« 劇団衛星のコックピット in 岩戸山のコックピット コンセプト3【劇団衛星】131018 | トップページ | 俺だけ人間【山尾企画】131019 »

2013年10月19日 (土)

すっぴんが見てみたい。【関西大学劇団万絵巻】131019

2013年10月19日 アトリエS-pace

この劇団にしては、珍しく少人数。劇場も、普段よく足を運ぶ、茨木市のワムホールやら大学のシンフォニーホールと比べると、ずいぶんとこじんまりしている。
ただ、この少人数とこじんまりした舞台を活かした魅力的な作品が創り上げられているように感じた。
個性的な芸達者だなあと思わせる役者さん方を揃えて、そんな方々が所狭しと必死に終始、力強く駆け回っている姿は、色々な不安を抱えて悩みながらも頑張って生きようとしている人たちの姿が描かれる、この作品の魅力を引き立たせているように思う。

登場人物の設定としてキャラが濃い上に、演出だろうか、それに輪をかけた言動が、少々くどさを感じ、けっこうお腹いっぱいになる。まあ、楽しいからいいのだが、どこかに箸休め的なさっぱりとした転換が出来る部分は欲しい。
各々が仮面を纏うかのように、自分の素顔を隠し、その中で、自分自身と葛藤しながら生きている姿が描かれる。もちろん、その仮面は各々、異なっており、それがその人にとってどういった仮面なのかが、各エピソードで語られている。このエピソードは決して突飛なものではなく、誰にでもありそうな、等身大の同調しやすいものであるので、非常に分かりやすい。ただ、これが全て並列的になってしまっており、あのラストシーンならば、それに絡むエピソードを強目に見せないと、少々、不完全燃焼の感が残る。

生きているうちに、いつの間にか、自分を覆ってしまうもの。本当の自分の顔ってどんなだっただろうと、自分でも分からなくなるような気がする。
でも、そんな色々な顔も全部、自分であり、それを大切にしていればいいのだろうか。
何か、そんな今の自分の顔に不安を感じる心を楽にしてくれるような話だったように思う。

<以下、ネタバレしますので、公演終了まで白字にします。公演は日曜日まで>

打ち込めるものが見つからないのか、何かを探しているのか、いつもどこかつまんなさそうにしている冴えない男、田中君。
彼が昔、やっていたギターをたまたま音楽室で弾いている姿を見て、宮田ちゃんと呼ばれる女の子は衝撃を受ける。自分たちのバンドに入ってもらい、ライブをしたい。学校でもトップクラスの可愛らしい容貌を持ち、かつ何人もの彼氏を持つ肉食系である彼女の色仕掛け、脅しを巧みに操る強引な勧誘に田中君はいつの間にやら、バンドに入ることに。
バンドのメンバーは後、二人。
上田君。黒いマスクをした寡黙な男。そのミステリアスな風貌から、クラスでも女性ファンの多い男だ。宮田ちゃんの幼馴染らしい。田中君も、彼とはほとんど話したことが無い。これから、よろしく。そう言って握手をして、会話する彼の口調はちょっとおかしい。そして、マスクを外したその唇には真っ赤なルージュが。オカマ。学校ではそれを隠すために、あんな風だったらしい。
坂田君。学校にあまり来ないので、よく知らないが、明るく爽やかな人の良さそうな男。スティックを手にしているので、ドラム担当のようだ。恐ろしい宮田ちゃんに、オカマの上田君。この変わった人たちに囲まれてどうなることかと思っていた田中君にとっては、ごく普通のこの男が救いのような存在に見える。よろしく、いいスティックだね。と、スティックを取り上げた途端、彼は変貌する。体は震え、まともに喋れない。極度の人見知り。スティックを持っていれば大丈夫みたいだが、学校でずっとそうする訳にもいくまい。学校に来ないのも納得できる。

 

兎にも角にも、この4人でバンドを組むことに。
練習場所は、なぜかラブホテル。知り合いの奇抜なおばさんがやっているので、そこを借りているようだ。
何から何まで、変わったバンドだ。
メンバーも変わった連中だけど、田中君も、それほど人のことは言えない。誰にでも隠している一面はあるものだ。本気で素敵だと思った子には、なぜかひどくどもってしまい、全く話すことが出来なくなる。それに、ずっとトラウマのように抱えていることがある。
でも、一人だけ、自分の中では大好きでたまらない子なんだけど、どもらず話すことが出来る子がいる。秋田さんという女の子。純粋で綺麗な子だ。そんな彼女は、ギターにちょっと興味があるらしく、教えてあげることになった。天にも昇る心地の田中君は幸せいっぱい。

 

田中君の友達のかっちゃんは、最近、楽しそうにして、明るくなった田中君に気付いているみたいだ。バンドを始めたことは知っている。彼は宮田ちゃんのファンだから、練習を見に行きたいと執拗に迫ってくる。でも、場所が場所だけに。メンバーのことを説明するのも大変だ。
そんな彼が偶然にも、そのラブホテルにやって来てしまう。当然、他のみんなの姿も見られてしまう。もちろん、上田君のオカマ姿も。彼は普段、見たことの無いみんなの姿に否定的だ。
さらに、ある日、田中君にとってはあまりにも衝撃的なことが起こる。秋田さん。いつもと違った大人っぽい服装。その美しさは普段と変わらないが、隣には中年の男性がいる。一緒に腕を組み、向かう先は、いつもの練習場所だ。何も考えることなく、その手を掴み、秋田さんと一緒に走り出す。どうして。その答えは、彼が抱いていた秋田さん像とはあまりにもかけ離れていたものだった。
上田君は、ある日突然、オカマを辞めると言い出す。その理由は、ずっと隠し持っていて、我慢できなくなったある女性への感情。
坂田君は、多分、留年決定。学校に行ってないんだから、当然、出席日数が足りない。いつから、こんな風になったのか。そんな自分の想いを語る。
それに呼応するかのように、田中君も自分の過去のトラウマを喋り出す。

 

みんな、我慢してるのか、本当の素顔を見せない。今、見せている姿ももちろん、その人自身ではあるのだろうが。
素直な、自分の心が苦しくない本当の姿。
恥ずかしかろうと、カッコ悪かろうと、そんな姿をあなたに見せたい。だから、あなたも。
そんな想いを込めたような力強いライブ、そして、その熱き想いに心を動かされ、自分を素直に見詰められるようになったかのような人たちの強い覚悟を思わせるシーンで話は締められる。

 

我慢なのか、不器用なのか、幼く未熟なのか、よくは分からないが、色々な仮面を纏い、生きている人たち。
その仮面を纏った姿だって、決して虚像ではなく、自分の大切な姿の一つだろう。
でも、そんな仮面を纏っていることに、心を苦しめて、必死になって日々を過ごす。何に怯えているのか、何にうしろめたさを感じているのか。
そんな仮面の姿も素敵です。だから、素顔もきっと素敵だと思う。仮面を纏ったままでもいいから、あなたの本当の心を感じてみたい。それが出来るなら、私は自分の仮面を外します。
観て思ったのは、何となくそんな感じだろうか。仮面を外す覚悟、それを見る覚悟。互いに想い、信頼出来る関係がそれを実現するのだろうか。
現実世界においても、自分の知らない相手の仮面の姿を見て、それが自分の中では拒絶するもので、その仮面の下を知りたくて必死になったりすることがあるかなあ。それは現実逃避的な行動なのかもしれない。救いを求めて、見ようとするものではないものね。人の素顔は。仮面の姿だって、愛せる。だから、その素顔はきっともっと愛せる。
人が纏う仮面に込められた想い、その仮面が映し出されるに至ったその人の想いを見詰めることが、その人のすっぴんを見るということなのだろうか。

 

田中君、たろうさん。終始、走って、動いて、語って。喜び、悲しみ、怒り、とまどい。熱演でした。表情豊かで、もどかしいくらいに不器用に懸命な姿が印象的でした。セリフがちょっともどかしいところがあったけど、これも演技かな。最初のステージだったから緊張感が先行したか。
宮田ちゃん、ことねさん。いい弾け方。強気と男勝りのがさつさで、身を纏い、弱い自分を隠している感じかな。色々な意味で強い子というキャラを創り上げているようでした。声の響きが、スパっと切れていて、身が引き締まるような感じになります。
上田君、ゴミさん。さすがの芸達者ぶりで、オカマを嫌味なく、いや、少しくどさがあるかな、スムーズにかつコミカルに演じられる。貫録でしたね。
坂田君、しゅーぞうさん。人なつっこいような、親近感の沸くキャラになっています。要領が悪いのか、人に対して真摯なのか、優しい温かみのあるほんわかしたものを感じました。
秋田さん、散葉さん。女と少女の切り替えね。さすがは女優さんですね。自分の素顔を田中君に認められたようなシーンのとまどいと喜びの微妙な表情が、この作品の芯の部分かな。そのことがラストの自分への誇りと覚悟を見せる凛々しい表情に繋がっているように思います。いいラストシーンでした。
かっちゃん、スナフキンさん。中性的なキャラなのか。なぜにそんな設定なのかはよく分からないが、まだ1回生みたいだが、大御所レベルのゴミさんとキャラかぶりながらも、負けじと目立つ存在感。このキャラの位置づけが、少し不十分なように感じる。人が抱える普通じゃない顔の否定をする世間を象徴するような存在のように感じたが、友達という肯定的な部分も混雑してしまっているようで、捉え方がよく分からなかった。
ラブホテルのオーナー、ふろむさん。やりたいだけやって、舞台を去って行かれたが。上に箸休めが欲しいと記したが、まあ、この方がそんな感じといえばそうなのだろう。ただ、この方も芸が濃い。貫録があるので、少しだけつまむようなことが出来ず、がっつりといただいてしまう感じだろうか。

|

« 劇団衛星のコックピット in 岩戸山のコックピット コンセプト3【劇団衛星】131018 | トップページ | 俺だけ人間【山尾企画】131019 »

演劇」カテゴリの記事

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: すっぴんが見てみたい。【関西大学劇団万絵巻】131019:

« 劇団衛星のコックピット in 岩戸山のコックピット コンセプト3【劇団衛星】131018 | トップページ | 俺だけ人間【山尾企画】131019 »