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2013年10月31日 (木)

満月 ~みんなの歌シリーズより~【南河内万歳一座】131030

2013年10月30日 インディペンデントシアター2nd

だいぶ、この劇団にも慣れてきて、この独特なテンポの言い回しとパワフルな肉体をぶつけてくる動きなどに惑わされないようになったかな。
相変わらず、訳の分からない飛んだ話にあ然としながらも、楽しく観れました。

今回は、今のどこか切迫した世の中、将来が不安な世の中という現代社会の闇を照らしながら、その中で勝負から逃げない、逃げずに戦うといった生き方を目指すように人がなるまでを描いたような話です。
はっきりと勝負がつかないように巧妙に事を進めるようなことがいつの間にか出来るようになってしまい、それでうまいこと生きているような人にとっては、ガツンと心に訴えかけてくる言葉やシーンが散在し、心苦しくなりながら、考えさせられる作品でした。

<以下、若干のネタバレがあります。公演が大阪は月曜日まで。その後、来年の2月まで、東京・九州と続きますので、白字にはしていません。ご注意願います>

帰路につく人が乗る電車。20人の乗客。
いつものプラットホームから、いつもの電車に乗り込む。
窓に映る疲れた自分。そんな自分が、街の明かりにボヤけるように消えていく。今日もお終い。また、明日、頑張ろう。
そんないつもの感覚が、この日はちょっと違う。

電車は暗闇を走る。
いつもと風景が違う。いったい、この電車はどこへ向かっているのか。
ある女性はしきりに、この電車がおかしいことを主張し始める。
漠然と何かおかしいと感じていた乗客たちは同調して大騒ぎ。
でも、ある男性は、そんなバカなことがあるはずないと言い返す。そうすると、また乗客たちはそちらに納得してしまう。
そんなやりとりを繰り返している中、車掌が現れる。
前方で、電車のトラブルがあり、この電車は貨物専用の線路を走行しているのだとか。
窓からは満月の静かな光。深海でちょうちんアンコウの姿が見えないかのように、電車からは何も見えない。
全ては満月のせいなのだ。

事態は把握できたようではあるが、この車掌、先ほどまで一緒に騒いでいた乗客。台本上では、乗客10らしい。
役がついたみたいだ。
これは、誰かの夢の中。
乗り合わせていた浪曲師で、かつ霊媒師でもある女性が、現状を解析する。

ふと、気付くと、少し頭が寂しいおじさんが席で寝ている。
この人の夢の中なんだ。
起きろと叩き起こすが、事態は何も変わらない。窓からは見えるのは、満月だけ。
夢の中で起きただけだからだ。本当のおじさんが目を覚まさないといつまでも、この電車に閉じ込められたまま。とにかく起きろとみんなから、追い詰められる。
そうは言われても、おじさんは記憶を無くしている。顔に怪我をしているが、それもなぜなのか思い出せない。

おじさんは記憶を引っ張り出そうと、頑張り始める。
そんな中、ある駅に到着して、一人の男が乗り込んでくる。乗客7らしい。新たな役がついた。
カウボーイじゃないか。男はおじさんに声をかける。
約束は忘れてないよな。
そんな問いかけに、現状を何とかしたいので、うやむやに話を合わせる。
気付けば、パン一。何の約束をしたのやら。
そうこうしているうちに、同じパン一仲間が現れる。そして、男は計量機を持って再び現れる。
ボクサーだったのか、俺は。

会社に行きたくない若い男。
女優なのかお笑い芸人なのか、道を見失い始めている女性。
漁師を目指す男。
船が転覆して、船長も逃げたのか姿を消して、大切な仲間も失い、漂流しながら生死を彷徨った漁師たち。
お祭りに向かう浴衣姿の女性たち。

いったい、誰の夢の中を彷徨っているのか。
海底列車。ここは大きな水槽の中なのか。
満月に吸い寄せられるように、この電車に乗り合わせた乗客たちは、自分たちの役を全うする中で、現状からの脱却を目指す。
そして、自分たちが置かれている状況を理解し始める。
そのためには、今までのような生き方ではいけない。
そう悟った乗客たちは、自らの力で・・・

いつもながらの飛んだ話に、頑張ってあらすじを書いてみたものの、あまりの訳の分からなさに、書きながらちょっと面白くなってしまいます。
恐らく、この感覚が観ていて面白いなあと思うのと同等なのではないでしょうか。
話の焦点としては、今の世の中の切迫感、先への不安という心の闇を抱えた人たちの生き方を描きながら、それでも、精一杯、元気一杯に生きていかなくっちゃ、逃げてても仕方が無いから、覚悟決めて、戦う時は戦う、引く時は引いたりしながら、何とかやっていきましょうや、みたいなことを楽しく伝えているような気がします。

冒頭の電車内では、明らかに状況がおかしいことに対して、騒ぎ立てる人と黙認してしまう人のせめぎ合いが見られます。
クロをシロに無理やりして納得して、何とかしようとしない世の中。変な方が安心してしまう。
漠然とではあっても、このままではいけない、今、しようとしていることは間違っていると分かっていても、何か理由をつけて、そのままにしてしまう選択をしてしまう。
クロだと騒ぎはするが、認めてしまうことは怖いのか、行動に結びつけようとはしない。
何となく、今の世の中を皮肉っているようです。
無関心なのではなく、関心はあるけど、無関心のスタイルでいた方が無難みたいな考え。
これが、後に続く、勝負ということにおいて、逃げた戦いで誤魔化しているかのような生き方への警鐘へと繋がっているようです。

ボクサーのおじさんは64戦無敗、計量も一発できちんとパスします。
素晴らしい強いボクサーなのかと思ったら、実は全部引き分け。負けてもいないが、勝ってもいない。
この感覚は、暗闇の中に存在していても、見えなかったら無いのと同じみたいな電車内の風景と同調するところです。
面白い表現の仕方だなあと思います。
あなたは何勝何敗ですか。そう聞かれた時に、確かにはっきりと勝ち負けを言える数は少ないような気がします。
でも、人生ですから戦ってはきたはず。負けてつらい想いをしたし、勝って喜びも経験した。
でも、それも徐々に歳を経るとそんなことも
少なくなってきたような気もします。
巧妙になるのでしょうか。好きなことだからと言って、必ず戦えるわけではないですし、勝負をかけて戦うことは大きな覚悟がいります。勝った時の喜びよりも、負けた時のつらさの大きさも知ってしまってますから。
全部、引き分けになるように戦う技を身につけてしまう。それが逃げなのかな。
会社に行きたくないと彷徨う若い男、お笑い芸人と女優を掛け持つ女性なんかは、そんな負けから逃げて、勝ちも求めないようなボクサーと同じような生き方をしているような感じです。

勝負をかけて戦わなかったことは、記憶から消えてしまうのかもしれません。
ボクサーは顔に怪我をしていますが、本当に勝負をかけて、ボロ負けしてついた傷ならば、その痛みを悔しさに変えてきっと覚えているでしょう。
それを全く覚えていないということは、何かまた上手い具合にやって、勝ちも負けもしなかったのかもしれません。
漂流した漁師の船長は、きっと漁師ほど、遭難事故の事を覚えていないでしょう。恐らくはさっそうと逃げて、何ごとも無かった人と、生死をかけて漂流しながら戦った人たちの差でしょう。

最後、そんな乗客たちは、自分たちの生き方を見詰め、決心し始めます。
勝負をかけて戦ってみようと。
そして、本当にこの電車においては、今こそ戦わないといけない時になっているのです。
各々が何かをしなければ、電車の乗客たちは助かりません。
この電車は、現実世界では、えらい事故を起こしているみたいです。
もう逃げることはできません。
きっと、乗客たちが、最後まで命をあきらめずに戦うんだという気持ちになってくれるように、何か人の精神を奮い立たせる満月が導いた不思議な夢を見させられていたかのようです。

作品では、ようやく気付いた乗客たちでしたが、こんなことになる前に、いつも逃げる癖みたいなものがつかないようにしないといけないと警鐘しているような気がします。
これでいいのか。今こそ、勝つ、負けるを覚悟した戦いに繰り出さないといけないのではなんてことを問われているような感じです。

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