アルバート、はなして【劇団無理やな東京】130929
2013年09月29日 神戸大学シアター300
今年、1月に彗星マジックが公演した作品。
(http://ksaisei.cocolog-nifty.com/blog/2013/01/130113-4320.html)
感想に書いているように、非常に素晴らしかった作品で、また観れることを楽しみにしながら、そして、本家と比べて出来はどうかななんてちょっと意地悪な気持ちも持ちながら伺う。
歴史的な背景や科学理論が絡んだ複雑なボリュームたっぷりの話を、緩急つけた途切れの無い軽快なテンポで展開しているところは十分、本家に負けず。
対応する個々の役者さんの熱量や個性的な魅力を醸す演技は、匹敵どころか、僅差でこちらが勝ちかと思わすような方も。
全体的に、1月に観た時の感激、感動をもう一度味わえるくらいの素晴らしい仕上がりだと感じる。
宗教や思想が引き起こす歴史的な事実の悲しさやむなしさ、その中で挫折や妥協を繰り返しながら必死に生きる人の強さ、時間や神といった世界の不思議に対する溢れる好奇心、丁寧に紡がれていく素敵な言葉たちなどから、この作品に対して力強さ、そして、切なくも優しい感情を抱きます。これは本家と同じです。
特に言葉を大切に作品を創っている感覚はよく感じられ、この作品の登場人物たちの人生を非常に丁寧に見詰めて描いているのだろうなと強く感じました。
ただ、本家では感じた一点だけは、最後まで私の心に伝わってきませんでした。
それは、今回、観劇中一度も涙が溢れてこなかったことに関係していると思っています。
演技が下手だとか、熱がこもっていないからでは決して無いと思います。
私が思う理由はただ一つ。舞台が美しくないのです。もちろん、照明とか衣装の問題を言及しているのでもありません。
何が原因かは分かりませんし、逆に本家がなぜあんなに美しく感じるのかも分かりませんが、そう感じました。
本家では、常に美しいなあという感情を持ち続けて観ていたからこそ、あらゆるシーンで涙を誘われ、世界は不思議に満ち満ちているという言葉に秘めた美しさを感じたのだと思います。
残念なのはその一点だけ。ただ、それが全てでもあります。
あらすじは上記リンク先の感想を参照。
観たことないようなシーンが幾つかありましたが、もう忘れてしまったのか、演出を変えたりしているのかもしれません。基本的には変わっていないように思います。
だいたいストーリーを把握していたためか、人種差別で迫害されるような動乱の時代での生き方や世界の見詰め方に関するフリッツ・ハーバーとの対比や、囚われた3という数字から導かれる過去・現在・未来という時間の繋がり、相対性理論のようなアルバートが生涯考え続けた結果生み出された科学的な理論から手に入れたアルバート自身の時間からの解放、神という存在の認識みたいなところは、前回よりもよく感じられたような気がします。
人生はこの世界に生まれた自分を知る旅みたいな時間を過ごしたアルバートという一人の人間から、過去・現在・未来という時に関わらず、今を生きる自分たちへの力強い希望と、同じ時に出会った人たちへの感謝を込めた優しさを感じさせる素晴らしい作品だと改めて感じます。
簡単に役者さんにコメント。
アルバート、森岡拓磨さん(劇団冷凍うさぎ)。人間味に溢れた感じで、とても良かった。時折、みせるタイミングのいいツッコミや、単なるいいかげんな男じゃんと思わせるような普通の人らしい姿。アルバートを偉人としてではなく、大好きな科学とずっと携わる中で、生まれることの幸せをその短い人生の中で見出そうとした好奇心溢れるちょっとおかしな人といった等身大で見られる。
子供時代のアルバート、電電虫子さん 。不思議な雰囲気の方で、どこか世間離れしている感じと、世界の不思議に魅了されてキラキラしている表情はこの役にはまっている。同時に世界の不思議を自らの考えの中で明らかにしていく時に、興味と一緒にとまどいのようなものが感じられ、一人の人間では抱えきれないくらいの世界の壮大さを感じさせ、この世界って素晴らしいなあという感情が芽生える。
アルバートの妹、コハル箱さん(万絵巻)。久しぶりに舞台で拝見した。twitterを拝見する限りでは役者さんは最後だとか。お得意とする照明を極められるのだろうか。かしこいけどアホという矛盾したキャラ設定が作品中でも言葉として描写されているが、それに見合った、何を考えているのかよく分からないけど、聡明さを醸すという雰囲気が出来上がっている。少々、生意気で支配的な感じも巧妙に描かれているように思う。語りのシーンでの表情も多彩に盛り込んだ綺麗な声の通りはとても良かった。
アルバートの父、芽利野大輔さん(かぼちゃのドガシャーン)。とても温和で落ち着いた優しさを醸している。ちょっと調子に乗り過ぎたりするオチャメな感じや、人を最後まで信じて善意的な見方をするような人の好さや気の弱さ、信念を曲げないという力強い厳格さ、かっとなって感情任せに行動をするあさはかさ。こんなシーンごとに見せる姿が、血の繋がりか、アルバートのお父さんだなあなんてことを終始思わせるキャラでした。
アルバートの母、はじめ女性役は全部、浦長瀬舞さん(劇団六風館) 。器用さを抜群に魅せた最高のお姿。目を惹くとかいうレベルでなく、この方の演じる巧みな技術をみんなで見てみましょうみたいなワークショップになってしまっているようなシーンも。単に不思議なテンションのキャラで面白くさせるのではなく、舞台の空気をおかしくしないとか、絶妙な間合いとか、メリハリを効かした緩急付けとか。作品全体を見た中での自分のポジションを存分に魅せている感じで非常に好印象でした。
フリッツ、角野清貴さん(劇団六風館)。アドルフされるのかなあと思っていましたが、こちらでしたか。この動乱の時代で、アルバートが陽の生き方なら、この方は陰のような生き方で、共に華々しい活躍をしていても、悲劇的要素がいつも付き纏っています。この滲み出る苦悩、常に抱える不安から醸される卑屈な感情のようなものがよく表現されていたように感じます。上に涙が一度も溢れてこなかったと記しましたが、この方の最期のシーンだけは、その切なさというか、不条理な時代の悔しさのようなものから、少し涙しました。まあ、一番目を惹いたのは、違う役でチョコチョコ登場された時ですが。あざとく、笑いをかっさらい、自分を魅せていらっしゃいました。
アドルフ、鈴木幸重さん(はちの巣座)。もう忘れてしまったのですが、この前、どこかの舞台で拝見した時も男前だったな。今回は、やはり演説シーンでしょうね。狂気性を醸しながらの自分を洗脳するかのように酔っていく様は、恐怖を覚えます。同時にその恐怖があくまで表面的なもので、内側はいつもビクビクと弱さを秘めている姿に変わった時に、時代の悲劇を感じさせます。心情を丁寧に描写しつつも、力溢れるいい演技でした。
ダンテ、新蔵夏実さん(自由劇場)。身体と表情をフルに活かした演技といった感じでしょうか。貫禄のあるしっかりと構えたキャラなのですが、アルバートと共に過ごす時間はとても温かく流れます。作品名にも通じるアルバートとのお別れのシーンは、この方の優しさと厳しさを同時に魅せる印象深いものでした。そして、再会の際の微笑みは、時間から解放されたこの世界の素晴らしさを壮大に描いています。
ウルズ、今西タツオさん。過去を司る神。というか、彷徨う人。あまり他の役とかで登場しないなあ、感想書く時に何か印象に残しておかないとコメントしにくいなあとか思いながら観ていましたが、演出だからかあ。上記したとおり、非常に分かりやすく、言葉の一つ一つを丁寧に見詰めたような作品に仕上がっているように思います。逆にそこに重きを置き過ぎて、感覚的な美しさのような表現が薄く見えたのかなあ。何とも分かりませんが。役としては、どこか消えそうな雰囲気を漂わせており、この作品自体のファンタジー性を高めているように感じました。
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