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2013年10月10日 (木)

大きなトランクの中の箱【庭劇団ペニノ】131008

2013年10月08日 元・立誠小学校 講堂

今回もまた衝撃的な作品でした。
話自体のベースは、前回拝見した作品のようです。
http://ksaisei.cocolog-nifty.com/blog/2012/05/120502-a61f.html
チラシの紹介文からは、これに、これまで上演された他の2作品を組み合わせた構成になっているみたい。

前回拝見した時の感覚からは、妄想世界がより複雑になって、訳が分からなくなる、そして魅力のある不快感・嫌悪感が増長するだろうと予想して観に伺いましたが、これが意外。
話の展開がとても明快で、作品の伝えたいことがよりはっきりと分かるような気がします。
そして、それを感じられたからでしょうか。単純にエログロみたいな外面にだけ囚われることがなかったのか、不快感がほとんどありませんでした。これは良かったとも言えるし、少し期待外れなところも。吐きそうになるくらいの嫌悪も楽しみにしていたところがありましたから。
そして、何といっても舞台セットでしょうか。巧みな仕掛けのある全体的な構成はもちろん、細かな小道具なども繊細にマニアックに凝りに凝っており、期待以上に驚かされました。

43歳の受験生、ムラシマ。
今日も狭い家の一室で焦りながら勉強している。
神経質なのか、書棚には本が整然と並び、電車の音にイライラしている。
どうも、お偉い家系みたいで、代々の肖像画が飾られている。
勉強ができない訳ではないみたいだが、どうも公式に頼り過ぎたり、応用が効かないところがあるみたいだ。そんなところも災いしているのか、模試ではトップクラスでも、受験となるとことごとく失敗している模様。
2階から足音が聞こえて来る。
父の部屋には入ったことが無い。
体格も巨漢で立派だが、世間的にも立派な医者である厳格な父親。母は幼い頃に亡くしている。
父親はぶっきらぼうに、一族の恥を見るかのようにムラシマに接する。
父親が部屋を去ったあと、ムラシマは、さらに焦って勉強する。
でも、何か自分でも分からない高揚した気分が襲ってくる。
こんな時、ムラシマは、押入れに籠って、妄想の小説を描く。
それは、父への尊敬の念と、性的な父への愛が交錯したような世界を創り上げる。

暗転後、狭い部屋の舞台から、前作と同じような上下二面舞台に変わっている。
気付くとムラシマは、下の部屋で、大きな木に股間を押さえつけられるような形で横たわっている。
上の部屋にはブタと羊の化け物。
ムラシマを押さえつけている木の先が二階まで突き刺さっている。もう一つ、天井から出てきている木もある。
ムラシマの木はブタの化け物が管理している。天井からの木は羊の化け物。
二人は基本的に働かないで生きていくことをモットーにしている。
食べ物はこの木から出てくる白い液体のみ。
ブタの方の木は、日当たりもいいのか、その白い液をたっぷり出す。ブタはそれをガツガツ食う。
羊の方は、粉が吹いていたり、ヒビがあって水漏れしたりと元気が無い。食事はブタに分けてもらう。何かサボテン売りだとか、楽な仕事だと聞くと安易にそれになろうとしたり、すぐ嫌になって寝たりと卑屈というか、厭世観というか。
ムラシマは、二人に気付いてもらい、上の部屋へと助け出されるが、いつの間にか部屋から出て行った二人から取り残され、この部屋に閉じ込められる。
何とか出口を見つけ・・・

今度は、金持ちが飾るような獣の首が壁から色々と顔を出している部屋。
大きな男がピアノを弾いている。
どうもレストランらしく、先ほどと同じブタと羊の化け物が怪しげな料理を運んでくる。
煮込んですっかり丸まって無いアルマジロ、カブトムシの幼虫から生まれたゴキブリ、鳩時計から出てくる鶏の骨、顕微鏡でしか見えない卵・・・
どれも食べられた物でないと途方に暮れるムラシマ。
ふと気付くと、もう一つピアノが。
何気なく父親の大好きな曲であるカノンを弾く。それに合わせて、大きな男のピアノが連奏してくる。
自分の中に宿る父親への気持ちが分かったような気になったのか、安堵と喜びのような表情を見せる。
ピアノを弾く大きな男は姿を消す。
カクテルが準備される。
飲めば天国、飲まねば地獄。

気付くと今度はオペ室のようなところに横たわっている。
ここも上下二面舞台で、その部屋は下に位置する。
上は、ブタと羊の化け物が男性器を形どった椅子などを運んで、部屋を創り上げている。
ここはムラシマの父親の部屋のようだ。
父親の部屋には入ったことが無いと言っているが、どうも父親が手術で家を空けていた時に内緒で入った時の記憶がこの部屋を創り上げているみたい。
下の部屋に父親が入って来る。
王様の姿をして。そして、現実とはありえないくらいにかけ離れた最高の笑顔で。
勉強を頑張っているムラシマを褒める。抱きしめる。高らかに笑う。
何でも知っている父親。ムラシマにとってはキングなのだろう。
父親に愛されたい、抱かれたい、共に分かり合いたいといったムラシマの願いがかなった、まさに天国へ導かれたみたいだ。
二人は問題を出し合ったりして、至福の時を過ごす。
そして、父親はムラシマを自分の部屋に招き入れる。
二人はブタや羊の化け物と共にカノンを男性器を形どった笛で奏でる。

エディプスコンプレックスという言葉が浮かんで、Wikiで調べているのだが、これに当てはまるような、全く違うような。
母親に愛情を抱き、父親への同一化を図るが、その絶対的な存在に恐れを抱き、去勢されるという不安にさいなまれるらしい。
ムラシマの場合は、母親を喪失しているのでこれは当てはまらないが、そのことが原因なのか、父親に愛されたい、抱かれたいという感情を抱くようになってしまっている。
ただ、優秀な一族の汚点になってしまっていることを感じているムラシマは、同時に父を恐れ、去勢されるという不安の中で生きているようなところは当てはまっているようにも感じる。
父親の部屋が男性器で満たされているのも、自らのペニスがその飾られた中の一つになるという漠然とした不安なのだろうか。

途中、入り込む二つの世界。
ブタと羊の化け物の世界は何だろうか。
ブタはよく育つ木を手に入れて不自由が無いが、それに対してあまり運が良いとは思っていないみたい。働かなくても何とか食べていける、上手い具合に事が運んで、何か分からないがまあ大丈夫といった生き方で、自由奔放でお気楽な感じか。深く考えても仕方が無いみたいな。
羊はどうも逆で運が悪い。一緒に手に入れた木も、こちらはあまり育たない。誰かに頼って生きるしかない。自分がどうしてこうなんだろうとグチグチ言っているようなところもあるが、それでどうしようという前向きな発想は抱かない。行動を起こす気も無いのに、何かをしようと思うみたいなことも平然と口にする。まあ、卑屈といったところか。
ムラシマの妄想世界をたどっているので、これはまあムラシマの精神のどこかを強調したキャラなんだろうか。現実世界で外部との接触もほとんどしていないようなので、登場する人物は常にムラシマと父親しかいないだろうから。
今の自分に不安を抱えながらも、それを肯定するブタ、否定する羊みたいな印象を受ける。

レストランの世界はよく分からない。
ここでカノンが連奏され、自分の内なる父親への感情を知るみたいなところは、何となく分かるが、数々の料理はいったい何なのか。
精巧に作られており、しかもその発想が面白い料理作品ばかりである。
ここにも意味が隠されているのだろうか。まあ、性欲と食欲は似た本能みたいなことを聞いたことあるが、そんなイメージか。

最後、ムラシマは恍惚の表情を見せて、カノンの演奏が終わった後、元の現実世界に戻っている。
部屋はなぜか緑の草まみれ。
そして、何とムラシマは自分のペニスが無いことに気付く。
焦って、これまでの妄想世界を必死に駆け抜けて、自分のペニスを探す。
4面の回転舞台をグルグル回しながら、ムラシマが股間を抑えて、必死に駆ける。

時間の経過だろうか。緑の草は、すっかり時が経ったようなイメージを受けた。
これまでに鳩時計が、全ての舞台に置かれており、必ず言及されて何かネタが仕込まれている。
ムラシマ自身、もう43歳で時間に対する焦りがあるのは確かだろう。
妄想に逃げ込んでも、その間に現実の時は経過する。
そんな厳しい現実が待ち構えていたという感覚を得た。

ペニス。
去勢されたということか。
父親にされたのか、自分でしたのかが分からない。
父親がしたなら、それはムラシマへの完全なる決別のようであり、ムラシマが父親への愛情がまだあり、さらにはまだ求めている状況を考えるとずいぶんと悲劇的である。
それよりかは、何となくだが、この妄想世界の旅の中で、ムラシマが自分の心を見詰め、父親への愛情を変えていったように感じる。
男としての性の喪失。
父親のようになることを諦めたのか、その憧憬が薄れたのか。
どうにせよ、ムラシマはこれでキングの跡を継ぐことを拒絶したように思う。
焦って必死に駆けているムラシマだが、その焦りは冒頭の苦悩の中のものとは異なり、自らの意思で走っているという強いものを感じる。

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