« 満月 ~みんなの歌シリーズより~【南河内万歳一座】131030 | トップページ | エリマキトカゲ心中【超人予備校】131101 »

2013年11月 1日 (金)

DIGITALIS -隠サレヌ恋-【VOGA】131031

2013年10月31日 京都・吉田神社野外特設舞台

神社の境内に舞台が組まれた神秘的な雰囲気の中で描かれる、人の生みたいな感じでしょうか。
抑圧された精神的な死のような状況にいる姉妹に振りかかる現実的な肉体の死を絡めて、それでも生を全うすることには希望があるようなことを伝えているような気がします。
自らが創り上げた幻想世界の中で、そんな死の束縛から脱却しようと試みますが、死はやはり容赦なく襲い掛かってきます。でも、そんな中にも、神様がいるかのような希望の光は存在しているんだといった気持ちになるような話でした。

<以下、若干ネタバレがありますが、許容範囲として白字にはしていませんので、ご注意ください。とても美しい舞台です。これぞ観劇の醍醐味だよなあといった気持ちが湧いてくると思います。ただ、防寒だけは、これで大丈夫だろうといった以上の準備をして観に行った方がいいです。ブランケット、手袋、マフラーとかいったレベルではなく、もうスキーにでも行くつもりでの恰好でのぞむべきです>

舞台向かって左側にある大きな木は舞台中央まで迫るように枝を伸ばしています。中央には本宮へと続いている階段なのかな。右側は回転する舞台セットが組まれていて、病床の妹の部屋となっています。
舞台の木に光が当てられると、蠢くような感じになって、その神社特有の空気と相まって、本当に神秘的な雰囲気が醸し出されます。
舞台中央の階段は、これまた、光が当たると、天へと向かうような感じになって、登っていく役者さんは本当に消えてしまうかのようです。

話としては太宰治の葉桜と魔笛。
短編なので、あらかじめ読んでいきましたが、ほぼベースとしては忠実に描かれているようでした。
ただ、3時間弱の大作なので、色々なところで盛り付けがされています。

太宰治とお付きの女性が登場します。お付きの女性は太宰に恋愛感情を持っているみたいです。
姉は、この太宰に憧れの気持ちを持っており、自分のこと、病床の妹のこと、自分たち姉妹の現状を手紙にしたためて送っています。この内容を口頭筆記により、葉桜と魔笛という作品として創作したという設定みたいです。
実在しないM.Tも登場。貧困層の中での歌人としての、何となくもどかしい生活が他の青年と一緒に描かれています。このあたりは戦時中という時代背景をイメージさせます。
二つの家族も出てきます。厳格な父の抑圧の中にいる、姉妹の妄想でしょうか。
ジギタリスの妖精みたいなダンサーさん、何か不安を煽られるような効果音を醸すドラムが、舞台の雰囲気を一層、神秘的なものにします。
あとは、暗いと言われる太宰の心の闇みたいなものの象徴でしょうか、気味の悪い風貌をしたNegativeというモノが。生を思うように全うできない生き方をしている人の心を映し出すかのように、時折、顔を出します。

太宰が一度はお付きの女性に渡したかんざし。
太宰は、それを取り上げ、自分に自らの姉妹の話を伝える姉に贈る。
初めての殿方からの贈り物。そんな喜びが身につけて滲み出てくるのか、妹はその姿をずっと見ていたいと願う。ずっと、そのかんざしを付けて欲しいと約束する。
姉は太宰に会いに行く。
お付きの女性に、かんざしを奪われるが、妹との約束を訴え、再び手に入れる。
かんざしは、不幸の中にも潜む、幸運の兆しの証明みたいなものでしょうか。
お付きの女性も、同情なのか、生を全うできない女性への希望の光とかんざしがなるなら、それは同じように生に悩む太宰自身にとっても救いとなると思ったのか、かんざしが姉の手に渡ることに納得したみたいです。

太宰はM.Tと自分を同調しているのかな。
純粋に人を愛しても、深くなると、ネガティブな心が顔を覗かせる。その弱さをさらけ出し、人を傷つけないように振る舞う。
悪く言えば狡猾だが、弱くて意気地が無い様は人間らしい。

しかし、よく分からないのだが、姉と太宰の話は現実なのだろうか。
抑圧された姉が、妹と同じように、そこからの脱却を求めて、創り出した幻想のようにも思える。
病床の妹は、空想の男を通じて、M.Tを抑圧された性のはけ口にし、最終的には自分の死を受け入れるための道具とする。
姉は、厳格な父、病気の妹の面倒見ることで精一杯で、恋どころではないのだろう。
どこかネガティブな感覚に惹かれたのか、太宰なら自分の悲劇を認めてくれると思ったのか、太宰に幻想を抱いているかのようである。その中で擬似的な恋愛をし、かんざしを与えられるということで、妹に対する優越感も含んだ安堵を得て、日々の現実生活のバランスを保っているように感じる。
あと、何となくですが、姉は太宰に父を求めているような気がします。自分たち姉妹が、この抑圧された生活から救われるのは、父の想いに二人への確かな愛情があることを知ることであり、それが口笛だったんじゃないのかな。
父に口笛を吹いて欲しかった。それが太宰の姿を借りて実現しています。

二人が必死に創り上げた幻想の世界。
でも、そんなものも、妹の迫り来る死によって、あっさりと崩れてしまう。
太宰は、そんな死の絶対的な力を知って、絶望して、自らの命を絶ったのでしょうか。
それとも、そんな中にも、人生に光が差し込むようなかんざしや口笛があることを大切にしたいと考えていたのでしょうか。
作品の最後は、闇の中にも光が存在していることを信じさせるような、美しいシーンだったことからも、魔笛が神様からの贈り物かのような優しく響く口笛となり得るという希望を描いた話だったように思います。

|

« 満月 ~みんなの歌シリーズより~【南河内万歳一座】131030 | トップページ | エリマキトカゲ心中【超人予備校】131101 »

演劇」カテゴリの記事

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: DIGITALIS -隠サレヌ恋-【VOGA】131031:

« 満月 ~みんなの歌シリーズより~【南河内万歳一座】131030 | トップページ | エリマキトカゲ心中【超人予備校】131101 »