夢の無い国からの男【劇的細胞分裂爆発人間 和田謙二】130808
2013年08月08日 人間座スタジオ
旗揚げ公演を観に行きたかったのだが、都合がつかず断念。
今回は必ず観ておきたかったので、初日に早速伺った。
チラシのあらすじを見ただけでは想像もしなかった展開に唖然。
そうか、作品名がキーだったのだな。
キャラ設定は、作品の構成上、あまりにも突き抜けており、かなりの悪ふざけも連発するのだが、不思議と単なるドタバタにはなっていない。
劇団名のごとく、爆発した人間が舞台を暴れまわっているが、単にそんな人間がどんどん増えていくような細胞分裂ではなく、静止する期間、力をため込む期間、思いっきり分裂する期間と制御した流れで、いいバランスを保ちながら話を展開している。
面白さの中に、きちんと演劇的な魅力が組み込まれており、非常に巧いと感じる。
<以下、ネタバレするので、公演終了まで白字にします。公演は日曜日まで>
女性カメラマン、霧島サツキ。
今日もモデルの女性の写真を撮影。
彼女の父親もカメラマンだった。
父親はサツキがまだ幼き頃、たった一枚の写真を残して、消息を絶った。
白いぼんやりした物が写った、どこかこの世とは思えない不思議な写真。
それはあたかも異次元世界のようである。
サツキは、仕事のかたわら、この手掛かりになるのかどうかも分からない写真を持って、父の行方を追っている。
最近、都市伝説で、あの◯ッキーと◯ニーが人助けをしているという。
あのネズミなのかと聞くと、耳の大きい猫だと言い張るとか。
実は、この二人、異次元世界からやって来ている。
そこは、ウォルト・D・ズニーが率いるキャラクター勢と、敵対する勢力が争いを日々、繰り広げる夢の無い国らしい。
二人は、人間の願いを叶えると、永遠にそのキャラとして幸せに暮らせるということを信じて、夢の無い国から逃げ出して、日々、人助けをしているのだ。
そんな夢の無い国の勢力図が最近、崩れている。
ウォルトに敵対する勢力で最大の力を持つスヌー◯ーが、ウォルトと手を組んだのだとか。
そして、人間もろとも、人間界に逃げ出したキャラたちの抹殺を指示しているらしい。
どうやら、ウォルトは人間界をも制圧しようと企んでいるみたいだ。
スヌー◯ーは、◯ッキーと◯ニーを抹殺するために人間界に送り込まれる。
ある日、サツキは、スヌー◯ーに◯ッキーと◯ニーが襲われているところに偶然出くわしてしまう。
サツキまで、スヌー◯ーに狙われることになる。
スヌー◯ーの力は強大。どうすることも出来ない。
全員まとめて殺されるところだったが、スヌー◯ーはなぜかサツキに手を出せない。
嗅覚の鋭いスヌー◯ーは、彼女から発せられる匂いになぜか心がざわつき、どうしても傷つけられなくなるみたいだ。
恋。
◯ッキーと◯ニーは、スヌー◯ーの初恋を応援することに。うまくいけば、自分たちを殺さないという条件で。
初デート。
さりげなく服装を褒める、車道側を歩く、軽快なトークにうまく合わせたボディータッチというデートノウハウを教え込まれたにも関わらず、全く上手くできないスヌー◯ー。初めての体験だから。
かくなる上は、スヌー◯ーの強さアピールしかない。
あらかじめ仕込んでおいた、同じく異次元世界から来た知り合いにサツキを襲わせ、スヌー◯ーが救う。ベタな展開が用意される。
ところが、スヌー◯ー、すっかり力を無くしている。恋は盲目なのか。
そうなると、スヌー◯ーを倒して、我こそが最高の地位を手に入れようと、本気でスヌー◯ーを殺そうとする者たちが。
段取りがすっかり変わってしまい、その場は夢の無い国から来た者たちの激しい争いの場に。
サツキも巻き込まれ、殺られそうになったところ、身を呈してスヌー◯ーがかばう。
スヌー◯ーのサツキを想う気持ちは本物だった。
後のことは◯ッキーと◯ニーに任せ、何とかその場を逃げ出したスヌー◯ーとサツキは、互いのことを話す。
父の形見の写真に写っていたのは高速で動くスヌー◯ーだった。
夢の無い国にたどり着くことができた唯一の人間だったサツキの父。
最高の力を持つがいつも孤独だったスヌー◯ーにとって、彼は唯一の親友でもあった。サツキに残るそんな彼の匂いが、スヌー◯ーの心をざわつかせたのだろう。
そんな、彼は夢の無い国の争いに巻き込まれて、死んでしまう。
スヌー◯ーがウォルトと手を組んだのも、ウォルトの願いを叶える力によって彼を生き返らそうとしていたらしい。
全てを知ったサツキは、父がいつも言っていた夢のために行動することを思い出す。
もう、生きてはいないと心のどこかで思っていた父の残像を追いかけ、いつしか自分の本当にやりたいこと、夢を失ってしまっていた。
父を追いかけることで、本当の自分から逃げ続けていたのかもしれない。
それに気付かせてくれた奇妙な異次元世界からやって来た仲間たち。
彼らもまた、そのキャラクターに縛られることなく、この世界で自分の夢を追い求めて行くのだろう。
て、ところで前説で聞いた公演時間5分前くらいだったので、軽いエピローグでハッピーエンドと思っていたら、事態は急展開する。
全てはサツキの父親が夢の無い国に足を踏み入れた時からウォルトが仕組んでいた筋書きだった。
サツキは夢の無い国へとさらわれ、スヌー○ー、○ッキー、○ニーたちは、サツキを救い出すために、ウォルトの下へと向かう決意をする。
つづく、みたいな終わり方。
最後まで、意表を突かれた。
幸せは、やはり最後は自分たちの手で掴むという前を見据えた、この作品にふさわしい面白い終わり方だ。
きっと、サツキは父と同じく、これから夢の無い国の争いに巻き込まれるのだろう。
夢のために行動することをモットーとしていたサツキの父。
夢の無い国で、キャラクターに縛られ、ウォルトの言いなりになっていた連中の心を動かそうとする志半ばで倒れたに違いない。
そんな父の意志、夢を叶えることが、これまで父の背中を追い続けていた彼女のするべき行動なのかもしれない。
父の時と違うのは、強い意志を持った仲間がいること。
そんな仲間と共に、夢の無い国に夢を作り、その夢を人間界にも持ち帰るのだろうか。
今、あそこに行けば、誰もが夢を味わい、幸せを感じて、また日常に戻ってくる。そんな夢の国が創り上げられるまでのエピソードが描かれているみたいだ。
どの役者さんもかなり個性が強く、目を惹くのだが、申し訳ないが、一番目を惹いたお二人の顔と名前が一致しない。
当日チラシにもネタバレになるからか、配役表が無いのだ。
○ニーとサツキ。
○ニーの細かなところまで計算された笑いはかなり面白かった。かなりの芸達者ぶりがうかがえる。
サツキはこの作品がいいバランスを保っている要であるように感じる。表情豊かな心情表現に、この荒れ狂ったキャラに負けない普通の人の姿に相当な貫禄を見出す。注目に値する。このブログ読まれた方で、お名前が分かれば、コメントに書いてもらえないだろうか。けっこうな数を観に行っているということで、要注目の若い役者さんがいれば、名前を教えて欲しいと何人かに頼まれている。この方の名前は挙げておきたい。
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コメント
ご来場ありがとうございました。髭だるマンです。
さつき役の子は勇宙香(いさみ みちか)という僕らの出身、劇団未踏座の後輩です。
○ニー役(配慮ありがとうございます)はてんま1/2という和田謙二のメンバーです。
投稿: 髭だるマン | 2013年8月 9日 (金) 23時44分
>髭だるマンさん
コメントありがとうございます。
未踏座はなかなか若手注目株の宝庫ですね。
出来るだけ、本公演にも足を運びたいと思います。
そうか。奇抜な主要キャラは全部、和田謙二で押さえていたのですね。とんでもない3人でした(゚ー゚)
楽しい作品。
また、次回も期待しております。
投稿: SAISEI | 2013年8月10日 (土) 00時29分