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2013年7月 7日 (日)

日本語私辞典【オイスターズ】130706

2013年07月06日 アイホール

衝撃的な作品だった。
とにかく、観るべしと噂になっていた劇団だったが、これは凄い。
この劇団も凄いが、日本語、凄いと感じさせられる作品で、かなり感動した。

<以下、ネタバレしています。まあ、読んだところで観ないと分からないとは思いますが、白紙で観た方が衝撃を受けるのは間違いないと思います。大阪は本日まで、その後、名古屋、広島と公演は続くようですので、ご注意願います>

始めに役者さんが並んで五十音しりとり。
愛 → 一生 → 上・・・みたいに、きちんと順番になるように。
時々、無理やりになって普通の屁とかになったりするけど、最後までつながった。
もうこれだけで、ちょっと感動。

その間に、舞台に準備されたパネルのようなものに、五十音が書き込まれていく。
濁音、半濁音も含めて。

続いて、私という言葉の概念みたいなものの説明に入る。
私は私にとって私であって、他人は私のことを私とは呼ばない。
もし、「た」という文字が存在しなくなるとわたしはわしになっておじいちゃんになってしまう。
だから、私は私のことを自分、ウチ、ミーとか呼ばないといけなくなる。
この場合、私のように淡々として言うことは出来なくなって、何らかのキャラ付けが必要になる。

私は私だが、彼にとっては、彼女とか恋人という存在である。逆も同じで、彼も私だが、私にとっては恋人である。
そんな彼が二股を掛けていたとする。
彼は絶体絶命の状態。
そこで、「ま」を消してしまう。
彼はふた男となる。
臭いものにふたをする都合のいい男。
絶体絶命の状態はあまり変わらない。
助け舟を入れてくれる女性が現れる。
ふた男なんていい加減な男に聞こえるが、私にとっては良き夫です。続いて子供も現れて、お父さん。
彼は女性にとっては夫、子供にとってはお父さんという存在になる。
男にとって全く事態は好転しない。
逃げ出す男。
これで男は逃亡者。女はバツイチとなる。
視点を変えれば、私は私以外の何者かになるようなことを例えて話しているみたい。
何のことやらと思って黙って聞いていたが、これはこれから始まる物語のエプロローグのようなものになっている。

女子高生の私。
朝起きる。
お父さんとお母さんが食卓に座る。
おはよう。
家族で食事。
ご飯、味噌汁、シャケの塩焼き、納豆・・・
仲の良い夫婦。娘である私。
いってきます。
学校へ。
いつも出会う挨拶だけするおじさん。どうも。
何か気持ち悪い。無視すると何かされそうだから、とりあえず挨拶だけしている。凄く、嫌。
学級委員の友達。お~っす。一緒に登校。
今日はテスト。苦手の数学。勉強してないなんて言うけど、いつも学級委員はいい点数を取る。
先生が教室に。起立、礼、着席。
テスト用紙が配られる。つばをつけて配るから気持ち悪い。
テスト終了。
同級生が突然、告白。
俺、海賊になる。
みんな、相手にしてられないとばかりに無視してその場を去る。
そうか、あの子は海賊だったんだ。私のクラスには海賊がいた。
下校。
居酒屋でバイト。
先輩に学校の話をしたら、海賊なんて馬鹿じゃないのと。
山賊と戦うか。鉄球と鎖鎌を取り出す。
危ない。警察を呼びますよ。
店長がやって来る。
もう遅いから帰りなさい。
お先に。先輩はすぐに帰る。
私も帰る。
あいつと会ったら嫌だから遠回り。
でも、会ってしまう。どうも。
家に帰って、友達に電話。
それ、ストーカーだよ。
親に相談すれば。
でも、うちの親、変にラブラブだから言い出しにくいの。
だったら仕方ない。
私の辞書から、ストーカーの「す」を消してしまおう。

翌日。
朝起きる。
お父さんとお母さんが食卓に座る。
・・・いや座っていない。あれっ。イ・・・、何かなかったけ。
おはよう。
家族で食事。
ご飯、味噌汁、シャケの塩焼き、納豆・・・
仲の良い夫婦。ム・・・、え~っと、我が子である私。
いってきま・・・、行って来る。
学校へ。
いつも出会う挨拶だけするおじさん。また、会ってしまった。「す」を消したのに。
今度は喋りかけてくるようになった。トーカーだ。
学級委員の友達。お~っい。一緒に登校。
今日はテスト。苦手のウガク。
ウガク。なんだそれ。
鵜匠高校だからウガクを学ぶ。
私は鵜匠になりたい夢を持っている。
・・・

といった感じで、今度は「と」、「か」を消したりしていき、どんどん文字削除を行いながら、人や物が消えていきます。
でも、あの男は消えない。
ただ、「と」を消して、お父さんがいなくなっても、パパという言葉で存在を戻したり、椅子を腰掛け、チェアーと言い換えたり、納豆は大豆の腐ったやつ、先輩は私より先に店舗で働いていた人などとして、この厳しい状況を克服していきます。

必要な物は言葉が無くなると、消えてしまう。
必要で無い物は無くならない。
「め」を削除しても、目は無くならず、物は見える。目は必要だけど、それを意識して見るという行為を行っていない。目の存在を思って見出したら、目が無くなる。
椅子は椅子としてそれを認識しているから、「す」という言葉の削除と共に存在も消えた。
いつも出会う人はストーカーとして認識していないから、「す」を削除しても消えなかった。
「と」を削除するとお父さんと認識している人が消える。でも、同時にパパとしても認識しているから、また戻ってくる。最後は「ぱ」も消えるが父と認識し直して、存在を消していない。母親だったら、あなたとか、娘でも大切な人だとか尊敬できる人だとか自分がそう思える言葉を生み出せれば、存在は消えないのかな。
存在しているモノに言葉が対応しているのではなく、言葉から認識されるモノが存在しているということか。
頭ぐちゃぐちゃになるけど、面白い。

五十音の大半が削除されても、実はけっこう会話が成り立つ。
言い換えや説明文で対応することが出来るから。
日本語だけだろうか。こんなこと出来るのは。
じゃあ、けっこう無駄な文字があるんじゃないのか、アルファベットは23だしなんてことも思うのだが、これはきっと違うな。
言葉が削除されると、悲しくなってくる。伝えることが無機質になり、込められた真意の深さが無くなっている。この作品でも、最後の方はなぜか物悲しい雰囲気になってしまっている。
恐らく、確かに会話を成立させるのに50も必要ないのかもしれないが、言葉を豊かに使うためには必要な数なのだろう。そして、その豊かさが日本人の思いやりだとか優しい心を生み出しているに違いない。

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コメント

オイスターズ観ましたか!

今回のは結構、知的なお芝居の感じがしました!
前作のドレミの歌の方がパンチ力あるんですけどね!
アンケートに再演希望してます♪

投稿: TAKU | 2013年7月 8日 (月) 12時52分

>TAKUさん

ご無沙汰です。
コメントありがとうございます。

TAKUさんも、ここ、絶賛してたもんねえ。
驚きました。
ここまで凄いとは。

ドレミの歌は両バージョン、DVDを購入しました。
生じゃない分、やや衝撃は薄れるでしょうが、とりあえずは、これで観逃した悔いを解消しますわ。

投稿: SAISEI | 2013年7月 8日 (月) 17時14分

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