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2013年10月 5日 (土)

少女仮面【桃園会】131004

2013年10月04日 アイホール

目の前で繰り広げられる世界に圧倒といったところか。
4月に拝見した唐十郎作品、鉛の兵隊よりかは、アングラ色はかなり薄くなっている印象を受けるが、異質の世界に入り込んでいる感は残る。
異質の世界に美しさみたいな感覚も得るのは、この劇団の魅力が出ているのだろうか。

この公演、重要な役がダブルキャストになっている。
情報を入手しておらず、他観劇日程を入れてしまっているので、もう観ることが出来ず非常に残念。
私が観たのは宝塚女優が寺本多得子さん、少女が森川万里さんのバージョン。
凛とした美女の寺本さんと、元気いっぱいで小悪魔的な雰囲気の森川さんのコンビが栄えている。
もう一つの方は、何となくイメージ的に優しい感じのはたもとようこさんの宝塚女優、落ち着いて小生意気そうな阪田愛子さんの少女のような感じで、また全然異なった空気を醸す作品になっているのではないだろうか。
本当は見比べて観たかった・・・

肉体という名の地下の喫茶店。
上の方では、地下鉄路線開発工事の音。
新規開発。新しい時代の到来。古き時代のものは影を潜め始める。時の経過。
老いさらばえるといったような、肉体を脅かす何かが常に迫りくる不安がつきまとうような設定だろうか。
舞台の床には新聞紙が敷き詰められている。
これも、ここに住む者たちの生きてきた歴史。これが新しい情報を拒絶するように、この閉鎖空間を形どっているようなイメージ。
要は、これまでの自分に執着して作り上げた狂気の世界のような感じ。

この喫茶店のオーナーは、かつての男役の宝塚女優。
老いて醜悪な姿になることを恐れてか、観客であった者たちが流した涙の風呂に入る。
過去の名声に浸り、かつての若き自分という虚像を作り出しているみたい。

店を任せられているのは、下をクズ扱いするボーイ。
過去がどうであったかはよく分からない。
ただ、オーナーありきの自分といった存在のようである。
オーナーと自分。自分と下の者たち。自分という存在が相関的にしか感じられないのか、オーナーには従順で、下には横暴という言動で自分を維持しているみたい。
そして、そうであることに内面でイラダチを抱えているのか、この店に来る腹話術師と人形に暴行をくわえる。
人形という存在、人形を操っているのか操られているのか分からない腹話術師の姿が、自分を思わせて腹が立つのだろうか。
地上には、もう何年も出ていない。
工事の人と揉めて、地上に火をつける。
新しいものを拒絶するように、新しくやって来る時間も否定している。

たびたびやって来ては、水道の蛇口から水を飲む男。
飢え、渇き、彷徨っているようである。

そんな喫茶店に、オーナーに憧れ、女優を目指す若き少女が、少女を未だ夢見る老婆を連れてやって来る。
オーナーは、若き
少女の姿にかつての自分でも見出したのか、弟子にして、芝居の稽古を始める。
ここから、喫茶店に出入りする者たちの、過去のエピソードを交えながら、虚構と現実の間の世界が繰り広げられる。

腹話術師は、人気のストリップ嬢と結婚していた。
妊娠するが、自分の子ではないことが判明し、二人の仲に亀裂が入る。
父親が誰なのかは決して言わない。
そして、堕胎して気の狂った妻。
腹話術師は喉頭がんを患い、残りの人生が短い。
人形はその父が自分であると告白する。
自問自答。
肉体が消える人生の終わりで見詰めた自分の内面に隠していたことが浮き上がっているのか。

水道の蛇口から水を飲む男は、満州で大規模の空襲を経験している。
渇いている。飢えている
水を飲んでいるのではない。蛇口の存在に安堵を得ている感じ。

オーナーは、少女と共に狂気の世界へ導かれていく。
老婆は、この異常な世界に怯え、少女を連れ戻そうとするが、二人は女優として、この世界に挑むように惹きこまれていく。
この異常世界の行き着く先が、少女を夢見る老婆としては知りたくないこと、老いた自分の現実であることを悟っていたのかもしれない。

オーナーはかつて華々しい舞台で活躍。でも、それは多くの観客から肉体を奪われた。
女優の宿命。
男役を極めるために、女の精神を捨てる。
満州で肺炎を患う。
大尉との恋。
肉体としての女の葛藤。

永遠の肉体、愛の幻想に憑りつかれるオーナーの下にやって来るかつてのファンの少女たち。
奪われた肉体を返してもらう。
でも、彼女たちがオーナーから奪ったものは特に無い。
自分は特別でも何でもない。
自作自演のような虚構のむなしさが残る。
突き詰められる現実の姿。
崩壊するこれまで必死に積み上げた虚構。朽ちていく肉体のように、天井からは砂が落ちてきて、この喫茶店、肉体は崩壊へと向かう。

感覚的なので、結局、伝えたいことが何にあるのかは、よく分からないのだが、色々なものが対比されて描かれているようである。
怪しげな地下喫茶店と華やかな宝塚。若き少女と老いたオーナー。
肉体を失うオーナーと人形と入れ替わるように肉体を喪失する腹話術師。
人形も少女も、現実を見せてしまう残酷な存在のように感じる。

私なりに感じるのは、憎悪のむなしさみたいなものだろうか。
嵐が丘のヒースクリフがたびたび出てくるが、この人物像がオーナーそのものなのだと感じる。
愛に裏切られ、愛に幻想を抱き、愛を与えたものを憎悪するような。
オーナーはかつて、自らに愛を与えてくれたファンや大尉に、自分を輝かせた男役であることに対して、それを老いの原因にすり替えてしまっているようだ。
腹話術師は内面に潜む妻への悔いや憎しみを、人形を通じて語らせて誤魔化している。
水道の蛇口から水を飲む男は、戦争への憎悪を渇きから癒されることで昇華しているように見える。
憎悪に執着して、時を止めてしまったような人たちが集まる喫茶店。
限りある肉体の中で、それに囚われ、かつての輝かしい愛、時すら否定してしまう。
そんな人生では、最後に朽ちた肉体が残るだけ。
朽ちた肉体の跡に、残る美しい愛を忘れては哀しいのではないかと。
かつての自分の経験を受け止めて、今の自分を受け入れる。
それが人の生き方であり、存在している価値に繋がっているようなことを感じた。

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