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2013年8月16日 (金)

僕と殺し屋とレインポップ【BANANAディストピア】130816

2013年08月16日 芸術創造館

雨で濡れて、どうしようもなくたたずんでいる人に、そっと傘を差し出してくれるような人との出会いを描いたような作品だろうか。
一緒に傘の中で、雨が通り過ぎるのを待つ。
もう濡れてもいいやなんて言って、傘から出て行っても、それを追いかけてくれるような人だっているんだよと伝えているような気がする。
話は、パワー溢れるコミカル要素の多い前半から、じっくり人の心を魅せるしっとりとした後半へと繋がって展開する。
雲行きの怪しさから、雨が降るまでを想像させ、とてもうまい構成だなあとは思うのだが、最後に恐らくは見せている晴れ間が私にはしっかりと感じられなかったところが、ちょっと残念だったかな。

<以下、ネタバレしますので公演終了まで白字にします。公演は日曜日まで>

四畳半の部屋で暮らし、日々、ハローワークに通う、元殺し屋の日本太郎。
学校を卒業した後、タイで傭兵となり、殺し屋として活躍していたのも束の間、不況のあおりを受け、今や無職である。
ハローワークに通うのは、仕事を見つけるためではあるが、窓口にいる3人組の女性の小柄で清楚な雰囲気の1人に恋心を抱いているからでもある。
今日も、近所のじいさん率いるホームレス軍団に、仕事をしようと訴えかけながら、元気よくハローワークに向かう。
太郎の部屋の隣は、偶然にもハローワークの窓口の女性が住む。彼が恋心を抱いている子とは別の、大柄で、水商売もしているようなケバい女性。
ある日、太郎はその子が働くおっぱいパブへと連れて行かれる。

そこで、出会った達希という男。
働きもせず、借金も抱えているダメ男。
手癖も悪いみたいで、太郎の部屋の鍵をくすねる。
そして、太郎の部屋を達希は訪ねてくる。往年のシノラーを思わせる痛い恰好をした妹を連れて。
人のいい太郎は、帰る場所が無いという達希とその妹をしばらく住まわせることに。

太郎は、お目当ての子をデートに誘い、徐々に仲を深めていく。
当然、部屋にも招くのだが、達希と妹がちょっと邪魔・・・
出て行ってくれとも言えずに、少々困っている。

妹は学校になじめず、ずっと不登校になっているみたい。
そんな妹を心配して、同級生の女の子が頻繁に訪ねてくる。
ちょっと冷たい感じだが、いつも周囲に合わせようとして、浮いてしまう妹のことを想い、自分の前では無理をするなと言えるような優しい子である。
ホームレスのじいさんも、遠くから妹のことを心配しているみたいだ。
だから、その同級生の子に、ずっと妹の力になって欲しいと願う。
そんな妹を一番守らないといけない兄である達希は、万引きをして拘置される。
どうにかしないといけない。でも、経済的にやむを得ないところがあるみたいだ。
達希は昔はとても優秀な学生だった。でも、いつの間にか、こんな状態に。もう、昔には戻れないし、どうでもいいような諦めの気持ちを抱いている。
何もかもうまくいかない人生に、妹のことも徐々に負担になっているみたい。

太郎のお目当ての子は、最初の明るく純粋な姿とは裏腹に、薬に手を出しているみたいで、徐々に病んでくる。
太郎は職を決め、働き始めたのに、彼女は仕事にも行かず、部屋に籠って何もしない日々を過ごす。
心配して部屋を同僚が訪ねに来るが、そんな励ましももう受け入れられないぐらいにまで落ちぶれてしまっている。
隣の部屋に住む同僚の女性は、いつの間にかどこかへしばらく旅立ってしまっている。

太郎の彼女はもうどこかへ行ってしまったみたい。
部屋には太郎と達希。
酒を酌み交わして、この行き詰った今を語り合う。
そんな中、妹から電話がかかってくる・・・

最後は、行き詰った妹が海に飛び込んで、意識不明の重体に。
守れなかった同級生は涙を見せながら、どうしたらいいのか混乱する。じいさんはそんな同級生を優しく包む。
達希は、どこかへ行ってしまったハローワークの窓口の女性の部屋を借りて、そこで、これまでの自分たちを見詰め直す。
ちっぽけなことを放ったらかしにして、どんどん大きくしてしまった。その報いが、妹の死となってしまうのだろうか。どうにかして救いたい。
そんな言葉に、太郎は人はそんなたやすくは死なないと、達希に声を掛ける。

二部構成になっているのかと思えるぐらいに、前半のスピーディーでテンポのいい力強いエンタメから、後半は、心情を込めた会話劇へと変わっていく。
この会話劇部分は、ずいぶんとしっかり組まれた舞台セットのどこか一部分だけで、二人で行われている印象が大きく、何となく寂しいというか、物足りない感がある。
ちょっとしたことから、どんどんと閉塞していくような負の収束をイメージさせるには、それでいいのだろうが、そのまま尻つぼみで終わってしまったような感覚も残り、雨上りの爽快感はあまり得られなかった。
どこかで、前半の楽しかった、不況でも何とか生きてやるという熱があった頃に戻れるような転換点を感じたかったように思う。

妹を守れなかったことを悔いる同級生と兄の達希。
そんな二人を各々、見守り、そのことを否定せずに、これからに目を向けさせようとしている人が身近にいる。
ホームレスのじいさんと元殺し屋の太郎。
人を殺めることを知る殺し屋だから、不況の中で足掻くことなく全てを受け入れて強く生きてきたホームレスだから、伝えられることがあるのだろうか。
そんな二人に、自らを受け入れて、生きるということを知ったかのような同級生と達希。
その気持ちは、いつの日か、妹にも伝わり、彼女の心を解放させてあげられるのかもしれない。
太郎は、きっと彼女のことがまだ心に残っているだろうし、じいさんもこれからの不安だって本当はあるはず。
他に登場した人たちも、それぞれ苦しい一面を抱えている。
人生の不況の雨。うまくいかないことだらけかもしれないが、それでも、いつかは雨は止むし、そんな雨を和らげてくれる人が周囲にいることも確かなのだろう。

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コメント

作者の作品に込めた願いが痛烈に伝わって来る作品でしたね。
是非、今後も続けて公演して欲しく思います。

投稿: ツカモトオサム | 2013年8月17日 (土) 14時06分

>ツカモトオサムさん

コメントありがとうございます。

私もそのように強く思います。

不況や雨みたいな閉塞した日常の中で、苦しみもがきながら生きている人たちへの癒しの傘になることを願っているような作品のように感じます。
同級生役の方が作家さんみたいですが、殺し屋やホームレスのじいさんや安定した職を持つハローワークの受付みたいに、雨を上手く避ける手段がまだ分からない幼き少女が、自分自身の不安も抱えながら、自分の身近にいる苦しむ女の子のことを想っている優しい姿にそれが表れているように思います。
そんな真摯な想いは周囲に伝わり、いつの日か、女の子を含め、みんなが苦しみから解放されて、自分としっかり向き合いながら人生を進める日が来ることを伝えているのではないでしょうか。
そのために、自分たちが向き合わないといけないことや、覚悟しないといけないことを、厳しく受け入れながらも、これからの希望を願いに託しているように思います。

作品に込めた想いが心に通じる話でした。
持ち前のパワフルなエンタメ力も活かしながら、人が生きることを見詰めた深い作品を創り続けて欲しいです。

投稿: SAISEI | 2013年8月17日 (土) 15時23分

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