BUMP!【ステージタイガー】130906
2013年09月06日 道頓堀ZAZA
時事問題に鋭く切り込みながら、プロレスを通じて、人の強さとは何かを突き詰める作品。
多分、言葉では意味が分からないだろう。
観に行けばいい。
生でしか伝わらない熱い魂があるから。
<以下、ネタバレしますので公演終了まで白字にします。公演は日曜日まで>
自分が9歳の時に亡くなった父親。急性白血病だった。
久しぶりに戻った実家。父の部屋を整理するために。
そこで見つけた一冊の雑誌。日本アイソトープ協会の学会誌。
難しいけど、今、重大な問題となっている放射能と関係する言葉が散在する。そこに見つけた自分の父の名前。これは父が行った研究の成果を発表した論文だ。
物語は、アルバムから、そんな父を振り返りながら語られる。
野毛ノ峠。
ウラン鉱山で働く家族たちが暮らす小さな集落。
娯楽が少ないのか、みんなプロレスが大好き。
野毛ノ高校では、そんなプロレス愛好会があって、生徒たちは日々、鍛錬に励む。
ウラン鉱山の地主の息子である後藤は、とにかく強い。チャンピオンで誰もかなわない。
新米教師の北斗は、そんな後藤の幼馴染。今は生徒と先生の関係だが、将来は結婚するつもりだ。北斗は市長の娘なので、地元の名家同士のお似合いカップルというわけだ。
もう一人の男性教師、小鉄は、かなり北斗に惚れ込んでいるみたいだが、全く相手にされない。デリカシーが無くお調子者って感じなので当然か。地元を愛する気持ちは誰にも負けず、ウランが命。勉強なんてどうでもいい。いいウラン鉱夫になることを生徒たちに強制する。
委員長のハセは運送業者の息子。跡をついで、経営を学ぼうと将来設計がしっかりしている。
他の生徒たちは、親がだいたい鉱夫として働いている。要は後藤家の使用人というわけだ。
ホークと呼ばれるNo.2の地位にいる者は、少々、血の気が多い。兄弟も多く、自分も鉱夫として働き、家計を助けながらの学校生活。
メガネブスなんて呼ばれているアニマルは、女性ながらなかなかの実力の持ち主。後藤にもライバル意識を剥き出しにする。
実況に巧みなセンスを持つ馬乃介。喘息なのか、体が弱い。鼻血が出たりもして、悪い病気のようだ。そう、例えば癌のような。
そして、知的障害があるカンジ。彼の母親は鉱夫として働いていた。馬乃介と同じように咳こみ、鼻血を出しながら。後藤、北斗と幼馴染。強い後藤に憧れ、後藤もそんなカンジにはいつも優しい。幼き頃にいじめられて、泣きながら倒れるカンジに、倒れていいのは2秒まで。毎日スクワット200回。強くなれと変わらぬ友情で励まし続ける。カンジもそれをずっと守り続けている。
そんな、みんな仲良く、ずいぶんと楽しそうな学校に東京からの転校生、前田がやって来る。
彼の父親は、放射能の権威的な研究者。
このウラン鉱山の危険性を調査しにやって来た。
これにより、町のバランスが歪み始める。
地主と使用人の関係。市長の立場。教職者としての言動。
生活するためにウラン鉱山が必要な者、情報を研究者に売ることで当面の金を得る者・・・
後藤は、プロレスの修行をするべく、東京に出て、いつの日か国技館デビューの夢を持っていたが、こんな騒ぎの中で、東京でウランの勉強をする決意する。
彼には分かっていた。幼馴染のカンジが知的障害なのも、同級生の馬乃介が癌なのも、全部、自分の家のウラン鉱山が原因であることを。
しかし、彼の決意は、多くの人たちから町への裏切りだと捉えられる。
ウラン鉱山の否定は、そのまま町民たちの生活を経済的に脅かし、町の崩壊につながってしまうから。
町民から狙われる後藤を、委員長は運送業者の東京行きのトラックに潜り込ませ、町から脱出させる。
急なことだったので、北斗とは会えなかった。必ず、戻って来る。そして、結婚しよう。そんな言葉をカンジに託して。
15年後。
ウラン鉱山は、あの時の騒ぎであっさりと閉鎖になった。
多くの失業者を出すことになったが、委員長が新しく起こした事業で、町民の生活基盤は守られている。
ホークとアニマルは委員長の下で働く。二人は結婚したみたいで、アニマルのお腹には新しい生命が宿っている。
カンジもそこで働いている。あれから、ずっと鍛練を続けているので、今ではすっかり頑強な男に。プロレス同好会は今でも続いており、昔はリングにすらあがらせてもらえない弱さだったのに、今ではすっかりチャンピオンの座を射止めているようだ。委員長のハイテンション娘にもすっかり気に入られてしまっている。
そして、北斗は今、そんなカンジに毎日、お弁当を作っている。
二人の間には色々とあったみたいだ。
馬乃介はやはり助かることは無かった。ショックで家に閉じこもる北斗を、毎日励まし続けたのがカンジだったみたい。後藤のことは、もう薄れた記憶になってしまっているようだ。あの時、託された言葉をカンジは北斗に言っていない。
ウラン鉱山閉鎖後、新たな町の再生に成功しているかのようだが、大きな問題を抱えている。
ウラン採掘の残土。
これがある限り、この町は危険だと言われ続ける。
委員長の娘は隣町の学校に行っているが、そこで、そのことが原因でいじめられているみたいだ。といって、親はこの町の学校に通わせることはしない。その理由も同じことが原因である。
小鉄先生は、今では議員になっている。あれだけウラン命だったのに、今では危険なウラン残土を撤去する活動を起こしている。
活動は町民たちを巻き込み、本格化している。
東京から放射能の専門家も招へいして、撤去の必要性について講演をしてもらう予定だ。そう、その専門家は前田。みんなとは久しぶりの再会。ホークとアニマルの結婚式以来か。
そんな中、一人の男が帰ってきた。
後藤。
ウラン残土は危険ではありません。撤去の必要性はありません。
あの時、東京に向かった決意はどこへ行ったのか。今では本当の町の裏切り者となって戻ってくる。
こんな活動で、撤去が認められたら、全国の反対活動がさらに活発化してしまう。
危険なものは、その場所に封じ込めておけばいい。大きな国の力をバックにして、周囲の人たちの不安を煽りながら、反対活動を封じ込めようとする。
いつの間にか、敵対する関係になってしまったかつての幼馴染であるカンジ、北斗、後藤。そして、学生生活を共に過ごした同級生や先生。
それぞれの立場での、闘いが始まる・・・
自分の父親のことを回想しながら、この長きに渡る町の歴史を振り返る。
作品中には、生きていく中で、様々な立場になって揺らぎながら、その時の立場で正しいと考える行動を起こす人たちがたくさん出てくる。もしかしたら、正しいと思っていなくても、行動している場合があるかもしれないが。
立場はなぜ、こんなに変わってしまうのだろうか。攻撃される側だった人が、いつの間にか攻撃する側の人になってしまっているようである。
多分、何か打撃を受けて倒れてしまうからだろう。これ以上、打撃を受けたら、もう立ち上がれなくなる。もう、自分を守れないから、耐え切れないから、攻撃に転じてしまっているかのように見える。
例えば、後藤は、自分のウラン鉱山という宿命を全て受け止めて、東京に行く覚悟をした。たくさんのこれから与えられるであろう試練を乗り越える覚悟だったはずである。プロレス愛好会でチャンピオンだったので、そんな強さが自分にはあるという自信もあったのではないだろうか。でも、現実は、東京で受ける厳しい試練に耐えきれなくなる。そして、行き着いた先は、逆の立場になって、攻撃することで身を守るということになっているように思う。
小鉄やホークなども、同じように感じる。
攻守交代。一見、当たり前のことで、決して誤ってはいないことだとは思うが、プロレスをイメージすると少し異にするところがあるように感じる。
プロレスをそんなに深く考えたことが無いけど、プロレスの攻守交代は全ての攻撃を全部受け止めて、それでも倒れずにいた者が立場を変えて攻撃に転じる印象がある。受け止められなくなった、耐えれなくなったからと言って、攻撃したりはきっとしていないはずである。それだとシナリオが狂う。
この作品で、そんなプロレス精神を唯一、貫いたのがカンジなのだろうか。
それこそ、生まれた時から背負った試練を全て受け止めている。時と共に大きくなる試練に対応できるように、彼は自らを厳しく鍛練もし続けている。この男の強さだろう。
勝ち負けがたとえ決まっていようとも、真剣に降りかかる試練を受け止める。
そんな人生を貫いた父の姿を知った男は、これからどう生きていくのだろうか。
降りかかる試練。すぐに逃げてしまったり、立場を巧妙に変えて誤魔化したりもきっと出来る。
でも、プロレスはロマンだと言い続け、その精神を魂に宿らせた父の姿を見れば、カウント2までは倒れたっていいんだから、がっつり受け止めていくのだろう。そして、より大きな試練を受け止められるように強靭な精神と肉体を鍛え上げていくに違いない。
つまりは、この作品は、この劇団のメタファーってことなのかな。
書いていて思ったが、演劇もプロレスみたいなものなのかもしれない。
シナリオは決まっていて、エンディングも決まっている。
だからと言って、プロレスラーが力を抜いた攻撃をすることは恐らく無く、自分の鍛えた肉体から発せられる最大の力技を観客に見せつけて感動させようとしているはずである。
この力技が、演劇では演技という形になっているだけの違いかもしれない。
ただ、この劇団は力技と演技の区別がつきにくくなっているような気もするが・・・
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コメント
いつもご来場ありがとうございます!
今回、事情で出演はおろか、受付や物販などでも参加することが叶わず、お会いできなかったのがとても残念です。
また舞台にてお目にかかれるよう、精進しますのでよろしくお願いします!
投稿: 今村こころ | 2013年9月12日 (木) 02時11分
>今村こころさん
コメントありがとうございます。
ご無沙汰しております。
お魚たちの世話が忙しいのかな(゚▽゚*)
スタッフとしてどこかにいらっしゃるのかなと思ってキョロキョロしていましたが、今回は完全にお休みだったのですね。
しっかり熱を溜めて、また舞台に戻って来てください。
今回、拝見して、皆さん、一段とパワーアップされているみたいでしたから、相当、気合いれないとね。
また、お会いできるのを楽しみにしております。
投稿: SAISEI | 2013年9月12日 (木) 12時03分