富豪タイフーン【突劇金魚】130709
2013年07月09日 芸術創造館
自分らしく生きるってことはどういうことなのかを考えさせられるような作品。
普通じゃない、異端の価値観と世間一般的な価値観が出会った時に、人はどう生き方を変えてしまうのか。異なる価値観がぶつかった時に、互いの生き方はどうなるのか。
それはいいことなのか、悪いことなのか。
不安の中で生きるから、いつも揺らいで、悩み苦しむ。
そんな生きることの大変さと同時に、不安から救われる気持ちも感じられるような話だった。
富豪の屋敷。
主人と奥様が食事をしている。メイドもいる。
栄太は、時給3万円というチラシに怪しみながらも、おいしさを求めて家庭教師の面接にやって来た。
彼は有名一流大学の学生。一流企業への内定も既にもらっている。
エリート路線に乗り、まあ、そこそこ頑張って、課長代理ぐらいになって、今、付き合っている彼女と結婚。庭付きの家を建てて幸せに暮らす。
そんな夢を持っている。実現不能な夢は鼻から見ない。
屋敷の人たちはいわゆる金持ちで、普通の価値観とちょっと異なるみたいだ。余裕ある時間と金の力といったところか。
主人は、息子に教養をしっかり身につけてもらうように、丁寧にじっくりと最後までしっかりと教えることを望む。まずまず気に入られたみたい。
一方、奥様は知識なんてものがあると要らないことを考えて不幸になるという考えの持ち主。
時間と金はあるのだから、この屋敷で何も考えずに好きなことをしていればいいと思っている。こちらは、あまり歓迎されていない模様。
教える息子は、何と36歳。
小学校2年生で学校を辞めて、ずっと、この屋敷で暮らしている。
頭が決して悪い訳でなく、一つ一つ着実に身についていかないと嫌だったらしい。
自分はまだ理解できていないのに勝手に他の人に合わせて進んで行く授業。しかも、授けるって何なんだよといったところみたいだ。
今は、ようやく高校2年生ぐらいにまで達している。
とりあえず、家庭教師を始める。
彼女には電話して、けっこう金入るから、何でも買ってやるよなんて言いながら。
普段、生きている中で、色々と相手に合わせないといけないことも多い。
自分の価値観、ポリシーだけを貫いて生きていくことは難しい。
特に幼き頃などは、そんな価値観を持つこと自体に正当性が与えられておらず、身近の人の価値観をそのまま自分のものと置き換えて、人生を歩むことも多いように思う。
栄太の場合だと、きっと、いい大学に入るために勉強をするべきと言ってきたであろう両親。そして、今、付き合っている彼女の描く人生設計。
本当は別の夢もあったのではないか。彼女との将来ももっと違うものを本当は望んでいたりはしないだろうか。
幼稚園や小学校で、親から離れて生活を始めた時に他人に合わせないといけないんだということを漠然と感じ、その後、諦めに近い感覚でそれを受けているのかもしれない。
物語の前半は、そんな自分の価値観をいつの間にか相手の価値観に合わせて生きてきた栄太の反発する心が生み出した妄想世界を描いているのかと思って観ていた。
好きなことをして、生きていればいい世界の住人、主人と奥様。
主人は、栄太の頑張って勉強してきた誇りだろうか。知識・教養に対しては賛成派のキャラとなっている。
これを知識・教養に関しては真逆の考えを持つ奥様。でも、自由に生きるべきという根本は主人と変わらない。
メイドは、そんな夢みたいなことを言っていてはダメでしょうという、ここにいてはダメになるという現実的な感覚を持つ人。
息子は、栄太がもし、そうやって好きなことだけして生きていた時に出来上がる人物像みたいなものだろうか。
彼女との電話は妄想世界と現実世界を繋いでいる接点となる。
と、こんな感覚だったが、話が進む中で、ちょっと違った感じになってくる。
主人は釣り、奥様は彫刻、息子は勉強と、金を気にすることもなく、たっぷり時間をかけて、日々、自分を楽しんでいる。
ある日、栄太は迷路のような屋敷の奥深くまで迷い込む。
そこで、見る奥様の何かを隠した異常な行動。そして、何やら獣のようなうめき声。
メイドは何かを知っているみたいだが、口を割らない。
そうなると、あらゆる行動が悪意的に見えてくる。
このままでは殺されるのではないか。
栄太は屋敷を脱出しようとする。
追ってくる奥様。そして、不慮の転落。
奥様が重傷を負い、屋敷からいなくなる。
次の日の食卓には一人の女性が奥様の代わりのようにいる。
30年間、部屋で閉じ込められて生きてきた女性。
と言っても、監禁されていたわけではない。それが彼女にとって普通だったということだ。
その間、ずっと母親である奥様、メイドが面倒を見ていたらしい。
父親や息子は存在すら知らなかったみたいだ。
動物の映像を見て過ごす毎日。女性にとって、それが全ての世界。
この日を境に、屋敷に、これまでは無かった、感じようとしなかった外の空気のようなものが入り込み、屋敷の偽りの均衡が崩れていく。
息子は妹となる娘の不遇の環境を自分と比較して見ることを覚えてしまい、これまでは一切揺るがなかった自分の生き方に疑問を感じ始める。そんな時に栄太から手渡された小説の影響でメイドに告白して駆け落ちする。
主人は奥様の事故から高いところの危険を意識するようになり、釣りを楽しめなくなる。そんな時に、栄太から手渡されたパソコンの影響でゲームにはまり、やがて世界には危険がいっぱいという、ネットの浅く氾濫する情報に惑わされて、シェルターを作り始め、そこに閉じこもる。
娘は、栄太から得る外の情報にどんどんさらされ、外の世界に目を向けるようになる。そして、栄太に連れて行かれたドライブ中に事故にあい、障害を持つ体になってしまう。それでも、外の世界への魅力はとどまることなく、栄太が色々なものを私に与えてくれたように、自分も政治家になって、多くの人に情報を与えて、不安な気持ちを解消させてあげたいと勉強を始める。
栄太は、そんな彼女のことが気にはなり、さらにはこの屋敷の住人となって生きていく道も脳裏をかすめたみたいだが、結局はここに来る前から決まっていた道を選択して屋敷を後にする。
残された娘は・・・
戻ってくる奥様とメイド。
ラストシーンは、家庭教師がこの屋敷にやって来る直前の様子が描かれる。
屋敷から外を覗く息子に、チラシを見て、ここに行くべきか迷う栄太の姿。
終わりが始まりのシーンになっており、こんな価値観の相違を巡る各々の生き方は永遠のループを形作るみたいな感覚を得て、何やら諦めに近い気持ちも芽生えるが、同時にどこか異なる分岐点が発生して、各々が本当に持つ価値観に合った生き方にたどり着く日が来るのかもしれないという希望的観測の感も得る。
自分らしく生きる。
今、生きている自分は本当に自分が思っている道を歩んでいるのか。
人生の中で、色々な価値観と出会い、自分との相違に不安を感じたり、そちらに魅力を感じたりと色々するのだろうが、少なくとも自分の価値観だけに執着して生きるよりかはいいようにも感じる。
作品中の屋敷の人たちは、自分たちの一般的では無いような価値観に執着して生きていた。でも、栄太の出現により、様々な価値観と触れることになってしまい、人生の軌道を変えてしまっている。それが幸と出るか、不幸と出るか。これまた、それは各々の価値観にゆだねられることでもあり、結局、まあ、だから生きているって面白いんじゃないのかなんてことを思う。
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