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2013年12月24日 (火)

拝啓ライトフライヤー号!【劇団赤鬼】131223

2013年12月23日 ABCホール

安定した話の展開から織りなされる、鉄板のハートフルなお話。
その温かみある人たちを描いた作品は、全ての人への幸せを願いたくなるような、優しい心を引き出させてくれるようです。
この劇団ならではの、人の想いを深く感じさせる感動的な話でした。

ある南の島。
過疎が進み、閉島になることが決まっており、もう退去命令が出されているのだが、島にはまだ残っている人がいる。
昔、島から本土へ出ていった二人の孫で、この島の小学校に赴任してきた通称、マドンナ先生。
生徒は二人。一人は父親が堅苦しい島の役所の公務員。全員を退去させる大役を任されているのだが、なかなかすんなりと応じてくれない住人たちに悩まされている。もう一人は、自分はブスだからが口癖の後ろ向きのちょっと変わった子だ。
漁師としてずっと島で活躍してきた、ちょっとおちゃらけたところがあるが、一本筋の通った男。結婚したくてしょうがないらしい。
平和な島だが、一応、警官も。頼りになるのかならないのか、おふざけ好きで気の優しそうなみんなから慕われている人。
島に唯一残る、飲み屋さん。少々、ボケ気味のおばあちゃんと、テンションが少し妙な看板娘が、残っている島の人たちに憩いの時間を与えている。
そして、村はずれに一人の老人と犬。海を遠い目で眺め、ガラクタを集めるのが日課。だから、そこはゴミ屋敷だなんて言われている。偏屈者なので、島の人もあまり近寄ることが無く、一線引かれて距離を置かれている。

幾ら抵抗したところで、島はもう終わっている。
もうすぐ、みんなが生まれ育った島は閉島に追い込まれることは確かだ。
学校の生徒たちは、マドンナ先生の下、そんな住人たちのために、島の住人や風景を撮影して、アルバムを制作する決意を持つ。
ただ、ゴミ屋敷がちょっと困る。島の汚点になってしまう。生徒たちは勝手にそのガラクタを片づけて撮影。
これに異常なくらいに憤慨する老人。
明らかにゴミだが、老人にとっては大切なものらしい。

マドンナ先生は、もう亡くなってしまった祖父母が大切にしていた一枚の写真を持っている。
そこには、島の風景と飛んでいる飛行機が写っている。
老人の住処に置かれたガラクタ。これは、飛行機の部品らしい。
老人がまだ若かった頃、幼馴染の男と女の3人でいつも夢を語り合っていた。この男と女がマドンナ先生の祖父母らしい。
俺は写真家になる。私は学校の先生に。だから、本土へ行って頑張るんだ。
俺は、・・・
造船技師として島で働いてた老人は、二人のように決まった夢は無い。でも、仲間と一緒にずっといたい。それに、自分はその女のことが・・・
自分は飛行機を作る。
こうして始めた飛行機作り。数々の失敗を繰り返したが、飛行機は本当に少し空を飛んだらしい。
そんなことがあって、三人は島を巣立って、本土へ。
と、なれば良かったのだが、老人はある理由で本土へ行くことは出来なかった。この理由は、途中ほのめかされながら、最後に明らかにされるが、単に泳げないから船が怖いのだ。
くだらない理由だが、本人にとっては真剣な悩みだったのだろう。現に飛行機作りは島から出れる唯一の手段として、人生を懸けてでもみんなと島を出ようと考えていたはずだから。
素直に言えば良かったのに。元々、偏屈なところがあったのだろう。
老人は、島を巣立つ二人に裏切り者の声を浴びせ、その後は一切連絡をすることなく、今に至っている。

そんな老人にとってはほろ苦い思い出。
でも、もうそろそろ潮時かもしれない。
年寄りは、若い人たちの夢を邪魔してはいけない。
島を出よう。
老人を含め、島の住人全員が退去に従う決断をする。
お世話になった大切な島。
島では最後の祭りが盛大に行われる。
島にはある伝説が残っている。
祭りの後に、島に神の使いが現れ、それに願いを唱えると叶うのだとか。
最後の祭りだ。
住人たちは本気なのか遊び心なのか、そんな神の使いを探し始める。
そう、あの頃、老人たち3人がしたように。
島の最後と若かりし夢を追い求めていたあの頃が交錯しながら、住人たちの想いが・・・

と、だいぶ細かなところははしょりましたが、こんな話。
DVDが販売されるはずです。
ちょっと、この後、変に奇をてらったような話が盛り込まれ、笑いとして盛り上がるのですが、かなりの脱線となり、これまでじわじわ高まっていた感動がリセットされます。
ただ、最後の最後は、穏やかな中で人の想いが浮き上がる美しいラストが待ち構えています。
話自体が、ほとんど先読みでき、何かおかしなこと言っているなとか、してるなという行動は、だいたい思ったとおりの伏線として回収されます。言葉としては変かもしれませんが、易しい作品でしょう。
ラストシーンもきっとこうなると思ったとおりでした。水戸黄門みたいな勧善懲悪の定番みたいに、決まりきった話の展開と言うと言葉が悪い感じはしますが、この淡々と進められていく中での感じられる優しさや温かみが心地いい気持ちにさせてくれているように思います。

温かさをずっと感じるのは、恐らく登場人物たちがみんな人のことを想って生きている姿が映し出されているからでしょう。
マドンナ先生はこの島で亡き祖父母の人生を想い、生徒たちは島の人たちにアルバムという形で思い出を残すことで自分たちを含めた島の人たちのこれからを願う。
漁師はこの島の自然の恵みの素晴らしさを知っているのでしょうか。女ばっかり追いかけているように見えても、島を大切に想う強い気持ちに溢れています。
警官は自分が平穏無事に暮らせているこの島、そして住人たちがいつまでも幸せにいて欲しいと願っている。照れ隠しのようにくだらないことばかり言っていますが。
おばあちゃんは刻まれてきた島の歴史を大切に抱えて、それをこれからを生きる人たちの力にして欲しいと思っている。看板娘は、島の人たちに笑顔を与え、島を大切に一番想っているであろう漁師へと想いを寄せる。
役所の男は、自分の立場での責任を全うするべく、島の住人たちのこれからの現実的な暮らしを必死に考えている。島は飛行場として、土地を売り渡し、そのお金で移住の費用を捻出計画を立てていたようです。島に対しては裏切り行為ですが、綺麗ごとでは無く現実を見据えた厳しい決断をしています。
上記あらすじではあまり書きませんでしたが、老人の飼う犬は、実は今はもう死んでいて、老人にしか見えません。老人が若かりし頃から、ずっと老人を見守り続け、死んだ後も、ご主人の過去の呪縛から解かれ、心穏やかな幸せを感じられる日が来るようにを祈っているようです。
老人は、この島にいながら、ずっと二人の幸せを願っていました。それは若かりし頃の祭りの後に出会った神の使いへの願いが、自分が本土へ行けますようにではなく、本土へ行く二人に幸あれだったことから、その真剣な想いがうかがい知れます。
そして、その願いは叶ったようです。二人は本当に幸せに人生を過ごし、そして旅立っていったことをマドンナ先生から伝えられています。
二人の願いは三人がいつまでも一緒にいられますように。自分の成功よりも、共に生きることを願っています。老人はこの島の最後に、その孤独で悩み続けた人生にピリオドを打ち、残った住人たちの手で、かつての飛行機を復活させて空へと飛び立ちます。
ずいぶんと時が経ってしまいましたが、二人の願いはこれから叶えられるようです。
自分の周りにいる
大切な人の人生をずっと想い続ける。これがその人の幸せな人生へと繋がるように感じます。

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