メリィ・リトル【冷凍うさぎ】131226
2013年12月26日 シアターカフェ Nyan
あんだけ、毎週、劇場に足を運んで、その時にチラシをチェックするのだが、なぜか漏れてしまう公演というのがある。
この公演も、知ったのが数日前。
ネットで調べて、ご出演の役者さんのお名前を拝見して、急遽の観劇。
学生劇団では、私が密かにチェックしている実力派役者さんが揃いに揃っている。
恐らくは、震えるほどの素晴らしい感情表現を見せてくれるはず。
その期待どおりだったというのが、一番の感想だろうか。
全役者さん、その魅力を大いに発揮している力のこもった作品に仕上がっている。
戦争によって滅びかけている、ある小さな国の廃墟のようなところで暮らす人たちの一時を描いた話。
21歳になるのに、まるで幼児のように純粋で、笑顔を絶やさないメリィ。外界と遮断されて生きてきたらしい。
メリィの周囲には、頼りなくていつも悲しそうにしているけど大好きなお兄ちゃん、いつも優しいしっかり者のお姉ちゃん、ちょっとボケちゃってるけどいつも笑顔で遊んでくれるおじいちゃん、口が悪くてお兄ちゃんやお姉ちゃんを悲しませるから大嫌いな奴、聖書を販売するなんて怪しげな仕事をしているが、困った時にはいつも助けてくれて色々な物をくれるかっこいいおじさん、誰にでも人懐っこい犬がいた。
そんな人たちとお別れをすることになったクリスマス。そんなクリスマスの数ヶ月前から、メリイに起こった出来事を振り返りながら話は進められる。
この国は、とりあえず今は休戦中ではあるが、もういつ大きな戦争が始まるか分からない状態。先の戦争で国の多くの人は犠牲になって棲家を失った。
そんな浮浪者のような人たちが集まって、空いている小さな家に仕方なく住み着いているみたいだ。
メリィのお兄ちゃんは、社交性に欠けているところがあるのか、まずまず見映えの良さそうな家を見つけてきて、メリィと二人っきりで住んでいた。そこに行くあての無いお姉ちゃんが半ば強引に一緒に入り込んできた様子。だから、血の繋がりは無い。
ちなみに、メリイとお兄ちゃんも血縁関係は無い。メリイはそんな難しいことは分からないので、本当のお兄ちゃんだと思っているが。
おじいちゃんはいつの間にか、家を訪ねて来るようになった。それは何度も何度もこの家に足を運ぶ必要があったためなのだが、ボケた今となっては、その理由も定かではない。
口の悪い男は、最初は国の管理局の役人として接触してきた。この国の人たちはIDカードみたいなものを義務付けられてるみたいだが、訳あってメリィにはそれが無い。だから、それを国に報告するとゆすりを掛けてきた。でも、聖書を販売するおじさんは色々なところと通じているみたいで、その男を抑え込む力を持っていた。だから、今はただ、家を出入りしているだけだ。みんなから嫌われているが、犬だけはお気に入りみたいで、いじめたりしながらも面白い奴だと構っている。犬といっても、理由は分からないが、犬として生きることになってしまった人間なのだが。
クリスマスが近づき、メリィは楽しく暮らしている。
でも、この国に降りかかろうとしている戦火はもう避けられない状況にある。
さらには、追い打ちをかけるように起こった大雨の異常気象で、住んでいた家ももう壊滅状態だ。
この地を去って、また新たな生きる術を考えなくてはいけない。
そんな中で、メリィとお兄ちゃんが一緒に住み始めた理由や、口の悪い男の本当の正体などが明らかにされていく。
どうしようもない世の中で、それでも生きていくために誤っていたのかもしれないが、起こしてしまったこと。
それに対して、けじめをつけなくてはいけない時がやって来て・・・
聖書販売のおじさんやお姉ちゃんや犬とかに関しては、どういった生き方をしてきたのかが、あまり描かれておらず、謎めいたまま。最終的には男とお兄ちゃんの話に集中する。
男は管理局の役人であると言っているが、実は嘘。犬にえさをあげようと、肉屋の主人を脅したのが悪かったのか、ついに捕まる。後日、道に捨てられるように転がる彼の死体があったみたいだ。
お兄ちゃんはメリィを誘拐してずっと一緒に暮らしてきた。家にやって来るおじいさんは、そのメリィの実の祖父である。お兄ちゃんはそのことを全て、告白するが、もう時が遅過ぎた。おじいさんは、すっかりボケてしまっているから。お姉ちゃんが必死に、おじいさんにそのことを伝えようとするのだが、結局はメリィと意思疎通することなく、おじいさんは家を去っていく。
戦争が近づき、お兄ちゃんはいつまでもメリィを束縛するわけにはいかないと、人格を変えてしまうような手術を受けて、メリィと最後の時を過ごす。
少しごちゃついているところがあるのだが、結局は人の持つ優しさを描いているような感じだろうか。
戦争が続き、もう狂ってしまいたくなるくらいに鬱積した暗い世の中。
その中で必死に生きていくために、各々は自分のために生きる道を見出そうとする。
その姿は、本当に狂ってしまったかのように見えたり、自己中心的だったり、悪意の塊のような態度を示す。
でも、この悪意にまみれた世の中で、たった少しの触れ合いの時に、心の奥底の善意が顔を出す。
人のことを想って行動する。
これが自分にとっては災いとして作用したり、つらく苦しいものである可能性があったとしても。
そこに人の優しさが浮き上がる。
メリィにずっと愛情を注いできたが、これからの彼女の本当の幸せのためにも、自分の人生の道を変える覚悟をしたお兄ちゃん。最初は自分のためだったが、最後は彼女のためにという精神になっている。想いの形こそ違えど、その大切に想う気持ちに差異は感じられない。
その、お兄ちゃんの意思をくみ取り、悲しい笑顔を見せながらも、メリィにこれから代わって愛情を注ぐ覚悟をするお姉ちゃん。
何があったのかは分からないが、自分で強く生きていく精神を持って成功をおさめた聖書販売のおじさんは、その自分の満たされたものを誰かの救いに出来ないかを考えているように感じる。終始、絶やさない笑顔はこんな世の中への抵抗のように見える。現実的な考えの下で、共に過ごした人の最善を尽くそうとしているようである。
口の悪い男は、生きるためにボロクソのすさんだ生活をしてきたのだろうか。全てを悪意で捉えるかのような狂気的な変態チックな考えは常軌を逸脱している。同じようにすさんだ結果、犬という形になったかのような男に共感を得たのか、誰かのために何かをするという考えが芽生え始める。
これまた、何があったかは分からないが、犬という姿になって、初めて人に心を許すようになったかのような男。
恐らくはメリィが自分の孫だと気付きながらも、彼女がこれまで愛され、これからもきっと愛され続ける幸せを信じて、戦争で失った家族のような一時の繋がりの楽しい時間を過ごしたおじいさん。
恵まれない人生の中で、絶望したり、悪意にまみれたり、人を傷つけたり。
でも、そんな人たちの中にも潜む心の優しさ、人を想う気持ちは必ず存在する。
メリィはきっと、そんな人の素晴らしいところを見抜く力を持っているのだろう。
だから、これまでもこれからもずっと、周囲の人たちと一緒に幸せに過ごし、周囲の人たちを幸せだ、幸せだったんだ、幸せになろうと思わせる。
誰もが、どこか心を穏やかにしてほのかな幸せを感じるクリスマス。
そんな日がメリイには毎日、訪れているかのようだ。
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