夜が来るまえに【劇団ほどよし】131216
2013年12月16日 TORII HALL
失った大切な人たちへの想いを馳せるような、哀しみや切なさの中に温かみを滲ませるような話。
この話のように、亡くなった人たちが、残っている私たちにまだ想いを持ってくれているなら、その繋がりを大切にして、今を十分に生きた後、また出会いたい。
だからこそ、死を単に悲しいことだけに捉えずに、今、自分が生きていることを大事に想い、生を全うする気持ちを確かに持つことが死への本当の慈しみなのかなと感じる。
厳しい生死を見詰めながらも、温かい気持ちになる心地いい作品でした。
舞台はどこかの島の家と呼ばれる所。
何人かの人たちがそこで暮らしています。
ぬいぐるみ、一升瓶、ゴルフクラブ、地球儀、カメラ、風鈴、・・・
色々な物が部屋に溢れかえっています。何でも、さらに倉庫にはたくさんの物が置かれているのだとか。
あとは、同じく溢れるくらいに書棚に詰まった数多くの日記。
近くには森があり、誰が掘ったのか井戸があって、そこで水を確保しているみたい。
海で魚を釣り、裏の畑で育てた作物を食べる。水汲みも食事の用意も掃除も全部、みんなで当番を決めて生活をしている。
自給自足の自由な暮らし。
ただ、時折、やって来る配達人と呼ばれる男が用意した脚本を演じて芝居をしなくてはいけない。
最初はどういう設定なのかと、頭の中に?マークが飛び交いましたが、じわじわと分かってきます。
ここにいる人たちは、亡くなってしまった人のようです。みんな、気付いたら、波打ち際に倒れていて、森の中を彷徨い、お腹も空いて心細くなったところ、この家を見つけてやって来るのだとか。
部屋の中にある物は、生前、その人にとって一番大切な物を手にしてこの島に来るみたいで、それが残っているみたい。そして、日記も数々の人たちがここでの生活をずっと記していた産物のようです。
今、ここで生活している人は10人ぐらい。過去にここにいた人たちはもいるはずです。
そんな人たちがここから消える日があります
この島はずっと夕方です。ただ、夜が急にやって来る日があります。
亡くなった人たちの多くは、当然、現世に想いを残している訳で、それが無くなった時。未練が無くなった、成仏といったところでしょうか。そんな時、その人にとっての夜がこの島にやって来て、その人はここから姿を消します。
ちょうど、昨日も花火職人の夜が来ました。
職人気質で仕事一筋だったのでしょうか。かまってあげられなかった女房をここで待ち、人生を全うした女房と再会することができたみたいです。一緒に暮らしたこの家の人たちへの感謝の印のように、島の夜空に花火が打ち上がり、花火職人夫婦はその姿を消しました。
そして、配達人から辞令を受けて行う芝居は、現世の人の夢を創っているようです。何やらドリームメーカーとかいう装置を使って、ここで演じる人たちの姿が依頼人の夢となって映し出されるのだとか。
こんな設定で 大きく3つの話がありました。
一つ目は設定を理解させることも兼ねているのか、楽しいコメディー風です。女殺し屋が家に現れて、自分の状況をあまり把握出来ていないまま、芝居をさせられます。それも、やくざの組長がクリスマスパーティーをするなんて無茶苦茶な脚本の主役となって。女は拳銃を手にしており、一切笑顔を見せません。生前の一番大切な物がそんな物だなんて、かなりストイックな生活をしてきたみたいですが、ここではそんな堅苦しさはいりません。ぎごちないながらも、徐々に打ち解け、そのうち、現世では味わえなかった安らぎを得るのかもしれません。ただ、そんな本当の自分を見出した時、女の夜がやって来るのかもしれません。
殺し屋を演じる清田亜澄さんのテンション高い人たちに振り回される様が微笑ましく、いい味を出されています。やくざの幹部といった極化したキャラを思いっきり弾けて演じる塩尻綾香さんも目を惹かれます。
二つ目は、この家でリーダーのようにみんなをまとめていた女性の話。ここでの唯一の仕事、芝居をする時も演出の腕を見せたりしています。
自分の人生の全てだったとまで言わせる夫をここで待っています。そんな夫が事故でここにやって来ます。良いことなのか、悪いことなのか。とにかく再会できたことは喜ばしいことでしょう。
そして、また、夜がやって来ます。みんなから慕われていた女性。中には、いなくなった寂しさから、素直に消えたことを喜べない人もいます。大切な人を失う。そんな悲しみを現世では与える側となった人が、ここでは与えられる側にもなるようです。夫婦の生死によって分かちても繋がっていた想い合い。そんな人の想いの大きさを描きながら、死ということの哀しみを浮き上がらせるような話でした。
女性を演じる矢本真有香さん。厳しさや強い外面の内に潜んだ優しさや弱さを見え隠れさせる素敵な演技でした。全ての想いが成就して、本当に消えたかのようなはかなさも魅せています。
三つ目は、まだ若くて子供を育てる自信が無かったのか、子供が5歳の時に別れて、そのまま亡くなってしまった母親の話。
そんな実の子供から、よく覚えていない母親を夢で見たい。そして、かすかに覚えている子守歌を歌って欲しいという依頼を配達人から渡されます。
当然、この母親が主役として、夢を創ることになるはずですが、母親はそれを拒絶します。5歳の時に捨ててしまった悔いが残っているのか、会わせる顔が無いと。
でも、子供が成長して、立派に人生を全うしてやって来るのをここでずっと待つ決意をしているのです。子供が顔も知らなければ意味が無くなってしまいます。
それに、ここには親がいない子もいます。そんな子は、自分の母親がどんな人なのかずっと想像するというその子の寂しさもよく分かるようです。
みんなからの後押しもあり、母親はその子の夢に登場します。そこで、生死の境界を越えて、自分の子供への大切な想いを語ります。
親子愛。たとえ離れていても、亡くなっていても、その大切な想いは決して消えない。そのことを実証した母親。そんな姿は親からの愛を受けることなく亡くなってしまった子にも、自分が想われていたことを知る大切な時になったようです。
母親役の日永貴子さんの独断場でしょう。あの母の愛情を詰まらせた語りと表情に涙しないのはなかなか難しいです。夢の中で子供役を演じる仲井大和さん。特にセリフはありません。ただ、母親を見つめるだけ。でも、その表情、姿が本当に幼い子のように純粋で真摯な眼差しで引き込まれました。
全部通じて、なかなか面白いキャラが揃っており、極度の方向音痴である不思議な子を演じる西田有華さん。片意地張った何とも憎めない可愛らしい雰囲気が魅力的です。
二重人格できついと笑顔を切り替える横田愛実さん。女優さんらしい、見事な変化です。笑うのに疲れたから、きついぶっきらぼうな人格が出てくる。この子にもきっと色々なエピソードがありそうで興味深いです。
全ての方を書けませんが、個々の魅力を各々のキャラでうまく発揮されていて、かつまとまりを持たせているところが、この話を非常にすっきりした形で仕上げているように思います。多人数の割には個々に目がいきますし、死を扱った哀しい話ですが、どこか温かみを感じるのも、各々のキャラが人として活きているからなのだと感じます。
こんな感じで、自由な暮らしの中で、自分を見詰め、そして、様々な人の想いを知っていく。苦しいことや悲しいこともいっぱいあった人生だったかもしれないけど、こんな家で、もう一度、人って素敵なんだということを知り、幸せな気持ちを持って、夜の闇に消えていく。
眠りにつくといった、その人の本当の死、消滅。それは、終結ではなく、また、新たな始まりへと繋がるんだという形で死を捉えられるような気がする。
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