« UNTIL MEMORIES【CLICKCLOCK】131221 | トップページ | 拝啓ライトフライヤー号!【劇団赤鬼】131223 »

2013年12月22日 (日)

曲がるカーブ【クロムモリブデン】131222

2013年12月22日 HEP HALL

解釈は相変わらず難しいのだが、面白い作品だったな。
人に必ず潜む暴力性。
それを色々な形で、人は抑え込もうとすがるように何かに囚われる。
囚われている間は、何をしてもダメなのか。解放して、真の自分を正直に映し出す。
そんなことが出来たら、そこに人として適切な生き方が見出される。
創作された作品は、そんな人の生き方の方向を導くものになり得ることを伝えているように感じる。

<以下、前半のあらすじを書いているのでネタバレ注意。来年から東京で公演がありますが、期間が長いので戻すのを忘れるので白字にはしていません。>

冒頭は時計仕掛けのオレンジから繋がって、数々の暴力をモチーフにした作品が生み出されていく連鎖をある男が語る。マスメディアによって次々に増長され、描き継がれる人の暴力性。
この語りのシーンは映画撮影をしているみたいだ。この作品自体がその撮影された映画となっているみたいで、いわゆるメタフィクション構造となっているのだろう。

撮影は病院の廃墟を勝手に使用して行われている。
そうとは知らずに入って来たナイフで刺された男。
映画撮影をしている男たちは、フェイクドキュメンタリーだとか言って、役者を偽医師として、そのまま撮影を続ける。
刺された男は、西高の野球部のエース。実は決勝戦で敗れて、甲子園の道が絶たれたが、勝った北高が不祥事を起こして、チャンスが巡ってきている。
その絡みなのか、そう簡単に甲子園には行かせないぞとばかりに、何者かに因縁をつけられて、暴力を振るうように仕向けられたが、ひたすら我慢して、最後には刺されてもやり返さなかったらしい。
状況が状況だけに警察に連絡した方がいいかもしれない。でも、映画監督にとっては、最高のネタが転がり込んできたわけだ。
きっと、事を荒立てたくはないはず。
さらに監督を呼んで、話を展開させれば最高傑作が生まれるのではないか。そんな監督の創作への異常な貪欲さが事態をおかしな方向へと向かわせる。

連絡を受けた監督は現場に急行する。
甲子園出場は監督自身、学校にとっても悲願の夢。せっかくのチャンスを無駄にするわけにはいかない。何を犠牲にしてでも、その見返りはこれからの人生に返ってくるという、甲子園至上主義の考えに完全に囚われてしまっている様子。
監督の娘は野球部のマネージャー。監督が父親でもあるこの時期に、甲子園出場を果たすという願いは父親と同じくらいに大きいみたいだ。
父の後を追って現場に向かおうとした時に、友人から電話がかかってくる。
何と、その友人が野球部員から暴行を受けたと相談を受ける。
友人はいたって冷静で、今、警察に通報したら、その加害者だけが甲子園に出れなくなるのか、それとも連帯責任とかで野球部自体に甲子園の道が再び閉ざされるのかなんかを心配している。
とにもかくにも、娘は友達と共に父である監督の下へと向かう。
そんな中、監督に一本の電話。
今度は、別の野球部員が狙われたらしい。この部員は、エースのように抑えることが出来ずに、思いっきりやり返してしまったらしい。
さらには、暴行を起こした加害者の部員、そして甲子園に囚われた家族の犠牲になった監督の妻もやって来て・・・

東京公演もあるからネタバレを避けるためにこのあたりで。
と書きたいところだが、実はこのあたりぐらいから、どうなっちゃったのと頭がパニックを起こすような奇想天外な展開へと巻き込まれていくので、うまく書けないのが理由。
と言っても、思考停止に追い込まれるわけではなく、不可思議な中で、甲子園に潜む闇を感じながら、現実の世の中と照らし合わせて、どこか間違っている今を考えたりする。

我慢して刺されたエースは、実は暴力性を内に潜めた人格の持ち主で、日記に心の闇をひたすら記すことで、その暴力性を昇華させている。
暴力を振るってしまった部員は、そんな制御も出来ないみたいだ。暴行を起こした部員は性的欲求に逆らえないのだろう。
映画監督も自分の身に潜む暴力性を、暴力的な作品を創ることで昇華させているみたいだ。
みんな、身に潜む人の本能的な暴力に悩んでいる。
どうしたらいいのか。
それが甲子園なのだろうか。感動・懸命・純粋などといった美し過ぎる言葉で表現される甲子園を掴むことで、そんな人の弱さを克服できると考えてしまうのかな。
そして、芸術なんてこれまた素敵な言葉で、それを創作することで、そんな暴力性を打ち消せると考えるのか。
話の後半は、そんな箱庭療法みたいな感じで、映画の中や甲子園の中で、自分たちを動かして、その悪意的な人の部分を抑え込もうとしている人たちが描かれているように感じる。

ただ、話の最後は、憧れの甲子園を捨て去り、思いのままに暴力を振るう監督・部員たちの姿が描かれ、その映像は不適切として芸術作品としても否定される。その結果、映画監督は作品を出していた映画の甲子園への出場の道を閉ざされる。
甲子園も映画も、結局はみんなの悩みを解決など何もしてくれなかった。
甲子園というみんなが囚われていた象徴が、実はくだらない大したものではないことを示しているようである。
そして、最後にみんなで、もう一度、そんなくだらない考えには囚われない、自分たちの作品を創り出そうとし始める。
巨大な甲子園のオブジェが現れ、その中に思い思いに描く自分たちを、その中で動かしていく。その楽しそうな姿が、暴力性を秘めていようと、愚かなところがいっぱいあろうと、人が生きていくことの素晴らしさを描いているように映る。

|

« UNTIL MEMORIES【CLICKCLOCK】131221 | トップページ | 拝啓ライトフライヤー号!【劇団赤鬼】131223 »

演劇」カテゴリの記事

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 曲がるカーブ【クロムモリブデン】131222:

« UNTIL MEMORIES【CLICKCLOCK】131221 | トップページ | 拝啓ライトフライヤー号!【劇団赤鬼】131223 »