無休電車【劇団鹿殺し】131020
2013年10月20日 アイホール
劇団10周年記念で行われた、この劇団の数ある名作の中でも、最高峰に位置する傑作、電車は血で走るの5年後を描いた作品。
(http://ksaisei.cocolog-nifty.com/blog/2010/06/100623-ff07.html)
今回は、愛らしいながらも貫禄ある姿に、迫力抜群の歌を奏でる主宰の菜月チョビさんが海外研修に1年間行かれるということで、1年間の劇団充電前の記念公演である。
これまでのご自分方をモチーフにして、休むことなく走り続けた劇団の姿が映し出されている。そして、これからも走り続けるという決意も込められているのだろうか。
強い覚悟と同時に、自分たちへの誇り、周囲への感謝も感じられ、温かみのある話を、パワフルな舞台で楽しむ。
上記した電車は血で走るを観ていると、色々と懐かしいキャラが出てきて、それだけでけっこう楽しい気分になる。
そして、話の展開が似ているので、実はラストがどうなるのかが、何となく分かってしまう。
ただ、それでどうだというわけでなく、これまでの劇団のことを噛み締めながら、やりたいことと真剣に向き合い、それに向かって歩を進めてきた姿に感動と激励を受けるような作品となっている。
鹿野工務店の棟梁、武。
大物になるとか言いながらも、あんまり冴えない工務店の社長に落ち着く。もう夢を追いかけるような歳でもない。多額の借金を抱え、飲んでやけになっていたところ、足を滑らせ、ホームに転落。そのまま轢死。
今日はそんな武のお通夜。
兄も、工務店の従業員も普段から、気丈に面倒をみていたしっかり者の妹が喪主をつとめている。
この工務店、棟梁を座長にして、従業員たちで仕事のかたわら、いや、もう主として劇団をしていた。その名も、宝塚奇人歌劇団。
棟梁が大好きだったロックの精神を貫いた劇団。故人を偲んで、この通夜に行われるは、武とは幼馴染である従業員の栗田が脚本の銀河鉄道の夜。ほとんどパクりだが、ロック、ファックと熱き魂を込めた演出はオリジナルだ。
まあ、弔問客は怒って帰ってしまったが・・・
ただ、たった一人だけ、素晴らしいと絶賛するちっこい女の子が。劇団に入れてください。そう言う女の子に対して、栗田は嬉しいけど、苦笑いをするしかない。
多額の借金を残して死んでしまった武。
これから工務店を維持するのは難しいだろう。当然、劇団も。
そんなことをしているような歳でもない。そろそろ、どこかで夢にも見切りをつけないと。
もう、お終い。それぞれの道を進みましょう。
そんな中、城戸という男が現れる。武、栗田と同級生だった男。
今は銀行員をしており、弁護士を連れて来ている。
何でも、一度、工務店を倒産させて、借金をチャラにして、また、工務店を経営する方法があるのだとか。明らかに怪しいのだが、どうもみんな人を善意で見る考えみたいで、疑うことなく話を進める。
それが出来るなら、まだ頑張ってみるか。工務店も、そして、劇団も。
小さい女の子も、無事に劇団に入ることが出来た。電車好きだからか、ハミング鉄子なんて芸名を付けられてしまうが。
栗田は工務店では社長、劇団では作家兼座長と少々、プレッシャーで胃がキリキリ痛むみたいだが、何とか頑張り始める。
城戸という男。
佐賀からの転校生だった。同じ永ちゃんを崇拝していた武と仲良くなり、栗田とも打ち解けあった。
同級生の文武両道のモテモテ男と差をつけられた青春が悔しくて、いつか革命を起こすなんて、三人で語り合った。そう、三銃士。自分たちは、いつの日か世界を変えるような大物になることを誓い合った絆で結ばれた仲間だ。
今やこんなことになってしまっているが。まあ、モテモテ男も、いまや冴えない建具屋として、この工務店に出入りしているのだから、人生とはうまくいかないものなのだろう。
そして、演劇を始めたのも、たまたま出会った、貫禄があり過ぎる宝塚女優のような先輩に目を付けられたからだったか。
そんな回想に浸りながら、もう一度、工務店も劇団も再出発をしているところに、あの武がこの世にまだ未練があるのか現れる。
再び結成される三銃士。
うまい具合に、今や本当に名女優となった先輩も現れて、集客の協力を仰ぐことができて、再び公演を打つことに。
沖田は女だったみたいな幕末伝。また、どこかのパクりではあるが、公演は大成功。
東京に行けばもっと活躍できる。
そんな想いが頭をよぎる。
もちろん、もう、そんな歳ではない。
周囲の反対は大きい。
武の妹は、武にもうこれ以上、みんなを巻き込むなと涙ながら怒りを露わにする。
栗田の母親も否定的だ。幼き頃はかわいがってくれたおばあちゃんは、もう何も言わない。ボケて寝込んでいるのもあるのだが、自分がこんな先の見えない人生を進みだした頃から、徐々に疎遠になってしまった。きっと、東京に演劇をしに行くなどと知ったら、完全に絶縁されることだろう。
他の従業員も各々、今の生活で抱えているものがある。
でも、・・・
東京にやって来て、共同生活を始めるみんな。
このあたりからは、完全にご自分方の経験を描いているようだ。
休みなく続ける路上ライブ。警察に目を付けられ、やくざに絡まれ。それでも、必死に。
でも、もう限界がやって来る。
女優の先輩も、才能が無いとはっきり口にする。
ガス欠。
その上、城戸が実は自分たちを裏切っていたことも判明する。
大阪に戻る。全てを失ってしまったけど、ここにいても仕方が無い。
武ももう成仏するしかないか。
お別れ。ついに終わった自分たちの夢。
だったら、最後に葬式をやってくれ。武は最後の望みをかけて、今の劇団の力を振り絞った葬式公演を求める。
みんなも戻って来てくれた。
そして、大阪に残してきた自分たちを支えてくれた人たちも応援に駆けつけてくれる。
最後にやってやる。
葬式、いや公演当日。
栗田は母からおばあちゃんが危篤という一報を受ける。
それと同時に、栗田の才能を認めてくれて劇団に入ってくれた小さい女の子も大阪に戻らないといけなくなったと言い出す。
おばあちゃんは、日本初の女性鉄道運転手だった。自分がしたいことをする、夢に向かって頑張ることが、どれほどつらいことかを知っていたのだろう。そして、それが素晴らしいことももちろん知っていた。だから、生半可な覚悟で、夢を追い求める栗田を案じて、それなら普通の幸せを求めて、ごく普通に生きればいいと願っていたみたいだ。
小さい女の子は、栗田のおばあちゃん。今、真剣な覚悟で、全てを失ってでもやりたいという栗田の意志を知ったおばあちゃんは、栗田に出来る限りの激励の言葉を掛けるしかできない。自分の人生はもうすぐ終わるから。
公演が始まる。
力ある限り、走り続ける覚悟をした熱演が舞台を沸かす。そして、周囲の人たちにもそれが伝わる最高の舞台が繰り広げられる。
ふと、空に目をやると、電車が走っている。
おばあちゃんと武が乗っている。
栗田は叫ぶ。そんな電車に乗るな、自分の運転する電車にもう一度乗れと。
でも、そんな願いは叶うことは無い。二人を乗せた電車は、満点の星空へ向かって旅立っていく。
ライブ感たっぷり、バカ騒ぎの熱い舞台がこれまで繰り広げられていながら、最後は美しく、温かいシーンで締める。それも、最初の三文芝居、銀河鉄道の夜をここで活かすのかあと演劇らしい巧妙な技に感激させて。
大物になりたくて、自分たちの才能を信じて、仕事も演劇も大好きだからと、人生、走ってみるが、どうしていいのか分からない。
チャンスがあれば、何にでも挑戦してみたりして。いつの間にやら、東京にまで来てしまった。
そんな自分たちを振り返り、その頑張りを誇りに思いながら、そこにいつも自分たちを見てくれる周囲がいたことへの感謝も言及しているようだ。
無休電車は戻らない。前へ、前へと進んでいく。
これまで関わった人たちの想いを胸に。
そんな強く、芯のある凛とした覚悟が、心に響いてくるような素敵な作品だった。
こんな魅力的な運転手、乗客がいる電車。
いつまでも、そんな電車が走り続ける姿を見ていたいものだ。
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