僕たちの好きだった革命【HPF高校演劇祭 淀川工科高校・長尾谷高校】130723
2013年07月23日 ウィングフィールド
素晴らしかったな。
こんな言葉でしか、感想を書けないのが申し訳ないが、本当に素晴らしかった。
この高校は、昨年も拝見しており、その時もなかなか見事な作品だったので、楽しみだったのだが、期待以上に心打たれるいい作品を見せてもらえた。
(昨年の感想:http://ksaisei.cocolog-nifty.com/blog/2012/07/hpf120720-2b98.html)
有名な既成脚本みたいだが、自分たちの言葉でそれを真摯に伝える、情熱あふれる姿にも感動した。
熱のこもった力作である。
終演後、なかなか鳴りやまなかった拍手が、その素晴らしさを一番伝えていると思う。
淀谷高校、文芸部の部屋から見つかった、1999年に書かれたボツ原稿。
高校時代の同級生だった女の子、未来が、高校2年生の自分たちに起こったことを書き記した物語。
今は消息不明。噂では大学卒業後、パレスチナでNGO活動をしているとか。
あの頃、彼女に恋心を抱き、共にその起こった事件を経験した、今は淀谷高校の教師になった男、日比野が、あの頃を回想する。
この作品が、いつの日か世の中に出て、彼女の目に届く日が来るように・・・
話は、その原稿を書いた当時の女子高生、未来がストーリーテラーのような形で進む。そして、そんな未来を当時の日比野、今の日比野が見つめている。
時は1969年まで遡る。
淀谷高校では、学生運動が起こっている。
シュプレヒコールの叫びの後、アジが始まる。
機動隊が出動して、現場は混乱した状態。
スピーカーを持ち、アジり始めようとする山崎に催涙弾が撃ち込まれる。
それから30年。
ずっと寝たきりだった山崎は、突然目を醒ます。
身寄りはもう、叔父だけになっているみたいだ。
医師の話だと、また、いつ昏睡状態になるかは分からないらしい。
山崎は、それまでの時を、あの淀谷高校で過ごしたいと言う。
淀谷高校に復学する山崎。
そこは、服装検査、文化祭の催し物の規制など、あの頃、闘ってきた権力に、容易に屈し、それにおかしさを感じずに生きている高校生の姿があった。
時代のギャップ。
管理する学校と戦おう、互いに討論し合おう、自分たちの自由を勝ち取ろう、みんなは何と戦って生きているのか・・・
山崎の言動は気が狂っているとみんなから思われる。
しかし、文化祭でラップを催し物にして、有名ラッパーを呼ぶ案を、学校側に拒絶された未来は、山崎に徐々に感化されていく。
彼女に恋心を抱く日比野もいつの間にか巻き込まれていく。
アジビラ、集会などの活動の中で、徐々に他生徒も。
これを快く思わない学校。
校長を始め、かつての同士だった教頭、先生たちは、巧みに山崎たちを追い込んでいく。
学校側に従わないなら、文化祭自体を中止にする。
この決定に、心を動かされ始めていた他生徒たちは、彼らに反発を抱くようになる。
お前らのせいで、全てが台無しになる。
かつての学生運動でもそうだった。
山崎が昏睡している間にも続いた学生運動は、やがて、世間の非難の対象となる。
そして、社会の自由を求めて、闘ってきた彼らは、世間から暴力的手段を使ってでも排除されるまでに追い込まれる。
かつての同士の教頭はそんな歴史を見てきて、今は学校側の人間として振舞っている。
そして、未来の母親も。彼女も、山崎のかつての同士。
彼女は、山崎が昏睡後も学生運動を続け、恋人を反学生運動の一般の人から撲殺されて失うという経験をしている。
その時の記憶は無くしているが、今でもそんな学生運動にまつわる言葉を聞くと、当時がフラッシュバックし、パニックに陥る。
そのため、未来のしている行動、30年ぶりに出会った山崎を厳しく非難している。
山崎たちの周囲は、敵ばかりになった。
でも、自分たちの未来を信じるという強い意思を持つ山崎の姿に、未来、日比野をはじめ、一部の生徒たちは、自主文化祭の実行を決意する。
自分たちで考えて、自分たちで決めて、自分たちで創り上げる。
かつての学生運動でつらい経験をした母親。
それが本当に間違いだったのかを確認するかのように未来は、学校側との闘いを決意する。
そして、そんな彼らの姿は、また人々の心を動かしていく。
自分の妻に起こったことを見詰めて、彼女の想いを理解しようと考えたのか、新聞社に勤める未来の父親は、この出来事を記事にして世間に知らしめる。
未来が文化祭に呼ぼうとしていた有名ラッパーは、自分たちの言葉を発する山崎たちに協調して、得意のラップで応援をしようと駆けつけてくれる。
自主文化祭を中止しろ。
お前のせいで、また多くの生徒が犠牲になる。
かつての学生運動も、結局それだけのことで終わった。
かつての同士、教頭の言葉に耳を傾けながらも、自分を、未来を信じて、文化祭をやり抜こうとする山崎。
自主文化祭が始まる。
多くの生徒たちが、集まってくる。
学校側は機動隊を出動。
逮捕を恐れて逃げ出す生徒。
残った生徒たちと機動隊が衝突する中、山崎は自分たちはただ自分たちの文化祭をしたかっただけ。
自分が正しいと思うことを、やり抜いて欲しい。自分たちの未来を信じて欲しい。
逃げた生徒、とどまる生徒、共に闘ってきた仲間、かつての同士、機動隊、学校側の人たち全てに自分の言葉を伝える。
そして、山崎に30年前と同じように、銃弾が撃ち込まれ・・・
一人の時代外れな男の滑稽とも思える情熱。
彼の姿は60年代のリアル。今は今の時代のリアルがあり、その温度差は激しい。
でも、それが互いに強制し合うこともなく、自然に温度差が狭くなり、心が一つになっていく。
何が彼らを繋いだのだろうか。
ノリ、無自覚、惰性からの行動。
ノストラダムス、2000年問題など、世界はいつか終わりを告げるという考え。
無関心、あきらめ、絶望。
こんなものが、少しずつ変わってくる。
自分たちはこうしたいという覚悟。自覚を持った行動。今まではこうだったからといって、盲目に従うことはない。
未来を信じる、信じたい。だから、自分たちは、何かと闘おうとできる。
催し物を拒絶されているのは自分だけではない。他の人も各々、自分の考えを持っている。それを理解する。
学校には学校の正義がある。だから、それと正しく闘う。自分が正しいと思ったことを貫く。
あきらめない。何度、負けても、最後に勝てる時を信じる。自分が、今、苦しくてつらくても、していることへの安堵、希望。
自分自身の心の改革が、作品名の革命につながっているのだろうか。
最後、山崎はあまりにもあっけなく、人生を終える。
30年の時を経ても、学校の革命は実現しなかった。
60年代、そして今の時代にも、彼はかなわなかった。
でも、彼は負けていないのだろう。
彼が革命した、共に過ごした高校生の心。
未来は、この起こった出来事を未来の誰かに伝えるために原稿として残したのだろう。
そして、今、彼女は世界の輝かしい未来のためにきっとどこかで働いている。
日比野はそんな彼女を今でもずっと見続けながら、あの頃の自分、今の自分を見詰め続ける。
そこには、山崎が信じてやまなかった未来があり、そこに抱く大きな希望が感じられる。
この山崎のように、かつてを生きた大人の皆さん。今のあきらめ、絶望がはびこる時代の私たちに、未来への希望を信じさせてください。
あなたたちがかつて持っていた、情熱を私たちに見せてください。
私たちの心に潜む熱い気持ちを見てください。
共に、何かのため、誰かのため、そして自分のために生きることが出来る社会を、自分たちで創り上げましょう。
革命を。
今の若者たちが、社会に突き付けたシュプレヒコールとしての作品としても感じられる。
山崎、片山直樹さん。空回りする滑稽な部分と、真剣な想いを伝える部分などのメリハリを効かせた演技。愚直なまでにまっすぐな姿が、笑いも感動も生み出している。
未来、門田歩惟さん。成長していく女子高生。芯のある強さが、山崎によって掘り起こされた感じ。落ち着きのある冷静な雰囲気がストーリーテラーとしての安定感も醸す。
日比野、大城戸洋貴さん。いい感じで飄々としたちゃらんぽんな感じが、今の高校生のなかなか真剣になれない姿を彷彿させる。恋する未来の姿、同じ男としての山崎の姿に感化され、自分なりの成長を遂げていく。先生になったのも、想いを伝えたい気持ちが強いのだろうか。そこに優しいながらも、自分のやるべきことを見出した強い姿が映る。
ラッパー、小田浩輔さん。他にも最後まで山崎に反発する生徒を演じます。ラッパーは山崎に協調する役なので、なかなか切り替えが難しそう。ラップは決してうまいわけではないですが、もどかしいながらも、言葉一つ一つを伝えようとする真摯なんだけど、弾けてノリノリという姿が印象的。
生徒会長、奥谷知紀さん、生徒、浜田崇史さん、門田侑樹さん。
奥谷さんは神経質でイライラしている感じ。惰性で学校に従う生徒会長の姿に決して自分を見出しているわけではなく、変えたいけどどうしていいのか分からない鬱積があるように感じる。
浜田さんは、ニコヤカな笑顔で笑いを巧妙に誘う役。一方、叔父役では背中で語るような大らかさを見せる演技をする。
門田さんは、ちょっとオタクキャラっぽい感じの仕上げかな。左右されやすく、逃げたり闘おうとしたり。揺れ動くこの姿も、また自分との闘いで傷つきながら頑張る一人の人間の姿だと思う。
校長先生、葛原将人さん。教頭、大窪佳さん。先生、高野孝人さん、安達渉さん。
さすがは現役高校生が演じるだけあって、皆さん、先生のことをよく見ているからか、描写が上手。かつて、学生時代に出会った先生たちを思い浮かべて楽しんでいた。
葛原さんは、汚さを醸す醜く情けない大人の姿を浮かび上がらせる。
大窪さんは、高校生とは思えない貫禄。酸いも甘いも経験してきたから出てくる年期が、山崎との相関を引き立たせている。
完全に生活指導の体育の先生だろう高野さん、妙にいつもイライラしていてヒステリックな先生の安達さんのよく特徴を捉えたキャラ作りは光る。
未来の父、黒田英史さん。一番好きな役だったな。父親の温かさ、男としての優しさ、強さを感じさせるキャラで。娘や妻に、近づくことでその想いを感じ取ろうとしている姿にとても心を打たれた。
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