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2013年7月 7日 (日)

Evergreen Online /EDIT【ALTERNAIT Produce】130706

2013年07月06日 インディペンデントシアター2nd

こういった現実と架空世界を交錯させて、人の生き方を見詰めるような作品が好きだからなあ。
仮想現実の世界を描いた方が、より自分たちが生きる現実世界の出来事を明確に表現できている感じがして、その境界がぼやけてくる感覚がたまらない。
自分の想いを伝えるのに、架空だから、現実だからという区別は無く、そこに伝えたい相手がいるかどうかに委ねられているような気がする。
だからこそ、発した言葉が世界を変えてしまう。
それを新たなコミュニケーションの形として捉えるのか、あくまで真実の言葉は現実世界だけで通用する媒体として捉えるのか。
そんな攻防にも焦点を置きながら、どんな形でも出会った人同士の想い合いが、新たな人生を生み出すようなことを描いているような話のように思う。

<以下、ネタバレ注意。公演終了まで白字にします。公演は月曜日まで>

製薬会社に転職してきて半年余りの西新井宅人。
所属していた開発二課で警察が介入するくらいのトラブルがあったみたいで、課長の瀬川は行方不明に。
西新井も備品管理課とやらに追いやられる。
やたらテンションの高い親父丸出しの字楽課長、追い出し部屋のような劣悪な環境で飄々と振舞う中村、人と目を合わせて話すことが出来ないが色々と気配りができる四方田という女性が働いている。
と言っても、特にすることも無い。
西新井は暇つぶしにたまたま入ったネットカフェで、Evergreenというオンラインゲームをやってみる。

  

あなたの分身のようなものだと言う、ファンタジアと名乗る男に従って、男はゲームの世界に入り込む。
現実で失われたものを、取り戻すのだ。ファンタジアは西新井にそう語る。
とりあえずは、種族は人間、職業は剣士というごく普通のキャラとなってゲームを進める。名前はギド。
ゲームは普通のオンラインRPG。
仲間と共に冒険をしたり、クエストをクリアしてレベルを上げていく。
いきなり強い敵にやられそうになったところを、最強軍団と名高いパーティーに助けられる。
その姿にすっかり憧れてしまい、自分もそのパーティーに入れてもらうことに。
拳銃を操るかっこいいエルフの女性、自分の過去のことを聞かれるとすぐ逃げてしまう不器用そうな拳法家、ちょっと自分のキャラに酔っているような吟遊詩人、みんなと冒険するのが楽しくて仕方が無い様子の白魔法士の女性。
ライバルのパーティーもいるみたいだ。
赤色の衣装を身に纏いビシっと決めたリーダー格の女性、トラの衣装でなんかチャラチャラしている男、猫の衣装で少し柄悪い女の子、黒のセクシー衣装で戦闘員スタイルの女性。
リーダー格の女性と拳法家は、昔、同じパーティーだったみたいで、一悶着あった模様。

  

このゲームはユナイテッドデバイス参加型のボランティアと称して、ゲームに参加することで、その何百万のコンピュータのCPUの一部を利用して、治療薬開発のスクリーニング作業を行うシステムになっているらしい。
莫大な時間、費用がかかる治療薬開発を効率的に進めるために開発されたシステムらしい。
実は西新井が勤める会社がこのゲームの開発に最初は絡んでいたが、著作権など色々な問題から手を引いている。

  

西新井はパーティーと日々、楽しくゲーム上で過ごす。
ある日、エルフの女性からしばらく、会えないかもしれないと告白される。
彼女は現実世界で再発性の白血病で、2度目の骨髄移植を受けることになったらしい。
その前に、みんなと会いたい。
パーティーのみんなはオフ会で会うことに。
エルフの女性は、白血病のイメージとは程遠いチャキチャキの元気娘だった。
これも驚きであったが、もっと驚くべきことに、拳法家は字楽課長、吟遊詩人は中村、白魔法士は四方田の友達でとてもおとなしい女性だった。みんな同じ会社の人だったのだ。
何か、会社の飲み会+エルフの女性みたいな感じになってしまったが、楽しい時間を過ごす。
四方田の友達はちょっと西新井に恋心を抱いたりして。
でも、そんな時間は長くは続かない。
病院を抜け出していたエルフの女性は医師たちによって病院に強制送還させられる。

  

数日後、エルフの女性は、ゲーム上でライバルパーティーのリーダー格の女性と会う。
自分はもう、戻って来れないかもしれない。だから、自分のキャラ全てをあなたに預けたい。金に換えるとか、何をしても構わない。自分がこのゲームにいた証として名前が残るなら。
リーダー格の女性は、他の人たちとは違い、何か強い目的意識を持ってこのゲームに参加していることを感じるところがあったみたいで、それを信用したくなったようだ。
実際に、これは後から明らかになるが、この女性は拳法家の元妻、つまりは宇楽課長の元妻である。昔は瀬川も含めて、一緒に仕事をして、このゲームの立ち上げに貢献していたみたいだ。

  

静かに身を引こうとしたエルフの女性だが、そうはいかなかった。
突然、最強の能力を持つ怪物が現れる。
瀬川が作り出したキャラ。
瀬川は、このゲームが本来の治療薬のスクリーニングのボランティアとして機能せずに、多くのゲームにはまる廃人を生み出し、チート、RMTなど歪んだ問題を発生させていることに我慢ならず、全てを終わりにしようと考えていたみたいだ。
運営自体にも裏がかなりあるみたいで、このあたりを突いた瀬川は会社を追いやられることになったようだ。
みんなで戦っても、全くダメージを受けない。
エルフの女性は身を呈して怪物に挑み、その怪物を抑止する。
ゲームの世界に突如入り込んできた現実を、自らが全て受け止めた。
ゲーム上での彼女の死は、現実世界とも同調しているかのようである。

  

数ヵ月後。
西新井は、このゲームの最高レベルに達するまでになり、キングとなってゲームの世界を掌握しようとしている。
現実世界では、瀬川が危惧したネット廃人と同じ状況で、共に暮らすことになった四方田の友達の愛情も見えなくなっている。
全ては、あの怪物を倒すため。
もう会うことができない、このゲームに想いを残していったあの女性を胸に秘め、西新井が目指す最後の戦いの結末は・・・

  

現実とネットの仮想空間を交錯させて、そこに生きる人たちが自分の生き方を見出していくという、まあよくありがちな話ではありますが、観終えた感覚は、しっかりとした構成で練り上げられた話になっているなあと。
関西小演劇界では、必ず一度はどこかで拝見したことがあるような名を馳せる役者さん方の明確なキャラ作りと、そこにファンタジーワールド全開の衣装や舞台の雰囲気が、作品を素晴らしいエンターテイメントとして仕上げているように感じます。

  

西新井宅人、河口仁さん(シアターシンクタンク万化)。不遇な環境に追いやられ、周囲に振り回される感じも面白いのですが、ネット廃人となって何かに執着する様の負の迫力が凄いです。
ギド、杞山星瑠さん(劇団Patch)。勇者ですなあ。立ち向かう以外の選択肢が無い。西新井の前向きな精神だけで出来上がったようなキャラになっています。

  

字楽課長、早川丈二さん(MousePiece-ree)」。お調子者の親父パワー炸裂。で、いつものように、男のかっこいいところも奥さんとのシーンとかで見せて、ファンを掴む。
拳法家、上杉逸平さん(イズム)。うまくキャラが合わさっています。しっかり決めようとするんだけど、どこか間が抜けたところがあり、そこにほっこりとした癒しがあります。

  

白血病の女性、大沢めぐみさん。はかなき消えそうな少女ではなく、凛とした覚悟を持つ大人の女性としてキャラを作られています。ゲームをしているのも逃げではなく、どんな世界にでも、自分の存在を焼き付けたい強い心が感じられ、決してこのゲームが瀬川が思っているようなことばかりでは無いことが描かれているようです。
エルフの女性、Sarahさん(ムーンビームマシン)。当たり前なんだろうけど、やはりしっかり対応してるんですよね。もし、女性が元気だったらという姿。かっこよくて、いつもみんなの中心にいて。ネットでの姿は違う自分ではなく、出てこない、出せないけれど確かに自分の姿が映し出されるのだろうな。

  

中村、林裕介さん(劇団自由派DNA)。飄々と自由な人。いつもながらの醸される空気が独特の雰囲気を作り出し、面白い。
吟遊詩人、上田耽美さん。中村の優しいところと、少し周囲と空気が違うところを浮き立たせたようなキャラだろうか。

  

四方田の友達、米山真理さん(彗星マジック)。このキャラはまずい。また惚れる。盲目的に西新井を愛する。そう見えるが、実は、そこに、彼へのまっすぐな愛情だけでなく、彼が本当に愛する女性への想い、ゲームの中に残されたエルフの想いをすべて包み込むような慈愛を感じさせる愛し方がうかがえる。
白魔法士、山本光さん(イッパイアンテナ)。四方田の友達の内に秘めた強さ、自信を映し出すようなキャラになっている。時折、不安を見せながらも、絶対に引かない彼女の持つ真の強さを感じさせる。

  

四方田、林遊眠さん劇団ショウダウン)。ワタワタしたOLから、少し毒っ気のある電脳少女まで。チャーミングなこの方の魅力が見事に活かされた役どころ。
瀬川課長、野村侑志さん(オパンポン創造社)。狂気に近い、追い詰められた自分の表現。治療薬開発という使命の強さか。元々、正義感も強いのか。そのブレ無い責任感が、遊び幅を無くし、意に反する者の絶対排除という過ちを犯しているかのよう。本来は知的なイメージも感じさせられ、こんな凶行を行うようには思えないところもある。この行動は、自分が創り出した世界で、自分が救われないという複雑な感情が鬱積して引き起こされたのではないか。 人の過ちを一心に背負って起こす救世主の姿が悲しい。

  

宇楽課長の元妻、上野淑子さん(ブラック★タイツ)。
ライバルパーティーのリーダー格の女性、山本香織さん(イズム)。
お二人ともよく拝見しており、区別はもちろんついているのだが、こうして思い起こすと、完全にお二人が同調してしまっている。強い貫禄の中に、時折見せる影の部分が恐らくは妻、女としての部分だと思っていたが、実際は、それよりも母親の部分だったみたい。大きな包み込むような愛情。これはこれから母となる四方田の友達の姿ともオーバーラップする。

  

トラの服、成瀬トモヒロさん。かなりいい加減にその場しのぎで振る舞う嫌な感じのキャラ。でも、持ち前の人のよさそうなところを活かしてさらっとした感じになっている。現実世界では、うまく立ち振る舞えず損をする人なのではないだろうか。
猫の服、おぎのかなさん(ホリプロ)。現役アイドルだけあって、抜群に可愛らしい。今風のちょっと生意気な若い子イメージも持たせ、現実世界との境界をぼかす等身大の姿が描かれている感じである。
黒服、南光愛美さん(劇団猫の森)。戦うということを強く意識させているキャラ。現実世界でも打ち勝たないといけない人に囲まれているのだろうか。自分の人生を前に進めるために、強くならないといけない。そんな気持ちがこもった生まれ変わろうとしているような女性を想像する。

  

ハープを弾く人、御意さん(Project UZU)。自分自身で、この世界に身を固めて、何かを解き放とうとしているような人。 後半に奏でられるお得意のハープは、自分も含めて変わろうとしている人への旅立ちに向けたメッセージみたいなものか。

  

ファンタジア、谷屋俊輔さん(ステージタイガー)。一番はまっていたなあ。優しくもあり、残酷でもあり。大切な人に嘘偽りの無い、正直な純粋な気持ちをぶつけている。作品中の生きていたらまた会いましょうという言葉を真摯にとらえ、出会いから始まる新しい道をひたすら信じているようである。

  

和田雄太郎さん(ムーンビームマシン)、亜由子さん、片岡彩乃さん。
ダンサーさんとして、ゲームの世界でうごめく襲い掛かるものをイメージさせている。要はモンスターなのだが、その美しい動きが現実世界における試練のようなものとしてとらえられる。

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