比翼の鳥【HPF高校演劇祭 大阪府教育センター附属高校】130726
2013年07月26日 シアトリカル應典院
すごく感情移入して観てしまった。
男女の恋愛の現実を痛烈に描いた作品。
特に、男の女性に抱く甘い幻想は、厳しい視点で描かれており、ちょっと心が痛い。途中、あまりにも的を得た厳しい追求のような描き方に、目も耳も覆いたくなってしまう。
高校生が演じるには、いくらなんでも経験不足なところがあって、登場人物の心情を本当に理解して演じられるのかと思ってしまうが、これだけ感情移入して観れたということは、それが実現していたのだろうな。
高校生が真摯に表現する男女恋愛の姿に、一喜一憂して、共感したり、反発したりして、興奮している、中年の自分の姿が、途中、面白くも情けなくもあり。
目まぐるしく気持ちが抑揚した、楽しい90分であった。
街中に立つピエロの前で男と女が揉めている。
女は立ち去る。
男は叫ぶ。お前じゃないとダメなんだ。生きていけないんだ。
ピエロの号令と共に、パトカーが集結。
男は逮捕される。罪名は、自殺未遂罪。
この世界、医学の発展により、死亡原因の第一位が自殺となっている。
この事態を重く見た国は、警察に自殺防止課を導入。
日々、振られたとかで死にたいと電話してくる人をなだめて、金を渡して解決する。
例えば、妙齢で振られてしまったら、これからやり直すのも大変でショックも大きいので結構な額をもらえる。
婦警たちが、その業務に当たっているが、予算もしっかりついており、役所仕事って感じ。
男が連れて来られる。
理由を説明しろと息巻くが、婦警たちは自殺を防ぐためだと言って聞かない。
何でも、あの街中にいたピエロ、幼き頃の経験から、二人の仲が上手くいくかどうかが瞬時に分かってしまうらしい。
男と立ち去った女は、上手くいかない。だから、あんなことを言っている男は、きっとショックを受けて自殺する可能性が高いと判断されたみたいだ。
男は、そんなことはない。ケンカなどは普通にあること。彼女はまだ、自分のことを思ってくれているし、自分も彼女を愛していると言い張る。
それを否定するかのように、婦警がいつの間にか女性に仕掛けた盗聴器の音声を聞かされる。
今、彼女は成田空港に向かっている。男と決別するために。
空港に向かおうとする男を婦警たちは制止する。
本当にその資格があるのかを調べると言う。
男は、これまでの彼女との付き合いを回想し、そこに厳しい婦警たちの訊問が始まる。
出会いは花屋。
彼女は花屋の店員。
ずっと気にかかっており、何とか声をかけたいと男は思っていた。
よく出入りしていたからか、少し話をすることが出来た。
自分は家のセールスをやっていて、将来は建築士となって、売るだけじゃなくて、作ることにも携わるつもり。
そんな男の夢を、一緒になって 喜んでくれる。
運命の人。
男は、花束を購入。そして、その花束を彼女に渡す。
付き合うようになった二人。
女と建築士を目指す男は、自分たちの家をシミュレーションして楽しむ。
彼女の趣味の生花が出来るように、日当たりを考えて天窓を、それなら、夜は星を見て晩酌が出来る、キッチンは・・・
一生懸命、二人のことを考える彼の姿を見て、女性は好きだと言う。
そのうち、二人の間にズレが生じ始める。
自分のことを話してばっかり。私のことは見てくれていない、聞いてくれていない。会話が出来ていない。
自分本意の行動。何かをしてあげていればいいと思っているだけ。
彼女は、徐々に不満を募らせる。
そんな時に、親戚から海外で生花をしないかという手紙をもらう。
行く気なのか。そんな男の質問に分からないとしか答えられない。
男はその答え方を責める。
男は建築士を諦めようと思っている。
それよりも、二人の将来のことを考えたい。彼女のためならば、自分の夢は二の次。
そんな彼の姿にあまりいい顔をしない彼女に対して、自分が好きなのか、建築士を目指す自分が好きなのかを問いただそうとする男。
そんな中で、男が意を決してプロポーズしたのが冒頭のシーン。
でも、彼女はいい返事をしてくれない。
私のどこが好きなのか、私じゃないとダメなのか、あなたはそれでいいのか、自分の人生なのに・・・
彼女は、走り去り、男と決別しようとする。
それが、海外行きを選択して、空港へ向かっていることに繋がっているようだ。
婦警たちはそんな話を聞いて、厳しく男を訊問という形で追い詰めていく。
男の女性に対する甘くて勝手な幻想を持っているだけではないか。。
付き合い始めた頃と、今で愛は違っていないか。
彼女を愛しているという言葉を盾に、自分本位の言動を正当化していないか。
彼女を大事にしていたって言うけど、具体的に何をしたのか。
どうして彼女じゃないといけないのか。
一緒にいてくれる子がいれば、それでいいのではないか。
最初は、いい男に巡り会えない婦警たちの嫉妬心から、男をいたぶっているだけにしか見えなかったが、何か言っていることが正しいように思えてきて、すっかり洗脳され、本当の訊問みたいになってくる。
そんなこと言っていたら、世の中の恋人はみんなそうじゃないのか。
男は反論する。
この言葉を引き出したかったらしい。
そう、所詮、恋愛はそんなもの。
彼女の代わりは幾らでもいる。
運命の出会いなんてそんなものは無い。
彼女よりも、うるさく言わず、おとなしく一緒にいてくれる人がいれば、あなたはそれで満足なはず。
だから、振られたからといって追い詰められることは無い。
そう思えるようになれば、自殺することなんか無いから安心みたいな考えらしい。
婦警たちは独自で調査した、男に好意を持つ女性リストをチラつかせ、彼女と決別することを誘導しようとする。
しかし、男は婦警たちに銃を突きつけ、自分は空港へ向かうので車を用意しろと言う。
そこまで、考えを変えないなら、もう仕方ない。
婦警たちは車を渡し、男を解放する。
それなりにやって、ダメなのだから、もう自殺しても仕方がない。役所的な感覚だろうか。
でも、ピエロの子だけは納得できない。
自分は幼き頃、ずっと病床にいた。
父は元気になったら、一緒にキャチボールをしようと言っていたが、それは実現していない。
両親は離婚したから。
父は、母のことをいつも自慢していた。
運命の出会い。数多くの女性の中から、自分の運命である特別な女性と出会えたことをいつも話してくれた。
でも、結局、そんな運命なんか無かった。全部、嘘だった。
そんな話を男は聞くが、それでも男の意思は変わらない。
警察を飛び出し、空港へと向かう。
婦警たちは、仕事を終えて、次々と帰っていく。
残されたピエロの子。そこに一本の電話がかかってくる。
自殺相談の電話。
振られて自殺したいと言っている人に、ピエロは今から空港へ行ってみろと言う。
そこで、もしかしたら、運命の出会いが本当にあるのか、揺るがない本当の想い合いがあるのかが分かるからと。
ラストは、空港で電話を気にする女性の姿、そこに花束を持って、また一からやり直そうとしているかのように現れる男の姿が描かれる。
そして、そんな二人の姿を見て、両親のことで凍っていた心を溶かしたピエロの子と男がキャッチボールをしている未来の姿も。いや、かつて、確かにあったピエロの子の両親が愛し合っていた頃に、もしかしたら実現していたかもしれない姿が浮かび上げれるようにピエロの子がなったことを意味しているのかな。
きっと、ピエロの子は、二人の出会いの奇跡を目の当たりにして、人同士の仲がうまくいかないなんてことを見抜くような悲しい能力は、無くしてしまったに違いない。
始めから、代わりの人がいるとか、所詮そんなものとかなんて、考えるのは恋愛じゃないよね。
不幸にも別れることになって自殺するまで思い詰めることは確かに避けたいが、始めから思い詰めないように防御線を貼っておくなんて逃げてるだけでダメだと思う。
恋愛は理屈じゃない。
出会ったその人、その人が運命の人で、その人と歩幅や歩調がいつの間にか同じになっていくことが大事なことなのだから。
うまくいかないかもしれないけど、そうなるように懸命に互いに頑張る。
ピエロの子の両親もきっとそうだったはず。まだ、幼くて結果しか見れないから、恋愛の魅力が小さく見えてしまっている。
この二人の姿を見て、懸命になるその姿こそが、恋愛であり、始めからうまくいくとかダメだとかなんて言葉は何の意味も成さないことを知ったのではないだろうか。
男、戸部タケシさん(2013.07.30 訂正:ご本人のご指摘で、これは役名でした。比嘉良銘さんです。申し訳ありません)。熱く直球勝負で不器用な男。自分が男ということもあってか、とにかく、追求されて悩む姿や、それでも彼女を愛する姿には心を打たれる。感情移入させるだけの、素晴らしい演技だったのだろう。最後の方は、負けるな、諦めるな、絶対に何としてでも空港に行けと思って観ていたので、空港へ向かって走り出す姿に拍手しそうになってしまった。
彼女、中井美希さん。優しく包み込むような雰囲気を持つ。そんな雰囲気に男もついつい甘えてしまったのか。彼女の蓄積する不安に近い不満も、男ながら納得できるところもある。もう感情に任せて話してるじゃん、もっと冷静になろうよなんて思わすような、鋭いところを突きながらも、相手が見えていない口調は女性を感じさせる。女性を・・・。高校生なのになあ。
婦警さんたち。課長、木村琴美さん。その下で働く婦警3人、長尾美月さん、今村菜緒さん、山城絵里子さん。
木村さんの威厳を持たせながらの、振り回され、おどける人のいいキャラ。キレキャラで破壊的で毒のあるきつい言葉を連発する今村さんと女性どおしの恋愛関係にある設定。でも、課長が忙しくてなかなか一緒の時間を過ごせず、今村さんがキレる。ここが、伏線のように男と女のありがちな姿になっているところが面白く、確かに木村さんは優柔不断であいまいな男のような一面を感じさせるし、今村さんの言動は女性そのものだ。
事務的で、比較的しっかりとしてそうな優等生タイプの長尾さん、今風のちょっとチャラチャラしていて、抜け目の無い狡猾さを醸す山城さんの対照的なキャラ作りも楽しく思わせる。山城さんの男を追い詰める訊問シーンの厳しさは強烈で、途中、タオルを投げ込んであげたくなるくらいだった。
ピエロ、松山羅沙さん。ずっと、内に秘める悲しみやつらさを道化として覆い被せて見せないようにしている雰囲気だったが、最後の方で、この子のキャラ設定が明らかになるにつれてそれも納得。ピエロらしい、飄々とした言動、表情で場の雰囲気作りをされているようでした。
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コメント
すみませんが、
一人だけ役者名になっている人がいるのですが...
これは仕様ということでいいのですか?
投稿: 戸部タケシ | 2013年7月29日 (月) 19時41分
>戸部タケシさん
ご指摘ありがとうございます。
申し訳ありません。
私のミスです。
訂正いたしました。
それだけ役にはまっていたので、つい役名を書いてしまったということでご容赦をm(_ _)m
感情移入して、心揺れ動きながら、楽しく拝見しました。
今後ともご活躍ください。
申し訳ありませんでした。
投稿: SAISEI | 2013年7月30日 (火) 08時10分
>SAISEIさん
訂正ありがとうございます(^^ゞ
これからも頑張らせていただきます!
投稿: 戸部タケシ | 2013年7月30日 (火) 22時16分
>戸部タケシさん
ご確認ありがとうございます。
よき学生生活を(゚ー゚)
投稿: SAISEI | 2013年7月31日 (水) 09時33分