アンネの日記だけでは【劇団しようよ】130809
2013年08月09日 KAIKA
朗読劇となっているが、これは朗読とはちょっと違うんじゃないかな。
アンネの日記を別に読んで聞かせてくれるわけではない。
アンネがキティーと呼んでいた第三者に宛てた日記を書いていた時の心情を想い起こしながら、今を生きる二人の女性の物語を通じて、一人の女性のその時の赤裸々な気持ちが描かれたような作品。
アンネの日記は、社会批判や生について述べられたところもあったようだが、大半は特になんということも無い幼い女子中学生の戯言のようなことが書かれているらしい。この作品は、そんな後者の少女の心の内側を映し出すというところに焦点を当てているみたい。
抱きしめてあげたいような脆くて弱いところがあったと思えば、ずいぶんとあざとくたくましかったり、勝手な一面や愚かなところも普通に露出させている。
それは浅く淡いようにも見えるのだが、同時に輝く美しさも感じさせる。
<以下、ネタバレしますので、公演終了まで白字にします。公演は月曜日まで>
元気でいつも明るく、少々距離が近過ぎるところがしんどい感じもあるのだが、優しさも兼ね備えた女性、ヒメ。
分厚い眼鏡に、ちょっと暗めの性格。ちょっと卑屈で辛気臭い感じで、いつも何かに不安を感じてオドオドしているような女性、ユリ。
二人は幼い頃からの友達。
ユリにとっては、ヒメはあんな風に明るくいたい、あんな風な考え方をしたいと、自分に無い物を求める憧れみたいな存在。
たまたまヒメがユリのことをSNSで見つけ、連絡をしたのがきっかけで久しぶりに再会した二人。
ヒメは昔、憧れていたスチュワーデスにもうすぐなろうとしている。ユリは学校の先生らしい。
ユリが、かつての自分を振り返るようにして、話は進み、あの頃、伝えられなかった言葉が引き出される。
近所に住んでいた仲良くしていたお姉ちゃん。
ヒメとも一緒によく家を訪ねて遊んでもらった。
夏休みの自由研究で、望遠鏡を見せてもらい、星座や遠く離れた星のことを教えてもらった。今、見ている星の光は何千年も前の姿。今はその星はどうなっているんだろう。そんなことを考えて、何か不安になったりした。
そんなお姉ちゃんが結婚して隣の市に引っ越すことになった。
結婚式を見に行って、お姉ちゃんの花嫁姿を見たい。
ヒメと一緒に隣の市へ行くことに。隣の市と言っても、当時の自分にとっては大冒険。
でも、切符代が足りなくなってしまった。途中でジュースを買ったりしたから。
ヒメが自分の切符を譲ってくれた。
電車で目的地までは行った。でも、結婚式がどこでやってるのか分からない。
結局、公衆電話から親に電話して迎えに来てもらった。
ヒメには嘘をついた。
お姉ちゃんに会ったと。綺麗だった、幸せだと言っていたと。
中学生の夏休み。
ちょっとしたことから、肝試しをすることに。
と言っても、近場の神社の裏にちょっと行くだけだけど。
好きな男の子も参加する。
でも、その子はヒメのことを見ている。
ヒメは可愛い服も似合うし、自分もあんな風になりたいけど。
気付くと、その夏休みはヒメをずっと避け続けた。
二学期になっても、そんな状態が続く。
そして、ヒメは遠くに引っ越すことになってしまった。
切符のこと、夏祭りのこと。謝って、謝られ。
お前なんか結婚できないから、さみしいだろうから、私が結婚したら、旦那に家を建てさせ、そこに部屋を用意してあげるなんて、幼き頃言い合いしたようなことを、久しぶりにお互いからかいあってお別れ。
再会した二人はカラオケボックスに行くが、ちょっとぎこちない。
食事を頼んで、くだらない冗談を言いながら。
会話が少ないのは、きっと話したいことがいっぱいあるから。
ユリは、自分の近況、あの時の切符の話、嘘をついていたこと、そして、ヒメに伝えたいことを話す。
アンネが書いていた日記。
キティーという第三者に宛てた形で綴られる。
キティーはアンネにとってどんな距離にいた人なのだろうか。
アンネは遠く離れた星に話していたように思える。
閉塞した生活の中で、見詰める視線ははるか遠い先。
アンネの心に映し出されるキティーは、その遠くでもう消えてしまっているのかもしれない。
そんな漠然とした不安と同時に生じる安堵が、彼女の本当の言葉を引き出していたように感じる。
ユリもずっと心の中ではヒメに自分の本当の気持ちを伝えている。
心の内に潜むヒメへの葛藤。内向的で閉塞した彼女が、遠く離れてしまったヒメを想いながら、綴られた言葉がユリの真実なのではないだろうか。
アンネの想いは結局、そんな日記で留まる。実際に、綴った自分の本当の気持ちをキティーに伝えることは無い。キティーが自分の目の前に現れて、今、この時の光として映し出される日は来ないままにその生を終えている。
でも、ユリは、今、ヒメとまた出会えた。
遠くに離れたヒメの昔の光を想い起こす必要も無いし、ヒメは遠くに離れて消えてしまってもいない。今、この瞬間のヒメを映し出す光を目にしながら、自分の気持ちを伝えることが出来る。そして、ユリはヒメとこれからもずっと語り合える。
それは、勇気がいることだけど、とても幸せなことなのだと思う。
そこに、アンネの時代では得ることが出来なかった希望を今の時代に見出せるように感じる。
今この時の自分の輝きを、その時に見せることが出来なかったアンネの時代。いつの日か、そんな輝きも失われる不安を感じながら、星のようにいつの日か、その時の光が届けばいいように考えてアンネは日記を書き続けていたのだろうか。
輝く自分を、その瞬間にいつでも見せることが出来る今。その幸せを噛み締めたくなるような気持ちとなる。
| 固定リンク
「演劇」カテゴリの記事
- 【決定】2016年 観劇作品ベスト10 その3(2016.12.31)
- 2016年度 観劇作品ベスト10 その2(2016.12.30)
- 2016年度 観劇作品ベスト10 その1(2016.12.30)
- メビウス【劇団ショウダウン】161209(2016.12.09)
- イヤホンマン【ピンク地底人】161130(2016.12.01)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント