8ビットの日々 マイコンからファミコンの頃/セガからプレステの頃【シアターシンクタンク万化】130915
2013年09月15日 インディペンデントシアター1st
「マイコンからファミコンの頃」と「セガからプレステの頃」という二作品に分かれている。
二本立てだが、これは、順番通りにどっちも観ないとダメなんじゃないだろうか。二幕の作品といった印象である。
運よく、両作品観れてよかった。
家庭用ゲーム機に焦点を当てながら、時代を振り返っていくような作品。
あの頃、当たり前だったものが消えたり、あの頃はまさかと思っていたものが、今では普通だったり。
栄枯盛衰。
時は流れ、時代は移ろい変わりゆく。
当然、人もそんな時代の中で様々に変化しながら生きていく。
色々な物を手に入れ、失い、そしてその行き着く先は。
今、生きている自分を振り返り、この先を見詰めさせてくれるような作品。
二本立て。30分の休憩を挟んで約3時間半。
感情移入したなあ。登場人物たちと一緒になって楽しめた。
濃密な素敵な時間をくれた、素晴らしい作品だった。
<以下、ネタバレしますので、公演終了まで白字にします。公演は本日、月曜日まで。満員みたいだけど、何とかなるなら、是非、いい時間を過ごしに足を運んでもらいたい公演です>
「マイコンからファミコンの頃」
乾物屋、万化堂。
資金繰りに苦しみながらも、必死に店を切り盛りして、さらには、将来を見据えて、新しい製品開発も眼中に置いた大旦那。新製品開発にはちょっとセンスが無いみたいだが、ひたすら頭を下げて、店を守り続けている。
そんな大旦那を敬うかのように、丁稚も実直に働き、この店を愛しているみたいだ。
今日も取引先の銀行の銀行員に必死に頭を下げて、融資をお願いしている。
ずっとお世話になっている大旦那とはいえ、まだ地位の無い銀行員は権限があるはずもなく、ほとほと困った様子。
大旦那の娘と結婚した若旦那。
まだまだ、頼りなく、行き詰まったら、座り込んで苦笑いをして、自分の殻に閉じこもる。
そんな頼りない亭主を、しっかり支えている、よく出来た妻。
話は、そんな若旦那が、妻から誕生日プレゼントを買ってもらったところから始まる。
時は、ゲームセンターでテーブルゲームが流行り、巨大なコンピューターが様々な業務に利用されるようになった頃。
家庭には、マイクロコンピューター、通称マイコンという、まだまだ高価だが、自分でプログラムをすることにより、音楽を作ったり、計算したり、そして業務用テーブルゲームには全くかなわないがゲームが出来たりするものが売り出された頃。
若旦那はそのマイコンを手に入れる。
自分でプログラムを作る才能は無い。簡単なゲームやちょっと音を出したりするぐらいしか出来ない。
でも、雑誌にはとてもスマートで天才的なゲームプログラムを作る人もいる。
若旦那はそんな人に、一度会いたいと手紙を出す。
出会った二人。
二人は、これからはゲームの時代だと確信し、マイコンで作ったゲームを販売する会社を設立する。
もちろん、自分のことをいつも支えてくれる妻も協力をしてくれることに。
万化堂の有能な経理、出入りする銀行員の伝手でゲーム業界をかじったことがある営業、経営のノウハウを知る大旦那も助けてくれることに。
売れ行きはまずまず。少なくとも本業の乾物屋よりは利益があがっている。
やがて、ファミコンが登場し、これまでのマイコンでのしょぼいゲームではなく、もっと本格的なゲームソフトのニーズが求められる時代に。
若旦那たちは、果敢にそれに挑戦をすることに。
さらに仲間は増え、引き抜いた有能なプログラマーには開発の補佐を、経理の女子力の乏しい娘には細々した雑用を、その友達の腐女子にはキャラ作りを担当してもらう。
ついに出来上がったファミコン用ソフト。
でも、重大なバグが見つかる。
販売日を遅らせる。いや、そんなことは出来ない。とりあえず、販売してしまうべきだ。
各々の立場で、様々な意見が飛び交う中、若旦那はこの会社の信念を貫き、きちんとした物を販売することを目指す。大旦那や営業は、各方面に頭を下げまくり。他の者も連日の徹夜に。
そんなこんなでようやく販売を迎えたソフト。
売れ行きは・・・
いまひとつ。
そんなに人生甘くない。
でも、諦めないぞ。次で勝負だ。
みんなが一丸になって頑張ろうと夢溢れる楽しい時間。
「セガからプレステの頃」
世はバブル景気。
大旦那が銀行員に対して、額を床に擦り付けて融資をお願いする姿はよく見られていたが、今はすっかり逆転。
若旦那に銀行員が、どうか融資をさせてくれなんて言っている。銀行員も偉くなって、自分で融資枠を持てるようになったみたい。
会社はあれから、諦めずに続け、それなりの成果が出たようである。
みんなも特に変わっていないが、会社が大きくなったので、肩書がついたみたいだ。
姉御肌の経理部長は、そんな名前がくすぐったいみたいで、そんな肩書では自分のことを呼ばせない。
社長はもちろん、若旦那。妻は専務。一緒にやって来た男は開発部長に。
営業部長と大旦那は、すっかり調子に乗っているみたいだが。
そして、初々しい、少し変わった新入社員も。
世は家庭用ゲーム機の戦国時代。
あらゆる会社が、特徴的なゲーム機を開発して、魅力的なソフトを囲い込もうと必死。
この会社も、新しいこれまでにないソフトの開発を目指している。
でも、その納期は厳しい。
これまでどおりのやり方では無理だ。
妥協も必要となってくる。
例えば、プログラムを下請けに出したり、ゲームの設定規模を小さくしたり。
プライドのある開発部長は、そんな提案にいい顔をしないが、会社のために引くところは引く。
ただ、自分のプログラムは絶対。いくら下請けに出そうと、自分が全て最終チェックをすると。
これは、この会社を三人でやろうと決めた時に、条件として約束したことだ。
もちろん、社長は分かったと返事をする。
会社にとっては大変な時だが、プライベートでは嬉しいことも。
若旦那と妻の間に子供が授かる。
そして、開発部長と経理部長の娘はお付き合いを。と言うか、結婚。開発部長が仕事一筋で鈍感なので、なかなか話が進まないみたいだが。
開発競争は熾烈だ。
このままでは納期に間に合わない。下請けにもだいぶ無理をさせている。
もうすぐ、子供も生まれる。社員の生活も守らなければいけない。
そんな焦りからか、社長は開発部長との約束を破る。
下請けから上がってきたプログラムを自分で出来る範囲は、開発部長の目を通さずに勝手にチェックして、開発を進めてしまう。
それが判明し、開発部長は会社を去る。
会社を守るため、自分たちのポリシーを貫くため。そんな、共に間違ってはいないけど、生まれてしまった確執のために、あれだけ一緒に苦労を共にして頑張ってきた仲間の間についに亀裂が走る。
それから、数年。
会社は色々な苦難を乗り越え、さらに大きな会社となる。
今では、海外に支店もあるくらいに。
でも、以前のように楽しそうな雰囲気は無くなっている。
社長と妻の間も。
生まれた子供は、仕事が忙しかった社長の不注意だったのか、交通事故で亡くしたみたい。
家庭用ゲーム機の戦国時代はそろそろ終わりを告げようとしている。
ソフト会社にとって、契約するゲーム機の衰退は致命傷。
この会社も、何回も煮え湯を飲まされてきた。
経営が厳しいためか、社長は新規のゲーム機に会社の命運を掛けようとしている。
でも、今では役員となった経理や営業の人間はそれに反対だ。
かつてからの取引先の銀行員も、社長の考えには同意できないでいる。
そんな中、役員会で、社長解任の緊急動議が発言される。
専務から。つまりは社長の妻から。
結果は賛成多数で社長解任。これまで、共にやって来た経理も営業も、会社を存続させるために賛成に回った。
いつの日か、また去った開発部長も戻ってきて、みんなで会社をやれたらと思っていた者たちは、反意を示すが、その権限は無い。
解任の上に、専務から離婚届も渡される社長。
あの頃、こんな時が来ると誰が思ったか。
どこで道がおかしくなったのだろうか。開発部長が去った時なのだろうか。
最後は、大旦那と社長、いや元社長の男同士の語りで締められる。
まだ、若い。
そんな顔をするな。
まだ、まだ・・・
あの頃のように、うつむき、座り込んで、苦笑いをする社長に大旦那はそう声をかける。
大旦那は娘から預かっていた封筒を手渡す。
現金書留。そう、会社を設立して、売れるのは一緒に会社を起こした男のゲームばかりで、自分のプログラムしたゲームは全然売れず、凹んでいた時に、初めて手にした購入者からの支払金。
たったの3千円。
でも、その何にも変えられない価値あるお金が、男をもう一度立ち上がらせ、歩みを取り戻させたようだ。
描かれてるのは、1980年代から1990年代後半ぐらいかな。私が小学生の頃から、大学を出て就職をして社会に出たあたり。
言葉や映像が懐かしい気持ちを誘う。
友達の持っていたマイコンが羨ましくて、一緒にくだらない野球ゲームをやりに、学校帰りに寄り道したり。期末テストで成績が良ければ、ファミコンを買ってあげると言われ、普段から勉強しないで、急にいい点が取れる訳もなく、買ってもらえずワンワン泣いた中学生の頃。結局、父親が買ってくれるのだが。
バブル景気の頃は高校生の時だったか。ゲームで一番よく遊んだ頃。
バブルがはじけた大学生時代。卒業する頃には、もうゲームは卒業していた。まあ、その数年後、失業したりした時に、暇なので、一日中お世話になるなんて時もやって来るのだが。
昭和から平成の激動の時代に身を置いていたなあなんて思うのだが、よくよく考えれば、別にその後だって、揺れ動きながら生きている。いつの時代を生きた人もそうなのだろう。
いいこともあったり、悪いこともあったり。
こうなればいいなんて人生計画を立てても、この作品で言えば、いつの間にかバグみたいなものが見つかり、何度も同じことを上書きたり、パッチを貼ったりと、随分と汚いプログラムで動いてきたように思う。
8ビットなんて言って、今から見れば、まあ何とかっこ悪いしょぼい画像なのだろうと思うけど、その時は、こんな画像が再現できるのかと輝いていた。人生もそんな感じだろうか。
決して消えることの無い、自分が生きていた頃の証。そんなものが、観劇をしながらぼんやりと浮かんでくる。
その感覚は、どこか心苦しいところがあったりするが、とても愛おしく、優しい気持ちを引き起こす。
会社のことを想ってすること、自分のプライドのことを想ってすること、妻のこと、仲間のこと、上司のこと、部下のこと、生活のこと・・・
人生の中で、自分のポジションは色々と変わっていく。相手との相関関係も当然変わっていく。
偉くなれば、会社のことを、社員のことを考えないといけない。結婚すれば、その相手は家族となる。守らなければいけない、生活しなくてはいけない。
作品中の登場人物は、時の動きと共に、自分のその時に置かれた立場で精一杯生きていた。後からこうするべきだったなんてことはいくらでも言える。大切なのは、そんなことではなく、その時、自分がしなければいけないことをきちんとやったのかなのだろう。そうして生きてきた人は、時の流れがどうであろうと、その行き着いた先から、また歩みを進めることが出来るのだろう。
作品中の丁稚はずっと店や大旦那を想って生きている。大した活躍もしないし、どちらかと言うと、あまり能力の無い三枚目としての描かれ方。波乱万丈の生き方だったり、個性的なキャラ付けをされている他の登場人物に比べると平凡な男だ。
ただ、時代が変わってもずっとブレない。
ここが、この作品の中で一番、何かを感じられるところかもしれない。
時代が変わってもずっと生き続けるもの。この作品での、乾物屋、万化堂は、自販機でお茶をすぐに買える時代になっても、今まだしっかりしたお茶葉を売り続ける。
売れるから、まだ作るのだろう。実際の現実でもそんな店は幾らでもある。
人は何を求めて、それを購入するのか。
時に不条理に揺れ動く時代の中で、変わらぬ存在を追い求めようとしているのではないか。
丁稚の変わらぬ店や周囲の人への想いが、いつまでも、客であったり、この店の人たちを繋ぎとめているように思う。
時代の中で様々なものを得て、同時に失いながら、変わりながら生きていく人においても、芯は同じことであり、きっと変わらぬ何かを心に持っている。
それは、この作品のように、いつの間にか隠れてしまっても、昔の客からの支払い金を見て、顔を覗かせることもあるだろうし、何か昔にプレゼントされたちょっとしたものから思い起こさせられるかもしれない。
立ち止まった時に、そんな自分のずっと変わらなかった、そしていつまでも変わらない何かを見つけてみよう。そこに、自分の生きていた証がきちんと刻まれているのではないのか。
そんなことを伝えているような気がして、話の中に込められた人の優しさを深く感じさせられる。
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コメント
ご覧いただき、ありがとうございます。
次がいつになるかは分かりませんが、次回も変わらずに面白い芝居を作るつもりですので、その際にはまた、よろしくお願いします。
投稿: 高橋明文 | 2013年9月18日 (水) 00時49分
>高橋明文さん
コメントありがとうございます。
時間が少したった今になって、また観たくなっています。
撮って出しDVDを購入しておけばよかったです(ノ_-。)
次回も、期待しております。
益々、ご活躍ください。
投稿: SAISEI | 2013年9月18日 (水) 10時29分