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2013年7月 5日 (金)

baghdad cafe' 13. the LIVES TALK ABOUT HER LIFE (talk about her life)【baghdad cafe'】130704

2013年07月04日 カフェ+ギャラリー can tutku

組み合わせで全4作品ある公演。
今回は公演名にもなっているメインの作品を観劇。
台本にセリフの無い会話劇。
毎回、登場人物が語る言葉は変わるのだろう。
今をつらさや悲しみと共に生きている人たちが、そこから前へ進み始めようとするまでを、ある特殊な設定の下で描いています。
客は当然、喋ることはできませんが、観客参加型の討論会の模様で進む不思議な感覚の作品です。

<以下、ネタバレ注意。会話の模様は毎回変わるのでしょうが、登場人物のキャラ設定とかは同じだと思うので、そこを記してしまっています。公演終了まで白字にします。公演は火曜日まで>

コミュニケーション能力開発のための自己開示セミナーのような場。
円形に置かれた椅子に男女6人と1人の女性講師が座る。
椅子1つが空席。herという女性が遅れているらしい。
時間の都合もあるので、全員揃わない状態で会は始まる。
あの人は〜ですという形で、自己開示をしていく。

  

会が始まるまでは互いにお喋りしていたメンバーだったが、いざ、かしこまるとなかなか言葉が出てこない。herという女性がいれば、こんな時もスムーズだったみたいだが。
1人の女性が指名され、話を始める。
私は、いや、あの人は結婚していて旦那と子供がいます。
子供は手がかかるけど、とっても可愛らしくて、朝は旦那の朝ご飯作って、見送って・・・
で、不倫しています。配送業者の人と。
かなりのMで、あの人はSで、ご主人様からのメールが楽しみです。
騒ぎ立つメンバーたち。鼻からあまりにも開示し過ぎ。場を鎮めようと必死の講師。
違う人を指名して、今の話には触れないことに。
毎朝の行動を普通に語る。
コミュニケーションとは何なのか。言葉を使わない動物を考えれば、身体表現の方が重要なのではないか。
話はどんどん飛んで、おさまりがつかない。
そもそも、herがいないのに会を進めていいものなのか。
どうも、herがいない今日の会はみんな落ち着きが無く、冷静さを欠いている。
いったん、10分間休憩を入れて、解散する。

  

先ほどのMの女性と、OLとして働いている女性が残って二人で会話。
herのこと。
優しくて、何でも話を聞いてくれて、気配りも出来て、服も可愛くて・・・
herという女性を介した共通話題で、普通の仲良し同士のように語り合う二人。
でも、Mの女性のherが来ないかもという不用意な発言で、OLはキレ出し、雰囲気は急変する。
herが来ないわけない。必ず来る。
支えであるherが来ないかもという縁起でも無い発言は許し難かったらしい。
専業主婦への妬みもあるみたいで、徹底的に彼女を責める。Mだからか、ただ謝るだけだ。それがまた怒りを相乗させる。
うろたえるMの女性を跪かせ謝らせるOL。

  

別室では男3人が会話。
1人は少し年齢層が若いみたいで、携帯ばかりいじっている。
herのこと。
何というか体のラインがいいというか、胸もけっこうあってその大きな山には谷間が・・・
中年おやじの妄想トークで2人は盛り上がっている。
でも、ズッキーニを入れて欲しいなんて言われて、あれは絶対誘っているなんて、度を超えた会話にまで膨らんだ時、若い男がキレ出し、雰囲気は急変する。
若い男にとって、herは憧れ、いや神のような存在らしい。言えば、信仰の対象みたいなもの。もっと言えば、宇宙だ。穢れるようなことを言われて黙っておくわけにはいかない。
頭がおかしいんじゃないか、若造がと応戦体制になる男に、まあまあと止めに入る男。

  

会が再開する。
戻って来たら、いきなり土下座したMの女性がいるものだから、場は騒然となる。
ただ、それ以上にみんなを凍りつかせる出来事が。
今日はherが来ません。そんなメールが来ました。
講師の一言でパニック状態になるみんな。
明日は来るのか。
とりあえず、メールをして、確認をするということで、自己開示を再開。

  

部屋が臭いとかで、おならをした犯人を探すなんてことで、さらに場はめちゃくちゃになる。
結局、講師が自分が犯人だと名乗って場はおさまるが、人を騙して揉めている姿を見るのが大好きだという講師は、みんなの今の状態を楽しんでいる。
そんな、不穏な空気の中で、各々の自己開示が続けられる。
一番最初に話した不倫するMの女性。
OLは生活苦や先の不安からなのか、卑屈な感情に支配されて、全てに対して攻撃的になっている。
おならの犯人探し然り、一番偉そうにしていた男は、アスペルガー症候群の疑いということで、会社を急に休職させられ、日々自宅で過ごす。そして、挙句の果てにはこんなところにまで。それが恥ずかしくて、悔しくてたまらない。
いつも、事が円滑に進まないらしい。部下とのコミュニケーションにプラスになればと勉強に来ている会社勤めの男。
動物飼育員をしながら、言葉が無く、必ず与えた事に対して、何かを返してくれる動物とのコミュニケーションに複雑な人間関係から逃げてしまっている女性。
家が裕福だから引きこもって生活していたが、事情で働かなくてはいけなくなった男。不況の折、仕事は見つからない。その原因全てがコミュニケーション能力の無さにゆだねられることにぶつけようの無い怒りを感じている。

  

やがて、herからメールの返信が来る。
herは来ない。今日だけでなく、もうずっと。
もう自分を支えるものは無くなった。
絶望して、へたりこむみんな。そんな場に講師の笑い声が響く。
でも、このままでは終わらない。
人の気ばかり見てオドオドしていた人は、自分に攻撃を仕掛けてくる人にぶつかりあって攻撃をし返す。
ずっと強がっていた人は自分のつらさに涙を流して弱さをさらけ出す。
人間関係から逃げていた人は自分が出来ることで、自分を表現しようとする。
ぶつけようの無い怒りを内面に抱えていた人は、それを外に向けて爆発させる。
うずくまる人はそれでも、もう一度立ち上がる。
つらいこと、悲しいこと、うまくいかないこと・・・そんなことがいっぱいの世の中でもがいている自分。
でも、いや、だからこそ、自分たちは空に飛び立つ。
そんな想いをボロボロになりながらも抱き始めたみんなが、もう一度椅子に座って、会は終了する。

  

最後の翼をくださいの合唱から感じられるように、結局は今の悲しみの現実から脱却する人たちに向けての希望を描いた激励メッセージを込めた作品だろうか。
ただ、会話があまりにも現実的で、空を飛ぶなんて、そんな夢みたいなことありますかいなといった厳しいところも感じる。講師の笑いなどもその感覚を増長させる。
でも、やはり、そんなつらさ、悲しみ溢れる地面で這いつくばって生きていても仕方が無いので、各々の形で翼を持って飛んで行こうと思うようになって欲しい。
この人たちは、つらい人生の局面にぶつかってとまどっている。逃げているように見えても、全然、逃げ切れていない。だから、本当につらそうだ。
だったら、どうせなら空に逃げるぐらいの気持ちで、はばたこうなんていう想いを感じた。

  

登場人物たちは、全員、何かヒラヒラした半透明の衣を羽織っている。
女優さんだけに焦点を絞れば、天女の羽衣といったところか。
最初は、またこの劇団らしい、けったいな抽象的な衣装をしているなあ、また難しい作品なんだろうなと構えて見ていたが、よくよく見るとその下はごく普通の恰好をしている。
後から、考えると、この人たちは、初めから空を飛ぶものを身に付けていたんだなあ。誰でもそんなものがあるという考えなのだろうか。
とすると、herは何だろうか。
あの人。自分の甘え。こんな自分を想ってくれる人。
どうにせよ、自分が空を飛ぶために断ち切らないといけない象徴なのだろうか。

  

どんなにダメな状態で、ここから脱却しないと先に進まないのに、それでも大丈夫だよって甘えさせてくれる人っていますよね。それは自分自身の甘えであるのは確かなんだけど、それを正当化してしまえるようにしてくれる人。物だとか、世の中の現況とかでもいい。
親だとか、友人。過去の良かった頃の自分を知っている大切な物。不況だとか天災など不条理にさらされることになった状態。
こんなものを全部、断ち切らないと前へは進めない。
それは、そんなものを拒絶して、自分の中から捨ててしまうのではなく、この作品中も言及された寛容という精神が重要なのかもしれない。
寛容と言うと、仕事柄、すぐに免疫寛容を思い出してしまう。自分の体の成分には免疫反応が起こらないなんてやつ。
自分自身、そして相手のことを受け入れて、自らのこととして取り込む。その繰り返しで、自分が実際に経験する以上のことを、自分のものとして捉えることが出来るようになり、つらさや悲しみに対する過剰な反応が無くなるのではないだろうか。
このセミナーの狙いはそんなところにあったように思う。

  

同時にずっと、心のどこかに影として潜んでいる感想がある。
講師の振る舞い、笑いを悪意的に見ると、この人たちを昇天させる導きをしているような感覚も残る。
そうなると、もう、世から不要なんて判断され、夫、親、家族、会社などから送り込まれた人たちにも見えてくる。
途中、そんなブラックな話なのではないかと疑い始め、そのポイントとなる講師の表情を注目して見ていたが、よく分からず。
冷静にこの人たちをもう一度歩ませてあげたいと考えているようにも見えるし、本当にこの悲しい人たちの戯れを楽しんでいるようにも見える。そして、この人自身もそんな悲しい人の一員で、共に飛び立つためにここに参加しているようにも感じる。
あくまで希望を描いていると確信できるのは、ラストの熱のこもった役者さん方の心から出てきた真剣な言葉だろうか。
力強い数々の言葉は、たとえ、これが上記したような場であったにしても、この人たちは、この会の終わりと共に新たに飛び立っていくはずだと思う。

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