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2013年7月26日 (金)

RIP【ピースピット】130726

2013年07月26日 HEPホール

久しぶりのピースピット。
多くの人がそうだと思うのだが、数年前に観劇を始めた頃に圧倒されて、その後も観劇を続けるきっかけになったところ。
もう、今となってはチケットも取りにくく、今回もまあいいかなんて思っていたのだが、ちょうど頃合いよく届いた数年前に申し込んでいた過去作品のDVDを少し見たら、急に観に行きたくて仕方なくなってしまった。うまい戦略だなあ。

ちょうど、まだ席も空いていて、実際に観たら、やっぱり凄かった。
人の脳の不思議な世界に入り込んでしまうような話。そこは怖くて、狂気的なのだが、どうしようもなく人を愛してしまうような優しさも混在している。
そんな不思議な世界を、得意のパフォーマンスで表現しながら、緊張感を持って話を展開していく。
舞台に濃厚に惹きつけられる恐ろしい130分。

ちなみに、今はお忙しいのか更新があまりなくなったのでたまに見る程度だが、昔は作・演の末満健一さんのブログを毎日のように見ていた。
そこで、紹介されていたある精神科医のHP。
リンクしたらまずいかもしれないので、名前を書いておくと、Dr林のこころと脳の相談室というページ。
ここに描かれた世界は、虚妄そのものなのだが、確かな現実であり、この作品に通じるところがあるような気がする。
興味本位で見るべきものではないのかもしれないが、人の脳の不思議な世界を非常に冷静に描いています。

<以下、ネタバレしますので、公演終了まで白字にします。公演は月曜日まで>

妻を殺された男、その犯人、実際に犯人を逮捕し、その凄惨な現場を知る刑事。
女性は、何度も刺され、妊娠していたので、胎児が腹を割いて取り出され、握り潰されているという残酷なものであった。
犯人は、律とかいう女性や神様みたいな幻覚が見えているらしく、殺した女は悪魔によって穢れていた、殺人もこれらの幻覚の導きによる浄化みたいな証言をしていたが、精神耗弱は認められず死刑が確定している。
男は、刑事の家族を何処かに監禁し、刑事をゆすって、犯人を拘置所から連れ出して来た。
さらには、RIPという、モルヒネ様の幸福感が得られると同時に、嘘がつけなくなるという、非合法の薬も用意させている。
全ては、なぜ、この犯人が自分の妻を殺したのかを知るために。

 

薬剤が投与され、犯人の自白が始まる。
女性との出会い。会社の先輩だった。憧れて恋心を抱く。
でも、彼女にはやくざの男がいた。DVを受けていたりもするみたいだ。
会社の屋上で、彼女に自分の気持ちを伝える。
自分と関わるなと言い張る女性だったが、自分に救いを求めてくるように、そのつらさを溢れさせる。
彼女を救わないと。
幻覚の律という女性も、そうするべきだとささやきかけてくる。
犯人は、やくざの男を殺害する。
女性はどこかに姿をくらましてしまう。
自分の運命の女だと思っていたのに。殺すまではしなくて良かったのではないか。
悩む犯人の下に、律は神様を連れて来て、正しい行いだった、あなたは正義の味方なのだと洗脳する。

 

男が叫ぶ。
どうして、真実を語らない。RIPは本物なのか。
犯人が語る記憶は、全て男自身の記憶と一致する。
自分がやくざの男を殺した。
どうして、この犯人は自分の記憶を知っているのか。

 

犯人の口述は続く。
その後、新興宗教のようなものにはまってしまった女性を、連れ出して共に暮らし始めた。
やがて、律という女性の幻覚の存在を女性が知り、自分を精神病院へと連れて行く。
女性は同僚に自分のことを相談する。
女性が悪魔に穢されようとしている。
また、救わないといけない。
精神病院の人たちを殺害して脱走、そして同僚を殺す。
自分の行いは正しい。律も幻覚ではなく、存在している。
依然、それを認めず、悪魔の穢れから浄化しない女性を・・・

 

これも、自分の記憶だ。
男は発狂するかのように、犯人に真実を語れとRIPを追加投与する。
刑事が制止する。
もう、いい加減にしてくれ。自分の妻と娘を返してくれ。
犯人は確かに気が狂っている。
語っている記憶が現実なのか、妄想なのかは知らない。でも、この話に間違いなく真実であることが一つある。
それは女性が、犯人の妻であったこと。これは真実である。
だから、お前はいったい誰なのだ・・・

 

刑事は、この不毛な時間に終止符を打つため、男にもRIPを投与する。
男から語られる話から、その本当の真実が浮かび上がってきて・・・

 

現実と虚妄が交錯する不思議な世界で、人の記憶とはいったい何なのか。
目に見える存在だけ、経験した記憶だけが、本当に真実と言ってよいのかみたいな、複雑な考えが突きつけられてきて、心が不安で高ぶってきます。
所々で入り込む、その時の心の中を表現するようなスタイリッシュなダンスパフォーマンスがまた、その不思議な世界へと惹きつけられていくようでした。

 

緊張感が張り詰めていますが、少し緩さを醸すところも用意されており、安心させられては、また不安な気持ちにさせられるという繰り返しの中で、いつの間にか、この狂気的な世界にどっぷりと浸かってしまうような展開は、さすがはピースピット、末満さん演出、力ある役者さん方の巧みな技だと感じます。

 

最後の方が、存在や記憶に対する哲学的な言葉の応酬が、少々しつこく感じられ、そこまでに現実と虚妄の境界線が無いことに感覚的にドキドキしながら観ているので、変に設定や考え方を理解させようとせずに、スパっと切ってしまうような感じの方が、より心に恐怖、狂気として残ったような気もします。

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