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2013年11月24日 (日)

タイムすリープる【しろみそ企画】131124

2013年11月24日 芸術創造館

これは面白い。
話としては、ある高校生が現実とそれと並行して存在する争いに明け暮れる世界を行き来しながら、人を想う、想われるということを知っていくような成長物語。
そこに笑いや恋愛を絡めながら、楽しく話を展開していくところはこれまでのこの劇団の持ち味を発揮。
それに加え、今回は別世界での異なるキャラを巧みに切り替えて演じる役者さんの魅力と、剣の世界というファンタジーワールドでの殺陣、アクションも存分に楽しめる。
楽しく温かみのある話に、極上のエンタメ。
申し分ない作品だった。

高校三年生の阿須那。
ごく普通の高校生で、友達と楽しい日々を過ごしながらも、進路を決めないといけない時期に差し掛かっており、どうしようかななんて、まだしっかりと将来が見据えられていないような状況。
父子家庭で、強面だけど子供のことをいつも考えてくれている優しい父に、最近、自分は女王だとか言って、おかしなござる口調を徹底する少々変わった妹がいる。

学校では、幼馴染で世話好きな女の子の真琴、文武両道でいつも頼りになる剛志、ゲームや食べるといったことしか頭に無いノブとだいたいつるんでいる。
何かいつもベタベタしているバカップルもいるけど、相手にするとうっとおしいのでほとんど無視。
担任の先生は、オドオドしていて頼りない。それよりも、困った時は自称、学園のアイドルの強い保健の先生だ。

ある日、隣町の高校のスケバングループに影の薄い同級生が絡まれているのを見て、その連中と関わってしまうことから話は始まる。
和田アキ子顔負けの巨体で威風をとどろかすリーダー、その取り巻きのうるさい男女。
絡まれているのは同級生の一ノ瀬さん。確か、不登校になって、登校しても保健室で一日を過ごす内気な女の子だ。
何とかしないとと、勇気を振り絞って、とりあえず一ノ瀬さんをその場から逃がすが、完全に逆恨みされて、スケバン連中は真琴にまで手を出そうとする。
強い保健の先生ならいざ知らず、阿須那が勝てるわけも無く、思いっきりぶん殴られて気絶。

気付くと阿須那は不思議な世界にいた。
そこはアルカシミア王国。隣のヴァール帝国と戦争中だ。
ヴァール帝国は、この近辺の水源を制圧しており、アルカシミア王国を含め、中立的な立場にある河原に居を構える盗賊集団の村に水を供給しないという手段で、侵略しようとしているらしい。
阿須那はヴァール帝国のスパイの疑いをかけられ、牢獄へ。
色々な人たちを見渡すと、そこには知った顔が並んでいる。
アルカシミア王国の兵士のリーダーは剛志だ。同じ牢獄に入れられてる盗賊の親方はノブ。
そして、記憶を無くして連れて来られた女性は、あの一ノ瀬さん。
と言っても、自分が阿須那だと言っても誰も相手にしてくれない。
剛志は現実の姿そのままの頼もしい姿だが、ノブはすっかり盗賊の親方らしく荒くれ者で剣の腕も立つ。
一ノ瀬さんは、あの内気な姿からは想像がつかないくらいに強い女性だ。
ここは夢の世界なのだろうか。
頭が混乱する。とにかく疲れた。少し眠る。

気付くと、今度は現実の世界。
どうやら眠ると向こうの夢の世界に行ってしまうらしい。
阿須那はその世界を行き来しているうちに、ある事実を知る。
それは、向こうの世界も夢では無く、一つの並行世界である現実なのだと。
アルカシミア王国は女王が治めている。その側近に占い師。その人は保健の先生だ。
そして、その保健の先生は阿須那を認識する。自分も阿須那と同じく、世界を行き来しているのだとか。
アルカシミア王国の女王には息子がいたらしい。その息子と阿須那がそっくりで、その想いが乗じて、阿須那をこの並行世界に引き込んでしまったみたいだ。
剛志やノブは違うみたい。元々、この並行世界の住人。
では、一ノ瀬さんは。この世界の一ノ瀬さんは記憶を無くして、自分の居場所を失っている。現実の一ノ瀬さんも同じように、自分の居場所を見つけ出そうと学校で苦しんでいる。
きっと一ノ瀬さんもこの世界に引き込まれたに違いない。

並行世界ではヴァール帝国との戦争が激化する。
攻め込まれたアルカシミア王国の兵士たちは、河原の盗賊たちの砦に避難する。
盗賊のノブの妻は真琴。現実世界でノブは真琴に気があるので、ここではその願いが叶っているみたい。そして、盗賊を統括する女王は妹。現実のあのおかしな言動もまんざらではなかったわけだ。
スケバングループの取り巻きも盗賊の一員として活躍している。リーダーは疫病で亡くなったらしい。ということは、取り巻きの強い想いによって、あのスケバンリーダーもこちらの世界にやって来るかも。
アルカシミア兵士の中にはあのバカップルもいてるみたいだ。
ヴァール帝国の皇帝は父。許せないところだが、まあ別世界だから仕方が無い。
一ノ瀬さんは、この皇帝の娘である。もっとも、その娘はもう既に亡くなっており、阿須那と同じく、皇帝の強い想いが一ノ瀬さんを引き込んだといったところみたいだ。
皇帝の側近に担任の先生。どうやら、一ノ瀬さんはこの側近に、皇帝の娘だと洗脳されている様子。

激しい戦いが繰り広げられる中、阿須那にとっては現実世界では知り合いと同じ顔の人たちの命が失われていく。割り切れるものではない。
この世界もまた、自分たちが生きている世界の一つの並行世界なのだから。
皇帝の娘である一ノ瀬さんの命を奪おうとするアルカシミア王国の兵士たち。
記憶を取り戻し、洗脳状態が復帰してアルカシミア王国の兵士の命を奪おうとする一ノ瀬さん。
大切な人たちが命を奪い合う。一ノ瀬さんを守りたい。誰も傷ついて欲しくない。
阿須那はただボンヤリと生きていた現実世界とは打って変わったこの世界で・・・

二つの世界が交錯している上に、けっこう多くのエピソードが入り込むのであらすじは複雑になって書けませんね。
実際は観ると、設定もしっかりしていて、話もスムーズに頭に入ってくるのですが。
徐々に現実と並行世界の人間関係も同調したりしていき、とても面白く、惹き込まれて観ることが出来ます。
結局のところは、想ってくれる人がいること、自分が想う人がいることを知った人間の生きるということの尊さや力強さを浮き上がらせているような感じでしょうか。
それは親子であったり、男女の恋愛であったり、夫婦であったり、師弟愛であったり、友情であったりと様々な形で描かれているようです。
時空を超えた争い合うという厳しい別世界を体験したからこそ、そんな想い合いが自分の周囲にあったことを知ったのでしょう。
ラストは一之瀬さんは、そのまま一ノ瀬さんだったわけではなかったといった少しひねった感じにしています。
少しだけズレて戻った現実の世界。それは以前の現実世界のほんの少しだけ変わった並行世界の一つだったようです。
自分の成長が、世界を変えるといった、人を想う力の大きさを感じさせるような、温かくも力強い締めでした。

役者さんは、魅力的な方だらけでしたね。
一ノ瀬さんの前田夏季さん(劇団吹田市民劇場おむすび座)。さすがは女優さんの貫録で切り替えの見事さはもちろん、殺陣アクションの技まで存分に披露されての大活躍でした。
ノブ、野口昌彦さん(ISCplayer[s])。現実世界の高校生ではお調子者のデブキャラといった三枚目なのですが、並行世界ではかっこいい盗賊の親方なんですよねえ。殺陣もキレる。凄いなあと。そして、泣かせます。
阿須那、初沢タケシさん。後半に向けて、自分の想いを膨らませていくような心情描写がとても綺麗で、惹き込まれました。
妹、丸小野真穂さん。少し痛い女子高生から、慈しみ深き女王という変化。普通の可愛らしさと神聖さを醸す不思議な魅力でした。
兵士1、竹折英雄さん(たてびと)。何回か拝見していると思いますが、少しユーモラスな一面も覗かしたかっこよさが特徴的です。精鋭って言葉がはまります。
スケバングループの取り巻きの男、南克哉さん。せわしくちょこまかといった落ち着かないキャラを嫌味なく、楽しく演じられます。
他も皆さん、個性的で魅力的でしたが、このあたりで。
楽しい作品でした。非常に満足。

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コメント

御来場有難うございました(≧∇≦)
そのうえこのようなブログまで(T∀T)
これからも精進してまいりますので、よろしくお願いいたします

投稿: 野口昌彦 | 2013年11月25日 (月) 08時52分

>野口昌彦さん

コメントありがとうございます。

魅せられました。
剽軽な姿にも、男を無骨に見せる姿にも。
野口さんはじめ、皆さんのご活躍が光った素晴らしい作品だったと思います。

また、どこかの公演で拝見できるのを楽しみにしております。

投稿: SAISEI | 2013年11月25日 (月) 13時06分

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