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2013年8月 1日 (木)

ノッキン・オン・どこでもドア【HPF高校演劇祭 大阪産業大学附属高校】130731

2013年07月31日 シアトリカル應典院

昨年、拝見した作品とテーマは非常に似ている。
妄想の中で、逃げ続けて向き合うことの無かった自分の想いに気付き、そこから未来を自分で切り開こうとする閉鎖空間からの自己脱却物語。
http://ksaisei.cocolog-nifty.com/blog/2012/07/girlhpf120724-5.html

今年は、扉という明確な出口を置き、そこから脱出してどこへ向かうのかということを分かりやすく描いている。
幼き頃は、自分で行きたいところに本当に行くことは難しく、どこにでも行けるなんてことは夢だった。
大人になって、作品名から想像されるような、どこにでも行ける道具を手に入れたからといって、どこにでも行けるわけではない。
どこにでも行けるという自分の強い意志を持たなければ、扉は開かない。
高校を卒業した男が、本当に自分の出来ること、その広がりを理解し、自分がしたいという想いを見詰め、実際に行動に移すことで、大人の男へと成長するまでを、この高校らしく、コミカルなところを交えながら描いた楽しくも力強い作品に仕上がっている。

高校を卒業したばかりの尾崎。
目覚めたら、ピンク色の扉が設置されている。
扉からいかがわしい男が入ってくる。近未来研究所の販売員。
覚えはないが、自分が注文したらしい、どこでも、いや、Dドアを届けに来たらしい。
早速、動作確認が必要だからと、使ってみるように促される。
行きたい場所を思い浮かべて、ノブを回すと、その場所に行ける。
でも、開けた扉の先はいつもの玄関。
販売員は不思議がるが、当然かもしれない。
自分には行きたい場所なんてないんだから。

きちんと動作確認しないと帰ることが出来ない販売員は、何とか行きたい場所を探させようと奮闘する。
思い出の場所ってのがあるでしょ。やっぱり、思い出と言えば学校じゃないか。
尾崎は回想する。
高校生2年生。
夏休みに学校へ。
仲良しの同級生の男と望月という女の子。
暇だというのもあるけど、望月が学校に用事があるというから付いて行った。
海に行ってナイスバディーの水着の女を見たいなんていう同級生の冗談に付き合いながらの楽しい時間。
学校では文化祭の準備を生徒会がしている。
まだ現役生徒会長がいるのに、もうみんなを生徒会長気取りでバリバリ仕切っている同級生の女の子、それにうまいこと乗せられながらこき使われている同級生の男。
きつい女の子に憧れているので、喜んでこき使われている後輩の男2人組。
みんなから恐れられている怖い女教師。
いつの間にか、文化祭の準備を手伝わされることになり、ダンスの催し物にも参加することになってしまった。

ほら、楽しかった思い出があるじゃないか。
行きたい場所は学校。これでやって見ましょう。
販売員に促され、扉を開けるがやはりダメ。
どうして思い浮かべられないのか。もどかしい。
後頭部をブン殴れば記憶が映像として映し出される、秘密道具、いやシークレットツールを使おうか。
販売員は、早く帰りたいのでやけになっている。

男はさらに回想する。
学校からの帰り道。 もう夏休みも終わり。
すっかり文化祭の準備に付き合わされてしまったが。
ダンスの本番も近い。 望月は参加しないようだ。
みんなと別れた後、望月からドラえもんの漫画を手渡される。 返すと言っている。
貸した覚えが無いので、もういいよと言うが、それではダメらしい。
望月と別れて、思い出す。
小学校の時に同じことがあった。
ドラえもんを望月に貸して、その後すぐに、望月は転校して行った。
そして、今回も望月はみんなに黙って転校する。

ダンスに望月も参加する。
転校?何だ、それは。
文化祭で、みんなでダンス。
そんなに上手くはないけど、よくやった。
あの怖い女教師までもが褒めてくれた。
そして、あの生徒会長気取りの女の子は、急に女の子になって、こき使っていた同級生の男に告白。ほのかな恋が生まれた。
打ち上げだ。
振られた後輩も連れて、たっぷり飲み食いしよう。
尾崎と仲良しの同級生の男は貯金をおろさないといけないなあなんて言いながら、学校を去る。

残された尾崎と望月。
楽しむ尾崎に望月は現実を突き付ける。
これは全部、夢。
あなたが思い出したくない、忘れてしまおうとして、部屋にこもって、眠っている間に見ている夢。
絶対にやって来ることのない未来の姿。
あなたは、誰も叩くことのない扉の中で、自分の殻に閉じ籠って、私との思い出を消そうとしている。

眠りから覚めて、ようやく自分の本当の想いに気付いた尾崎。
そこには、販売員がいる。
でも、彼女との思い出であるドラえもんは、もうどこかになくしてしまった。
取り寄せハンドバッグ。
想いを込めて中を探れば、それが出てくるシークレットツール。
尾崎はあのドラえもんを手に入れる。
もう、逃げたりせず、自分の望月との思い出を頭に描けるようになったみたいだ。
Dドアを使う。 尾崎が行こうとしている場所は、もちろん彼女のところ。
でも、開けた扉の先はやっぱり玄関。
仲良しの同級生の男は、自分を心配してか、彼女の住所を調べて手渡してくれている。
ちょっと遠いけど、自分の足でそこまで行ってみようと思っているみたいだ。

いたい場所より、行かなくてはいけない場所に望月は向かった。
いたい場所に必ずいれるとは限らない、まだ全てを自分で決めるには幼き高校生の姿か。
望月や、尾崎がどこでもドアに憧れ、求める気持ちは分かる。
でも、そんなものを使わなくても、いつの日か自分の足でどこにでも行くことが出来る。
それが、成長であり、一つの大人の姿として捉えているのかな。
空想に過ぎない夢の扉を、現実に夢を叶えることの出来る扉に変えた一人の男の成長と、その駆動力である恋の大きさが感じられる。

尾崎、鳥山懸大朗さん。回想の楽しかった学生時代と、歩みを止めてしまっている憂鬱な今が切り替わりながら話が展開するので、その切り替えは難しそうだが、とても上手く、人物の空気を変えている。その姿は、しっかりせえよっていう、不器用なもどかしさがあるが、それが悩める青春時代そのものなのだろう。
望月、三宅千尋さん。ちっこい体で、すごく熱のこもった前のめりの演技だなあ。少女のような弱さを秘めながらの懸命に強く頑張ろうとしている姿は、尾崎に対して対照的な像となっており、尾崎がこの女の子に惹かれ、女の子もまた、尾崎に惹かれるという、互いに未熟ながらも共に補てんし合って成長していく姿がうかがえる。
仲良しの同級生、諏訪英人さん。テンポのいい、度胸が座った演じ方。シーンの空気を作り出す力と同時に、1人で小ネタをこなす力を持つところは、コミカルも売りにしているのであろうこの高校のホープなのでは。
生徒会長、樋口舞さん。いわゆる姉御キャラで、頼りない男どもをビシバシと操る。幼い男たちとは、一味違う大人のような女性を演じるきつさの中で、恋愛となれば、やっぱり女の子の一面を見せるなんて、微笑ましい姿も見せている。
こき使われる同級生、菅沼新平さん。ダルい感じで、まだ、責任持って自分で率先して動くことを経験していない幼き男の姿か。女性に頭が上がらないなんてのも、確かにこの時代はだいたいそうだよなあなんて、自分の高校時代を思い出す。女性と付き合って変わっていくのかもしれない。恋愛が色々と人を変えるのは確かだろうな。お腹がけっこうプヨプヨだった。
後輩、清水恒輝さんと竹長恭平さん。言葉を選ばず書けば、キモキャラとデブキャラか。共にキャラに徹した楽しい姿。きちんと笑いにつなげるという役割を果たす。昨年も同様のキャラがいたが、きちんと作品中での仕事をこなすところは立派。
女教師、小島彩香さん。こちらは姐さんキャラ。終始、不機嫌そうに生徒を威圧する姿は、どなたかモデルがいるのだろうか。
販売員、福島直季さん。作・演もされているだけあって、さすがの貫禄か。テレビショッピングみたいに次から次へといかがわしい言葉がちょっとした毒も含んだユーモアと一緒に溢れるように出てくる。テンポのよい語り口調に、独特の面白い雰囲気を醸す。大学生演劇もよく観に行くが、この方はそんなところでも、今以上に力を発揮しそうだな。

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