« AS YOU LIKE ~野ざらしの海豹~【HPF高校演劇祭 精華高校】130729 | トップページ | 次のページをめくる。【meyou/neutral】130731 »

2013年7月31日 (水)

愛が降る街~岩本栄之助物語~【HPF高校演劇祭 鳳高校】130730

2013年07月30日 吹田市文化会館 メイシアター中ホール

昨年に引き続き、観劇。
http://ksaisei.cocolog-nifty.com/blog/2012/08/hpf120809-71f3.html
あのはやぶさを完全擬人化して、その心の機微を描いた作品。
この時も凄かったんだよなあ。
でも、当日チラシの顧問の先生のコメントでは、講評委員の方々にけっこう厳しく言われたとか。
そういえば、私のブログでも、けっこう叩かれたので褒めてくれて嬉しいなんて役者さんのコメントが残っている。
そうだったのかあ。
私は絶賛だったからなあ。プロの視点では、まだまだ向上させられるといったところがたくさんあるのかもしれないですね。
ちなみに、私は褒める気はさらさら無く、観て感じたままを感想として記しています。素晴らしかった時は、それ以外に書きようがないから、そうしている。

今回は、そんな顧問の先生の言葉を踏まえて、少し、批判しないといけないところが隠れているのかもと思いながら観劇。実は、私も講評委員の一人なので。
う~ん、でも、無理だったな。
申し訳ないが、悪いところが、私にはどこにあるのか分かりません。
やっぱり、凄いなあとか素晴らしいなあとしか思えないのです。ここが、単なる素人の普段、観劇をするだけの人間の観方の限界だと思います。
観ながら、何回も何回も、ビリビリと背筋に電気が走って感動した作品に、ここがダメとか、こうした方がいいとかをどう書けばいいのか・・・

昨年に引き続き、様々なジャンルを盛り込んで、エンタメ色豊かに、あるものの生き方を通して、夢や希望、自分の生きる道みたいなことを描いているようです。
昨年ははやぶさ、今年は岩本栄之助。
こうした、高校としての特色を明確にして、自分たちの世界観を持った作品創りをしているところは、今後も期待できるように感じます。

岩本栄之助が、莫大な私財を投じて、大阪の人たちがみんな幸せになることを夢見て、寄贈された中央公会堂。
今では大阪の誇りであるこの建物。栄之助はその完成を見ることなく、この世を去った。
そんな栄之助が、2013年の今、中央公会堂に現れた。

栄之助がこの世を去った時に、自分の願いを託した、公会堂のシンボル、ミネルバ、メリクリウスが出迎える。
青いビニールハウスに住む人たち。
仕事が無ければ、何で助けてあげないのか。何かが出来るはず。
不景気だから。自分のことで精一杯だから。
本当にみんなが幸せになる時代はやって来たのか。
彼の目に今の大阪はどう映るのか。
栄之助という人物に憧れ、公会堂の歴史を学ぶためにやって来た女子大生と共に、栄之助の半生を追う物語が始まる。

女子大生をストーリーテラーにして、ミュージカルベースで、栄之助のエピソードが語られる。
誕生。
兄の急死。人はいつ死ぬか分からない。生きている間に好きなことをしなければ。
日露戦争。 戦後、父の跡を継ぎ、株式仲買人に。
生きた金を使う。金は流れ。止めてはいけない。
困った者には惜しみなく、手を差し伸べる。
全財産を投じての仲間の仲買人の救済。成功。名声。
実業団として渡米。米国の富豪の慈善行為への取り組み方を知る。
父の急死。
中央公会堂を創る決意。 今のお金で数十億円相当のお金を寄付する。 順調に進む建設。自分の夢。大阪人の希望、誇り。
再度の仲間の仲買人の救済。失敗。多額の負債。破産。
大阪市は、公会堂建設を中止して、寄付の返還を申し出るが断固拒否。
公会堂完成を待たずに・・・

栄之助の半生を単に伝える伝記的な作品とは少し趣が異なる。
ご自分方が、栄之助の半生を勉強し、その中で掴んだことを、私たちにも、お裾分けのように自信を持って渡そうとしている感じか。
自分たちはこんなに栄之助を学び、生きること、幸せということを感じた。あなたも是非みたいな。
狙い通りに心を震わさせてもらった。

生きる喜び。
全て自分が決めてする。だから、人を憎んだり、恨んだりしない。
誰かのためにが、自分のためにということに繋がる。
みんなの幸せが、自分の幸せになる。
演劇作品を創り、公演することにも通じているだろうか。

栄之助の傍にいつも二人のこどもがいるのだが、これは何だろうか。
みんなの声の象徴。希望、喜びの大阪市民の声。
栄之助が大切にし、いつも心の中に置いていたもの。
両親、仲間、自分を信じてくれる人、そして妻、娘か。

栄之助が死を決断するところの心情は、やはり分からない。
栄之助は懸命に生きて、その短い一生を終えた。
死という事実よりも、どう生きてきたかが大事だということは理屈では分かっても、やはり悲しいというか、悔しい気持ちになる。
栄之助が大阪を想い、そこに住む人たちの幸せを願い続けたことは、多くの人の心を動かしたであろう。彼が苦境に陥った時に、お上である役人が公会堂建設を中止して、栄之助の人生を再出発させようという考えに至ったりしていることは、その一つであると思う。
栄之助のためにされる行動もまた、みんなの幸せに繋がるはず。
自分が人に与え、巡り巡って自分に戻って来るかのように受け取るという栄之助がこれまでしてきた生き方だけでなく、自分が与えられ、それがまた人に与えることにつながっていくという、逆側の幸せの連鎖の形も経験して欲しかったように思う。
それが、真摯に大阪を想ってくれた栄之助に、私たちが出来ることだったように思うので。

ラスト、舞台奥に手作り公会堂が完成している。
栄之助は、大阪の人たちがみんな幸せになる大阪の未来を願って建設した。
演劇を観る者、創る者、みんなが幸せになる演劇の未来を想って作ったのだろうか。
そこに込められた魂は、栄之助の真摯な想いに引けはとっていないだろう。

ダンサーさんとアンサンブルの方は大勢すぎて、個々にコメント出来ないので、とりあえず、役名のある方のみだけど、一言だけ。
栄之助、治村瑠壱子さん。昨年のはやぶさ役の方だなあ。成長したなあ。もちろん、演技力とかは素人には分からないので、醸す雰囲気がね。昨年は少年役だったせいだろうか、幼きイメージだったが、今回は凛としたたくましい姿。一番近いイメージは宝塚かな。夢や希望を持った純粋な想いに溢れていて、華やかで明るい。そして、芯の通った強さを感じさせる。その表情は最後まで前を見詰めた素敵な笑顔。素晴らしく魅力的な姿だった。
女子大生、城野莉穂さん。何だろうか。栄之助以上に惹き付けられて、ストーリテラーとしての語りはもちろん、ミュージカルシーンにおいても、かなりの頻度で目がいった。お綺麗な方なのだが、まさかそれだけで、ずっと見ていたわけではないと思う。栄之助の半生を見詰める姿が、優しく包み込むようで、彼を愛し、その死を慈しむ女神のような印象を受ける。彼女もまた、この公会堂を守り続ける神の一人だったのか。語られる言葉一つ一つに、込められた想いが、心にまっすぐに入ってくる。
ミネルバ、原田有里さん、メルクリウス、比嘉千仁さん。お二人の掛け合いから、作品は始まる。コテコテの大阪弁で、ちょっとした漫才のようなやり取り。神様だなんて気取らず、普通にみんなと溶け込んでいるといった感じで、舞台が大阪であることを強く印象付ける。
役人、宝代裕規さん(劇団お気楽ロジック)。この方も、昨年の藩主役だなあ。Twitterでフォローさせていただいているので、たまにつぶやきを拝見しているけど、劇団を立ち上げながら、母校の向上にも携わっているわけか。大阪らしい、少し外見は矮小、中身は横柄みたいな感覚を効かせた役人像。でも、同時に義理を芯には持っている。おじぎやたたずまいがとても綺麗。
栄之助に助けてもらう男。少年時代が永野勝也さん、青年時代が荘大雅さん。お二人ともイベント企画ZEN'sにご所属のようです。栄之助は、この少年に出世払いということで母親の病気の治療費を出してあげます。その子は成長して、役人の下で働く立派な青年となり、中央公会堂建設計画に国側の人間として関わる時に再会します。その時に、少年時代に借りたお金を栄之助に返したというエピソード。栄之助のしていることがあまりにも規模が大き過ぎて、偉人といったレベルでしか見れませんが、こういった話から、彼の一人間としての人間性を掴めるようにしているみたいです。少年、永野さんの幼く純粋な感謝の気持ち、青年、荘さんの大人としての筋が通った感謝の気持ち。同じ感謝の表現の違いが、時を経て、継がれる栄之助の想いを感じさせます。
こども、西谷佳那子さん(大阪府立 信太高校)、江川真菜実さん。何の穢れも無いような座敷童のような純朴なこども。喜びは喜びとして、悲しみは悲しみとして直球でその表情、言葉により伝わります。どこか漂わす古き時代の哀愁みたいなものは、栄之助が過去の人であるということを思わせ、この作品を通じて、未来をどうするかを考えないといけないんだよ、今の時代にこんな笑顔を子供たちに取り戻させないといけないんだよといったことを突きつけているように感じます。

|

« AS YOU LIKE ~野ざらしの海豹~【HPF高校演劇祭 精華高校】130729 | トップページ | 次のページをめくる。【meyou/neutral】130731 »

演劇」カテゴリの記事

コメント

お久しぶりです。
昨年ははやぶさ役、今年は岩本栄之助役だった者です。
今年も見に来てくださり、ありがとうございました。
そして、このような記事を書いてくださり、ありがとうございました。今年も記事を読んで涙しました。

実は、この公演が引退公演だったんです。
最後にお客様に感動していただけて、役者冥利に尽きます。

本当にありがとうございました。

投稿: えいのすけ | 2013年8月 1日 (木) 08時23分

>えいのすけさん

コメントありがとうございます。

お疲れ様でした。
2年に渡って、楽しませてもらいました。
凄いね、鳳高校は。
豪快に作品を創られる。
これからも、そんな素晴らしいところが引き継がれていけばいいなと思います。

また、舞台で拝見できて嬉しかったです。
失礼ながら、お名前は覚えていなかったのですが、あっ、はやぶさの子だとすぐに気付きましたよ。
これから、どんな道に進まれるのかは分かりませんが、人の心を揺さぶるようなことを続けていかれたらいいように思います。そんな魅力を秘めた方だと思いますので。

残りの学生生活を満喫してください。
素敵な時間をありがとうございました。

投稿: SAISEI | 2013年8月 1日 (木) 18時12分

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 愛が降る街~岩本栄之助物語~【HPF高校演劇祭 鳳高校】130730:

« AS YOU LIKE ~野ざらしの海豹~【HPF高校演劇祭 精華高校】130729 | トップページ | 次のページをめくる。【meyou/neutral】130731 »