MOTHER【神戸大学演劇研究会はちの巣座】131203
2013年12月03日 神戸大学国際文化学部大講義室 シアター300
2010年のピースピットの作品。
(http://ksaisei.cocolog-nifty.com/blog/2010/04/mother100418-6c.html)
もう、この作品大好きだったからなあ。ちなみに、この年に観た217本の中で文句無しのNo.1でした。
そんな作品がまた観れる。しかも、数ある学生劇団の中でも実力派と噂高いはちの巣座で。
期待は高まる一方での観劇でした。
感想は、ただただ嬉しかったな。素敵だと思った作品をまたいい感じで観れて。
とても細かく丁寧に登場人物たちの心情が表現されているように感じます。
あと、演劇経験も無い素人の私が、何を持ってこの言葉を使えるのかは分からないのですが、演技が非常に上手いと感じます。それは、役者さんの懸命な姿からも感じますし、個人の上手さだけでなく、連携の成せる技みたいな力も強く感じます。きっと、個々が誇りを持って、厳しい稽古を進めてきた成果が全体の繋がりとなって現れているのでしょう。
とてもいい作品に仕上がっているように思います。
願わくば、場所をKAVCに移して行われる今週末の公演も拝見したいところですが、運悪く博多出張と重なってしまったので、この素晴らしい作品がより多くの人の感動を生み出すことを願っています。
これは申し訳ないのですが、生で4回、家でDVDを観た回数を含めれば、軽く10回は超えているような大好きな作品なので、どうしても本家と比較してしまいます。
あっ、このシーンはずいぶんとあっさりと描かれるんだなあとか、セリフの掛け合いのタイミングが少しズレるからいまひとつ笑いを取れてないなあとか、マイナスに思うところも多々ありました。
逆に若さ溢れる熱量豊富な勢いが見ごたえを良くしていたり、少し演出を変えたようなところに若い人らしい希望や優しさが伝わってきたりと、自分の中でこの作品の魅力がさらに高まったようなところも多々ありました。
舞台は比較的小さく、衣装や小道具を含めて、全体的なエンタメ性はさすがに本家にはかなわない。工夫でかなりカバーされている感じだ。どこかファンタジーワールドらしいふわふわした雰囲気は、可愛らしい衣装に、現実的な小道具を全てマイムでしたりするところにあるのだろうか。
もちろん、そちらに力を注ぐことも出来たのだろうが、それよりも登場人物の心情表現をとても丁寧に伝えることに重きを置いたような印象を受ける。ダンスやパフォーマンスシーンも必要最低限に抑えているように感じる。ラストも、生まれてきて良かった、生まれてきてくれてありがとう、これからの未来に幸ありますようにといった、この作品の一つの込められた祈りのようなものを、美しく感じさせるものだったと思います。
総じて、満足の一品でした。
つるの、雀野ちゅんさん。名女優のTAKE IT EASY!の前淵さなえさんの印象があまりにも強く、最初は違和感があったのだが、それも最初の30分ぐらいの話。以降は、その素晴らしい感情表現に惹き込まれるばかりでした。自分が愛されていないのではないか、子供を失うことで愛することも出来なかったような経験をしてきた女性が、旦那、周囲の友人、そしてイマジナリーワールドの数々のキャラたちに支えられながらも懸命に生きてきたという強さを、母性や優しさに変換して、大いなる自信を持った母親へと成長する姿が描かれていたように感じます。芯のある強さを見せる力強い姿と少し天然っぽいボケた頼りない姿のバランスも良かったように思います。
高校生のつるの、坂本さん。つるののまだ幼き頃なのだなあという感覚が強く残りました。役として、当然そうなのですが、その感覚が自然に湧いてくるような役作りとなっているように感じます。この子が、数々の人と触れ合いながら生きる中で、悲しみや弱さを少しずつ克服して、今の大人のつるのがいるのだろうという想いが強く感じられます。幼さ、未熟さ、弱さをベースにした消えてしまいそうな頼りない姿に見えます。よく考えると、この頃のつるのは自分を愛する隼一とはまだ関係を固めておらず、寄りかかれるのがイマジナリーワールドのキャラたちだけだったのだから、当然の姿なのかもしれません。
隼一、鈴木幸重さん。地道に真面目に。不器用だけど真摯につるのを愛する姿を増徴させているキャラになっているようでした。本家の化石オートバイの山浦徹さんに比べると、ずいぶんとおとなしめですが、それが人のよさや優しさをより感じさせているように思います。と言っても、弾けるところは、すごく真面目そうな方なのに、思いっきりやられており、ちょっと引くぐらいなところもありましたが。
高校生の隼一、久保健さん。シニハヤトも演じられているのでメイクのせいか、かなり病弱っぽい隼一となっています。これは今の隼一が頼りないながらもすごく男として強く成長したんだなという思いにつながります。高校生の頃の幼き隼一とつるの。今の姿との違いが、時間の経過、その時間の中でもなお残る二人の心の底の悲しみ、苦しみが浮き上がります。この感覚は本家を拝見した中では感じなかったことであり、新鮮でした。
隼一の後輩やつるのの母、ちゅるるさん。ずいぶんと小柄で可愛らしい風貌なのですが、それに反したなかなか女の情念を見せるような険しい表情で魅せます。
つるのの親友、橙野葉月さん。肝っ玉の座ったしっかり者。子供はいない設定ですが、誰よりも母親みたいな母性を感じます。たぶん、ポワ~っとした頼りないつるのを友達と同時に我が子のように愛し続けていたのかなと思います。
高校生のつるのの親友、月見乃猫丸さん。本家でこの役をされていた中野裕貴さんがかなりお気に入り役者さんだったのと、この役の友達を本気で想う気持ちが垣間見られる言動やシーンが好きで、今回も一番注目していた役でした。すごく良かったですねえ。私のイメージする鴇子でした。この方が私の中ではまっていたので、作品自体も満足だと感じているのかもしれません。優しく深い友達を想う心を持っている。それが言動となって時には感情的になったり、深刻になったり。多彩な心情表現がなされていたように思います。
その旦那、川真田翔さん。かなり雰囲気を持っている方で、登場するだけで客を掴まれます。バーボン大佐をはじめ、ノリのいい、ちょっとおちゃらけたキャラたちを楽しく演じられます。
つるのを妊娠させた先生、秋田さん。本家では売込隊ビームの山田かつろうさんが演じられており、いやらしい飄々とした雰囲気を醸されていたのですが、こちらは、変態に一本筋を通したようなブレない姿となっています。何か真に迫ったような姿が怖い。
ちょっと長くなったので、後、簡単に一言だけ。
ぼーちゃん、笹倉ととさん。色々な公演で拝見する方なので、お顔をしっかり覚えている役者さんです。はまり役でしたね。不思議な純粋な姿がとてもお似合いでした。声でしょうか。穏やかで深い慈しみや優しさを感じます。
タカマル、松田ミネタカさん。躍動感溢れる姿。軽い身のこなしに反して、ちょっとくどいとか濃い感じですかね。
スイッチ男爵、アキノトルテさん。ビシっと決めてる姿がかっこよかったです。少しおっちょこちょい風な空気を出しているところも、この役の面白味を引き出しているように思います。
マダムジョー、鷲坊さん。オカマなんですが、それをあまり誇張しないような感じでした。せっかくの役どころなので、もっと弾けて目立ちまくってもいいような気もします。ただ、この作品のメッセージのようなことを一人でけっこうな時間語るシーンはとても魅力的でした。抑揚や真剣さに非常に引き込まれました。
人攫いの王、新津清さん。何か切なさを漂わせています。愚かな行為とはいえ、王妃を悲しませたくない優しい想いが勝ったもどかしい姿が印象的です。
攫われの王妃、ponceさん。非常に変わった雰囲気を醸す方です。子宝に恵まれない悲しみから、少し病んでしまったようなキャラ作りになっているのでしょうか。王と同じく、非常に切なさが漂います。この王と王妃は、子供を愛するということが出来ない現実から、悩み苦しみ、そしてもう疲れて逃げて行き着いた先で、ここに居るような感じで、何かつらい気持ちになります。
攫われ大臣、新野光雄さん。大臣としてはちょこっとしか出演されていなかったからなあ。王とごく普通のとりとめのない掛け合いをするのですが、妙な面白さを醸していました。
ユメハヤト、月見だんごさん。しっかりとした信念を感じさせる凛とした姿。 語られる一つ一つの言葉にそんな信念を深く込めている感じです。
キラハヤト、桃すももさん。本家では丹下真寿美さんが、サイケデリックな完全にいってしまった殺人鬼のキャラを演じています。これも非常に上手かった印象が残っており、注目していた役です。今回は狂った感じをかなり抑えたキャラになっている印象を受けます。その分、自分への葛藤に苦しむ姿が増徴されており、隼人の可能性の一つとして生まれるべきでないハヤトなのではなく、このハヤトもまた愛されるべき大切な一つの隼人の可能性だったようなことを強く感じさせます。バランスのいい、非常に上手い表現の仕方をされているように思います。本家のラストもそうだったか覚えが無いのですが、ラストに見せる笑顔がこの作品から得られる一つの大切なものだと思えるような素敵なものでした。
ナゾハヤト、今西さん。虐待を受ける、愛を受け取れなかったからこそ、母親になること、その子供になること、親子となることの重大性を明確に語るような言葉に魅せられます。可能性に左右されるのではなく、子供も母親も数ある可能性をより素敵で明るい未来に繋げていかなくてはいけない。こんなことが、キラハヤトと同じく、愛に支障が生じてしまった親子に対する祈りとして受け取れるような気がします。
卒業公演なので、なるべく個々にコメントを思って、長々となりました。多分、これで役者さんは全員コメントしたはずです。
照明やら、音響やら、その他スタッフの方々も当然、活躍されているはずで、それに対しても本当は感想を述べるべきなのでしょうが、このあたりは素人にはなかなか分からないところなので。
ただ、舞台作品として大いなる魅力をもらった公演だったということで、全ての方々へのメッセージにはなるのではないでしょうか。
素晴らしい公演でした。
ご卒業おめでとうございます。
各々の道での今後のご活躍を期待しております。
| 固定リンク
「演劇」カテゴリの記事
- 【決定】2016年 観劇作品ベスト10 その3(2016.12.31)
- 2016年度 観劇作品ベスト10 その2(2016.12.30)
- 2016年度 観劇作品ベスト10 その1(2016.12.30)
- メビウス【劇団ショウダウン】161209(2016.12.09)
- イヤホンマン【ピンク地底人】161130(2016.12.01)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
お寒い中にもかかわらず、ご来場いただき誠にありがとうございました。
ひとりひとり丁寧に書いて頂いたコメントは、とてもうれしく、今週末のKAVCでの公演の励みになりそうです。
MOTHERを自分の卒業公演でやりたいと手を上げたのは、わたしでした。
しかし、わたしも大好きな本家の存在はあまりに大きく、エンタメ要素のある作品を上演することの少ない近頃のはちの巣座にとって、とても大きな挑戦でした。
台本を出したことを後悔したことさえありました。
ですが、書いていただいた感想を読ませていただいて、拙いながらもわたしたちらしくやれているのかな、と少し思いました。
無我夢中で気がつかなかったことでした。
すみません、思うところがありまして、長々と失礼いたしました。
最後までわたしたちらしく勝負したいと、つよく感じました。
本当にありがとうございました。
投稿: 笹暮とと | 2013年12月 4日 (水) 21時37分
>笹倉ととさん
コメントありがとうございます。
そうでしたか(゚ー゚)
この作品は、エンタメ要素もあるし、深いメッセージも込められてるし、笑いも入った面白さを出さないといけないし、独特のファンタジーワールドを創らないといけないし・・・で、総力をあげて行われた公演だと強く感じます。
ブログに感想を書かせていただいたとおり、素晴らしい作品に仕上がっていると思います。
個々のキャラも、各々の役者さんが、しっかりとご自分の役を見詰めているようで、本家とはまた違った大きな魅力も多々感じたところがあります。
この作品の大ファンとして、非常に満足しています。
自信を持って、残りの公演で多くの人を感動させていただければ、とても嬉しく思います。
KAVCはきっとあんな寒くないでしょうしね(゚ー゚;
ととさんはじめ、皆さんのご活躍を祈っております。
投稿: SAISEI | 2013年12月 5日 (木) 09時43分