部屋、あり〼【fabricant fin】130725
2013年07月25日 カフェ+ギャラリー can tutku
家をテーマに、自分の居場所や帰る場所を考えるような話。
居場所や帰る場所を無くした娘の悲しみや苦しみが、母の想いによって溶けていく様がとても優しく映る作品です。
ただ、個人的には、この作品、男は本当のところを理解できないのでは無いかなと思います。
母や娘という、女性の心情を中心に描かれているようなので。
<以下、ネタバレしますので、公演終了まで白字にします。公演は日曜日まで>
数年ぶりに実家に戻って来た女性。
家の中はすっかり変わってしまっている。
リフォーム中で、幼馴染が今も工事をしている模様。
近くに住んでいて、ちょこちょこ実家には顔を出している姉に連絡をして来てもらうが、姉も知らなかったらしく驚くばかり。
ここに一人で住んでいた母にどうなっているのか問いただしたいところだが、母がどこに行ったのか分からず、連絡先も分からない。
女性は引っ越すとしか聞いていないし、姉は全く何も聞いていない。
幼馴染は、一緒に住む人が出来たとか聞いているみたいだが、再婚でもする気なのだろうか。
そんな中、見知らぬ男が家を訪ねてくる。
母親の再婚相手か。
色々と話をしている中で、この家をシェアハウスにしようとしていることが判明する。
この男、自分の住んでいたアパートを引き払って、彼女と同棲するために新しいアパートを見つけていたが、彼女に断られるという悲しい状況に陥り、ここに来ることを決めたらしい。もちろん、母と契約を結んでいる。
男が言うには、1人とは会ったことないが、まだ後2人いるとか。
男の言うとおり、その2人もやって来る。
男が会ったことないと言っていた人は、実は一番よく会っていた人。なぜか男の彼女。同棲は断りながらも、追いかけて来て、一緒に住もうとしているらしい。
もう1人は、料理教室をここで開こうとしているおっとりとした女性。母にも許可を得ており、キッチンもそれなりのリフォームをしている。
何も聞いていない女性は、憤慨し、シェアハウスを拒絶する。
元々、母とは昔からうまくいっていない。
それだけに、なぜ、こんなに振り回されないといけないのだと、持ち前の頑固な性格も手伝って、とにかく何もかも受け入れない状況となる。
それでは困ると、必死に頼み込む同居人たち。
姉も混乱するばかり。
幼馴染はシェアハウスのことは、もちろんリフォームを受け持っているので聞いているが、どちらの肩を持てばいいのか右往左往。
母さえ戻ってきてくれれば、事態は収束するのだが・・・
同居人たちは、母は長女と一緒に暮らすことになったと聞いているらしく、言っていることがめちゃくちゃで、どれが母の本意なのか全く掴めない。
それにしても、なぜ女性がこんなにまで拒絶しないといけないのか。
女性は結婚しており、実家がどうなろうと構わないはず。
元々、母と不仲だったこともあり、ほとんど実家には顔を出していないのだから。
頑固なので、なかなか口を割らなかったが、ようやくその原因が明らかになる。
そこから、なぜ、母がこんなことをしたのかという想いが浮き上がり始める。
女性は去年、流産をしている。
もう忘れて、また産めばいい。そんな夫の言葉がどうしても受け入れられない。
生じた夫とのズレは戻ることなく、いつの間にか、一人っきりになり、離縁することになる。
でも、女性が戻る場所は無い。母と不仲なので、実家に戻ることも出来なかった。
だから、離縁後もしばらく、夫の家に同居する形になっていた。
自分の居場所を失った女性。
この女性、頑固であり、とても芯が強い。だから、その苦しみに必死に耐えていたが、もう心の中でその苦しみが溢れてしまったみたいだ。
そんな時に、女性の元夫の実家から母に連絡が入る。
離縁しているのだから、もう女性を引き取ってくれと。
そこで、母は考えたみたいだ。
自分がいたら、きっと戻ってくることが出来ない。だから、自分はこの家を出る。
でも、娘を想う母の気持ちはそれだけに留まらなかった。
娘は居場所を失って苦しい想いをしている。
実家に娘を戻せば、彼女に居場所を与えられる。
でも、それでは、ただ物理的に彼女の空間があるだけ。
彼女が戻って来れる本当の家。彼女が心から安心できる、帰る場所を作ってあげたい。
母も実は昔、流産しているので、その苦しみをよく理解している。
夫とはケンカして仲直りすること無いまま、事故で亡くしてしまった。
それから、ずっと一人でこの家に住んでいた。
そんな経験をしているから、彼女がただ、実家に戻っても、彼女が本当に癒える場所にはこの家はならない。
彼女が一人にならないような空間を作ってあげたい。
そんな娘を想う気持ちがシェアハウスに結びついたらしい。
そんな母の考えは、やはり的を得ていたようで、彼女は同居人が入れた一杯のハーブティーに涙する。
人に入れてもらうことが久し振りだと。
全てが解決した時、母から電話がかかってくる。
ぶっきらぼうに、帰って来いという女性。
料理好きな同居人が食事を作ると言う。
依然、シェアハウスは認めないなんて意地をはっている彼女だが、クリームシチューを食べたいと言う。
おなかがすいた。
ずっと、無機的にただ物を食べるということでしか食事をしていなかったのだろう。
今日の食事はきっと、本来、食事から得られる作ってくれた人の温かさを感じて、一緒に食べる人たちと共に幸せな時間を過ごすことになるのだろう。
そして、彼女はこれから帰る場所が出来る。
それは、ずっと一人で暮らしていた母にとっても同じ空間となるに違いない。
といった話だと思うのです。
家というものの存在が、物理的な帰る場所ではなく、精神的にも自分の帰る場所といった感覚はよく分かるのですが、話が難解というか、感覚にズレがあるというか、深い心情にまで入り込んでいけなかったように思います。
それは、基本的に家というテーマを通じて、家族の想いを描いているのですが、その中で女心を絡めた展開になるところが多いのです。
流産など女性特有の心情は、それがどれほどの苦しみ、悲しみなのかは本当のところよく分かりません。そのため、なぜ、このことが、女性が孤独な世界に入り込んでしまうことになるのかが、どうも繋がらないのです。
また、同居人の男の彼女が、彼を追って、わざわざシェアハウスで一緒に暮らすことなどは、作品中でも、幼馴染や男には分からない気持ちだということで、女性の登場人物たちだけの共通認識みたいになっています。
最後まで、その答えは明かされません。結婚したいの、妊娠してるのかななんて、色々と推測してみるものの、どうもその心情は理解できません。
それと、やはり、この話は母と娘の話であり、母と息子でも、父と息子や娘の話でもありません。
私自身、妙齢の未婚の妹がおり、母と実家で二人で暮らしていますが、警察呼ばれるぐらいに大げんかしたり、もう一緒に住むの辞めればいいのにと思うぐらいに醜く憎しみ合っているかと思えば、何か絶対的なもので結ばれているようなことを思わされたりで意味が分からなくなる時があります。
何か、この作品と似た感じで、互いに自分の居場所、帰る場所を共有し合った仲なのかなとも感じました。
母にしか見えない娘の苦しみ、女性にしか見えない悩み、そして、娘にしか感じられない母の想いみたいなものがあるのでしょうか。
女性を演じる是常裕美さんの、いつものコミカルな雰囲気とは打って変わった、苦しみが滲み出てくる姿は心を打たれます。どれだけつらかったのか、どうしてそこまで我慢したのか、そんな彼女の不器用とも思える強さにこれからの安堵や幸せを願ってやまなくなります。
姉の松浦由美子さんは、終始、作品の空気を作ります。妹の女性とはまた違った強さを持ち、姉という立場における優しさ、厳しさを感じさせる雰囲気を醸します。
同居人の男の彼女、桜井こまりさん。女性としての本能的な強さは見出させるものの、まだ未熟で幼い印象を受けます。自分の居場所や帰る場所というものをまだ模索しているような感じ。
料理好きな同居人、遠坂百合子さん。この方らしい、飄々としたふわっとした雰囲気。衣食住の大切さではないですが、作品のテーマ、居に対して、同じ感覚で食に関しても同様な描き方をしているような印象を受けます。
幼馴染、中平裕さん、同居人の男、長縄明大さん。この作品の男は、事の本質まで考えに至らない、とても未熟な男として描かれているような気がします。中平さんは流されることで、長縄さんは視点が一点に集中し過ぎるところで、全体像を見渡さない欠陥を抱えているようで、同じ男としては少し痛い感じです。ただ、そここそが、男の優しさだと思うのは、男感覚のエゴなのでしょうか。少なくとも、女性が出来るだろう言動は一切していないように思うのです。それがいい意味でも悪い意味でも、男なのだと思うのですが。
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