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2013年12月 1日 (日)

22332【空の驛舎】131201

2013年12月01日 カフェ+ギャラリー can tutku

5人の劇作家による短編集。
公演名は作品を演じる人の数を示しているらしい。
各々の作品は、とんでもないくらいに個性的で、理解に苦しむ作品も多い。というか、私には全てがそうであったが・・・
5作品を拝見して、何となく感じる共通テーマは、人の居場所みたいな感じだろうか。
自らが居る場所。その周囲の人たち、環境。その中で生きている自分として、そんな居場所を見詰めているような感覚を得る。

第一話  「yodume」

電車に乗る男女。
女が男の手をとり、爪が伸びているから切れと言うが、男はもう夜だから切らないと言う。
父親の教えらしく、幼き頃にそれを破ってボコボコにされたこともあるみたい。
そんな父親に、女を会わせることは出来なかったようだ。
夜と言っても、まだ太陽は海面の少し上。二人の頭上にはもう夜が来ていると感じているのか。
荷物は少なく、お金も切符を買ってお終いの様子。
向かう先は岬のある終着駅。
そんな中、一人の男が乗り込んで来る。
二人が考えていることを知っているかのように、二人に話しかける。
この電車が向かう先は西の岬。東の岬は観光地になって華々しいが、西の岬は何をやってもうまくいかなかった。
そこから飛び降りた自分はどうしたらいいのか。
やがて、男は立ち去り、二人はこれからのことを語り始める。

心中カップルの日没前の一時の幻想みたいな感じだろうか。
恐らくは何をやってもうまくいかないような状態で、東の岬に足を背けて、そんな自分たちにふさわしい場所として何も無い西の岬へと引きずり込まれるように向かっているのか。
その結末が死であることには、二人ともぼんやりとしか認識が無い様子。
それを夜爪という迷信の意味合いや、乗り込んできた死の象徴のような男と出会うことで、死ということを短い時間ながら見詰めることが出来たような感じ。
男の父や、不幸にして西の岬に眠ることになった男の死に対する弔いの気持ちと同時に、自分たちに残された生をもう一度大切に想う気持ちが生まれたように感じる。
乗り込んできた男が、二人のこれからを見ることなくこの世を去った男の父が二人のために送り込んだような感覚も得られ、死してなお繋がる人の絆のようなことを思わされ、厳粛な気持ちも出てくる。
ぼんやりと空虚な瞳から、生への想いが強まり、生気を取り戻したような女を演じるイトウエリさん(手のひらに星)の姿が、消えそうになっていた人が、また形を浮き上がらしたようなイメージを受ける。

第二話  「エピローグ」

部屋でくつろぐ二人。
小さい頃の夢は何だった。私はプーさん。
何で、子供は大人になることを知っているんだろう。大きくなるから。確かに体は大きくなったけど。
ビールを飲もう。弁当を食べよう。ビール美味しいよね。いや、まずい。まずいからいいんだよ。
毎日くれるメール嬉しいね。面倒くさいけど。面倒だからいいんだよ。
とりとめもない会話をする中、男は女に大事な言葉を語る。

未来が無限の拡がりを見せるような子供の頃。
大人になれば、無理だと分かるものにだって、それになりたいと純粋に夢を語れる。
体が大きくなり、大人になったらそうもいかない。
でも、まずいものがうまかったり、面倒なことが良かったり。別に無理して、そう考えているんじゃなくて、大人ならではの楽しみが自然に生まれる。
そんな今の大人を楽しんでいるかのような二人。
そして、二人だから楽しめることもある。
二人だから手を合わせたら音が鳴る。そんな音が二人の将来をより豊かにするような気持ちを抱かせる。
大人の男の純粋な魅力を溢れさせる松嵜佑一さん(A級 MissingLink)の素敵な笑顔が印象的。

第三話  「日光浴」

左頬に大きな痣がある男。
妊娠中に母親のお腹にセキセイインコが当たったから、こんなことになったのだとか。そんなことを言っていた母親は、レーザーやら色々なことを試しても改善されないことや、我が子に傷を背負わせた悔いなのか、精神を病んだこともあるみたいだ。
男は、今、宗教の施設にいる。ここは、自分の魂だけを見てくれる。痣のために、外にもなかなか出れなかった自分としては、落ち着けるところみたいだ。
体の中から湧いてくるミミズを太陽に当たって抑え込むみたいな。
そんな男を兄は探し出して、連れ戻そうとしているところ。
逃避、甘い生き方。そんな二人の兄弟ならではの本音が飛び交う。

これは痣を何かに例えているのかなとか色々と考えながら観ていたのだが、結局よく分からなかった。
ただ、行き着くところは母親への愛みたいな感じだろうか。
兄弟は痣もそうだが、色々な点で異なる育ち方をしており、当然、母親から受ける愛も互いに異なると感じるものだったのではないか。
でも、それはどう違えど、やはり愛であることには変わらない。
兄が弟を心配する母親のために弟を連れて帰りたい気持ちも分かるし、弟はきっとこんな宗教施設でも自分が受け入れられる中で今、生きていることで母親に安心して欲しかったように思う。
共に母親への感謝、愛情を違う形で抱いていることは強く感じる。
ミミズは何だろうか。
弟はこんな痣を持って生まれたことへの母親への憎しみ、兄はそんな弟への妬みみたいなことを感じる。そんな人の負の感情が時折、蠢くように現れる。それを浄化するのは太陽。それは母親から愛されているという母の光のようにも思える。
兄の石塚博章さんの鋭い眼光。それは終始、人に向けられているのではなく、自分自身に向けられているような追い詰めを感じさせる。
弟の三田村啓示さん。潜む激しい感情がいつ爆発するのかと思わせる雰囲気で、終始、自分を抑え込んでいる。
二人の抑圧された中で、自分を見詰めながら生きる姿が、母親の大きな存在の尊さを感じさせる。

第四話  「しーらかんす」

文芸同人誌、しーらかんす。
SF小説が好きな男と、恋愛小説が好きな女が立ち上げたみたい。
最近、男の妻も参加し始めている。職場結婚で二人とも教師をしている。
この日は、次号の作品の合評会。
女はこの同人誌への執着が大きい様子で、いつも合評会には一番最初に来て、少しの時間も惜しんで新作を執筆している。
女と妻は相性が悪いのか、互いに嫌味を込めた会話を繰り広げる。
男がやって来て、いつものように調子良く、女を軽く褒めたりして、場を盛り上げようとしている。
妻はそんな態度が気に入らないのか、もう同人誌を辞めると言い出す。さらには、男が家では女の作品をろくな経験も無いくだらない恋愛小説だとこき下ろしていることを暴露して、立ち去る。
申し訳なさそうに女の様子を探る男。
嫌味の込もったことを当然のごとく言われる。
男は、今、妻は妊娠していて、その男女産み分けに失敗して機嫌が悪いようなことを話す。
合評会は中止。
部屋に残された女はただ、ひたすらに新作を執筆し続ける。

申し訳ないが、これは何を言わんとしているのか、さっぱり分からない。
ただ、潜んだ相手への負の感情が、抑えても滲み出てきてしまうようなドロドロの会話をする女、井尻智絵さんと妻、山本彩さんの姿だけが印象に残っている。
深海に潜んで、特に進化することもなくずっとそこにいたシーラカンス、コントロールできない人の感情みたいなことを描いているのだろうか。
思い通りにいかない数々のことの中で生きる人の閉塞感と同時に、それでもそんな中でもどっしり座って生き続けてやるといった覚悟みたいなものを感じる。

第五話 「ウメコ」

テーブルの上に置かれたコップ一杯の水を飲もうとしない女。
男は、安全だからと無理にでも飲まそうとするが、体がもう受け付けないと突っぱねられる。
部屋に閉じこもっている女なのに、雪が降り冬がやって来ると言い出す。
男は焦げ臭いにおいがする。
男は毎日、梅の木を焼いている。
ウメコのように、体に黒い痣の様な印が出た梅の木を。
でも、ウメコは焼かない。
この部屋に隠して、治ってまた美しい花を咲かすという一抹の希望を抱いている。
でも、自分が消えないと、この印が伝染し続けるとウメコは言う。
そして、自分でこの印を最後にするべく、その命に終わりを告げる。

梅の伝染病をモチーフにして、何かを伝えようとしているのか。
印は原爆症で見られるような黒い斑点であり、雪も死の灰のような表現なので、核へのメッセージとなっているようである。
焼却、隔離といった形でしか抑えることが出来ない核。
治療では無く、排除することで対応することの行き着く先は、こんな未来だと警鐘しているかのようである。
ウメコを地球にまで見立てると、もう自らが死を選択するしか無いとばかりに、最期の時を覚悟する姿が滅亡という言葉を浮かび上がらせる。
と言って、どうしたらいいのか。
この話だけでは、もう取り返しのつかないことをしてしまったという想いだけが残り、不安と恐怖が交錯する感情しか抱けない。
隠して監禁するからダメなのだろうか。
梅の木が焼かれている、花を咲かす力を宿した梅の木も死へと向かっている。
この現状を把握する人がたくさんいれば、そこから何かが生まれるのかもしれない。
梅の木の精霊の様なウメコを演じる阪田愛子さん(桃園会)。その息絶える最期の姿は震えるくらいに美しくも悲しく、その死に怒りが込み上げてくるような表現だった。

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