春よ行くな【悪い芝居】130822
2013年08月22日 インディペンデントシアター2nd
舞台美術、照明、音響、役者さんの身体が絡まって、出来上がる世界の魅力だろうか。
総合的な劇団の力が創り出す舞台の迫力には驚かされる。
幸せの象徴のような春に見放され逃げ去られたことで苦しむ一人の女性が、春の本質を見出すまでの物語みたいなイメージだろうか。
深い話なので、単純に言葉にはしにくい。
色々な人間の視点から、幸せを見詰めているような作品に感じる。
<以下、あらすじを書いているのでネタバレします。公演が長期にわたるので、白字にはしていませんので、重々ご注意願います。大阪が火曜日まで、その後も9/11から東京で公演があります>
ハルという彼氏が失踪。
職場の先輩を酒に酔った勢いで部屋に連れ込むものの、どこか頭にハルのことがあってか、愛し合うまでには至らない。自分が悪いと互いに謝り合うような変な空気になってお別れ。先輩はやりたいオーラを出しまくるものの、本気で彼女のことを心配している様子。
同僚のチャラそうな男は、同じく同僚の巨漢女といい感じで恋愛を進めている。
元気の無い自分を心配してか、真剣に悩みにのると言ってくる同僚の女性。押しに負けて、ハルの失踪のことを話すと、ハルを探そうとまでしてくれる。自分への恋愛感情もあるみたい。
そんな会話をどこかで盗み聞きしていたらしい、同じように父が失踪した男。経験があるから、色々と相談にのると押しかけてくる。
自分が理由なのだろうか。愛する人に突然、見限られたように失踪されてしまった。恨みより、ショックが大きい。
でも、そんな自分に手を差し伸べてくれる人も。
先輩は、今、付き合っている彼女と正式に別れて、自分と付き合って欲しいと告白してきた。
天上底、23歳の春。
同僚の男と女が結婚。チャラ男と巨漢女。守りたい人ができたことが幸せ。そんな男の言葉が二人の幸せを物語る。
カラオケボックスでお祝い。
ずっと守り続けてあげて。そして、守られていることの喜びをしっかりいつもアピールして。
自分が経験した苦い想いを味わうことの無いように、二人にお祝いの言葉を述べる。
それは、先輩という新しい彼氏が出来た自分へ言い聞かせているようでもある。
父が失踪した男に連れられて、ある怪しげな会に参加する。
その時のことをイメージしながら、自分の心の奥底を見詰める。
そのイメージの中で、あの人に出会う。あの時、あの人はどうだった。そして、自分はどう思ったのか。
父が失踪した男によると、あの人に会っているようで心が晴れやかになるらしい。
でも、自分は、その時どう思ったかが分からない。今、どう思うかしか考えることが出来ない。
今ある物より、これまでずっとあった物の方が大切じゃないのか。
全てを捨てて、彼氏からも、その周囲の人たちからも姿を消す。
過去へと歩みを進めるかのようである。
失踪。
残された者にとっては、底が経験したことと全く同じことをされたことに。
26歳の春。
失踪後、会でずっと過ごす。
会の教祖のような男に救いを求め始める。
イメージ療法は続く。
一度、ハルが失踪した後に、彼と街中で出会ったことがある事実を思い出す。
何も声を掛けることが出来ず、そのまま別れた。
この時、ハルとは心の中で別れていたのだろうか。
あの時に、自分が付き合っていたハルはもういなくなった。でも、今でもハルを追い求めている。自分が愛し、愛される存在として。
教祖をハルと徐々に同一化していく。
28歳(多分。舞台上で幕が降りて分かる仕組みなのだが、うまく降りず分からなかった。会話からはこれくらいの時)の春。
チャラ男と巨漢の女は子供を授かる。絵に描いたような幸せ。互いに必要とし合う関係をずっと続けているのだろう。
そんな幸せいっぱいの子供を連れた巨漢女は、偶然、年配の失踪している男に出会う。
巨漢女の幸せに流されたのか、男は息子に会いに向かう。
父が失踪していた男の下に、父が現れる。
この日のために、これまで、ずっとイメージし続けてきた。
失踪した人と再会しても、恨みを出さず、うまくやっていけるように。
でも、現実はイメージと異なる。
自分のイメージと異なる父の言動に動揺する息子に、会の人は声を掛ける。
イメージと違うのなら、殺してしまうしかないのでは。自分の頭の中から、その人のことを。
息子はその言葉どおりに、父を切り捨て、新たな道を進もうと会を出て行く。
底はみんなと偶然、再会する。
誘われるままに花見に参加。
そこには、あの時の彼氏も。今はもう結婚して子供もいるみたいだ。
底の表情は明るい。そして、妊娠している。
相手の名前を聞くと、失踪した彼氏の名前を言う。ハル。
見つかったのではない。教祖を完全に失踪したハルと同一化してしまっている。
教祖もやって来て、底は彼があの時の失踪したハルだと断言する。
教祖は彼女にとって、これが救いになるなら、何も問題ないという考え。
先輩と同僚の女性は激怒。
先輩にとっては、こういうことになるなら、自分が教祖のように失踪したハルの代わりになることも出来たはずという悔い。かつては彼女に恋心を抱き、幸せな道を歩ませてあげたいと願った同僚の女性も、今、この状態から抜け出させることが彼女にとっていいことなのかが分からなくなって、ただ愕然とするだけ。
絶望して底の下を去っていく二人に、底は全部分かっているけど、これが逃げだとか負けだとかは思っていないようなことを叫ぶ。
自分の心を晴れさせるためには、自らの気を狂わしてしまうことしか選択肢が無かったのだろうか。
30歳の春。
一人取り残されている底。
春はまた去り、夏がやって来る。
何度も巡りくる季節の春が過ぎ去るたびに、彼女はその春を追い求め、新しくやって来る春を受け止めることができなかったのだろうか。
彼女の前に扉が開く。
光のある方向へ歩みを進める。
どこへ向かうでもなく、彷徨う底。
46歳の夏。
たった一つの愛を切り捨てられなかった女性の悲哀だろうか。
自分にとって幸せだった春に囚われて。
四季は巡る。春はまたやって来る。
でもそう思えなかったのか。春はずっと、あの時の春じゃないといけない。
来たる春を自分の春と受け止められない。
23歳以降、やって来る春を感じることが出来ず、常にハルが失踪する前の春を目指して時を進もうとしているように映る。
過去が前だった女性。
46歳の春を見過ごし、その夏、違う道があるかのように、今までとは異なる方向へと歩みを進めている。
その先で、来年の春を底はどう受け止めるのか。
底の新しい春になって彼女と幸せになろうとする人、幸せな春を迎えること願う人、同じようにかつての春に囚われる人、かつての春を創り上げることで彼女を救おうとする人、かつての春を打ち消すことが次の春を迎える唯一の手段だと考える人、何度も巡りくる春がいつも違った幸せを運んでくれるような生き方をする人・・・
幸せの象徴である春に逃げられてしまった時に、その春を追えば、それは時を遡って人生を進むことになる。ずっと待っていても、もう同じ春はやって来ない。
春はまたいつでも巡りやって来る。そのやって来る春を受け止めて、自らの幸せを見出す。
明日は今日よりもっといい日、みたいな考えが出来なかった人の物語か。
長い苦しみの後、ふと見えた光の方向へと歩み始めるその先に、底のこれまで見えなかった幸せが見つかるのかな。役名の天上底も、底から這いあがり、いつの日か天上の世界へと導かれることを願っているように感じる。
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