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2013年12月28日 (土)

大江戸ロケット【関西大学劇団万絵巻】131227

2013年12月27日 インディペンデントシアター2nd

若さという魅力を最大限に活かしたような、パワフルで輝いた方々が駆け回る作品。
本筋の隙間隙間に、小ネタを仕込んでいるので、上演時間が長い割には、非常にスムーズに観ることができる。
個性的なキャラの魅力が十分に引き出されており、そんな面白さも話の惹き込まれやすさに通じているだろうか。
作品のキャラとしても、演じる役者さんとしても全力でやり切るという姿が輝かしく、勇気を振り絞って殻を破って前へと進んでいくことの爽快感に溢れた気持ちにさせられる。

時は江戸時代、天保の改革の頃。
老中
水野忠邦による厳しい政策により、娯楽を禁じられて締め付けられた世の中。
そんなご時世でも、江戸町民たちは負けじと元気に日々を過ごしている。
威勢のいい大工、親分肌の瓦屋、ちょっと間の抜けた仕掛け屋、明るく元気な曲芸師の姉妹、遊び人だがみんなからその力を認められて頼りにされている錠前屋の銀次郎が住む長屋。
そんな長屋で花火師、清吉は、江戸の町民のために、娯楽を禁じる幕府の目を逃れながら、職人気質で仕事に励む。
そんな清吉の下に一人の変わった少女が現れる。
清吉の花火を見て、気に入ったらしい。自分をその花火で月に連れて行ってくれと。何でも、自分は月からやって来た、いわばかぐや姫なのだとか。少々、テンションがおかしいし、ちょっと頭のおかしい子みたいだが、長屋の謎めいた過去がありそうな飄々としたご主人も気に入ったみたいで、とりあえずは長屋でみんなと共に暮らすことになる。
ところが、町人たちをいたぶるのを生きがいにしているような、幕府奉行所の役人がそんな花火などと、禁じるために横槍をいれてくる。
その場は、銀次郎の巧みな話術で何とか丸め込んでおさまるが、このままでは、いずれ清吉は仕事が出来なくなってしまうことだろう。

一方、幕府奉行所はある問題を抱えている。
最近、流れ星と共に獣のようなものが現れ、人を殺めている。一匹は仕留めたが、もう一匹は取り逃がしたままだ。
幕府は鎖国令の中で、外部からの侵入者には異常なほど神経質だ。
奉行の命により、黒衣衆という忍びを集め、その対応を行う。
銀次郎はそんな忍びを仕切る家系らしく、自分の意思とは無関係に、長屋の連中には身を隠して、その仲間となる。銀次郎としては、とりあえず幕府側についておけば、長屋への幕府の目を背けられるとも考えたみたいだ。

ソラの月への願いは本気らしい。そんな真剣な想いを無視するわけにはいかないと、清吉は男気を出して、花火作りを決心する。長屋や町の連中も信じられない話とはいえ、面白いことが大好きな人たち。抑え付けられた生活の中で、そんな大仕事をみんなでやりたい気持ちが大きくなったのか、全員の力を結集して、盛り上がり始める。
花火研究は幾度も大きな壁にぶち当たるが、どこかから流れてきた高いテンションがソラと同調する火縄に詳しい者のアドバイス、算術においては右に出る者がいない清吉の弟、測らせればその値を正確に出す能力に長ける秤屋、金集めがお得意の貫禄ある白濱屋の女将たちの協力も仰いで、研究は着々と前へと進む。

その月にいける花火、命名、ロケット。
ソラの願い、清吉、そして江戸町民の心意気を込めた大江戸ロケット計画は最高の盛り上がりを見せる。

ところが、役人にその計画がバレて、清吉は牢獄へ。さらには、ソラも獣たちの仲間だと勘ぐられ、人殺しの疑いをかけられ牢獄へ。
どうしようもない状況に追い込まれるが、みんな、こんなことではへこたれない。
各々の持つ力を活かして・・・

あらすじは、有名作品なので、ネットで調べたら詳細に書かれているので、このあたりで。 ソラをはじめ、登場人物に色々と隠されている謎を明かしながら、幕府の悪どい仕打ちに抵抗しながら成功をおさめるという、劇中にも出てきますが、いわば水戸黄門の世界でしょう。
純粋に楽しめる作品。
話はベタであり、色々と歴史的な背景も絡めた巧みな展開が用意されているとはいえ、あらすじだけ追ったら、正直さほど面白くない。要は清吉とソラが、悪い人たちの邪魔をされながらも、周囲の人たちの協力を得て、月へと飛び立つだけ。 それだけに、各キャラの個性が活かされないといけないし、役も多いのでまとまりを持って楽しいエンタメ性を発揮しないとゴチャゴチャして面白くなくなってしまうだろうし、演出や役者さんへの要求度はかなり高い作品なのではないだろうか。

楽しく、そして得意とするところだろうが、勢いを落とすことなく、元気いっぱい弾けた人たちが舞台を駆け回る見応えある作品に仕上がっている。

舞台を観られた方の感想を拝見すると、時間が気にならないとよく書かれているが、これは本当に不思議とその通りである。
ソラと清吉が出会って、ようやく長屋に住むとなる話の最初の段階で、もう30分も経っており、後は楽しかったので、そろそろロケットが出来上がって二人飛び立って、もしかしたら二人とも花火となって散ってしまうラストなのではなんて少しエンドを気にし始めたのが、もう2時間。140分と伺っていたので、えっもうなの、ちゃんと終わるかなといった感じだ。

鎖国。
鍵を開ける。
閉じられた世界から、勇気を出して外へと出向き、そこに新しい道を見出そうとする。
一人では、なかなか勇気も湧かないが、大切に想う人や自分を想ってくれる仲間たちがいることを知る人にとっては、恐れることがないことなのかもしれない。
自分自身の宿命を突き破って生きていく覚悟。いくら締め付けられても、前を向いて進もうとしている人には何の関係もない。
閉じこもったところから、自分たちの未来の可能性を疑うことなく信じて、飛び出していく。
そんな爽快感溢れる気持ちにさせられて、今の自分に勇気を与えてくれるような話だった。

終わり方が全てを物語っているのではというぐらい素敵だ。
月には酸素が無いから、花火は無理。なんて言ってたら、月に花火が。
江戸っ子だから細かいことは気にしない。
誰もが言う常識的な出来ない理由なんて吹き飛ばして、実現しようとして、そして本当に実現させてしまう。どんな不遇な状況でも、諦めず、自分のやりたいことを思いっきりやればいい。
為せば成る。
今回、若い人たちの輝く姿から、心に感じた言葉だろうか。

今回で卒業される役者さんは、ほとんどが新人公演から拝見していると思う。きちんとお話ししたことはほとんどないのだが、何となく感慨深いものがある。
http://ksaisei.cocolog-nifty.com/blog/2011/02/110220-adaa.html
読み返してみたら、偉そうに点数なんて付けてるわ。50点だって。まあ、正直なところだったのだろう。
じゃあ、今回は100点だ。
これまでの集大成で、みんな元気いっぱいの楽しい公演が実現できているのだから、マイナス要素は一切無い。

清吉、ほくとさん。まっすぐな感情表現に勢いある熱き姿。不器用な生き方しかできないので、ひたすら前を見て突っ走る若さ溢れるパワーが印象的。
奉行、ぴあにかさん。威厳を出すために、低音ボイスにしかめっ面。そんな人が後ろ盾を失った時に見せる一瞬の弱い表情。それでも、気を取り直し、自分を貫く。人生に振りかかる、色々な運命に左右されながらも、自分のポリシーを持って、揺れながらも前へ進む大人の一つの生き方が浮き上がる。
大工、ひのきの森さん。べらんめえの職人。滲み出る、気立てのよさやみんなを元気づけようとする温かさが魅力的。
役人、しゅーぞうさん。汚らしい悪いオーラを見事に醸す。同時に、それが人の心の弱さや自分の未来に制限をかけているといった、この世の中の閉塞感から生み出された犠牲者のように感じさせる上手さがある。
ソラ、ことねさん。表情豊かに全身でその天真爛漫な姿を映し出す。天然の不思議な可愛らしい魅力と、他の方との掛け合いに表情変化を巧みに活かして、テンポの良さを出している。
仕掛け屋、クライマーFINAL。ちょっとオバカとか、お調子者とか、おっちょこちょいとか、ダメな奴なんだけど憎めない愛らしさを独特の声と発するオーラから出している。
曲芸師、三ヅ木ぱとらさん。芸名が何か目を惹くので、お名前はけっこう早い段階から覚えていた方。ただ、これまでの役としての印象はあまり薄かったのだが、今回は凄くいかしてたな。まさに姉さんといった輝きだった。こういった少しミステリアスでチャキチャキしているような弾ける役どころが見事にはまっていた。
銀次郎、ゴミさん。一番目を惹いたな。まあ、元々、お気に入りの役者さんなので、そうなんるのだが。そんな贔屓目はとにかく、しっかりときめていてかっこよかったなあ。どこかでしゃばるような暑苦しさや、裏切りを匂わす怪しさや、みんなのために動く男前さや・・・全部、発するオーラに組み入れて、人間らしい銀次郎が出来上がっている。

当日いただいた人相書という卒業生アルバムを見ながら、舞台を思い出してコメントを書いています。
役者さんはこれで多分、全部。
衣装、制作、音響、照明、広報・・・といらっしゃるのだが、こういった記念公演だといつも以上に大変なんだろうなといった想像しか素人には出来ず。
作品というか、公演を楽しめましたという言葉で、そういったスタッフの方々への激励に代えさせていただければと思います。
後は演出の栃木ゆーじさんか。しっかりまとめあげて、みんなで大きな花火を打ち上げましたね。とても楽しい作品、公演となっていると思います。創り手の皆さんも楽しそうでしたが、こちらも観ていて、とても楽しく幸せな気持ちになりました。

もう拝見できなくなる方もいらっしゃるのでしょうが、この作品のように各々の道を突っ走られることでしょう。
皆さんの今後のご活躍を、ずっと楽しませていただいた感謝も込めて祈らせていただきます。
ご卒業おめでとうございます。

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