さよならノーチラス号【大阪大学 劇団六風館】130907
2013年09月07日 芸術創造館
この劇団に綺麗にはまっているような作品だったかな。
人の心を伝えるという点では、卓越した魅力を発揮する劇団だと思っているので。
一人の少年の視点を通して、ある夏休みに起こった事件での大人たちの言動から、自由に生きるということがどういうことなのかを見詰めていく。
実際に経験することで得られた自由への想いは、これまで本を読むことだけで感じていたものとはかけ離れていた。
でも、その本の中で描かれた自由というものの受け止め方も変わり、少年はその夏、少し成長する。
そんな大切な思い出を、爽やかに温かく描いたような作品。
明日への想いが膨らみ、少し幸せに、元気になるような話だった。
あらすじは省略。
さすがはキャラメルボックスの名作だけあって、ネットで調べたら、詳し過ぎるぐらいに書かれたブログがたくさん。
今回の観劇は、そんな幾つかのブログを事前に拝読して、あらすじをある程度把握し、登場人物のイメージを膨らませて劇場に足を運んでいます。
この劇団の役者さんは、まだお顔とお名前が一致していない方も多いのですが、漠然と役者さんとしての個性的な魅力を自分の中でイメージしており、各役をどなたがされるのかなあと、配役表を自分なりに予想していました。
その結果と共に、少しコメントを。
左が予想、右が実際の配役です。見事なぐらいにハズれていますが。
タケシ: 角野清貴さん → ◎角野清貴さん/×中嶋翠さん
ぴったり当たった。
青年時代を角野さんが演じる。この作品のストーリーテラーであるが、爽やかに、自分の体験談を、本当にあの頃を甦らせるように語られる。心情表現の豊かさというのだろうか。人を惹き付ける大きな魅力に溢れている。
少年時代を演じるのが中嶋さん。いじらしい。拳をぎゅっと握って、その小さい体、幼き心に降りかかってくることに耐える。幼いから、色々なことが不自由だ。自由を夢見るのは当然。でも、自由って自分の好きなことを勝手気ままに出来ることではない。少年がこの夏、色々な人と出会い、その人たちが抱えるものを感じ取って成長した物語なのだろう。
私がネットで調べた公演では、一人で全てを演じていたみたいですが、この二人に分けるのはいいですね。大人になったタケシと少年時代のタケシを対面させるシーンが出来ますものね。見つめ合う二人の姿を見ると、何か心が温かく締め付けられたような感じになります。
真弓: 唐澤彩子さん → ×浦長瀬舞さん
雑誌編集者ということで、厳しく凛としたイメージならと唐澤さん予想でしたが違いました。そう、確かに実際にされた佐知子の方がはまります。
浦長瀬さんのきつくも茶目っ気ある言動とのタケシの掛け合いがとても微笑ましく、この作品の雰囲気を作っているようでした。作品全体のテンポの良さも、この二人のコンビが源となっているのでしょう。
勇也: 東洋さん → ×サトユウスケさん
不器用な優しさを持つ役っぽかったので、この予想でしたが、ワイルドで奥に秘めた熱き想いを持たせるなら、サトさんの魅力がうまく活かされますね。武骨な中でも、ちょっとボケたところもあり、憎めないいい男キャラになっていました。
サブリナ: 中嶋翠さん → ×橋本裕美さん
ちっこいイメージだったからなあ。
橋本さん、この方、犬じゃん。その可愛らしい仕草にすっかり魅了されました。目の動きとか、表情変化とかもとても愛らしい。大半は犬の演技で、大事なところで、芯がしっかりした力強い言葉を発せられます。そんな姿は、誰にでも必ず近くにいてくれる厳しくも優しさを持った神様みたいなイメージでしょうか。
芳樹: サトユウスケさん → ×砂押健太さん
悪い人なのだけど、その悪さに葛藤して苦しむような印象を受けた役。葛藤する苦しみと言えば、何でか分かりませんが、私の中ではサトさんなんだよな。たぶん、過去に拝見した役が頭にはまっているのでしょう。と言っても、砂押さんはアンダー・ザ・ローズでとても印象に残っている人。その絶対的に揺るがない至上主義的な感情表現は、タケシの兄のイメージだったのでそちらで予想しただけ。
大人は醜い。でも、そうじゃないと生きていけないこともある。何かに縛られることは不自由だが、それでも、そうして生きていかなくてはいけないんだ。と、そんな、この役の苦しみを発せられるオーラから感じさせる見事な演技でした。
理沙: 足立 瞳さん → ×村田千晶さん
しっかりした奥さんのイメージだったので。
村田さんはほわ~っとした頼りなさそうな雰囲気を出しながら、心の中ではまっすぐな揺れない強さを持っている芯を感じさせます。
治男: 大野皓太朗さん → ◎大野皓太朗さん
当たった。いい加減で、お調子者で、ちょっと面白い、頼りないお父さん。この方だよねえ。役にはまっていて面白かった。
佐知子: 浦長瀬舞さん → ×唐澤彩子さん
無職の夫。子供とも離れて暮らさざるを得ないような状況になり、看護士として懸命に働くという、その薄幸さのイメージから予想したのだが。
逆にこんなずいぶんと不幸な状況に陥っても、笑い飛ばして気楽に生きましょう、何とかなりますよ、みたいな少し天然のおおらかさが出ているキャラであり、不要な不幸さを作品中に醸さない。焦点を、あの夏の素晴らしき思い出に絞らすのに重要な役どころなのかな。話は、けっこう大人のドロドロだから、背景まで不幸だとこの作品のどこか爽やかな雰囲気は消えてしまうかもしれない。
博: 砂押健太さん → ×東洋さん
優秀でタケシに厳しい兄。自分が絶対で、人の誤りを許さない。そんなイメージが砂押さんを予想させた。東さんが、そんなあまりイメージになかった嫌味な兄を演じるのだが、どこか無理しているところが出ているのが良かったかな。実は少し幼く、タケシと一緒にバカをしたいみたいなところがあって、最後の方で人を騙して金を奪うなんて計画にはちょっとワクワクしてテンション上がってしまっているような可愛らしいところが出ている。
恵利子: 橋本裕美さん → ×足立瞳さん
康太郎: ぐちをさん → ◎ぐちをさん
美香: 村田千晶さん → ×佐野萌さん
?同級生: 佐野萌さん → 人数合わないので同級生がもう一人いたりするのかと思ったけどタケシを二人で演じられていました。
この役どころまでイメージさせるようなブログは残念ながら無かったので、漠然とした印象だけで予想。
恵理子が少し気がきつくてしっかり者、康太郎がお調子者、美香が心優しき少女って勝手なイメージ。
実際は足立さんの少し落ち着いた雰囲気のあるしっかり者の恵理子、ぐちをさんのちょっと自虐的にかわいそうな感じのある真面目な康太郎、佐野さんの前向きで明るく元気な美香って感じだったかな。
ずっと、欲しかったけど家が大変なので買って欲しいと言えず、いつの日か乗らないと決めた自転車。
タケシの小さな心にはそんな我慢するつらさ、現状の親と一緒に暮らせない不幸、不自由さが、もう限界を超えて溢れてしまい、自転車に乗れば何もかも取り戻せると思ったのだろうか。
ネモ船長が自由の世界だと語ったノーチラス号のように。
でも、実際はそんなことで自由は手に入るものでは無かった。
憧れた自由なノーチラス号の中には、自分と同じような悲しみが、いやもっと大きな悲しみが詰まったところだった。
タケシは、そんなことに、ある夏休みの一時に出会った大人たちとの交流を通じて気付き、自由ということを理解したといったところだろうか。
作品中には多くの嘘が散在する。
人が嘘をつくのは、色々とあるのだろうが、自分を信じてくれる人を求める時なんてこともあるのかな。
何となく、この作品の登場人物を見ていると、嘘をつくことで、何か救いを求めているように感じる。
不幸や不自由が襲ってきた時に、一緒に闘ってくれる人がいることを確認するかのように。
サブリナはそんな人の弱さを感じ取り、心の言葉を投げかけてくれるような、やっぱり神様みたいな印象を受ける。
作品名はどういう意味だろうか。
さよならしていない。
タケシはあの夏に作ったブリキのノーチラス号を今でもまだ持っているし、勇也がずっと持っていた自転車も、このノーチラス号と同じような物なのではないだろうか。
本の中のようなネモ船長の悲しみの詰まったノーチラス号とはお別れして、自分だけの大切なノーチラス号を手に入れたということかな。
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