就活魔女☆とろみ【fukuiiii企画】131028
2013年10月28日 アトリエ劇研
就活をテーマにファンタジー、恋愛、友情、兄弟愛、人の想い・・・と色々なものを盛り込みながら、自分で決めた人生を突き進むことを描いたような作品かな。
頑張りが全部否定されてしまって、どうしようも無くなった時。そこに、何を見出せば、また歩みを進めることが出来るのかを考えてみたような話でした。
もちろん、この劇団ですから、たくさんの笑いを混ぜ込んで、ぐちゃぐちゃにしながら、ボリュームたっぷりに。
おかげで3時間近い大作に仕上がっていましたが、なかなか話としても面白く、役者さんも弾けるとか、魅せるとか、色々な意味で魅力的で楽しい観劇でした。
とろみ、22歳。
ひものような生活を自信を持って続けるダメ男の幼馴染と同棲中。
周囲の人たちと同じく、就活中だが、全くうまくいかない。
バイト先のやたら交渉術に長けて、クレーム処理ならどんな輩も捌いてしまう能力を持つ友達も心配している。
まずは彼氏と別れなさい。自分のトラウマの逃げ場所としているだけで、そんなことではいつまでたってもダメ。そりゃあ、昔のことを知ってるけど、逃げてばっかりだよ。ちょっと、社会性に欠けていると思うよ。
友達だからの言葉だが、口調は厳しい。
同じようなことを言われている。もっと、厳しい口調で、クズ、もう死ねとか、叱責されながら。そう、いつの日か、自分の前に現れたもう一人の自分、黒とろみに。
とろみはもう、精神的にいっぱいいっぱいになっている。
とろみ、12歳。
魔法少女だった。世間からもちやほやされた。
今のひもの彼氏は、幼き頃、魔物に追っかけられているところを頻繁に助けたことから、続いており、大人になった今も、ずっと助けているというわけだ。
むつき、楽譜、てる子の三人のリーダーで、そして、肩には妖精のようなマルルクを従えて。
能力に秀でていた。どんな魔物が現れても、得意の魔法であっという間にやっつける。やっつけた魔物が命乞いしても、そんなこと許さない。世界を救う魔法少女のプロなんだから、ポリシーを貫いて闘っている。そんな自分をいつもマルルクは、煽るように味方してくれた。
三人は・・・
いつも逆らいはしなかった。ただ、どこか怯えるように、自分が闘っている姿を見るだけ。しっかりしなさい、魔法少女なんだからと、厳しく三人を見下すように叱りつけていた。
むつきはおとなしめで、自分のことを尊敬もしていたから、黙って従っていた。楽譜は絶対にかなわないという力の差に嫉妬も尊敬も絡み合った感情で反発の態度を示しながらも従っていた。
てる子。自分の姉。黙って何も言わなかった。特別な存在の妹の力になる強い覚悟があったのだろうか。だから、あんなことになってしまった。
投げつけられた硫酸。自分をかばい、姉は顔にひどい怪我をする。そして、ある日、自ら命を絶った。
それから、魔法少女は辞めた。就活だってしないといけないし、いつまでもそんなことはしてられない。それに、自分のせいで、姉は・・・
自分には、今でもあの姉の姿が見える。
そして、そのことをもう一人の黒とろみが厳しく追い詰めてくる。そんな時、息が苦しくなり、吐きそうになって、どうしようもなくなってしまう。
就活は相変わらずうまくいかない。
就活セミナーでは、自信をすっかり失っているからか、講師の上っ面の言葉に惹きつけられてしまう。たまたま、出会ったかつての仲間、むつきはいつの間に立場が逆転したのか、幾つか内定をもらっているらしい。
魔法少女もまだ続けているとか。楽譜は相変わらず、自分のことを憎んでいるだろう。マルルクは、自分が去ってから、魔物の勢力がかなり優勢になっているらしく、闘いで命を落としたのだとか。
面接では、フラッシュバックのようにあのトラウマがよみがえり、ちょっと痛い人のようにオドオドし始め、その場にへたりこんでしまう。
第一志望のアパレル会社の大事な一次面接、グループディスカッションでは、もちろん話に入り込めず。それどころか、要領よく、うまく立ち振るまい、入社後のことを考えているのか、面接官に媚びへつらう受験者、そして、人生を懸けて懸命な受験者たちに対して適当な仕事っぷりを見せる面接官に嫌悪を示す。こいつらは、闘った経験も無い、そのつらさも知らない。中指を突き立て、こちらからお断りとばかりに、その場を退席。
最悪だ。このままでは、もう破滅しかない人生だ。
とろみは、友達や黒とろみの叱責を徐々に受け入れ、彼氏と別れることにする。
と言っても、追い立てられるような感じで、自分の意志ではまだ動けていない。
だからなのか、別れたことを後悔し、寂しい日々を過ごす。
何もかも失った。
とろみの精神状態はもう限界となる。
そんな中、ある男が突如、訪ねてくる。
自分の肩にのって一緒に戦っていた姿とはあまりにもかけ離れているが、マルルクらしい。
マルルクは、魔法少女に戻って欲しいとお願いに来ている。
魔物をやっつけるには、自分の力が必要なのだとか。
でも、もう私は戻れない。
そんな強い意志を示すとろみに、マルルクはあきらめ、もう会うことを辞めようとするが、彼氏を失った寂しさからか、厳しい就活の中で、自分を必要としてくれていることへの安堵なのか、とろみはマルルクに傍にいて欲しいと言う。
同棲生活を始める二人。
少しずつ、精神状態を取り戻すとろみ。友達の内定もちょっと素直に喜べるようになった。あの自分が悪態をついたアパレル会社に決まったらしい。本当は一緒にOLとなってお茶をしようなんて言っていたのだが、もうそれは無理な話となった。
でも、どうも、その可能性があるらしい。あの態度が気に入ったとその会社では評判になっているのだとか。
友達は、入社後に研修でうまく、とろみのことを話して、そのチャンスをもらえるように頑張ると言ってくれている。
マルルクは、とろみのことをあきらめきれない。
それぐらいに世界は今、危ない。とろみが必要なのだ。
そんな熱意に押されて、とろみは懐かしき、魔法少女のアジトに顔を出す。
そこにはむつき、そして嫌悪感剥き出しの楽譜がいた。ついでに、何か冴えないおっさんも。よほど、人が足りないのだろう。
さらには、あの元彼も。何かに目覚めたらしい。
自分の姉のあの事件のことがある。
そんなにすぐに打ち解けあうことはもちろん出来ない。
でも、各々の想いを腹を割って話をする中で、とろみはもう一度、魔法少女として活躍してみようという気持ちに揺れ動く。
闘いの日。
でも、やはりとろみはその場に向かうことが出来なかった。
どうすればいい。自分で決めることがやはり出来ない。
そして、その結果、とろみは再び、大切な人を失うことになる。
楽譜が魔物に殺される。その姿は無残なものだったらしい。最期の姿を見ようとしても、冴えないおっさんに遮られる。幼き頃に別れた娘のそばにいたいという気持ちで、こんな魔法少女をやってみることにした。最期までとろみの名前を叫びながら、死んでいった娘の無残な姿は見せたくない。
もう期待はしない。
自分で決めればいいこと。
でも、自分たちは魔物と最後まで闘う。マルルクは自分の強い覚悟をとろみに伝える。
再びやってきた闘いの日。
とろみは、以前と同じく、その場に向かうことが出来ずにいる。
それに、今回はあのアパレル会社の自分のためにやってくれることになった緊急面接の日。それに出席すれば、自分は入社できるのだから。
駆けつける友達。とろみに闘いに行けと。会社のことは自分がどうにかする。だから、とろみはとろみにしか出来ないことを逃げずにやって欲しい。
黒とろみはそれに反発する。魔法少女のせいで、こんなさんざんな人生になっているのではないか。また、同じ過ちを繰り返すのか。
揺れ動く、とろみは・・・
と、約3時間の作品なので、話の前後はあいまいになっていると思いますが、こんな感じのあらすじ。
結局、とろみは闘いに行くのですが、その相手が実は元彼という、もう一波乱が用意されています。
元彼は魔物のトップの血を引く者で、ずっととろみの傍にいたのも、騙してやっつけるためだったみたいです。でも、いつの間にか、本当にとろみを愛するようになって、ずっと苦しかったのでしょう。
とろみは、そんな元彼を自分と同じく苦しみから解放させてあげるかのように、闘います。
最後のエピローグでは、そんな闘いの数年後が描かれています。
とろみは、無事にアパレル会社に入社して、今ではプロジェクトを任せられる主任に。それも、友達が自分の代わりにとろみを入社させてくれと願い出てくれたおかげ。まあ、その友達は、そのおかげで今やCIAのネゴシエーターという天職に就いたみたいですが。
魔法少女の方はボチボチとやっている様子。
そして、あの元彼は今もとろみの部屋にいるみたいです。まだ、目を覚まさないようですが、とろみはそんな彼から逃げることなく、いつの日かまた抱き合える希望を胸に建設的な生き方をしていくのでしょう。
昔はヒーロー、ヒロインだったのに、いつの日かそんなことも遠い夢なんてことは、現実の人生でもあることかな。
よくある、勉強がバリバリに出来て神童なんていわれていた子が、実際に社会に出たら、自分の価値観を見いだせず腐っていくなんてことは、普通に目にすることです。大活躍していたプロスポーツ選手が、引退して数年後に悲しい記事の主役として名前が載るなんてことも、その呪縛から脱却できなかったのかもしれません。
就活ですから、まあ大学まで、普通に過ごし、それなりに頑張って、社会でも活躍することを当たり前に思っていたのに、そのスタートからいきなり思ったとおりにならない時の腐り方は半端じゃありません。スタート地点にすら立てない不安の中で過ごすのですから。自分がそうでしたから、よく分かります。
魔法少女を演劇なんてことに例えて見ると、巧みな演技で客を沸かしても、演劇を辞めて、会社に就職して、それがそのまま社会での活躍に繋がることもなかなか難しいような気がします。だからといって、演劇だけをずっとするわけにもいかないでしょうし、じゃあ、あの時の頑張りは何だったんよという不条理なこともあるように思います。悪口を書くつもりはありませんが、作品中に出てくる社会性の欠如なんてことは、なぜかよく言われていますものね。一般的でない世界で頑張る人に、世はそんなことで距離を置くかのような振る舞いをするのは常かもしれません。
この作品は、そんな人たちの精神的なつらさをファンタジー世界の設定にしてコミカルに描いているようです。
そこには皮肉、反感、絶望も込められているように感じますが、それ以上に、それでも、頑張ってきたことを無駄にせず、人生を突き進んでやると、笑い飛ばしてそんな悩みを吹き飛ばすような豪快さを感じます。
そんな考えが出来る根拠が、頑張って得た知識や技術からではなく、どうも人との出会いにあるように思って観ていました。
とろみは逃げて、追い詰められ、どうしようもない状態に陥ります。
でも、周囲はそんなとろみをどんな時も常に見詰めてくれる人たちばかりです。
友達は腹を隠すことが出来ない人みたいで、今のとろみが嫌いとか平気で言ってしまう人ですが、それだけとろみのいい所、悪い所を見ていたのでしょう。きつく言うべき時は、よりへこむぐらいに厳しく、手を差し伸べないといけない時は、自分を犠牲にしてでもそうする。
むつみはちょっと天然なんでしょうか。とろみに厳しく接しられていても、それを憎しみや怒りには変えていないようです。普通の仲だから、また魔法少女に戻って来たら、つらい想いをすると思ったのか、マルルクは死んだといったような嘘をついたのかな。
楽譜は、とろみをずっと自分の目指すべき人として見ていたのでしょう。だからこそ、情けない姿を見たくなかった。いつもピンチの時にさっそうと現れて、あっという間に魔物を倒すとろみを見て、敵視と同時に自分もそうなりたいといつも思ってくれていた人だった。だから、魔法少女を辞めて、腐っていくとろみをずっと見続け、いつの日かまた共に過ごせる日を思っていたように感じます。
マルルクは、どんな時でもそばにいる人がとろみだった。去っていっても、常に自分の中にとろみがいたはずです。自分にとって、いつも必要な存在。そんな大切な想いをとろみに持っていたのでしょう。
姉は、もちろん、妹ですから、常に見詰めていたでしょう。能力があり、信念も持って、頑張るとろみに最良の人生が待ち受けていることを願っていたようです。それでも、自分に振りかかったつらさに打ち勝つことは出来ず、死という最悪の逃げの行動を起こしてしまった。だから、ごめんととろみは何も悪くないという言葉を残したような気がします。
元彼は、葛藤の中で、とろみを愛という視点で見ていた。陥れる対象が、自分の大切にしたい対象に変わっていく中で、どんな形でもとろみの傍にいることを選択した。
色々と自分の頑張りが否定され、絶望の中に追い込まれたとろみですが、きっと、そんな誰も否定できず、消し去ることも絶対出来ない、人生の出会いの中で得られた自分への人の想いの大きさが、とろみの心を変えたように感じます。人の想いに気付いたからこそ、きっととろみは元彼をずっと見つめ続けているのでしょう。
自分の人生はいったい何だったんだみたいなことを、就活も含めて思うことがあるかもしれません。勉強して得た知識も、必死に頑張って得た力も、全部否定されてしまう。
でも、そんな人と出会って得た想いは、もっともっと大切なものであり、それに誇りを持てるような心になれば、きっと人生の道は開ける。
そんなことを、さんざん笑わされながらも、真剣にちょっと思ってみたりしました。
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