Mugen ~無限、夢現、夢幻、無間・・・テンがない【浪花グランドロマン】130919
2013年09月19日 大阪城公園 太陽の広場内特設銀色テント
ワクワクする仕掛け。
テント公演の楽しみを満喫する。
今回も、話としては壮大で、ただ、観ているだけではなかなか細かなところまでは分からないところも多いのだが、総じてコミカルさが前面に押し出された楽しい雰囲気の中で、話は進んでいる。
月光夜想曲と似た感じか。
(http://ksaisei.cocolog-nifty.com/blog/2012/09/120918-5ba9.html)
神々によって、原罪を背負う人を生み出し、世界を創り出した創世記ならぬ、人間の手によって、新たに自らの世界を創り直そうとする人たちの新・創世記のような物語か。
そこには、神に逆らって、自分たち人間がといった考えではなく、多くの過ちを繰り返し、傷つけてしまった自分たちの世界を見つめ直し、世界の未来を見据えた強い意志の下での、創生が感じられる。
また、日本の八百万の神の精神のように、天空、大地、海原といった自然そのものとの融合により、自分たち人間もその中で共生していければといった想いも残る。
そんな感覚を、一人の悩める男が大切なことに気付き始め、心を開き、未来を見つめるようになるまでの姿と共に体感していくような作品。
<以下、ネタバレしますので、公演終了まで白字にします。公演は日曜日まで>
祖という国。
昔は、草原広がる美しい大地を持つ国だった。しかし、友好的だった海を支配する国からやって来た男の裏切りにより、大軍が攻め込んでくる。
女王の持つ火の力で、その大軍を退けるが、それ以来、人を寄せ付けない炎に包まれた火の国となっている。
女王、その跡を継ぐ娘、有能な三人の側近が国を治める。そして、ハヤブサと呼ばれる天空からやって来た姫だと名乗る子も。
側近の中の一人の女性は、海の国との戦いの原因となった者。恋愛関係にあった男の裏切りから、国が戦いに巻き込まれ、多くの犠牲者を出したことを悔やみながら、その命を国王に捧げている。
そんな国に、ヤマトと名乗る男がやって来る。
彼はアマテラスの子孫であるが、神の手に委ねられることなく、人の手で平和な争いの無き世界を創り出そうとしている。
そのために、全てを支配する必要があるという考え。
既に隣国の国王を得意の女性姿の変身で色仕掛けにより暗殺している。
この祖の国においても、同じパターンを想定していたが、国王が女王では、そうもいかない。
かつての傷を掘り返すような形になるが、側近の女性に近づき、国を手中に収めるチャンスをうかがう。
その中でハヤブサという天空から来たという娘に興味を惹かれ、大地の世界に住む自分と天空の世界を結びつけられればと、契りを結ぶ。
祖の国を狙うヤマト。
そんなヤマトに心を惹かれる側近、そして、いつの日か自分も心を惹かれ始めていることに気付く女王の娘。
ヤマトの間に子を宿した天空の姫、ハヤブサ。
ヤマトの意志とは無関係に、祖の国を手に入れることに汚い手法で加担するアマテラス。
各々の思惑が絡みながら、祖の国の女王はその命を奪われる。
残された者たちは、この世界の未来を想い・・・
ざっくり、こんな話。
ただ、この話は、ちょっとスランプで悩んでいる劇作家が、頭を振り絞って書いている作品という、メタフィクション構造になっているようです。
劇作家は、過去に劇団で逃げるような行動をして、人を傷つけてしまっており、その悔いを心に大きく残しているようです。その時に、自分の中の心の悪魔のようなものが見えて、そのささやきに惑わされてしまったのだとか。
信頼からの裏切りによって、炎に包まれて人を寄せ付けない祖の国の今の状態は、この男の心の姿なのでしょうか。
そして、そんな自分を何とか変えたいという気持ちがヤマトという男を生み出したように映ります。ただ。このヤマトは破壊的で、過去に惑わされた神なのか悪魔なのかを全て否定した存在として生まれてしまっています。自分を救うというよりかは、もう自分なんか壊れてしまえばいい。その決着をヤマトに委ねているような感じです。
でも、男の心は、ある出来事から急に揺れ動きます。妻が妊娠したのです。
作品の世界でヤマトたちをアマテラスは惑わすように、この現実世界にもアマテラスは現れて、劇作家を追い詰めます。その子の未来は無い。生まれる前にその命を奪ってしまえと。
自虐的な念に憑りつかれてしまっている劇作家はその言葉に惑わされそうになりますが、自分を信頼し、これまでも、これからもずっと傍にいてくれるのであろう、妻の厳しくも覚悟のある優しい言葉が、劇作家の心を変えます。
未来のために。自分の手で、新しく生まれる命、そして想い合える家族、仲間たちとと共に自分の未来を切り開く。そんな男の決心が、作品の世界に、同じようにハヤブサに宿った新しい命と共に、壮大な世界再生の道へのラストを導き出しているようです。
劇作家の心の揺れ動きを、はるか古代なのか、はたまた、はるか未来なのかは分かりませんが、これまでの争いによって傷ついた世界から脱却して、新たな世界を自分たちの手でもう一度創ろうとする物語に連動させているのだと思います。
一人の男の精神的な解放を、こんな壮大な創世の世界へと落とし込んでしまうという面白い設定ですね。
さすがは、演劇だなあと感じます。
話は、とてもコミカルに進みます。
苦しい悔いの心や、覚悟のある真剣な想いを持つ者たちが、数々登場するのですが、何か気の抜けたようなキャラも紛れ込んでおり、その調和が、どこか気を緩めながらあまり深刻にならずに楽しく観れることに繋がっているようです。
それなりに複雑な話の設定、神々の世界を扱っているので、説明セリフ的な部分も多い作品形態は、前作の月光夜想曲では、いくらテント公演らしいエンタメ要素があっても少々2時間の上演時間が長いと感じたのですが、今回はすっきりと観れたような気がします。
殺陣シーンは少な目、様々な仕掛けは去年同様、趣向を凝らしたもの、どちらかというと会話重視のこの作品で、そのように感じられたのは、壮大な話をベースにしながらも、キャラの微妙なバランスが綺麗に調和しているのでしょう。
ハヤブサ、細原愛美さん。天真爛漫な可愛らしき幼き少女、天空の姫。あるシーン以後、女性を感じさせる姿に変化する。そして、最後には子を宿す母のような強さを見せる女性に。この微妙な変化に役者さんって凄いよなあって驚愕する。
祖の国の女王、つげともこさん。この方は、前も王様じゃなかったかな。貫禄があると同時に、ものすごく親しみやすい国を温かく守るといった雰囲気を出されます。
その娘、中谷仁美さん。洗練とした美しさの中に弱さを同居させるようなキャラか。一人の男を愛することにもブレがあり、まだ、次期女王として、国を治めるという大きな強さが無い。その中で、今の自分が出来ることから始めていくという覚悟でラストを飾る。
側近、古川智子さん(劇団大阪新撰組)、昇竜之助さん(魚クラブ)、めりさん。古川さんがヤマトに惑わされて女を見せてしまうキャラで面白い。調子に乗った浮かれ姿で笑いを取りながら、かたや、過去の悔いを背負いながら、国を真剣に見つめる姿を見せる。劇作家が傷つけてしまった人が、このように強く生きてくれていればいいという願いが生み出したキャラだろうか。昇さんはいつもながら、影があるかっこよさ。少し、三枚目になって緩める印象も強かったのだが、今回はずっとブレない強さを抱えている。めりさんも同じく、堅苦しいくらいに、国のことを想う強さを持つ。お二人は共通して揺るがない、惑わされない強さを持っており、劇作家にとっては、自分に無い憧れの姿なのだろうか。
ヤマト、関角直子さん。自分の考えを貫く信念か。その表情は壮大なスケールでの想いを持った人が魅せるような大きいものである。劇作家の試行錯誤と連動しているような感じで、葛藤の連続。信念とそれを脅かすことへのぶつかりからの激しい表情が印象的。
ヤマトにくっついている男、出本雅博さん(Amusement Theater劇鱗)。一番、目を惹いたかな。とにかく忙しいキャラ。せわしく動きまくっている。お調子者で、自分自身の大きな信念は感じさせないが、何かを考えてヤマトにくっついているみたい。世界への願いはきっと深く大きいのだろう。ヤマト亡き後も、自分が出来ることを未来に託すといった行動を起こしていることからも、そんな気がする。
劇作家、舵竜也さん(妄想プロデュース)。その妻、あまのあきこさん(妄想プロデュース)。
ごく普通の夫婦。この普通の日常感覚が、作品の世界をどこか遠いのだけど、傍にあるような物語だと認識させているようだ。舵さんは頼りなく自虐的なところから、男、いや父親になったのだろうか。守るべきものを見出し、自分が国を治めないといけない人間であることを理解したのか。妻のあまのさんは、厳しくもとても優しい雰囲気。夫への揺らがない信頼が男の心を変えさせたのだろう。
アマテラス、東風ふみさん。その手下、本多信男さん(カラ/フル)。
とんでもない神なのだが。東風さんの飄々とした天然感溢れるアマテラスは、神の威厳を無くしている。そして、その下でねちっこく悪巧みばかりする本多さん。これは神の復讐なのだろうか。かつては捧げ奉り、崇めた神を、いつの間にか忘れ、自分たちの欲望を満たすことに時間を費やす人間たち。自分たちが宿る自然を見詰め、新しい世界を創らないといけないという警鐘なのだろうか。
途中、ちょっとだけ芸をされる人、野村しょーけんさん。この劇団のテント公演は3回目なので、この方を拝見するのも3回目かあ。最初は何なんだと思ったけどね。いつの間にやら、いつ登場するのか待つなんて状態になってしまいました。今年も残暑厳しい中、秋の訪れを感じさせる肌寒さを与えてくれました。
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