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2013年9月 8日 (日)

星野翔一人生オークション【ちゃかさん】130908

2013年09月08日 アトリエS-pace

不思議な発想、設定で、人を見詰めた作品。
ただ、どうもその発想の奇抜さに惑わされ、話自体の整合性が自分の中で見出せず、混乱した観劇が最後まで続く。
はっきり書いてしまうと、何を伝えたいのかが、いまひとつ理解できていない。
話の展開自体はスムーズで、盛り上げ方などはメリハリも効いている。
ところどころにエンタメや笑いの要素も加味しており、全体的には楽しい仕上がりとなっているのだが・・・

星野翔一。
一昔前は名が知れたタレントだったが、今ではさっぱり。
週刊誌にも、よくある売れなくなったタレントベストテンにランキングされる始末。
マネージャーも何とかしたいと必死に仕事をとってきている。下町のグルメレポみたいな小さな仕事だけど。
もう、いいや。疲れた。星野翔一でいることに。
ビルの屋上から身を投げようとしたところに、怪しいスーツ姿の男が現れる。
それでは、残りの人生を誰かに託しましょう。

連れていかれたのは死後の世界なのか。
勝手に自分の残りの人生がオークションにかけられる。
もう一度、生き返って人生をやり直したい人たちのプレゼンが始まる。
ブラックジャックになりたい人、プリキュアになりたい人なんて、あまり生き返ってもいいことなさそうな人。
落武者のように執念深く現世に未練が残っている人。
確かにもう一度、活躍させてあげたいとみんなの涙を誘う戦場カメラマン。
・・・、あと一人いたな。思い出せない。
最終的に選ばれたのは、佐伯という男。彼は、交通事故で重体となった彼女の命を救うために、自分の心臓を渡して死んだ。もう一度、彼女に会いたい。残りの星野翔一の人生は彼のものに。
そんなこと認めないと騒ぎ出す、本当の星野翔一。でも、スーツ姿の男は、彼はもう不要とばかりに銃を突きつけて、発砲。

一方、ある研究所。
女の子が博士にある依頼をしている。
星野翔一のアンドロイドを造って欲しい。
熱烈な星野翔一ファンの彼女は、自分だけの彼を求めたようだ。
それがついに完成。プログラムで彼女のことが大好きな設定にしており、相思相愛のカップルとなる。

星野翔一が行方不明になり、マネージャーは心配している。親友も何か手掛かりは無いかと、探しているみたいだ。
そんな中、女性とベタベタして歩く星野翔一が発見される。
さらに、病院を退院した女の子に、自分は君の彼氏だったと詰め寄る星野翔一が。
世間を騒がす、どっちが本当の星野翔一なのか問題。
その行方は・・・

すごく混乱している。
アンドロイドの星野翔一は、姿形はそっくり。でも、細かな仕草や考え方が違う。
佐伯が入り込んでいる星野翔一は、姿形は全く異なるが、星野翔一が知っているはずのことをしっかり覚えている。どこか星野翔一を感じさせる。
そんな設定で対立しているのだが、どうもここがずっとしっくりこない。
アンドロイドの方は分かるのだが、佐伯の方は何でなんだ。何で姿形が違うんだ。星野翔一の肉体じゃないのか。星野翔一を感じさせる何かがあるのは、まあ、これまでの星野翔一が残っている上に、佐伯が入り込んでいるということなのだろうが。でも、彼女に会うために現世に戻っているので、現れるのは、佐伯の仕草や考え方だから、星野翔一とは姿形も、心も全部違う人にしか映らないんじゃないのだろうか。それでも、星野翔一を影ながら思い続けたマネージャーには、それが感じ取れたところを強調しているのだろうか。
要は、肉体と精神に別れた星野翔一の対立という構造にならず、何をもって、そんなに敵対しているのかが理解できない。

最終的な結論もどう考えるべきなのか。
肉体だけの星野を愛する女性。肉体は異なっても、その中に入っている佐伯の想いに心を通わせる女性。
星野の肉体でも、記憶でも無く、そこにあった本当の星野の芯みたいなものをずっと感じ取ってくれていたマネージャー。
人は何をもって人を愛するのか。
熱烈なファン、心臓を受け取った女性、マネージャーと各々の視点で全て異なる結論に達しているようで、考えが収束できなかった。
自分自身、それを作り上げる様々な要素は、全部、何かしら人に影響を与えており、それが残っている間は人は消えない。死にたくなるくらいにつらい時、そんなことを思い出し、逆に自分自身も、人から何かしらの影響を受けていることを思い出してみようなんてところだろうか。
星野翔一と同格で描かれる佐伯の存在が、アンドロイドという形で肉体が残って死ぬということと、心臓という形でその想い、精神を残して死ぬということの対比から、何か答えが掴めそうな気もするし、単にまとまりが無くなって分かりにくくなった感もあり、よく分からない。

全体として、しっくりこない感は残るものの、話自体はけっこう分かりやすくスムーズに展開する。
盛り上がり方も巧みで、後半に向かっての熱の込め方は、上記したややこしい理解は抜きにして、出会う様々な人と共に生きるということを真摯に見詰めている作品であることを感じさせている。
観ながら思っていたのは、通常は、星野翔一の精神を誰かにとり憑かせて、星野翔一の芯を明らかにして描くパターンだろう。この常識を完全に反転させて、星野翔一の肉体に違う人の精神をとり憑かせて、そこから星野翔一を見詰めている。この奇抜な発想は、恐らくは人として大事なことは何ぞやみたいなことを、これまでと違う視点で考えさせて、異なる結論に達しさせそうなのだが、残念ながら、そんな発想には私が付いていけなかった。
描きたい焦点をもう少しはっきりと理解した上で、観直したい作品である。

星野翔一、依っ西さん(演劇部覇王樹座、以下、さ)。弱気で厭世観、行き詰まり感を出しながら、最後に自分の想いを爆発。ここまではメリハリがあっていいなあと思っていたので、本当のラストはもっと自分に自信が持てたみたいな強いオーラがあっても良かったかな。人のよさそうな雰囲気が最後に少し災いしたような。
落ち武者をされていた方かなあ、TOMさん(さ)。もう一つのバージョンでは星野翔一をされていたみたい。自虐的な自分の世界を作りながらのボソッとしたセリフでの笑いが引き立っていた。
マネージャー、めぐむさん(さ)。星野翔一を一番心から想っていた人としての認識でいいんだよね。ツンデレというわけでもなく、熱烈な想いをPRするわけでもない、微妙な感情表現。これが真摯に映るようでもあり、物足りない感があったりもし。
アンドロイドの翔一、チョコ輔さん(さ)。ナルシストっぽいキャラから、自分自身に苦悩するキャラへ。所詮はアンドロイドだからなんて考えは、実の星野翔一の所詮、自分はみたいなところに通じており、この翔一も溺愛する女性を通じて、アンドロイドとはいえ、成長する姿が最後に描かれて欲しかったかな。
佐伯、原賢二さん(劇団ちゃうかちゃわん、以下、ち)。自分を思い詰めた、ずいぶんと真面目なキャラ。誠実さをひたすら漂わせた男前を演じる。
アンドロイドを溺愛する女性、颯さん(さ)。病的に執着した愛を見せる。この作品を観て、混乱させた原因の一人。肉体を愛する。そこに心は無くてもいいという姿が、本来はそれは違うといった感じで捉えるべきなのだろうが、この方を観ていると、それに正当性があるかのように真剣なまなざしを見せる。人を愛する正解の一つであることを描いているのだろうか。反論を寄せ付けないかのような、かなりきつめのキャラだったが。
心臓をもらった女性、松尾ゆうみさん(さ)。透明感のある優しい雰囲気を醸す。この方も、混乱させる。ラストはもらった心臓に込められた佐伯の想いに心を通じさせるが、それまでに、違った肉体に宿る佐伯の想いには、受け入れるべきなのか、拒絶なのか迷いが生じている感じである。形としての心臓ならば、容易に受け入れるのに、そこに人としての肉体が存在すれば、そうではなくなる。肉体は、人の想いを薄れさすくらいに、人に影響を及ぼすものなのか。
博士、小林尚文さん(さ)。ひょうきんな感じで登場したが、その後はずっと、自分のしたことの重大性に苦しむようなかわいそうなキャラになっている。
星野翔一の友達、ラブリーチャーミーきみやさん(劇団かんき船、以下、か)。うっ、覚えているんだけど、非常にノーマルだったので、他の個性的なキャラに埋もれてしまった・・・
アンドロイドの弁護人、オークションでは何だったかな。このあたりはぐちゃぐちゃになってしまっている。D/speCさん(さ)。雰囲気のある人で、落ち着きの中にくすりとした笑いを。
母親の印象が強いか。オークションでのキャラがこの方もぐちゃぐちゃに。水田篤志さん(か)。去年も確か、女性キャラやってる。お得意なんだろうな。こういった出オチキャラが。
プリキュアになりたい人だったかな、吉田さん(ち)。まあ、普通に可愛らしい方でした。ちょっと痛々しかったけど。
アナウンサーとか裁判長、埴岡弘輝さん(ち)。こんな飄々とした笑いをとる人だったかな。何となくぎごちない雰囲気が、面白さを増長させている。
父親とこの方もオークションの誰か、斉藤滋さん(さ)。暑苦しい感じで、グイグイくるキャラ。この方も雰囲気のある方。
スーツの男、みんみんさん(さ)。一番かな。空気の作り方が。話の展開の案内人のような役割で、流暢な喋りと独特の雰囲気で、アウターゾーンみたいな感じを醸す。

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