病は病は気からから【AI・HALL 自主企画 演劇ラボラトリー 上田一軒プロジェクト】131117
2013年11月17日 アイホール
iakuの横山拓也さんが脚本で、スクエアの上田一軒さんが演出された作品。
このパターンはiakuと同じだけど、公演企画に上田さんの名前が入っているように、そちらの影響をより濃く入れ込んだ作品に仕上がっているみたいだ。
だから、iakuも面白いけど、こちらはコメディーとして純粋に面白い。と言うか、かなり笑える。そして、ちょっと演劇の力を魅せられて感動できる。
数々の登場する個性的なキャラが全て綺麗に活かされたラストは、凄い脚本で、そして、その魅力を見事に浮き上がらせた演出、役者さん方に感服。
面白いというより、やっぱり演劇って凄いよなあって、改めて感じさせられる作品だったような気がする。
劇団羊歯。
代表の男と、代表がその才能を見込んだ女優が一緒になって25年前に立ち上げた劇団。
アトリエを持っており、そこで稽古も公演も出来るという恵まれた環境にある。
経営が大変だろうが、代表が色々と苦労してやり繰りしてきたみたい。なかなか、冷静で有能そうな女性経理の影ながらの活躍もあるようだが。
女優は決してテレビに出て有名とかではないが、演劇界では長年、活躍し続けてきた実績を持ち、劇団の看板女優をはっている。ずっと、このアトリエで続けてきた夢の続きという一人芝居は、次回公演で通算1000回を超える予定だ。
その記念公演には、若手役者三人をバックコーラスとして出演させることにしたみたいで、若手は張り切って稽古をしている。
メインボーカルの子は、看板女優を敬愛し、熱いソウルで公演に臨もうと必死。サブコーラスの一人は、童謡を教える先生もしているらしく、見事な声量で完璧に歌いこなす。もう一人は、音は外すは、はもりのタイミングはズレるわでちょっと困ったもの。まあ、こちらは玉出でバイトしているだけなので、それもいたしかたないか。
本来、一人芝居なのでバックコーラスでも舞台に他の人を立たせるのはご法度であるのだが、看板女優はどうも最近の自分の演技に納得していない様子で、何かを変えてみたくなったようだ。それも、信用していた演出家が数ヶ月前に突然辞めてしまったことがあるみたい。
この劇団には代表の大学生の娘も所属している。
演出家が辞めてしまった頃を境に、この子もアトリエに顔を出さなくなってしまった。
同時に代表も同じような状態。
まあ、そんな管理が行き届いていない状態になっているのに乗じて、音響の女性はこのアトリエに住み着き、さらには近所の看板女優の大ファンだというやたら目力のある女性も入り込んでしまったりするのだが。
そんなアトリエに、久しぶりに大学生の娘が顔を出す。
自分が客演することになっている二品産業大学の学生劇団はなびえのメンバーを連れて。
父親でもある代表に話をして、稽古場にこのアトリエを使う契約をしており、二週間後には、ここで病は気からという作品を上演する予定になっている。
こちらも、演劇をしているだけあってなかなか個性の強い面々。
頑張って場を仕切ろうとするのだが、押しが弱くすぐに流されてしまう頼りない舞台監督。
冷静沈着に劇団員の個性を見抜いてキャストを決め、作品を創り上げようとしている才能ある演出家の女性。
演劇が大好きで、とにかく稽古がしたいという熱い精神を持つ女性。
娘と少しいい仲になっている男性。
その男性のことが好きだけど、男性の目が娘に向いているので、恨めしくすぐに泣き出す女性。
娘のことが好きだけど、娘の目が違う男性に向いているので、心を落ち着かせるためにすぐに走り出す男性。
と、羊歯は何か大人の事情の揉め事、はなびえは色々と恋愛のもつれが絡んでいるようだ。
稽古を始めようとするはなびえのメンバーだったが、どういう訳か、アトリエの予約が押さえられていない。
稽古期間どころか、公演の日まで。しかも、公演の日は、看板女優の一人芝居記念公演に丸かぶり。
とにかく、代表を呼び出し、どうにかしてもらうことに。
そんな中、演出家も久しぶりにアトリエに顔を出す。
けっこうな自信家で、はなびえの面々にもケンカを売るような態度を取ります。ただ、相当な努力と作品を創るということに大きな熱意を注いできたからこそ生まれる自信のようで、まだ未熟なはなびえにとっては的を得た発言をします。
ここにやって来たのは看板女優に呼び出されたのだとか。
やはり、演出家不在では、いい作品が出来ないと判断したのだろう。
看板女優は戻ってきて欲しいと願い出る。
でも、それは無理な話。
自分が出て行った理由が明かされる。
演出家は代表の娘といい仲になってしまったらしい。
それに怒った父親が追い出したということだ。
気まずくなったのか、もうこんな劇団が嫌になったのか、父親はそれからアトリエに顔を出さなくなっている。
そして、それに反発して、娘もアトリエに顔を出さなくなった。さらには家にも帰っていないらしい。泊まっていた先が、はなびえの劇団員の男性のところといったわけだ。
こんな話は聞いてもいなかったはなびえの面々も羊歯の面々も驚きを隠せない。
何か、演出家は羊歯の熱いメインボーカルの子と付き合っていて、それから娘に乗り換えられた経緯もあるらしく、状況はもつれまくる。
泣き出すわ、走り出すわ、冷静に話をまとめようと慌てふためくわ。
稽古場の予約の問題、恋愛の問題、いい演劇作品を創るという問題・・・
羊歯vsはなびえに止まらない、あちこちで敵対関係が勃発することに。
そんな修羅場の中、代表が現れる。
水商売の金儲け第一主義みたいな性格悪そうな女性を連れて。
あちこちから代表に説明を求める声が飛び交う中で、代表は一言。
劇団は解散。このアトリエもこの女性と一緒にスナックをすることにした。
唖然とする一同。
でも、代表は全ての意見を退けて、女性と一緒に立ち去る。
夕方には工務店が来るから、片付けておくようにと言い残して。
残された面々。
何か分からないけど悔しい。
羊歯とはなびえではやり続けてきた演劇の年数は全然違うが、互いに演劇を愛し、頑張ろうとしてきた者たち。
このまま終わらせてたまるか。
二劇団は力を合わせて、このアトリエを守ろうとある計画を立てる。
あの水商売の女性はオカルト的なことが大の苦手。
だったら、このアトリエを幽霊屋敷にする。
そのためには、役者の演技力、効果的な音響・照明、場を仕切る舞台監督、そして何より巧みな演出が必要だ。
力を合わせればそれは実現出来る。
劇団員たちの世代、劇団の垣根を超えた協力の下、愛する演劇のための戦いが始まる・・・
細かなところまで気を使った演出で、笑いを頻発させながら、スマートなテンポで分かりやすく話が展開するので、とても楽しく観れます。
所々に盛り込んだ小ネタのセリフもけっこうじわじわと面白くなったり。
はなびえの行う予定の病は気からは、今の劇団の状況を映し出すような話であるメタ構造を取って、現実と虚構をうまく交錯させているようです。
ラストはハッピーエンドとなるハートフルコメディーに仕上がっています。
圧巻なのは、このラストの戦いにおいて、キャラの個性がすべて伏線になっていました。
計算高い脚本に、それを活かす個性を発揮させた役者さんの見事な連携技が成した面白さでしょう。
この公演は、演劇ラボラトリーと称した、初心者のための演劇講座の中のワークショップ公演となっているようです。
演劇をしていくこととは、劇団のクオリティーを左右するものとは、劇団に所属して演劇に携わることとはみたいなものを作品を通じて教える仕組みになっているような感覚も得られ、この作品を演じることで、現実の世界で演劇をすることを学べるような不思議な魅力も感じます。
羊歯は何かな。シダって読むんですね。
種が無く、花が咲かない。地面に這うような形状。でも太古から力強く生息してきた植物を、演劇を続ける人たちに例えているのかな。決して華やかではないけど、人の食べ物として大事な栄養源でもあるしね。
はなびえもそうなのかな。まだまだ寒く厳しい時期。でも、これを過ぎれば桜咲く春が待っているみたいな。だから、みんなそんな時期を乗り越えようとする。
色々な問題があって大変なんだけど、演劇をすることで成し遂げることがどこかにあるんだよといった力強いメッセージも受け取れるような話でした。
| 固定リンク
「演劇」カテゴリの記事
- 【決定】2016年 観劇作品ベスト10 その3(2016.12.31)
- 2016年度 観劇作品ベスト10 その2(2016.12.30)
- 2016年度 観劇作品ベスト10 その1(2016.12.30)
- メビウス【劇団ショウダウン】161209(2016.12.09)
- イヤホンマン【ピンク地底人】161130(2016.12.01)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント