鍋【芝居処 味一番】131215
2013年12月15日 インディペンデントシアター1st
えっ・・・となるけどね。
声出そうになるくらいのラストは久しぶりだった。
奇をてらった感じはなく、ごく普通の流れでそうなるので、創り方が巧みです。
あるシェアハウスでの個性的な面々から、家族愛を引き出すような話。
キャラが立った住人たちの軽快なテンポで展開していく話を面白おかしく観ながら、そんな家族の温もりを感じられる作品でした。
両親が定年退職して海外に移住してしまったため、自宅で一人で住むことになり、寂しくなるのでシェアハウスにしている女性。 家賃収入で暮らしているお気楽な生活。と言っても、昔は色々あったとか。謎めいたところがある人だが、明るく元気いっぱいのお母さんみたいな人。
なるようになるから元気だしなさい、背中パシッみたいな大阪のおばちゃんのような感じだが、時折、厳しい表情で鋭いところを突いてくる。優しさと厳しさを兼ね備えた、裏表無く、腹割って頼りに出来る人みたいだ。
シェアハウスの面々は4人。みんな個性的な人だ。
女子大生の2人組。
一人はとにかく騒がしく、今時のおバカな女子高生をそのまま大学生にしてしまったような子。もう一人は、冷静沈着な男前な感じの子。気取らず、言いたいことはまっすぐに言ってしまうところは長所でもあり、短所でもありといったところか。
残りの2人は大学生の男。
一人は大学院生。エリート意識が強いみたいで、いつも部屋に引きこもって何やらよく分からない研究をしているのだとか。他の人とあまり、喋ったことがないみたいで、実態はよく分からない。もう一人はホストでバイトする男。だから、チャラい。寝起きの悪さが度を超えており、起きてしばらくは浮遊しているかのような状態で、何も覚えていないらしい。
冷静沈着な子とホストの子は付き合っているみたい。騒がしい子は男運が悪いのかすぐに彼氏とケンカして、ホストの子に八つ当たりをする。でも、それは愛情の裏返しだったりと、たった4人だけど、一つ屋根の下で暮らしているだけに色々とあるみたいだ。
そんなシェアハウスに、オドオドして言いたいことが全然言えないようなおとなし過ぎる女性がやって来る。人付き合いが苦手そうなのに、こんなシェアハウスにやって来たのは、ずっと一人だったので、家族というものに憧れているからだとか。
大家さんには喋る間を与えられないくらいに色々と話しかけられたり、女子大生にはズケズケと単刀直入にものを言われたり、テンションの高さに面喰らったり、背の高いホストのヌボーっとした寝起きの姿にビビったり、エリート大学院生には何を気に入られたのか普段は誰とも喋らないのに、高飛車な態度だけど会話をしてこられてちょっとどうしていいか困ったりとするが、彼女にとってはこんなことも家族を感じられて少し嬉しいみたい。
何とかうまくやっていけそう。みんなも彼女をウェルカムだ。
歓迎会として、今夜は鍋に。
早速、買い出しなどの準備に走る面々。
そんな中、うるさい女子大生が自分の部屋の前に置かれていた鍋を持ってくる。
どうやら、エリート大学院生のもののようだ。
開けると、中にはコードやら基盤が入っており、キッチンタイマーがカウントダウンをしている。
爆弾ではないか。
みんなが騒ぎ立てる中、事の張本人である大学院生が現れる。
問い詰めると、爆弾は作ったことがあり、自室にあるけど、これはそんなものでは無いと答える。
どうして、自分を疑うのか。それも、君までもが。視線はおとなしい女性に向けられている。
様子がおかしい。
どうやら、大学院生は新しくここに入ってきた女性に一目惚れしてストーカーになってしまっているらしい。
彼女の住んでいたアパートにも勝手に入り込み、盗聴・盗撮をしていたのだとか。鍋の中にあるSDカードをはじめ数々の部品はそんな機器の備品なのだろうか。
自分勝手に膨らんだ大学院生の女性への愛。
プライドも高く、自分を愛した人は自分を必ず愛するものとでも思っているような言動を繰り返す。
でも、シェアハウスの面々の本当の愛とは何かという教えに、少しずつ心を開いていく。
そして、おとなしい女性から、プライド高く、一人が好きなのに、このシェアハウスにずっといるのは、きっと、ここの人が好き、家族のように居心地が良かったからだろうと、大学院生の本心を突く言葉が投げかけられる。家族に飢え、家族を求め、人の愛をずっと求めてきた女性だからこそ、大学院生の気持ちが分かったみたいだ。
自分のことを理解してくれて嬉しかったのか、大学院生はこれまでの行動を詫び、ここの人たちと共に家族の一員となることを誓う。
シェアハウス自体が鍋。
入っているのはコードやら、基盤みたいな無機質なものではなく、人という一つ一つに味わいがあるもの。 各々が持つ個性のような味が、長い時間かけて煮詰まって、いい味が浸み出す。それは、また互いの味も高める。そんな空間をイメージする温かい話でした。
・・・ と書きたかった。
書けない終わり方するんだものなあ。
まあ、こういう終わり方するかもなという伏線はあったんだけどね。
最後は戻った大学院生の部屋から爆音がして終わりです。
どう捉えるべきなのでしょうか。
やはり、プライド高い大学院生にとっては、孤高という自らの精神に対する矛盾に耐え切れなくなったのでしょうか。女性を好きになる自分、家族を求める自分という姿が、これまでの自らが持ち続けた自分の価値観を崩壊させたのかもしれません。つい、先日、夏目漱石のこころを原作にした作品を観劇したのですが、何かそんなところにも繋がっているような気がします。
まあ、それだけ、大学院生の想いは真剣だったのかもしれません。
と、そんなことを考えながら帰宅して、今、こうしてブログを書いているのですが、よくよく考えると別に大学院生の葬式シーンがあったわけでもなく、亡き者になったとは誰も言っていないわけです。私は勝手に自殺したかのような感じで観ましたが、それも事故かもしれないわけで。例えば、本当の自分を理解してもらえた大学院生が、嬉しくてテンション高くなって部屋で踊りだしたりしたところ、爆弾をうっかり落としてしまったとか。
真相は定かではありませんが、ラストは自分で勝手に想像していいのでしょう。
恐らくは大怪我をしたエリート大学院生は入院して、みんなから散々叱られることになるでしょう。
大家さんは母のようにきつくバカなことをしてと叩きながらも、無事で良かったと優しい言葉を投げかけてくれそうです。爆発なんてチョーヤバイと騒ぎ立てる女性大生、大の大人が人に迷惑をかけるようなことをして何がエリートなのときつく言い放つ女性大生、バイト帰りのチャラい姿でからかいにやって来る大学生。
そんなシェアハウスの面々が訪ねて来ては騒ぎ立てるやかましい入院部屋になることでしょう。
そして、そんな部屋にはいつも、おとなしく微笑んでいる女性が座っているような気がするのです。
ただ、一緒に住むとか、帰ったら人がいてるとかではなく、嬉しいこと、そして今回のようなこんな愚かなことも含めて、全部、共有し合える関係。それが本当の家族だということに、きっとみんな気付く。これが私の中でのこの作品のラストです。
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コメント
お久しぶりです。
ラスト…びっくりですよね。私もびっくりしました。何も語りませんが。
今回ただただ、しあわせな家族といれてしらん間にしあわせやったんやなと読んで思いました。
うるさいながらもみんな好きでよかった。ありがとうございます❗️
また来年もどこかで^_^
投稿: 大牧ぽるん | 2013年12月17日 (火) 15時27分
>大牧ぽるんさん
コメントありがとうございます。
舞台で拝見するの、本当にご無沙汰でした。
ジャムコントで鍛えられているからかなあ。
すごく、他の方々を乱すことなく、あの切れたキャラを演じられているなあと思いました。
偉そうに書きますが、役者さんとして大きく成長されているように感じました。
来年、より一層のご活躍を期待しています。
投稿: SAISEI | 2013年12月18日 (水) 17時17分