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2013年7月13日 (土)

ドアの向こうの薔薇【くじら企画】130712

2013年07月12日 ウィングフィールド

以前に大竹野正典さんの作品を拝見した時、どんなこと思ったんだったかなと自分のブログを読み返してみる。
演劇じゃないとダメ。そう思ったのか。
それなら、今回も同じ感想となる。
とにかく、演劇の力というものを感じられる凄い作品なのである。
(夜が掴むの感想:http://ksaisei.cocolog-nifty.com/blog/2012/07/10706-d02f.html

連続婦女暴行殺人事件を扱った話ということで、暗いのだろう、宣伝文にはボーヨーとした内容と書かれているので、難しいのだろうと思っていたが、どちらも当てはまらない。
テンポよく観ることができ、シーンは色々と切り替わりバラバラとなっているが、とても分かりやすい内容・構成である。
そして、普通に笑えるところもチラホラ。いや、チラホラどころじゃないな。けっこう、そんな明るいところがたくさんある。
ただ、ラストは圧巻させられることになる。あまりの迫力に意識が朦朧となるくらい。
戎屋海老さんの主人公の苦しみを吐き出す鬼気迫る独白。
抱きしめたくなるくらいに感動した。

<以下、ネタバレしている部分がありますが、しているからと言ってどうこうという作品ではないので、白字にはしていません。完全白紙で観たい方はお気を付け下さい。公演は月曜日まで>

連続婦女暴行殺人犯、アル。
知らない女性の部屋に夜中に入り込み、朝を迎える。朝ごはんを平然と作ったりして、言葉たくみに女性をその気にさせる。そして、絞殺。
アルの上の弟。
婦人靴の販売員。靴の交換を依頼されたと騙して、女性の部屋に入り込み、女性の脚を触る。新しい靴を渡して、履いていた靴を奪う。
アルの下の弟。
元妻の部屋に入り込み、風船とホッチキスで脅す。離婚の原因も、とにかく女性に悪質な嫌がらせを繰り返したところにある。
新聞勧誘員。販売ノルマ達成のため、既に取っている新聞をもう一部取れという無茶苦茶な勧誘を繰り返し、断られると逆ギレする。

そんなシーンの間に、酒を飲んで暴力的だった父親、片足が麻痺して不自由な娘、娘が生まれて以来、自分を拒絶するようになった妻のことなどを交えながら、話は進む。
最後は、モデルのスカウトを装い、侵入した部屋の女性の通報を受けて逮捕。
そのまま、連続婦女暴行殺人犯として裁かれる。
検事の追求、世間の批判などをイメージさせる追い込みから、アルがこれまでの自分を独白する中で、この事件が引き起こされるまでの経緯、人間、アルが出来上がったまでを浮かび上がらせている。

アルの弟や、新聞勧誘員は、アルの分身と捉えたらいいのだろうか。これらの人と関わった女性は全て、アルの犠牲者になっているように思われる。
恐らく、アル自身であり、アルのある人格を特化した形で描かれているように感じる。
女性の脚に執着するのは、娘の脚をマッサージして、治したいというようなところも絡んでいるようだ。もちろん、これと同時に異常な性癖が存在していることも確かだと思う。
女性への悪質な嫌がらせは、 自分を拒絶するようになった妻への恨みみたいなものだろうか。女性自身を全て信じることが出来なくなっているかのようである。そして、これも同時に、幼き頃からの残虐な性格も関与していると考えられる。
逆ギレは、幼き頃から暴力的な父に悩まされ、結婚しても娘は足に障害を持つ。優しかった妻もすっかり変わってしまう。何で自分ばかりがこんなに不幸を背負わなくてはいけないのか。そんな自分なんだから、少しぐらい無理を受け入れてくれてもいいじゃないかといった感じか。このあたりも、元々、自分中心で物事を考えてしまう自分勝手な性格の一面も絡んでいるように思う。

このように、元々、問題のある性格が絡んではいるのだが、生きている中でアルに振りかかってきた出来事が、その性格を悪い形で露出させてしまった感じがする。
暴力的な父がもっと優しい人だったら、娘が足に障害を持っていなければ、妻もアルと一緒に娘の不幸と向き合おうとしていれば・・・
恐らく、その問題のある性格は、アルの奥深くに閉じ込められて、このような犯行にまでは至らなかったのかもしれない。
さらに、もしかしたら、本当はアルのもっといい一面が露出していた可能性もある。

まあ、この作品はそんなアルの心理的な分析をして、犯行の動機を明確にすることが狙いでは無いだろう。
きっと、大事なのは、人間とはそもそもアルみたいなものだと感じることにあるのではないだろうか。
元々、誰にでも存在する心の闇の部分は、人生のある出来事や経験によって、姿を現し、その人の考えや行動を征服してしまうかのようだ。
神や仏ではないから、人をボコボコにして傷つけたいなんて想いはきっと心のどこかにある。少なくとも私はあると思う。
ふられたり、裏切られたり、傷つけられたりした時に、現にそんな想いが姿を現わすことがある。でも、実際に私が人を傷つけたりしないのは、きっと、そんな考えを奥深くに押し込めてしまうくらいに、人の優しさに触れたり、信頼や尊敬できる人に出会ったり、打ち込める何かを見つけたりとかしているからだと思う。
アルの場合は、そんなこともあったのだろうが、そのバランスがあまりにも、悪い方にずっと傾いてしまっていたのだろうか。

この作品は、アルという人間を教材にして、人間とはどういうものかを見詰めてみようといった印象を受ける。
普段の生活において、殺人犯なんてなかなか身近にはいないから、ニュースとかで見ても、自分とは全く無関係に思ってしまう。
育ちが悪いんだろう、頭がおかしいんだね。まあ、私とは全く別の人種ですよ。
そう、考えてしまうことが、間違っていませんか、あなたと本当に別次元の話ですかと問われているようである。
犯罪者だからといって、拒絶、全面否定では無く、その心理を見詰めてみる。
それは、同時に自分にも潜んでいる闇の部分を映し出すことになるに違いない。
そして、そのことが分かった時に、そんな闇に支配されて生きることのないように、人のいいところを感じ取り、自分自身の道をしっかりと歩もうと思えるような気がする。

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コメント

今回も観に来て頂けて本当によかったです。
ありがとうございました。
大竹野さんが生きていればと何度思った事でしょう。
でも、ありていな言い方をすれば作品は生き続けるのだと思っています。
そして私達の心の中にも。
本当にありがとうございました。

投稿: 秋津ねを | 2013年7月13日 (土) 08時59分

>秋津ねをさん

コメントありがとうございます。

まあ、当たり前ですが、観ておいて良かったです。
観劇って、本当に心揺さぶられるんだよなあと改めて思いました。

間違いなくそうだと思います。
作品はずっと生き続けるのでしょう。
だから、いつまでも、その姿を観続けたいと思います。

投稿: SAISEI | 2013年7月13日 (土) 23時05分

無事に全日程を終える事が出来ました。
次回、また一年後にお待ちしております!
その前にいずれかの劇場で!

投稿: 秋津ねを | 2013年7月16日 (火) 12時10分

>秋津ねをさん

お疲れ様でした。
来年、楽しみにしています。
また、どこかで(゚ー゚)

投稿: SAISEI | 2013年7月16日 (火) 18時14分

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