春はまだか【しゃかりきマンモス】130914
2013年09月14日 アトリエS-pace
どうしようもない、でも、優しく素敵な男たちが一人の女性の人生を変えた物語でしょうか。
現実的な描き方で、ドラマのように完全なハッピーエンドとはいきませんが、各々の想いが通じ、回り道をしながらも、幸せな未来へ向かって進もうとする人たちの姿が浮き上がるような話でした。
<以下、ネタバレしますので、公演終了まで白字にします。公演は日曜日まで>
大学生、男の三人が暮らす部屋。
部屋の主は、すっかり居ついてしまった怠惰な友達二人の面倒をみて大変だ。
家賃も食費も入れてくれないのだから。
それでも、三人いつも一緒にいるから、つらい時、悲しい時も一人じゃないと思って頑張れるのか。そして、楽しい時間は三倍以上の大きなものになるし。
そんな、男三人のもさくるしい部屋に、突然、SMのデリヘル嬢が現れる。
頼んだ覚えはない。
でも、その傲慢な女は、得意のムチでサービスをしたから金を払うまでは帰らないと居座る。
警察でも呼べばそれで済む話なのだが、女性経験の無いこの男共は、女の楽しませてくれた人にいいことしてあげるみたいな口車に乗ってしまい、この女性に振り回される生活を過ごすことになる。
金を貢ぎ、言いたい放題言われる毎日の中で、この女性が幼き頃に父親の暴力に悩まされ、母親もそれに耐えかねて自殺した。大切な人を失い、そこから逃げた人生を過ごしてきたことを知る。
そして、この部屋を訪ねてきたのも、自分たち三人が仲良く楽しく過ごしている姿に憧れて、自分もそんな仲間の一員になれればと思ったかららしい。
そんな女性を、男たちは自分たちの大切な仲間と認め、自分たちだけの秘密の場所に連れて行く。
そこは、美しい星空が広がる素敵な場所。
女性は男たちと一緒に過ごすことになる。
もう一人じゃない。あんな仕事も辞めた。
これまでとは違う幸せな時間を刻む中で、女性は男たちが通う大学に興味を持ち始める。
母親を失い、父親から逃げて生きるためには、そんな学生生活など程遠い世界で、自分の身を売って生きるしかなかった。
でも、今は大切な仲間と一緒に過ごせている。
どんな努力でもする。ひたすら勉強して、大学生になりたい。
そんな女性の願いを男たちは叶えるべく、勉強が出来る者は家庭教師を、そちらに疎い者は入学金、学費を稼ぐためにバイトに精を出す。
女性の真摯な努力により、本当に大学合格の目処が立ってくる。
しかし、所詮は学生。お金の工面がままならない。
闇金から金を借りたがために、その返済に苦しむことになる。
学生生活を脅かすほどの男たちのバイト生活に女性は疑いの目を向けるが、もちろん、真相を女性に言う訳にはいかない。
もう、女性は自分たちにとって、大切な仲間、家族のような存在なのだから。
色々な問題を抱えながらも、ついにやって来た合格発表の日。
緊張はするが、みんなにとって新しい門出の日となるはずだった。
しかし、闇金の追い込みが迫り、やくざが部屋にやって来る。
その男は、不運にも、女性の人生を狂わせたあの男だった。
かつては奴隷のようだった娘が、自立してしっかりした意志を持つ姿に変わっていることに、怒りを覚える父親。そして、そう娘を変えたと男たちに因縁をつける。
暴れ出すやくざを必死に制止し、女性を逃がそうとする男たち。
しかし、女性が出した結論は・・・
DVという、負のスパイラルなのか、優しくされることを拒絶する女性。自分は人から傷つけられて生きなければいけない存在。だから、それを防ぐために、自分は人を傷つける。そんな考えだろうか。
しかし、男たちの純粋な優しさに触れて、その感情を変化させていく。
かつては進めなかった道が、自分の目に映る様になったのも、この男たちの姿から得たものだろう。
自分は人から優しくされてもいい存在である。男たちはそれを女性に身を持って知らしめる。
それで幸せな道へとハッピーエンドに結びつけばいいのだろうが、この作品は現実的な描き方で話を展開する。
消えない負のスパイラル。それを断ち切るためには、大きな代償を必要とする。
その代償は、男たちに受けさせるわけにはいかない。自分のことだから。
女性は、父親を殺め、その罪を償うことになる。懲役15年。普通ならば、人生を台無しにするのに十分な時間だ。
女性は、自らの全てを犠牲にして、その決着をつける。
そのラストは哀しいものではあるが、女性が男たちの優しさ全てを受け入れたがために、出来た行動だったのかもしれない。
代償の時は長いが、女性が男達との生活によって取り戻した自らの誇りは、同じように傷つき苦しむ人たちに救いを与える力となることを示唆して話は締められている。
総じて男をかっこよく描き過ぎかな。
もちろん、面白くするために、キャラとしてはダメ男を外面に出しているのだが、その対比で内面に秘める優しさが強調して表れている。こうありたいなんて理想もあるのかも。
でも、そんな気持ちは分からないでも無く、誰かを守る、誰かを救うなんて信念が無い男では、男として生まれてきた意味が問われるところだろうとは思う。
二幕構成のようになっており、一幕で男の女への欲情から生まれる薄っぺらい優しさを描いた後で、二幕で女では無く、人として、仲間として、その人を想う真の優しさに綺麗にシフトさせているところはなかなかいいように感じる。
ただ、面白いのはやはり一幕で、二幕は男とはみたいな説教臭いところも浮き上がってしまうので、話としてはもう少しテンポよくしないとだらけるところがあったように感じる。二幕では女性は、完全に女性として扱われておらず、男の本能的な性への欲望を完全に消してしまっている。DVを受けて、悲しみ、つらさを内に秘める人を救う、人への想いという点に集中し過ぎで、もう少し、せっかく男女の設定なのだから、ほのめかされた恋愛要素も感じさせた方が、退屈感は無くなるように思う。
男三人組、生田拓也さん(Forces)、Marticoさん、イルギさん。
絶妙なバランスは、本当に仲良しなのか、とてもいい空気を醸し出す。
生真面目な生田さん、飄々とした天然っぷりのMarticoさん、熱きお調子者のイルギさんみたいな、各々の個性が前面に出たキャラ設定も面白い。
全員、なかなかの外観で、それだけでけっこうかっこよさはあるのだが、この作品では、その点は男の馬鹿さ加減がうまく出るように設定されており、まだ幼く頼りない男像として映し出されるようになっているみたいだった。そんなお馬鹿な中にも、眠る男の真の優しさがかっこよく映って浮き上がるような演出か。
女性、ないとめあさん(劇団カオス)。誰と勘違いしていたのかなあ。チラシを見て、デリヘル嬢が出るはずなのに、全員男の役者さんだなあと思っていたので。チラシのあらすじからはおふざけ作品だと思っていたので、女装した気持ち悪い男が演じて笑いを取るのかと思っており、登場した時、びっくり。この日は、京都で観劇後、走りまくって電車を乗り継ぎ、5分前に劇場に到着。これだけの美人さんが出演されるなら、頑張って観に伺ったかいがあるというのものです。デリヘル嬢のきつさ、一時の幸せな喜び、DVへの怯えなど色々と表情多彩なのですが、最後の安堵とこれからの希望の表情がやはりこの作品に意味合いでもあり、素敵だったかな。
父親、やくざ、金田真さん。その筋の若手を客演として招いたのでしょうか。不条理な暴力的な支配感は適役だなあなんて思っていましたが、カーテンコールでサングラス外したら、人の良さそうな青年でしたね。無理した役作りだったのでしょうか。作品の本筋とはずれるのでしょうが、この役も恐らくは負のスパイラルの犠牲者であり、歪んでいても優しさはあるのだと思うのです。死をもって消し去るのではなく、この潜む優しさを見出し、何かしらの転換点を与えてあげることが、本当の想い合いへと通じる道なのかなあと似たことを描く演劇作品を拝見して、最近、思っています。
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