ライナスの毛布のように【トードリ】130707
2013年度07月07日 人間座スタジオ
あの有名な悪い芝居の劇団内ユニット。
作品名から、何かを捨てて、新しい自分の道を進む人を描いたような優しい話かなと思ったら、コント集のような公演で面喰らった。
食事だったら、完全に店を間違ったといったところだが、よくあるように、そんな時の方が意外に美味しかったりする。今回の観劇もそうだったかな。
9人の役者さんの個性的な考えや感覚が詰まった不思議な9作品を拝見した。
・妄想少女
女子高生二人。
座ってお喋り。恋するって楽しい。
卵焼きに砂糖を入れなかったり、TSUBAKI以外のシャンプーを使ったら殴ってくるDV男。
高校教師のように赤い糸を結んで心中しようとする年上の男。
花より男子のように・・・、これ元ネタ知らないのでどんなキャラか分からない。熱血青春みたいな男。
女子高生の妄想は膨らむ。
こんな人たちにみんなで誕生日を祝ってもらえれば・・・
こんな妄想しているようでは、現実でもどう考えても悪い男を掴みそうな恋に恋する女子高生、川上唯さんと、すごく引きながらもそれでも恋に惹きつけられてしまう女子高生、アレーナさん(劇団ACT)の軽快なボケとツッコミが冴える。
・偏執者
飲み会の帰り道。OL。
誰かが後を付けてくる。
振り切るように必死に走って家へ帰る。
玄関先に誰かいる。
遅いじゃないか。誰、この男。
男は少し叱るように続けて語る。
飼っている犬のこと、自分の過去・・・
ずっと一緒に暮らしてきた。
そう、押入れの奥の部屋で。
実家の静岡の時だって、ずっと一緒だったんだから、もう中学の頃から知っている。
そうか、そろそろ、この曖昧な関係にケジメをつけて結婚しよう。
男のあまりにも平然としたペースに翻弄されながらも、追い返す。
部屋に入るとご丁寧に味噌汁まで作っている。
キモい。捨てよう。
少し味見。まあまあいけるか・・・
淡々と気味悪さを醸す高橋紘介さんがうまい。拒絶しながらもどこか関係を完全に切らない方向に進めようとしている呉城久美さんの微妙なバランスの攻防戦が繰り広げられる。
・魔法少女マリリン
魔法少女が集まる里で女王様の下、修行に励むこと1年。
そろそろ、私だけの魔法が与えられる。
そしたら、あのデビルドラゴンをやっつけないと。
与えられた魔法は時を止める魔法。
素晴らしい。
早速、時間よ止まれ・・・、あれっ、止まらない。
違う、違う、そんなことで魔法はかかりません。
女王は友達を連れてきて、マリリンと会話をさせる。
マリリン、良かったね。これからも一緒に頑張ろう。
うん、でも、与えられる魔法はお互い違うから一緒に頑張る意味は無いよね。
背筋が凍り、時が止まる・・・
畑中華香さんワールド炸裂か。
人の困った性格を魔法と捉えてしまう発想が面白い。
・ラブホテルにて
彼女とラブホテルへ。
男は初めて。テンションも上がる。
女は・・・、まあ、色々とあるみたい。
女の視線が熱を帯びてくる。
もう、我慢できない。抱き合う二人。
でも、男は見てしまう。
2年前に死んだはずの母親の幽霊を・・・
これでは、出来ない。少し機嫌が悪くなった彼女をとりあえずシャワーに向かわせ、母親の霊と会話。
でも、言葉が通じない。
仕方ない。自分も死ぬことに。
母親曰く、あの子はダメだと。
そんなことはない。あの子はとてもいい子だ。
彼女がシャワーから戻ってくる。
自分の名前を呼んでいる。でも、返事できない。死んじゃったから。
しばらくすると、今までからは想像もつかない柄の悪い彼女の姿が見られる。
やはり、あの子は悪い子だったのか。
でも、どうしよう。童貞のままで死んでしまった。
だったら私を抱きなさい。
男は母を抱き締め・・・
マザコンの歪んだ愛情が入り込んでいるのかなあ。
色気を巧妙に操り、一瞬で愛情を切り替える若い女性。
あっと言う間に引っ掛かり、好きなように転がされる男。その哀れな姿が見事、池川貴清さん。
たとえ死んだとしても変わらぬのは、母親からの愛情だけか。
・予備校
一浪の男と、二浪の女。
明日の模試の追い込み中。
男はほとんど寝てない。
もう一人、女がやって来る。一浪だけど、成績優秀で模試でもトップクラス。国立大学にでも行くのだろう。自分たちとは別世界。何で、こんな予備校にいてるんだろう。
授業。後から来た女は居眠りしたり、音楽聞いたりと、全く授業に集中していない。ノートも真っ白。
あ〜、頭がいい人はいいなあ。
集中が切れてきた。少し休息をいれた方がいいかも。帰りに鳥貴でも行こう。
盛り上がる一浪男と二浪の女。もう一人の女は今日はダメだという。彼氏とお泊まりデートらしい。
どこまでも余裕だ。
でも、彼女は影で・・・
何のプライドだか、人前での余裕シャクシャクの姿とは打って変わって、一人の時はフリスクを貪り食い、少しでも覚えたことが記憶に残れとノートまで口にする鬼の姿を見せる、呉城久美さん。自分自身を作品の中で描いているのか。
いつも鳥貴じゃ金かかるし、男の家で飲もうと、大変ながらも楽しく過ごす二人に対して、生き方の下手さが際立ち、哀れな笑いを誘う。
・雨男
停留所で次のバスを待つ演劇部の部員たち。
雨が降ってきた。
傘をさしながら待っていると、もう一人の部員がやって来る。
傘を持っていないのかずぶ濡れ。でも、それがみんなの気を引いてかっこいいと勘違いしているのか、やたら決めてくる。
裸にまでなる。
一緒のバスには乗れない。
みんなは学食を食べに、一度大学に戻る。
一人取り残された男は、カッパを着て、みんなの後を追う・・・
終始、勘違いしたかっこよさを醸す北岸淳生さんの独断場。
自分のポリシーをしっかり持ちながらも、どこか人との距離が気になってしまう悲しい男が描かれる。
・プロレス
道を歩いていたら、男とぶつかってしまった。
男はかなりキレて暴言を吐いてくる。一緒にいた奥さんも同じくキレている。
二人の後ろには中学生ぐらいの男の子が、この様子を冷静に見ている。
とにかく、謝らないと。
でも、怒りは一向に収まらない。
遂に蹴りが入る。あれっ、痛くない。蹴るふりをしているだけみたいだ。
それに、片方がいなくなると、途端に優しいいい人に豹変する。
プロレスみたいなエンターテイメントとして、この状況を盛り上げているだけなのか。
いったい何なんだ、この人たちは。
逆に腹が立ってきた。ふざけるなと一喝しようとしたところ、中学生の子が、こういう生き方しか出来ない人たちだからと冷静に言い放ち、親を連れて行く・・・
意味が分からない作品だなあ。
本気になれず、いつも寸止め、先の見えた人生を生きる大人への皮肉だろうか。
奥さんの、森井めぐみさんのキレ方が目を覆いたくなるくらいに凄い。最後までセリフなく、斜に構えた中学生、川上さん。一言の破壊力が見事。
・未知との遭遇
地球人をUFOに誘拐し、頭にチップを埋める手術をしようとするメケメケ星人。
ところが、連れて来た地球人が、超ハイテンションな女性で、UFO内は無茶苦茶な状態に。
偽手術をして、何とか地球に帰ってもらうまでの苦労話。
ハイテンション女性、アレーナさんの独断場。
台本無視して、本当に好き勝手やっているのではないかと思わすぐらいにメケメケ星人を困惑させる。
一番、これが面白かったかな。
・ライナス毛布のように
エマニエル王国、国王の王妃決定戦。
何十万の国民から選ばれた3人の女性がエントリー。
自己PRの後、王様とのフリートークを行い、王様の判断を仰ぎます。
司会進行は私、奴隷が務めます。
まずは、国王登場。
裸に毛布を纏い、ブリーフを履いている。
国王はあからさまに嫌そうな顔をしている。
もっと普通のお見合いをしたかったらしい。
でも、仕方が無い。奴隷がせっかく苦労して企画したのだ。
最初の子は花屋、次はダンサー。
二人とも、王様の姿を見て、とってつけたような褒め言葉を述べるだけでダメ。それに二人ともちょっと痛い感じだ。
でも、3人目の居酒屋のバイトの子は違った。
王様のブリーフがおかしいとしっかり言及できる。
この子ならとプロポーズ。でも、振られる。
お母さんが勝手に応募したらしい。
でも、友達からなら。
王様は自分の身分を捨て、彼女と共に暮らすことにする。
父である先代の国王に従って、ずっと身に纏っていた毛布を脱ぎ捨て・・・
宮下絵馬さんの体格を活かした出落ちになる国王の姿。でも、そこから、秘められた王の悩みを浮き上がらせながら、生まれた時から縛られていた物から解放されるまでの姿を描いている。
真面目そうな話なのに、笑いが絶えないのは、周囲のキャラが強く特徴付けされているから。
強き者には媚び、弱き者には偉そうにするという狂気的な徹底した二重人格奴隷キャラの池川さん。
花屋の少し自分に酔った感じをデフォルメしたようなうざさを醸す畑中さん。ガツガツとした肉食系ダンサーの魅力、森井さん。純粋なんだか、空気読めずズケズケと物言うだけなのか、不思議な雰囲気の川上さん。
幼き頃からずっと肌身離さず持ち続けていたライナスの毛布。
周りから見れば、ゴミのような物でも、自分を形作る大切な物。大切な自分の感覚、ポリシー、生き方。
そんな各々のライナスの毛布を、それぞれ描いてみて、そのおかしな感覚を笑いながらも、こんな考えもあるのかと新しい出会いを得るような公演だろうか。
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