上げないといけないのは当たり前だが、実は現実に起こった悲劇はこんな虚構の世界で描かれるくらいに不条理なものだ。
決して嘘の世界では無く、私たちがちょっと目を向けたら、こんな不条理な世界が普通にあることは確かだろう。

迎が先輩の彼女を撮影する際に崖から彼女が転落するという事故が起きる。
彼女は大怪我を負う。
一緒に転落した迎は必死に彼女を助けようとするが、自分も怪我をしているのでどうしようもない。
あの日、家に取り残された人を助けたくても、どうしようも無くて、そのまま見捨てて逃げるしかなかったように。
崖の下だ。同期の友達も後輩も助けることは出来ない。自らの命を顧みず、崖下に飛び込むとかしたら、出来ないこともなかったかもしれない。でも、出来ない。だって、自分が死んだら悲しむ人がいるから。
結局、彼女はそのまま死ぬ。
助けることは出来なかった。
そのことは迎の心に大きな傷を残す。同時に同期の友達も後輩も。そして、彼女を大切に想っていた先輩も。

ラスト30分はそんな悲劇にみまわれた人たちの苦しい様が描かれる。
罪の意識でまともな生活をおくれなくなった迎を気遣う姉。でも、同じ状態に同期の友達も後輩もなっている。そして、それを気遣う妻や母がいる。
大切な彼女を失った先輩も。
あれだけ楽しかった時間が嘘のように、そんな人たちが出会う。
迎は彼女の最期の時の写真を撮影していた。要は死体の写真を撮っていたことになる。
常軌を逸脱している。助けられなかった、あの時こうしていればという悔いの念でいっぱいいっぱいになった人たちが表面に出す感情。
でも、その時、何も出来ない中で真摯に何かをしようとした迎。
その行動に対して、悲しみを押し殺して、迎を理解し、彼女の死を受け止めようとする先輩・・・
各々が自分を見詰め、互いの行動を受け止めようと必死に振る舞う。
理屈では、誰も悪意などないことは分かっている。それでも、相手を責めることでしか、自分を助けられない。でも、相手の気持ちは自分のこと以上によく分かる。そんな矛盾した想いが渦巻く、もうどうしようもない時間だ。
こんなことの答えを明確に出せる人がいるなら、いやもうどうでもいいからいないのかと怒りの感情が出てくるくらいの時間となる。

最後はもう一つの悲劇が迎を襲う。
こんな悲劇にみまわれ、弟のことを常に愛情持って見続けてきた姉がまともでいれるわけがない。
ストレスからくる体への負担は避けられなかったみたいだ。
迎は絶対的な味方であった姉を失う。

これは自分が招いたことなのか。どうして、自分にこんなことが振りかからないといけないのか。
時を経て、迎は不条理な大切な人との別れを強いられる。
それでも、迎は生きていかないといけない。
こんな目にあって、生きていけるのか。

この答えだけは、作品を観て得たような気がする。生きていけるのだろう。生きていかなくてはいけないといったところかもしれない。
その理由は、迎に生きて欲しいという想いを持つ大切な人の存在があったことなのだと思う。

答えは出ないから、心にずっと残り続ける作品だろう。
でも、迎も、みんなも、残された生を全うして欲しいとは思う。それしかないもの。
阪神大震災とかは、私も関西にいたので経験して、友達を亡くしたりしたけど、これほどまでの深刻さは自分の中には無い。
だから、こんな苦しみや辛さを本当に共有は出来ないのだろうけど、それでも、未来が見えないようなことになる人はいて欲しくない。
想ってくれている人がいるからとか、もうそんなことはどうでもいいから、何かしら見出して、一歩一歩、先へと歩める道を進んでくれればいいとは本当に思います。
安易な書き方かな。苦しさや辛さを分からずに言うのは。それでも、それでも、そうあればいい。その気持ちは何も嘘偽りなくそう思う。

写真家は一生、撮る側でしかいられないらしい。
自分の人生が、思い出の数々の写真の蓄積なら、みんな写真家だと言えるのかな。
自分の心におさめる風景は自分で構図を考え、熱を込めて創り出し続けないといけないという感じだろうか。誰かが、いい写真を撮ってくれて、与えてくれるものではない。
辛く厳しい。悩み苦しむ。
撮りたくない、残したくない写真だってきっとあるように思う。
それでも、そんな写真を撮るしかない時もあるのだろう。
生きている限り、押したくなくて震える手でシャッターを押して、その写真を刻むのかもしれない。
でも、その風景に姿は見せずとも、自分を想ってくれる数々の人たちが写り込んでいるなら・・・
きっと、シャッターを辛くても押す勇気が出るのではないのかと思う。

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コメント

ご来場ありがとうございました!
本当にいい作品になりました。
ご覧頂けてよかったです。

投稿: 秋津ねを | 2014年1月20日 (月) 15時15分

>秋津ねをさん

コメントありがとうございます。
お疲れ様でした。

うん、観れて良かった。
それに尽きますね。
今年もいっぱい、こんな素晴らしい作品たちを観に、劇場に足を運ぼうと思っています。

投稿: SAISEI | 2014年1月20日 (月) 17時38分

ご来場ありがとうございました!
これからも頑張ります!

投稿: 立花裕介 | 2014年1月24日 (金) 17時45分

>立花裕介さん

コメントありがとうございます。
お疲れ様でした。

絶賛です(゚▽゚*)
また観る機会があればなあと思っています。

今後も楽しみにしています。

投稿: SAISEI | 2014年1月24日 (金) 21時51分

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