« インフィニティ・エイト【劇団SE・TSU・NA】130810 | トップページ | イレカワ【中野劇団】130812 »

2013年8月11日 (日)

ヨチムミルク【かぼちゃのドガシャーン】130811

2013年08月11日 イカロスの森

話の筋がしっかりしており、とても観やすい。
揺れ動く、男女の恋愛模様に、一喜一憂しながら楽しく拝見した。
話のまとまり、全体的なスマートさ、役者さんの魅力と、総合的な力を存分に発揮できているような作品で、とても素晴らしい仕上がりだと感じます。

内気でおとなしく、特に何のとりえも無いフリーターの冴えない男、林太。
そんな彼だが、一つだけあまり役に立たない能力を持っている。
イチゴミルクを飲むと、予知夢を見ることができる。
ある日、林太は、夢の中でクマのぬいぐるみを抱えたコスプレ姿の女の子を見る。さよならとつぶやいて・・・
そこで目が覚める。
そして、その女の子がちょうど痴漢にあっているところに実際に出くわしたことから話は始まる。

頼りないのでかっこよく痴漢を倒したりすることは出来なかったが、目撃証言をして、彼女を助けた林太。
彼女は南月という女の子。
コスプレ姿は戦闘ヒロインに憧れているから。お助け戦士ナッキーとして、痛い格好で、少々厳しい歌と踊りをネットにあげたりしているみたい。それなりにファンもいるみたいだが、実際は何の活躍もしていない。
しかし、林太の予知夢能力がこの南月の役に立ち始める。
予知夢で困った人を見て、その情報を南月に渡す。
そうすれば、あらかじめ困った人のところにお助け戦士ナッキーとして苦労なく向かえるという手はず。

林太のおかげで、お助け戦士ナッキーは、人気急上昇。
どうして、困った人の前にいつも現れることが出来るのかという謎を匂わせながら、神出鬼没のヒロインとなり、ネットで応援するオタクも。
林太も、南月の役に立つことができて、これまでのウジウジしていた性格から少し自信も持ち始めたみたい。
そして、いつの日か南月が部屋に居つくようになったりして、少しずつ互いに惹かれ合う。

そんなある日、いつものように待ち合わせで困っているカップルをナッキーは助ける。
ナッキーについて来ていた林太は、そのカップルの女性を見て動揺する。
高校時代の初恋だった憧れの女性。
向こうも林太のことを覚えてくれていたみたいだ。
久しぶりの再会を祝して、アドレス交換をして、お別れ。

林太は、ナッキーに予知夢が見れるようになった時のことを話し出す。
高校時代。内気でおとなしかった自分にとって、初恋の子はみんなからチヤホヤされる高嶺の花だった。
ただ遠くから見つめているだけ。
でも、ある日、急に話しかけてきて、飲んでいたイチゴミルクを差し出してきた。
ストロー越しの間接キス。くだらないことだけど、林太にとっては、生きている中で一番幸せだった日。
その日から、予知夢を見ることができるようになった。
その話を聞いて、南月は嫉妬して、部屋を飛び出してしまい、帰って来なくなる。

林太の助け無しでは活躍できない南月。
バイト先の喫茶店でも元気が無い。
お姉キャラの店長も心配している。
そんな中、林太に初恋の子から、連絡が入る。
二人きりで話をしたい。あなたの部屋に行くと。

初恋の子は林太に探りをかけるように話しかけてくる。
ナッキーが、困っている人をあらかじめ分かるのは未来を見ることが出来るからではないのか。そんな人が身近にいるのでは。例えば、予知夢を見れるような。
核心を突く言葉に林太は真実を告げる。
それに対する彼女の返答は思いもかけないものだった。
私も予知夢を見れるから。いや、見れていたから。
ある時、急に予知夢が見れなくなった。これまで、その力を使って、優秀な成績を収め、友人にもいつも気に入られることが出来ていたので、とても困った。
今、付き合っている人とはうまくやっていきたいので、その未来を知りたい。
私の力を返して欲しいと。

この力を返したら、南月をもう助けられない。
でも、今でも、初恋の子のことが好き。
林太は、キスをすれば、戻るのではないかと言い出す。
弱みにつけこんだクズのような行動だが、どうしても好きな気持ちが抑えられなかった。
初恋の子も、そんな林太を軽蔑しながらも、可能性にかけてキスをする。
ちょうどその時、南月が。

事態は最悪だが、事情を一晩かけて南月に説明する。
初恋の子は途中で寝てしまったが。
翌朝、初恋の子はありがとうと言い残して、林太の部屋を出る。予知夢を見れたみたいだ。
残された林太と南月は気まずい。
この前みたいに衝動的では無く、もうここを出て行く。居ついて迷惑だったでしょうから。
予知夢を見れなくなったから、もう用済みってことなのか。一緒にいたのは、予知夢が見れるからだけだったのか。
当たり前でしょ。
売り言葉に、買い言葉の状態になり、南月は家を飛び出す。

全く活躍することが出来なくなって忘れられかけているナッキー。でも、南月はそんなことより、林太と共にいられないことの方がつらい様子。
林太も、失って始めて分かった南月への自分の想いに苦しんでいる。
初恋の子は、彼氏と幸せに暮らす予知夢を見たらしい。そのことを彼に話しても喜んでもらえない。予知夢を信じるとか信じないでは無く、今の自分のことは信じられないのか。男のすねたような不信によって、疎遠になってしまう。
初恋の子は寂しさから、林太に連絡をするが、もう林太の眼中には初恋の子はいない。頭の中にいるのは南月だけみたいだ。

南月がバイトをしている喫茶店に初恋の子の彼氏がやって来る。
お互い、恋愛相手が予知夢を見れたりするものだから、その予知夢に捉われて自分の本当の気持ちが伝えられないし、相手の気持ちの真意も汲み取りにくくなっているみたいで、予知夢に惑わされてしまっている二人。
そんな二人が、自分のことを見詰め直すかのように互いの心境を話しているところ、思わぬ事件に巻き込まれる。
ナッキーのファンであるネットオタクが、自分のことは助けてくれない、助けているのは一部だけで、困っている多くの者は見捨てているという逆恨みのような感情に任せて、クマのぬいぐるみに埋め込んだ爆弾を店に持ち込む。
予知夢でそのことを知った初恋の子は急いで駆けつけてくる。彼氏が爆発に巻き込まれた予知夢だったらしい。
ネットオタクは本当に爆破しようとしている。
ナッキーは、自分が犠牲になると、二人、そして店長を店の外に逃がして、爆破を受け入れる覚悟をする。
クマのぬいぐるみを抱えたコスプレ姿の女の子。さよならとつぶやいて・・・
あの時の太一の予知夢。
でも、そんな予知夢を打ち消そうと、南月に会いにやって来た林太が・・・

エピローグでハッピーエンドが描かれる。
初めて予知夢が外れた初恋の子。もう予知夢に捉われることなく、今の彼氏との付き合いの中で、幸せな未来を創りだすことが出来ることを知ったみたい。
そして、怪我をした林太の傍には、南月が。
結局、ネットオタクが言っていたように、全ての人を助けるなんて出来なかったナッキー。
でも、林太は南月と出会い、内向的な自分から少し成長した。過去に捉われず、一歩前へと踏み出す勇気も得たみたい。林太のお助け戦士、南月としてこれからも一緒にいて欲しいと初めて、自分の気持ちを言葉にして振り絞った林太。
そんな林太の言葉に、南月は・・・

あらすじは私の能力不足でうまく書けていないので、分からないでしょうが、上記したように芯がしっかりしており、とてもテンポよく話が展開します。
前回同様、魅せる映像を駆使したオープニングから、スムーズなシーン切り替えで、ラストまで進み、時間を感じさせずに舞台に惹きつけています。
ラストシーンも、作品を締めくくるにふさわしい、これまでの想いを一つの姿に詰め込んだ素晴らしいものだったように思います。

微笑ましく、もどかしく。そんな恋愛模様が描かれ、感情移入しながら、心を揺さぶられる楽しい観劇。
激を飛ばしたり、反論を口にしたくなるくらいに惹き込まれる魅力はなかなかのものだと感じます。
基本的には、
男が幼く描かれているのかな。恋愛の理想を追い求めてしまうような幼稚だけど、そこが純粋でいいんじゃないかと男視点からは思えるような。
お助け戦士ナッキーなんて、人を助けるヒロイン像が中心に描かれるが、
結局、そんなヒーローになりたかったのは、この作品の男たちなのではないでしょうか。たった一人の女性を幸せにしたいという。
だから、あらかじめ用意された未来なんて不要で、自分がその人のための未来を創るというような、現実から目を背けた夢みたいなことなのだけど、そんな純粋で真摯な気持ちに溢れているような印象を受けます。

役者さんは、全体的にとてもまとまりのある雰囲気があり、これが作品のスマートさに通じているのだと思います。コメントを少し。
南月、ほこりさん。可愛すぎるコスプレ姿はもちろん評価高いのだが、それ以上に表情豊かな心情描写が印象に残ります。弾けるところは弾け、うまく自分の気持ちを伝えられず息苦しいところは、その立ち止まった閉塞感を巧く醸されている。素直になれない可愛らしさもあったりして、とてもよかったです。
林太、三上昴太さん。もう、ずっともどかしい。悪く書けば幼く愚直、良く書けば純粋で真摯といったところだろうか。単なる気弱ないい人では無い。初恋の子にした行動だけでなく、南月との会話の中でも、自分が優位に立てば、そこに自分の弱さの逃げ道を見つけ出す汚いところも見え隠れする。そんな人間らしさが等身大で描かれているところが、このキャラの純粋さを引き立たせ、頑張って欲しいと切なる応援をしたくなってくるのかもしれない。
初恋の人、雀野ちゅんさん。作品中に言葉として出てきたが、嫌な女。天使なんてもてはやされていたみたいだが、やってることは悪魔ですもの。でも、これが女性でもあるんだろうなと。狡猾さと純情さが同居するという。予知夢を見ることを求めるのは、夢を見るためではなく、現実を見るため。好きでも、将来どうなるかが分からないと結婚とかには踏み切れないという感覚と同じかな。逆に、現実の男を見る視線は、純粋にどうであろうとこの人が好きという夢を見ている。この人だったらずっと一緒にいたいみたいな。夢と現実という言葉は、実際に見て心に描かれることは逆転しているのだなと感じた。
彼氏、鈴木幸重さん。初恋の人とこの彼氏は、かなり現実的な男女像を描いているように感じる。男は確かにこのキャラの感覚じゃないかな。理屈っぽいんだけど。しっかりしている姿は林太と真逆なのだが、実は相手への不安や弱さは同じように持っているような感じである。かなりの男前だったな。これは三上さんもだけど。
喫茶店の店長、黒筋郊外ビルさん。気持ち悪いキャラを存分に活かす。ぼそっと発する一言も面白く、舞台に出たからには、何かしてはけるという貪欲さがいい。お姉キャラにしているのは、何か意味があるのだろうか。南月、初恋の人、林太、彼氏と、みんな各々、男女のいいところ、悪いところが巧妙に見えてくるようなキャラになっている。そこから描かれる恋愛がもどかしさや微笑ましさを浮き上がらせているような感じ。この方は、中性キャラ故に、そこから超越してしまっている感じで、描かれる恋愛の緩衝材としてとてもいい機能を果たしているような気がする。
ネットオタク、星井梓さん。かなりいってしまったキャラ。視野の狭さ、責任転嫁による自分の正当化、一点からだけの相手の全面否定、一貫性の無い揺らぐ行動など、いわゆるおかしくなったネットオタクの問題的な部分が詰め込まれた絶望的なイメージを醸す。気味悪いけど、描き方はうまいと思う。
バイトなど色々、てんちゃんさん。ちょこちょこした登場だったからなあ。黒筋郊外ビルさんとのオタクコンビでの、勢いの良さが印象に残っているかな。最前列に座っていたので、何か威圧感があって、舞台との距離が急に狭くなる。

|

« インフィニティ・エイト【劇団SE・TSU・NA】130810 | トップページ | イレカワ【中野劇団】130812 »

演劇」カテゴリの記事

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: ヨチムミルク【かぼちゃのドガシャーン】130811:

« インフィニティ・エイト【劇団SE・TSU・NA】130810 | トップページ | イレカワ【中野劇団】130812 »