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2013年11月 8日 (金)

楽屋~流れ去るものはやがてなつかしき~ Bチーム【Dreamユニット・アンサンブル】131108

2013年11月08日 Cafe Slow Osaka

おっ、また始まったロングラン公演。
もう2年前になるんだなあ、2011年の8月に4回ほど楽しませてもらったBLACK COMEDY。
http://ksaisei.cocolog-nifty.com/blog/2011/08/black-comedy--2.html
面白い作品だったからなあ。
今回は、有名な名作らしく、期待を膨らませての観劇。

女優の業を色濃く描いたような話でしょうか。
なかなかえげつない話です。
女優さんって凄いねという言葉には、綺麗だとか七変化っぷりが見事だとか心情表現が豊かだとか色々とあると思うのですが、何か恐ろしいものがあるというのも含まれているような気がします。
その部分を増長させているような感じ。
女優らしく感情を奮い立たせるところはもちろん強烈な情念を感じさせるのですが、淡々としたシーンでもその深さに何やら恐ろしさを感じます。
切なくもあり、恐ろしくもあり、微笑ましくもあり、敬意を抱くようなところもあり・・・
様々な感情が交錯する不思議な作品でした。

<以下、あらすじがネタバレになっていますが、公演期間が長いのと、名作で筋は記載されているブログも既にあるみたいなので、白字にはしていませんので、ご注意願います。今回はBチームですが、他にも10個ぐらいチームがあり、観る回によって色々な魅力を感じられると思います。ちなみに、上記したBLACK COMEDYはDVDが販売されていました。お気に入りの作品で面白いので、是非、購入して観ていただきたく思います>

チェーホフのかもめのニーナ役を演じる女優の楽屋。
鏡を前にセリフの稽古。
幾つかある化粧台の二つには、同じく女優が念入りにメイクをしている。
やがて、ニーナ役の女優は舞台へと向かう。

残された二人は互いの女優としての恵まれなさを嘆き合う。
二人とも、いわゆるプロンプターとして活躍しており、あまり舞台に立つことは出来なかったみたいだ。
妙齢の女性は、マクベスなど名作にちょこっと、それこそセリフ無しのちょい役で出演したことはあるみたいだが、若い女性の方は、結局、舞台で光を浴びることは無かった模様。
嫉妬からか、ニーナ役の女優の悪口を言い、舞台衣装の帽子をお尻で踏みつけるなど、語弊があるが女性っぽい陰湿ないじわるをしている。
妙齢の女性は顔に大きな怪我をしている。若い女性は首筋に血が付いた包帯を巻いている。
空襲での被災と、男絡みの自殺が原因らしい。
そう、つまり、二人はもう、この世の人では無いみたい。
この楽屋で、永遠に来ることは無い出番を待ち続けている。
二人ともさすがは、プロンプターだっただけに、どんな役のセリフも完璧に入っており、自分の女優としての潜在能力を見せつけるかのように、様々なシーンを即興で演じ合う。
戦前と戦後のジェネレーションギャップがあるみたいで、経験した戯曲の翻訳に時代を感じさせるものがあったりし、そのリアリズムの違いを議論し合ったりして、舞台で自分が活躍しようと女優であったことへのプライドを醸し合う。

そんな中、一人の若い女性が楽屋に入ってくる。
二人には気づかないので、こちら側の人みたいだ。
寝巻のような姿で枕を抱えている。視線の焦点が定まらず、どこか遠くの世界を力なく見詰めている。
恐らくは精神的に病んでしまったのだろう。
その疲労を解消するために、たっぷり寝て、自分は健康になったのだと、つぶやいている。
舞台からニーナ役の女優が戻ってくる。
プロンプターの出来が悪かったらしく、機嫌が悪い。
そして、枕を抱えた女性に目をやる。

枕を抱えた女性は、この女優のプロンプターだったみたいだ。
想像どおり、精神的に追いやられて、入院していたようだ。
女優は、元気になったなら、またプロンプターとして頑張ってと女性に話しかけるが、女性の言動は完全に気が狂っている。
自分のニーナ役を返してくれ、あなたは疲れているから、この枕をあげるのでぐっすり寝た方がいい、入院する部屋は予約してある、この作品の作者、つまりチェーホフと話をしたが、私に期待してくれている・・・
自分にはこれまでの数々の修羅場をくぐりぬけてきた経験がある。いわば、そんな蓄積が自分を女優として輝かせている。それをこんな若い子にどうしてゆずらないといけないのか。
そんな怒りも込めた説得には、耳も傾けない若い女性にだんだんとイラ立ち、飲もうとした洋酒のボトルで殴りつけてしまう。
フラフラになりながらも、なお、訳の分からないことを言いながら、女性は楽屋を立ち去る。

ニーナ役の女優は、自分の女優としての生き様を、狂気的に一人語りする。
若い子が言うように、男や自分の精神的なやすらぎなど、様々なものを犠牲にして、むくわれるとも思われない女優の仕事。
でも、それに必死に耐え、自分の中に滲み出てくるほどの女優としての情念が宿る。
その語りは、若い子に対する反発と同時に、見えないけれど、その場にいる、もう永遠に舞台に立つことの出来ない二人の女優に対する自分のプライドを突き付けているかのようである。

ニーナ役の女優は、また明日の舞台のために、楽屋を出ていく。
残された二人の女優の亡霊の下に、再び、若い子がやって来る。
打ちどころが悪かったのだろうか。今度は二人が見えている模様。
若い子は、自分の置かれている状況を何となく理解はしているみたい。というか、元々、自分はそんな亡霊のような存在に生きている時から近付いていると頭のどこかで思っていたのか、二人の存在もおぼろげながら感じていたらしい。
永遠に来ない出番。それでも、必死にメイクをして、その時を待ち続ける女優たち。
もう、光が自分たちに当たることは無い。
でも、いつの日か、そんな出番はやって来るかもしれない。
そんな女優としての誇り、執念を胸に三人は自分たちが出来る作品を演じようとする。
チェーホフの三人姉妹。
生きていく。私たちは、生きていく。
そんな切なくも、恐ろしい三人の情念あふれる姿で締められる。

戯曲の知識があった方が、きっと、より楽しめるのだろう。
女優達から語られるセリフの数々は、この作品のシーンに合わせて、実際の戯曲のセリフを用いているみたいだ。
ラストの言葉も、三人姉妹の有名なセリフなのだとか。私は恥ずかしながら、知らないのだが・・・

楽屋という場所に宿る、数々の女優たちの念みたいなものだろうか。
嫉妬や孤独の中で、壮絶な経験を蓄積して得た女優としての誇りが漂う。
そのすぐ隣の舞台では、そんなことは何も感じさせない脚光を浴びて光り輝く華やかな姿が映し出されるのに。
そんな裏側にある、強い意志、覚悟を思わせられる。

ニーナ役の女優、小松美穂子さん。
どこかイライラしている。自分の思ったとおりではない。それは、その得た役を演じることではなく、自分の女優としての人生そのものに、何か違和感を持っているような感じ。単純なハードな仕事疲れと共に、嫉妬ややっかみが飛び交う競争世界での精神的な疲労、孤独とか心に潜む将来への不安を滲ませながらも、女優としての生き様を貫こうとする、力強くもあるが、狂気的な雰囲気を漂わす。この方は、全バージョンに出演する。

若い女優の亡霊、岡田由紀さん。
女優業と私生活が交錯して、おかしくなってしまったような人生か。互いのバイオリズムが悪い時が重なってしまって悲劇となったのかもしれない。自殺するくらいまで追い込まれた時は混乱状態だったのだろうが、今となっては女優としての自分、女としての自分を、客観的に冷徹な視線で冷めて見ているような感じがする。限界を知りつつも、まだそれに執着してしまう女優の魅惑が冷淡に浮き上がる。

妙齢の空襲にあった戦前の女優の亡霊、千福知枝さん。
あまり恵まれない女優人生だったみたいだが、どこか豪快で悲劇を吹き飛ばすような微笑ましい姿。もちろん、亡霊歴が一番長く、執着や執念という業の深さは醸すのだが、ドロドロした雰囲気の中で、ちょっとした清涼剤の様な爽快感も与えるような役に感じる。

枕を抱えた若い女優、細野江美さん。
自分を守るかのように眠りに逃げて、その精神バランスを保たせる。要は何も考えずにいられる状態を作ることで、安定を計ろうとしたみたいだが、逆にこれが自分だけの都合のいい世界を創り出し、その狂気の世界を彷徨うことになっている。そして、永遠の眠りにつくことになってようやく、本当に精神を取り戻す皮肉な悲劇を生み出しているようである。天然っぽいところが、また狂気的な雰囲気を増長させており、壊れてしまったという感が強く出ている。この役は他のチームで若い女優さんがかなり入れ替わるみたいで、相当、雰囲気が変わるのではないか。興味深いところである。

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