チムニースイープ・ラララ【彗星マジック】131011
2013年10月11日 シアトリカル應典院
2011年、一年にわたって上演された連作の集大成としての作品となった定点風景(http://ksaisei.cocolog-nifty.com/blog/2011/07/--110709-e681.html)をベースにしているのだろうか。美しいファンタジーの世界観はこのあたりから生まれているように感じる。
そこに、二つの作品。
戦争や時代に翻弄されながらも、様々な生き方でその時を過ごしていく人の力強さや、世界の素晴らしさを語ったアインシュタインの一伝記のような作品(http://ksaisei.cocolog-nifty.com/blog/2013/01/130113-4320.html)。
刻まれるリズムに合わせたセリフの言い回しが、人の想いを強く込めた熱となって美しい空間を創り上げる作・演出の勝山修平さんのclickclockの作品(http://ksaisei.cocolog-nifty.com/blog/2013/04/post-7.html)。
全てが融合されたような作品に感じる。
個性的、かつ実力ある役者さん方の圧倒的な演技で登場人物の生き方を丁寧に描きながら、分かりやすい展開で話が綴られる。
静かに引き込まれていく。その話に世界に。
登場人物や作品の世界設定が自然に浮き上がってくる様が観ていて、リズムや奏でられる音楽ともあいまってとても心地よい。
<以下、ネタバレするほど、きちんと書けていませんが、一応、公演終了まで白字にします。公演は月曜日まで。
どんな世界にも、人にもある輝きを見つけ出すような希望に溢れる作品です。そんな、今、この世界に生きていることを愛したいと思えるような素敵な話を肌で感じられると思います>
とこ冬の国。
年中、雪に覆われるこの国では、なかなか産業の発展も難しく、その財源はほとんど鉄鉱石発掘による収入に頼っている。
近くでは戦争が起こっている。戦域は徐々に近づいている。しかし、みんな戦争への意識は少なく、自分のことを考えている人が多い。
貴族層、工場労働者層、貧民層と大きく分かれており、差別が普通に行われている。
貴族は土地を貸し、工場労働者たちが鉄鉱石を掘る。暖を取るために暖炉はかかせず、煙突がどこにでもある。貧民層の者たちはその掃除をして生活をする。
この国のたどったある一時を、一人の貧民層の女性を中心に、関わる様々な人たちと共に描いている感じかな。
ベースとなる一つの話があり、その話を異なる二人の視点でもう一度たどることにより、この国のことや登場人物のことがより深く理解できるような構成になっている。
どこか登場人物たちへの高まる愛おしさが、そのまま作品への愛情に変わるようである。
ラジオDJ。
お前のことを一番愛している。でも、感染症を患った彼女の最期の時、彼女を抱きしめてあげることが出来なかった。自分も感染することが怖かったから。そんな過去から、自分の言葉に責任を持てなくなった。
だから、無機質な情報だけの言葉を話す。
放送の最後はいつも音楽。
それを聞きに来る貧民層の女の子。言葉が分からないのか、ラララとその音楽を純粋に楽しむ。
女の子は、煙突掃除をする貧民層の女の子と友達になったみたいで、色々と教えてもらっているのか、徐々に言葉を覚えていく。
DJはそれに不安を感じながらも、彼女の純粋な姿に何かしらの希望も感じている様子。
迫り来る戦争。
町長からは、戦時状況の報道の制御も入り始まる。
町では貧民層の者が行方不明になったりしているらしい。戦争と関わっているのか。
DJは、そんな中、いつもの放送でこれまでとは違った自分の想いを込めた言葉を発する。
逃げろ。戦争がこんなにも近づいている。
何を言っているのかと反論する町民たちに失望を感じながらも、必死に想いを語る。
一人だけ、その言葉に同調して、同じように声を張り上げてくれる貴族層の男。
やがて、戦火が街を襲う。町の者たちは、全員どこかへ逃げたみたいだ。
DJは一人、いつもの放送局で最期の時を迎える覚悟をしている。
そこに見つけた一人の女の子。あのラララと声を奏でる女の子。
彼女を救いたい。
迫りくる戦火から彼女を守り、時を繋ぐ。
DJは彼女にいつの日か想いが届くであろうと文字の手紙を残し、同時にこれから生きる貧民の彼女に靴を託す。
と、ざっくりすぎますが、こんな話を最初に見せられます。
多くの謎がたくさん隠されてしまっていますが、漠然とした世界観は感じられます。
この謎をスルスルと紐解いて、話をどんどんとスッキリさせてくれるのが、この後に別視点で描かれる二人の話。
鉄鉱石の資源は枯渇しつつある。資源の無いこの国が戦争に巻き込まれたら、一発でお終い。
それに危機感を感じるある貴族層の男。
町長に進言するが、いまひとつ危機感に乏しく、利権の絡む工場長にうまく丸め込まれてしまう。
しかし、工場長自身は迫り来る戦争の危機を意識しており、貧民層の者たちをさらって、隣国に技術を売るという売国行為をして、自分だけが助かろうとしている。
自分だけが良ければいい。
そんな現実を目の当たりにしながらも、現実に生きていかなくてはいけないという厳しさも知る。
そんな貴族層の友達を頼って、戦火から逃れてきた友人。
彼は、ここで仕事を探すが、よそ者扱いが激しいこの町では職に就けない。
そんな中、出会った煙突掃除をする3人の女の子たち。
彼女たちの純粋な笑顔に惹かれるようにその世界に入り込む。
いつしか、ラララと歌う女の子も混じり、男は彼女たちへの想いを深めていく。
しかし、そこにはある者が生きるために、犠牲のように当たり前に虐げられる者たちがいるという悲しい現実を目の当たりにする。
幸せの価値観の相違。しかし、男は同時にその中で精一杯生きている者たちの強さや優しさも知る。
私の文章能力の問題からうまく書けませんが、この貴族層の男、その友人のエピソードで、ほとんど全てが明らかになります。
こうして、話は、最後、この町が結局たどった結末にたどり着きます。
敗戦でこれからどうなるか分からない国。
貴族層の者たちは、これから自分たちがしていた差別を今度は受ける側として経験するのかもしれません。
資源も枯渇して、国自体が滅びるのかもしれません。
でも、一人の少女の純粋な笑顔は、そこに希望を感じさせます。
様々な人たちと出会い、そこから言葉を教えてもらった彼女。その言葉は単なる情報ではなく、その人の想いが込められたもの。
彼女は唄います。自分の想いを込めた、そしてこれまでの者たちが繋がれた想い、これから自分たちが繋いでいく想いも込めて。
情報や記号化した言葉たち。
言葉の表面だけしか捉えることができない。それは人と出会った交流を深める時にも同じようなことになってしまっているのか。そんな世界への警鐘か。警鐘というか、寂しいじゃないですかと言っているようである。
言葉に込められた想い。
それをもっともっと感じ取って、その言葉を発する自分を、相手を愛おしく想い合いましょう。相手の想いを汲み取りましょう。そこに希望が生まれるのではないか。
ススで汚れた煙突を磨いて現れる輝き、暗い夜空に見える輝く星、薄汚れたズズ汚い姿から映し出される美しい笑顔。
厳しく鬼のような振る舞いの奥に見える相手への想い、自己欲に満ちた言動の中に見える平和でみんな幸せで平等な世界への願い。
表面だけしか見てなかったら、世界は汚く絶望的だ。
でも、その内面、表面に映し出される姿の中にある本当の芯の部分。そこに目をやれば、きっと世界は希望に溢れている。
世界はその視点を変えれば、輝きに満ちている。汚いものなど本当は無いのかもしれない。
歌詞の無いラララと奏でられるメロディーが美しいと感じられるように。
世界はきっと変わる。
誰しもが、自分のことだけを考え、人を差別し、戦い合って消えていく人がいて、身の回りに恵まれない人がいたとしても。
そんな世界であっても、人は愚かだという、それだけで終わりはしない。
人は優しさを持っている。それを自分にも、相手にも信じて見詰めてみたい。
世界に人がいるなら、その願いはいつしか叶う。
そんな希望溢れる優しい祈りを込めた作品だと思う。
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