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2013年7月22日 (月)

Dear~「ありがとう」を君に【HPF高校演劇祭 大阪信愛女学院高校】130722

2013年07月22日 シアトリカル應典院

先週の金曜日から始まった、HPF高校演劇祭。
都合で週末は観れず、遅れて、本日より参戦。
昨年もたくさん拝見したが、高校生が自分自身、社会を見詰め、そこに抱く真摯な考えを伝えてくる深い作品が多く、非常に魅力あるものとなっている。

この作品も、一つの死を通じて、生きるということを真剣に見つめた深い作品となっている。
最初、随分とおとなし目な印象を受けて観ていたが、これは恐らく、登場人物が背負う生の苦しみを、各々が掴みとり、それを丁寧に描こうとしている表れなのだろうと思える。
死はどこか遠くの存在でありながら、今、生きている自分の常に隣り合わせにあるものとも考えられる。
生きることを考えるには、死が悲しいとかつらいとかを越えた視点で見つめなくてはいけないように思う。
これを、作品を通じて実現し、今、そしてこれからを生きる自分たちが、一つの答えを出しているような作品である。

ある高校の取材部。
部長、副部長の下、男女計8人で活動している。
新聞を発行しているが、部員ぐらいしか新聞は買われず、廃部の危機に追い込まれている。
何か興味を惹くネタをと、奇術部やオカルト部のような珍しいクラブ取材を試みるが今ひとつ。
結局、学校の七不思議である、9年前に、ここで自殺した生徒のことを調べることにする。

自殺した男は、今もまだ、この世を彷徨っている。
何か心の重荷を背負っており、このままだと、永遠にあの世に行くことが出来なくなる。
同じような状態で、この世を永遠に彷徨うことになった女性に、その心の重荷を早く解消しろとたきつけられながら、タイムリミットまでの時を過ごす。
この男、親がおらず、施設出身。
普通に学校生活を送っていたが、いつの日かみんなと疎遠になっていく。
自分ではどうしようもない流れの中で、みんなとの距離は広がっていき、苦しみを背負うことになる。
それから、逃げるかのように自殺。
だから、幸せに学校生活を送る人たちを憎んでいる。

取材部の生徒たちも、普通に学校生活を送っていても、各々、心のどこかに重荷を背負っている。
もう、重荷から逃げてしまいたい。
そんな心の隙を、自殺した男の亡霊は突いて、自分と同じ死を選択させようと振る舞う。
見えない何かに誘発されるかのように、取材部の生徒たちの間に亀裂が走り始める。
取材部にいるある3人組も施設出身。幼き頃は、その施設で仲良しだった。
でも、1人が里子でもらわれることになり、2人が施設に取り残される。
残った2人は、互いに支え合いながら、自分の宿命と向き合って、生きていく。そして、 高校にも頑張って入学し、そこで、また3人出会ったみたいだ。
自殺した男の亡霊は、そんな3人の心の隙を突く。
あいつはお前のことを本当は嫌いだ、ずっと面倒見させられてうんざりしていたのではないか、自分だけ裏切るかのように施設を出たのではないか・・・
3人の間に出来てしまった溝は埋められることなく、連鎖的に3人が自殺。
3人の運命はそうなるようになっていた。
でも、そんな運命を変えようとする女の子が現れて・・・

話としては、里子にもらわれた女の子には、もうすぐ妹が生まれることになっている。
ずっと一人だった女の子は、血がつながらなくとも、そんな妹と出会えることが嬉しく、まだ生まれていない妹に手紙を書いたりしている。
3人の運命を変えようと現れた女の子は、その妹。姉からもらった、その手紙を持って、この取材部にずっと未来からやって来て、紛れ込んでいたのだ。
妹は、自分の姉を、そしてその友達2人を脅かそうとしている、自殺した男の亡霊の存在を知り、そこから遠ざけようと奮闘する。
そんな中、姉はその自殺した男の亡霊と対面する。
2人は幼き頃、施設で出会っていた。
姉がいじめられてどうしようもなく、つらかった時に、励ましてくれた唯一の友達。
同時に男にとっても、姉は自分の人生の中で初めて出来た友達だった。
自分は苦しみから逃げて、結局、負けて死を選んでしまった。でも、姉と出会えたことは、自分の人生においてとても大切なこと。だから、そんな姉が、自分とは違って、その苦しみから逃げずに向き合って生き続けていることを見届け、その感謝の気持ちを伝えたかった。
心の重荷が解消された自殺した男の亡霊は、最後に笑顔であの世へと向かう。
そして、運命を変えることが出来た妹は、数日後に新しい命として姉と対面することを約束して、自分の時を過ごす未来へと旅立つ。

施設育ちというマイノリティー。
親がいないということだけで、あらゆることが全面否定されてしまう。
そこで、蓄積される生への苦しみは、作品中にも言及されるが、確かに同一経験をしていないと本当のところは分からないのかもしれない。
でも、その人に心の重荷が存在することは分かってあげられるように感じる。
憎しみはいっぱいあるだろう。
でも、それを越えて、その重荷を軽くしてあげられるだけの想いを相手に伝えることは出来るはず。
生の苦しみを与える人もいれば、その苦しみを取り除く人もいる。
そんな人たちに、いつかきっと、出会える。
自殺した男も、姉と出会ったことで、生の苦しみが一時取り除かれたはず。
姉だけでない。これから、生きていれば、また、そんな出会いが必ずやって来ることを信じてくれていればと感じる。
未来に待っている人がいる。
この言葉が、そんな未来を無くしてしまい、時を止めてしまう死を打ち消し、生への大きな駆動力になる。

登場人物は、各々、特徴づけられているが、基本的に等身大の高校生にように映る。
それが、生や死というものが、普段の日常生活で当たり前のように存在しているもので、その間を揺れ動いているようなことを感じさせる。
取材部の生徒たちが、自殺した男の亡霊の簡単ない一言で、その絆が崩れていったように、生と死のバランスも、いとも簡単にどちらかに偏ってしまうのかもしれない。
それぐらい、人は弱い。
でも、そんな時に、自分を見詰め、そして自分を想ってくれる人の存在を過去、現在、未来と時空を超えて見出すことが出来れば、悲しい選択は自ずと避けられるのではないだろうか。
人は弱いけど、人と人がいるなら強い。
それが人の誇りあるところのように感じる。

里子にもらわれた女の子、中道美希さん。揺れ動く不安定な女子高生像だったが、最後に、生きる道を選んだことの自信がみなぎる凛とした力強い姿となる。未来から来た妹や周囲の友達からの想いを受け取り、出会った自殺した男の死を見詰め、そこから自分が今、生きていること、これからも生きることを強く覚悟したところが、この作品の大切なメッセージになっているように感じる。
自殺した男、岸梨花さん。生から逃げ、死んでしまった今、その死からも逃げている。そんな彼が、自分が生きていた意味合いを、女の子との出会いから見出し、同時にその死を受け入れた感じである。鬱積する苦しみから解放される笑顔が悲しい。本当は生の中で、その笑顔を取り戻せていたならば。
この世を永遠に彷徨う女性、田中春菜さん。自分の心の重荷を解消することが出来なかった彼女は、永遠に苦しみを背負い続けるのだろうか。その永遠の中で彷徨う覚悟を持った、影のある落ち着きがつらい気持ちになる。それとも、苦しみを受け入れることで、その苦しみを昇華させた仏のような存在なのかもしれない。
3人組の2人、田中ひかりさん、平田珠梨さん。田中さんがしっかり者の面倒見のいいお姉さん、平田さんが協調性が無くわがままできつい妹みたいな初期設定だが、2人の過去を振り返る中で、逆転しているようなところも見せる。互いに支え合って生きており、自殺した男の亡霊の一言ぐらいでは、その絆は崩れることが無かった。2人が出会えた喜び。作品名は、至るところの関係で適用される言葉だが、この2人にもあてはまる。
未来から来た妹、明石楓夏さん。外観からは少し想像しにくい力強い姿を見せる。人を想う強い気持ちに溢れている。きっと、生まれる前から、姉から想われていたことで、その感謝が自信となってみなぎっているようである。姉から想われたことに対し、姉を想うことで返す。ここに想い合いという、人の強い絆が生まれている。
取材部の面々。
部長と副部長のコンビ、豊川葵さん、森畑美奈子さん。おちゃらけて、頼りなさそうな部長をフォローするわけでなく、一緒になっておちゃらけることでバランスを保つ不思議なコンビネーションを見せている。
落ち着いて冷静な足立佳代さん。気の弱そうな岩本彩美さん。優等生的な北地志帆さん。
そして、ずいぶんと弾けて、色々と面白いことを連発する徳田あゆみさん。
こんな個性的な生徒たちが、起こる事件を身近なものとして、舞台の雰囲気を創り上げている。

自殺した男と姉、姉と妹、友達同士、取材部のみんな。
そこには、出会ったことの感謝を示すありがとうの気持ちがあり、そこに気付いた人たちが、これからを生きていくことに繋がったような話だと思う。

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