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2014年1月24日 (金)

フローズン・ビーチ【劇団センマイる】140124

2014年01月24日 大阪大学豊中キャンパス21世紀懐徳堂スタジオ (120分)

2011年にシバイシマイという劇団の公演で拝見した作品。
http://ksaisei.cocolog-nifty.com/blog/2011/08/110807-2729.html
ストーリーは漠然とだが覚えていた。
この時はきっと、この作品の不条理なところは笑いという面白さとして理解し、双子を使ったトリッキーな部分をミステリーみたいな感覚で楽しんだみたいだ。
よくは覚えていないのだが、自分のブログの感想を見返すと、きっとそうだったような気がする。

今回は、全然、感想が異なる。
4人の女優さんのキャラが非常に立っており、その掛け合いが魅力的であるところは変わらない。
ただ、きっとこの作品は、描かれた時代の終末感というか、先行き不安の中で未来へと歩みを進める人たちへの、不条理に降りかかる様々なことを受け止めて人は生きなくてはいけないのだという激励が込められているような感覚を得る。

複雑な人間関係の中で、様々なことが降りかかりながらも、その時代の中で必死に生きている人たちの姿を描いているのだろうか。
3幕に分かれているが、バブルに狂った時期、その崩壊が姿を現し始め、新興宗教など世の中に狂いが生じ始めたような時期、21世紀を迎え、低調、先行き不安という形で時代が落ち着き始めたような時期を辿っているような感じ。ノルウェイの森やら天才たけしやらボディコンやら・・・、世代的には今、40代の私には懐かしい言葉が飛び交っている。

その中で、ある島のある別荘での4人の女性の1987年から2003年までの姿が描かれている。
バブルの恩恵を受けて薬をきめながら好き勝手に生きていたが、人間関係までは好きに出来るはずもなく、愛していた者の裏切りを経験することで生き方を変えた様な愛という女性。
実際は一幕では萌という姉との双子として描かれているが、同じ役者さんが演じるので姿では区別は全くつかず、同一人物の二面性みたいな感覚がある。一幕で堕落した卑怯な人格部分が萌の死と共に消え、残った人格で立ち直りを見せるような生き方をしている。その後は、父の経営破たんなどを経験しながらも、玉の輿に乗って裕福に暮らしたが、再び経営破たんへと追い込まれたみたい。どうも打ち上げ花火みたいな男と縁があるみたいで、一時はいいけど、すぐに闇へと導かれるような男運の悪さがある。
岩崎未来さん(劇団ちゃうかちゃわん)が演じる。切り替えはさすがの女優さんの力であるが、運命に左右される自らの人生を斜に構えて呪っているかのような冷めた視線が印象的。

そんな愛の友達、というか深い仲である千津。愛のことを愛する感情よりも、薬目当てで近づいていたみたい。裕福な愛への嫉妬が殺意にまで発展しているが自分で行動を最後まで起こすほどの覚悟は持っていない感じ。愛の殺害計画も友人の市子にゆだねている。
薬に依存、愛に憎しみを抱いていても愛が必要、友人の市子に頼る。基本的に依存体質みたいだ。その後も夫に人生をゆだねたのか入信していた夫と同じ新興宗教に入り、結婚も最終的に4回するようなところからも、一人では生きていけないようである。
誰かを頼って、誰かに守られてということを繰り返しながらの、人に左右されている人生。でも、なぜか職業は人を守る、誰かに何かを与えるような看護士をしている。実際に、精神病で悩む市子に対しては、敬虔な介護をずっとし続けたらしい。
矛盾するようなところが、本来の目指す自分と異なる道へと歩んでしまっている自分への苛立ちみたいなものに繋がっているのだろうか。
村田千晶さん(劇団六風館)がこの役の雰囲気を秀逸に醸し出す。三幕各々で生活環境で変化した姿や心情の表現が非常に洗練されていて、ずっと目を惹いていた。

千津の友達、市子。
この役は色々なところで超越しており、この作品自体が不条理だと思わせる大きな要因となるキャラだろう。
ずっと精神的な病がつきまとっており、そのどうしようもない心の病が全てを引き起こすのだとばかりに描かれているように感じる。
突拍子もない日常の言動を始め、別に憎しみも無い愛への殺害を普通に手伝おうとする、指が切断されても普通にくっつく、人の傷を治すような神がかりの力を持つ。こんなナンセンスな出来事の全てに、理由が存在せず、市子だから仕方が無いくらいの手放しな描き方がされている。
足立瞳さん(劇団六風館)が、この不可思議な役を演じている。本当に不思議な演じ方をされる。特にキレキャラになっているわけではない。ごく普通のちょっとおかしな雰囲気があるだけ。でも、その独特な空気に不条理な言動全てが許されるような感覚になる。
この感想を書きながら思ったのだが、何かずっと漂っていた、この子はきっと人を想えるいい子なんだろうなといった印象は、きっと千津への感謝なのだろうな。千津のためなら愛の殺害を手伝うだろうし、千津にずっと介護された大事な体なら切断された指がくっつくのも納得できる気がする。もちろん、怪我をした千津の傷を治すのは大きな感謝の愛が起こした奇跡だろう。この市子は三幕を通じて特に変化が無く、何にも捉われず、自由きままに生きているような印象を受けて観ていたが、誰よりも一人の人間、千津に執着した生き方なのかもしれない。

愛の父親の後妻、咲恵。
愛の父親の車に轢かれ、目が不自由になったことへの父親の贖罪だったのか、女の財産目当ての強迫だったのかははっきりしないが、父親と結婚して愛の義母となる。愛とはいがみ合っていたが、愛の変化と共に、仲良く一緒に生活する。
目が見えないから、嗅覚に優れているように、人の本当の心を読む力もパワーアップしていたのだろうか。この別荘にいる3人の心に抱える悩みを理解し、それを笑って吹き飛ばそうとしているかのような母性を感じる。

経営破たんとなり、愛とは別れ一人で暮らし始める。この頃から目が見えるようになる。
いったん失った視覚が戻ることで、人の嫌なところも見えるようになったのか、あまり人づきあいをしていないような感じである。もちろん、人生の伴侶をまた見つけることは叶わなかったようだ。
石田裕子さん(演劇グループsomething)が演じる。自らに降りかかった悲劇をよそに、人のことばかり気にしているような母性の優しさを醸す。ずっと笑って、そのことが周囲に安堵と勇気を与えるかのような外観と同じく美しい人の姿が印象に残る。

こんな4人が1987年から時を経て、16年後の2003年に三度目の再会を果たすのが最後の三幕である。
この島自体が地盤沈下で崩壊しつつあり、かつての別荘もほとんどが浸水している。
そんな別荘にわざわざ、4人が集結することになる。
これまで色々あった。もう、ここらあたりで・・・
人生をここで終えるつもりだった者もいたみたいだが、結局はこれからも色々あるだろうといった考えに変わったような姿で話は締められる。

こんな結末に至るのに登場する、全く意味の分からない、かにバビロンという生き物。一幕から別荘を好き勝手に飛んで、みんなをイライラさせている。
かにみたいな格好だけど、空を飛んで刺したりもする生き物らしい。よくは分からないが、かにと蚊のキメラみたいな感じなのかな。
いきなり喋りだし、こんな4人に説教をたれて、市子に切れられて踏み潰さながらも海へと逃げる。そこでは普通のかにみたいになったようだ。
ナンセンス極まりなく、意味不明だが、何となくだが、このかにバビロン、元々は海で普通にかにとして生きていたんじゃないのかと思う。
それが、何かの拍子で陸に上がってしまい、こんなよく分からない人たちが渦巻く別荘に迷い込んでしまった。もう、戻ることも出来ない。本来の自分が生きるべき海の世界とは異なり、数々の試練が彼を襲う。もう力尽きて、生を終えてもなんてことを考えたのかもしれないが、彼はあり得ない進化を遂げ、空を飛び、新しい陸の世界から、空にまで世界を拡げ、長い時を生き抜いてきた。
破産して自殺を考えていた愛。目は見えるようになったものの、歳を喰い、それほど幸せな未来が見出せなくなっている咲恵。特に薬物とかもせずに普通に生きているのに、精神的な病にこれまでずっと苦しまされ、どこか生き辛そうで、伴侶も見つからず、この先も苦難の道が待ち構えていることを漠然と理解しているような市子。薬物依存からの愛との一線を越えた付き合い、愛への憎しみ、裏切り、新興宗教への依存、愛があるのかよく分からなくなっている夫との関係と波乱万丈の人生を歩むのに疲れたかのような千津。
かにバビロンに、そんな背景があるなら、何か終着を求めて、再びこの屋敷に集まっているかのような4人に、おまえら、それでも生きるんだよ、終わらすなんて汚いぞ、下等生物の自分ですら、こうして生き抜いてきたのに、人間様なんだろうみたいな言葉が浮き上がってくるように思う。

最後はみんな海へ飛び込み、彼女たちの笑い声の中で終わる。
彼女たちにとってはずっと生き辛く、時に荒れたり、時に耐えたりしながらも、笑って頑張ってきたこの別荘を起点にしたこの時代の世界から、一時だけ抜け出して、別世界のような海を楽しんでいるみたいだ。
かにバビロンは元の世界に戻ってきっと幸せに生きるのだと思う。
彼女たちは、また海から上がって、本来の陸地に戻らないといけない。そこに今度は幸せがあるのかは分からない。それでも、私たちはそこにしか生きる場所は無い。だから、息抜きをしたら、そこでまた頑張って時代と共に生きないといけない。
そんな今、苦しい中で生きる人たちへの激励を込めたような話なのかなと感じる。

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