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2013年9月13日 (金)

大勇者伝~大勇者への道~【fukuiii,5】130912

2013年09月12日 人間座スタジオ

昨年拝見した作品がけっこう好きで、また観たいと思っていたのだが、なかなかタイミングが合わず。久しぶりの観劇となった。
http://ksaisei.cocolog-nifty.com/blog/2012/05/fukuii120530-3b.html
変わらず、個性の強い役者さん方がおふざけを連発していく話の展開は面白い。
不条理すぎる設定の中で、クズのような登場人物が多々、むちゃくちゃな言動を繰り返しながら、どこか社会を皮肉ったような鋭さを見せる話の魅力だろうか。
笑いながらも、何かを正せと言われているような気がする話だった。

<以下、ネタバレするので、公演終了まで白字にします。公演は日曜日まで。二作品の公演で、この作品と、つかこうへい作品のロマンスが上演されています。つかこうへいさんの言葉の重み。この作品との対比を楽しむのが、なかなか面白いのかもしれません。公演激戦週で私は観れませんが・・・>

勇者シャドー。
数々の困難を乗り越え、遂に魔王の下へと辿り着く。
魔王が女だったのは意外だったが、選ばれた勇者として、人間たちを守るために闘わなくていけない。
脆そうな剣を振りかざす。
一撃。
勇者は悶え苦しみ、七転八倒。まだ、本気で攻撃してないのに。唖然としながらも、急いで救急車を呼ぶ魔王。

 

村では新たな勇者選びが始まる。
これまでとは異なり、魔王を必ずや亡き者に出来る実力者、大勇者を。
選ばれたのはシャドーの弟、テルーバ。
母親が村長と再婚しているので、ごり押しで決めたみたいだ。もっとも、父親とは認めていないようで、馬鹿にしているのか、父のことをトマト姫だなんて言い続けているようだが。
口先だけの男で、責任を背負わされることから巧妙にいつも逃げているような男。現に、純潔を捧げた婚約者のイオン姫には、そのことが重いとごねる卑怯さ。
勇者に選ばれなかった剣士、バンテと無意味な決闘を交え、うやむやのうちに仲間に。
いざ、冒険にと言っても、金が無い。
村の助成金をあてにしていたが、それも叶わず。勇者はボランティアみたいなものだから。

 

魔王の住む屋敷では、勇者、シャドーが捕らえられている。
手下にボコボコにされて、魔王の下に連れて行かれる。
二人っきりに。
どんなひどい目に合わされるのか。
でも、魔王はいじらしい女性の一面を見せる。
こんなところに閉じこもって生きているのだ。出会った男に惚れても無理は無い。
どうやって自分の気持ちを伝えたらいいのか。つつましい姿を見せる魔王にシャドーも惹かれていく。

 

一方、大勇者、テルーバ。
バンテと一緒に、コンビニでバイトするが、遅刻はするわ、偉そうな接客で客を怒らせるはで、店長も日々、頭を悩ます。
要するに、この男、何においても能力が劣っているのだ。
一向に金が貯まらないから、イオン姫には、女の武器を使ってもらうことにする。
コンビニを首になっても、まだブラブラと日々を過ごすばかり。
いつになったら、冒険に出るのやら。まだ、物語は始まらない。

 

魔王とシャドーは、海遊館でのデート、魔王の故郷、魔界での母親への挨拶などを通じて、心を通わしていく。
魔人といっても、別に人間と変わらないし、魔王は人間を支配するといっても、別に滅ぼそうなんて思ってもいない。
ここで、ずっと幸せに暮らせれば。そんな気持ちがシャドーの頭を支配し始める。
テルーバの方も、いつまでたっても冒険は始らず、このまま、なあなあで、まあそれなりに幸せに互いに暮らせそうな感じだった。
ところが、魔界からタクシードライバーとして、出稼ぎに人間界にやって来ていた魔王の父親と、どうしようもない連中との日々に悲しみに暮れるイオン姫が偶然、出会ってしまうことで、再び、魔界と人間界の繋がりが生まれてしまう。
ついに出会うことになったテルーバと魔王。そして、その魔王の傍にいる、兄のシャドー。
その結末は、・・・

 

勇者は心に熱き正義の魂を持つ選ばれた者、魔王は邪悪な精神の塊。魔王と人間は互いに憎しみ合う関係。
勇者は村人から常に支援される期待の星。村から旅立ち、この世界を守るために冒険に出る。
その傍にいて勇者を支える者たちは、何かしらの卓越した能力を持つ。姫は勇者を精神的にも肉体的にも支える存在。仲間の男は、勇者よりも突出した強い武力を持つ。
そんな当たり前を全部、はぎ取り、崩してしまうことで生まれるパロディーみたいな感じか。

 

大勇者の言葉一つ一つが全て薄っぺらい。
本気で言っているのかと疑いたくなるくらいに、唖然とするほど言葉の重みがまるで無い。
でも、そんな言葉が詭弁のようになって、人々は惑わされていく。
それは、先生ではなく、大先生がおっしゃられているのだからみたいな、いくら薄っぺらくても大勇者という肩書きが存在する限り、そこから発っせられる言葉には何かしらの意味があるような錯覚を生みだしているようである。
本物の言葉を見極める力を失ってしまった大衆の悲しき姿か。

 

最後の方は、魔王や勇者という存在はグダグダになる。
もう、いまさら、魔王をどうにかしないととか、勇者としてみんなを守らなければも無いような状態。
これはこれで、均衡を保って、普通にみんな生活している。おかしなことだが、共生が成功した感じである。
でも、ひょんなことで、二つの世界は繋がってしまう。
いまさらどうでもよくても、目的だけは残っている。少なくとも大勇者の肩書きを与えられてしまったテルーバには。そこに理由は無い。そもそも、始めから理由は無かったのかもしれないが。
無意味な闘いで話は終結する。
人が憎しみ合う、仲たがうという差別意識の縮図を浮き上がらせているのか。
この後、きっと魔界では大魔王が生まれる。
その大魔王は、勇者を、人間を滅ぼすという理由なき目的だけを与えられ、同じような負の連鎖を繰り返していくのではないだろうか。

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