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2014年1月19日 (日)

暗闇のもぐら【イチハラ会】140118

2014年01月18日 金毘羅 FreeStyleStudio

実際にあったある事件の犯人の男の心理を見詰めたような作品。
この作品の中では、実際には起こり得なかった、本音をぶつけ合い、心を通わすことが一時でも出来た男が、どのようになったかという世界を描くことで、その悲劇を物語っているようである。
心情を不器用ながらも真摯にぶつけ合った二人から生まれたもしもの世界に、一筋の光を感じられるような希望の話でもある。

<以下、ネタバレがあるため公演終了まで白字にします。公演は日曜日まで。二人の役者さんの真剣なぶつかり合いに魅入る見事な作品です>

秋葉原通り魔殺人事件をテーマにした作品。
この犯人となるオタクと言われていた男が、事件を起こす前に地下アイドルと本音を語り合うという設定の中で、犯人の心理を見出そうとしているようである。

本当に地下にある小さなライブスペースのようなこの劇場にふさわしく、最初は少々、痛々しいアイドル風の女性が登場して、ライブを始める。あっ、これは役としてね。実際は可愛らしい米山真理さん(彗星マジック)が演じているので、けっこう萌える。
あまり売れてはいないのだろう。そのひたむきさが厳しく、直視は出来ない。
そんな会場の隅で、携帯をいじり、何やら怪しげな男。オタクの犯人の男役である出本雅博さんがいる。見た目はごく普通のちょっといい男なのに、このいかがわしいオーラが半端ない。
一曲歌い終えて、ちょっとしたトークをして、次の曲へと向かうところで、男が舞台に上がってきて、アイドルにナイフを突きつける。

気付けば、アイドルは舞台上で縛られ拘束されている。
男はナイフを片手に、大事なことをする予定だったのに、こんなことになってしまったとつぶやきながら、ひどく悔いている様子。
警察が直に来るだろう。そう言う男にアイドルは語りかける。警察は来ないと。
それもそのはず。会場には客がこの男しかいなかったらしい。音響をしてくれていた男は縛られてトイレに監禁状態になっている。通報できる人がいないのだ。
安心する男をよそに、アイドルはへこんでいる。
このアイドル、何とか売れたいと、この単独ライブのために必死に頑張り、これからのアイドル人生を掛ける意気込みで挑んでいた。それがこんなことになってしまったのだから。

男は何も無かったということにして、その場を去ろうとする。自分にはすることがあると。
それをアイドルが聞き出そうとすると、これから無差別殺人をするつもりだと男は答える。
無差別だから、こうして知り合いになってしまったアイドルを殺すことは出来ないという考えらしい。
これでは虫が良過ぎると思ったのか、そんなことは嘘っぱちで気の弱そうな男の妄想だと思ったのか、アイドルは急変して本性をあらわす。

山梨の田舎出身で、若かりし頃はヤンキーで山梨の狂犬だか狂犬病だかとか言われていたアイドル。
こんなオタクのような男を脅すことなど、お手のものみたいだ。
自分だって、三十路間近になりながらも、必死に頑張っているのだ。彼氏だっていたが、こんな地下アイドル活動を始めるやいなや、自分の下から去っていった。
勝負をかけたこの単独ライブ。覚悟はしていたが、全く客が来ない。中止という決断を考え始めた時、一人の男が会場に現れた。嬉しくて仕方なかった。でも、それがこんな形で結局はライブ中止という形に追いやられている。勝手な考えではあるが、裏切られたという怒りを持ってもおかしくはない。
立場はすっかり逆転し、方言丸出しのきつい口調で男を心身共に痛めつけ始める。
携帯もとりあげ、いじめのようにプライバシーにグイグイと入り込もうとする。
そして、ネットの履歴を見ると、そこには掲示板に犯行予告が書き込まれていることが分かる。
男の表情からも、どうやら本気だったみたいだ。

異常だ。理解できない。
最初はそう男を全面否定していたアイドルだったが、男と語り合う中で、男がこの考えに至るまでのことが明らかになっていく。

両親の不仲。去っていく父親、自分を疎む母親。見放されることになった信頼していた先輩。心を本当に通わすことが出来たネットで知り合った女性への恋。そして、その女性からの拒絶・・・
やがて、二人は自分にとって大切な人に認められたい、想われていたいということが叶わなくなったことから、みんなに自分を見て欲しいという想いが生まれている共通点に気付き始める。
二人は苦しみを共存でき、本音で語り合える友達となり・・・

ラストは明確にはされていないが、ほのかな希望を見出せることを意識したような形になっている。
男もアイドルも、過去にもしはなく、全てが現実なので、もう変えようも無く、こういう状態に至ったことは避けようが無いが、未来においては、もしがまだ通用する。
もちろん、これはフィクションなので、なおのことだ。
もし、あの犯人の男に、心を通わすことが出来る人との触れ合いの時間が最後に持てたら、少なくとも持てる可能性を信じさせてあげることが出来れば、未来は変わったかもしれない。
その変わった一つの姿を映し出しているようである。

この男を見詰める時、私たちは最初はアイドルがそうであったように、恐らく全面否定であろう。このアイドルに対してだって、同じ否定の仕方をするように思う。
全面否定してしまえば、もうそれで終わり。
多分、現実世界はそんなことの繰り返し。ニュースで流れる事実だけを見ている限りでは、この男もアイドルに対しても、その心を見詰めようとなんかは思わない。
それを可能にした作品だと感じる。
こうして、フィクションでも構わないから、人の心の中に入り込んでみる。
そこで得た感覚は、きっと完全なる全面否定へとは向かわないように思う。
これが人を想うということの正体なんではないかと感じる。

観ながら、ずっと思っていたのは、この作品と根本は同じなんだろうなと。
http://ksaisei.cocolog-nifty.com/blog/2013/07/130712-8901.html
昨年、拝見したくじら企画のドアの向こうの薔薇。
こちらは連続婦女暴行殺人事件の犯人を描いている。
犯罪心理を分析するといった感じで話は進むのだが、同時に自分、人間を見詰めてみようとする感覚が非常に似ている。

会場を出る時、この作品の主演男優さんが普通に観に来られていたのでびっくり。
あのアルだあ。観た人しか分からないかな。その強烈なインパクトは。姿を拝見しただけで感動した。

共通点のある二人だが、進む道は異なる。この作品では、互いに共有し合える道を見出せるような希望を浮き上がらせているが、現実ではそうはいかなかったから事件が起こったわけだ。
二人の違いは何だろうか。
共に人に自分を認めてもらいたいとするのだが、かたや、無差別殺人を起こすことで、かたや、かなり痛々しいけど地下アイドルとして頑張ろうとしている。
過去の受け止め方だろうか。
未来を見る時に、人は過去と決着を付けないといけないのだろうか。
そうしないと、本来は建設的であるはずの未来を見ても、それは今、現在を壊すという形でしか考えられないような印象を受ける。
そして、過去を受け止める時に、自分だけでそれを実現することは難しく、自分が想える人、想ってくれる人との接点がある中で、始めて自分を見詰めることが出来るように感じる。
結局は孤独が引き起こした悲劇だったのかもしれない。
その孤独は今の情報溢れる世界に身を置いているからこそ、強く感じてしまうものであるようにも思う。

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