僕らをみて【劇想からまわりえっちゃん】131014
2013年10月14日 道頓堀ZAZA HOUSE
色々なモノが降りかかってきながらも、必死に生きる人たちへの激励を込めたような話だろうか。
色々な悩みに葛藤しながらも、自分を表現して、自分を、誰かを守るヒーローにならなくてはいけない。
かなわないものや、どうしようもないことがいっぱいある、弱い人間が、それでも力強く生きていこうとしている姿が浮き上がるような作品だった。
そんなことを、多感な少年時代の出来事と巧みに同調させて描いている感じ。
少年時代という、この劇団がお得意とする舞台で思いっきり遊ぶという魅力を出しやすい設定の中で、自分たちの想いをぶつけているようだった。
ある男の自分が過ごした1990年代を回想したような感じだろうか。
当時、小学生の少年。
真面目なのか、要領が悪いのか、パッとしない少し冴えない雰囲気の少年。
家庭教師のお姉さんは、人としても、女としても人生経験が豊富そうだ。
元々、ここへ来るようになったのも、父と関係があるのではないだろうか。漠然とそんなことを知っている。
学校では、新米の熱血先生が、いつも爽やかに、時にウザく熱弁を奮う。
同級生。
金持ちもいれば、貧乏な奴も。優秀なエリートもいれば、頭の悪そうな奴らも。ずいぶんとおませさんだが、ラブラブなカップルだって。そして、自分はどうなのか。どこにでもいるようなごく、普通の男に映っているのだろうか。
大人への憧れ、不安、ほのかな恋心、嫉妬、将来への夢、挫折感・・・
多感という言葉で片付けることが出来ないくらいに、色々な想いが交錯している模様。
みんな、各々、悩みを抱え、押し潰されそうになりながらも、日々の楽しい出来事と共に若き青春時代を満喫している感じだ。
そんな時を過ごしていたある日、町に怪獣が襲ってくる。
幸い、自分は何とか大丈夫だった。同級生も先生も、まあ無事みたいだ。大切なモノを失った者もいるみたいだが。
家庭教師の先生も、もう家には来なくなったけど、どこかで元気にはしていると聞く。
これまでだって、みんなそれぞれ、何かしらの不満や不安を抱えて生きてきたが、それが露骨に表層に出てきてしまった。
自分は怪獣に殺されることなく助かった。でも、それは、別にヒーローに助けてもらったわけではない。
助かったと言っても、死ななかっただけで、色々なモノや事を失った。
それを元に戻さないといけないのか。悪いのは、全部、怪獣なのか。
怪獣をやっつけるヒーローがいなくてはいけないのか。自分がヒーローにならなくてはいけないのか。
少年たちは、自分たちの複雑な想いを、自身が理解するためかのように、演劇をすることになる。自己表現だ。
でも、幼いのか、表現の手段や技術に乏しいのか、うまくいかない。
こんな時に本当に必要なモノは何だろうか。自己犠牲。自分を捨てる。
これまでの自分を捨てて、新たな自分として、これからを生きていかなくてはいけない。
でも、その方がたやすいことではない。
これまでの自分を捨てて、新たな自分の道を進もうと意を決する者がいる中で、少年は葛藤する。
これまでの自分へのこだわり、プライド。これからの不安、変えたいという意志。
怪獣が襲ってこようと、こまいと悩むべきことはそれほど変わっていない。
そんな時、あの家庭教師と再会する。
彼女は自分のことをまだ、名前で呼んでくれたことがない。
そんな彼女が・・・
多感な時期をもどかしくも必死に、降り掛かる不条理な試練を経験しながらも、頑張る少年の姿がぼんやりと浮き上がる。
それは、どこか、昔、同じように悩み、未だに悔いが残る決断をしたり、恥ずかしくなるような言動をしたりして、今に至っている自分を思い起こすようで、なんとも淡くノスタルジーの感覚が甦る。
同時に今の自分が果たさなくてはいけないこと、忘れていた大切な想いをも思い起こさせ、自身を見詰め直そうといった感覚も得る。
自分を捨てる。捨てきれない自分に悩む。本当に捨てなくてはいけないのか。
でも、周囲はいつの時もめまぐるしく変わる。
怪獣をはじめ、かなわないもの、不条理でも受け入れなくては仕方がないものが分かってくる。
自分の限界や、他人とは絶対に異なるところだって。そして、色々な人と出会い、色々な経験を積み重ねる。
辛い経験だったけど、そんなことをちょっぴり知るための、大切な時を過ごしたといったところだろうか。
少年は、きっと自分を捨てたのではなく、これまでの自分を受け止めたのだろう。
過去の情けない自分、頑張った誇りある自分、全部を受け止めて、そこから何かが生み出された時に、人は自分を捨て、新たな自己表現を得るのではないか。
これまでの自分と共に、怪獣により失われた数々のモノたち。そんな全ての想いを胸に抱いて、これからを生きようと決意する、震えるような幼き少年の心に、優しい温かみのある唇が触れる。
そんなラストシーンは、セピア色で、少年が大人の一歩を踏み出した瞬間として映り、素敵な話の締めくくりになっている。
ただ、メッセージ性が強かったためか、少しパワフルさが空回り気味な感が残る。
元々、そんな空回り感も、劇団名どおりというか、ここの魅力の一つだとは思うが、今回はパワーが弱いとか、熱量が少ないといったマイナス印象を持った。
全体的に、これまでの観た感覚からは、違和感が残っている。
偉そうな書き方をするが、はちゃめちゃな中で、押し切るパワーを魅せるのはお得意みたいだが、こうした芯に真剣な想いがあるような作品では、その力加減が微妙に分かっていないように感じる。要は、注目浴びる魅力的な劇団として名が通ってはいるが、まだまだ力不足なところは色々とあるのだろう。
作品自体はとても素敵な話で、今を頑張る者たちへの激励もこもったような、伝えようとする力強さは感じる。
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