SQUARE AREA【壱劇屋】130613
2013年06月13日 シアトリカル應典院
舞台上で綺麗な空間を創るということでは、プロの目から見ても相当な定評があると思うが、今回は四方囲み舞台ということもあってか、これまでの中でも一際、その美しさが感じられる作品だった。
舞台芸術際 space×drama2013と称されて、今、この劇場で行われているプロデュース公演の中の一作品。
その名にふさわしい、見事な作品だと思う。
芝居とダンス・パフォーマンスを融合させた表現形。
この劇団らしい、コンテンポラリーダンスのようなダンス・パフォーマンスによる単なるエンタメに留まらない躍動性豊かな身体表現。そこに、演劇らしい仕掛けで、前半にばらまかれた数々の伏線を、ラスト繋げて、興奮させる。
最後に浮き上がってくるのは、自分たちが生きている空間が、色々な人によって出来上がる無限の可能性を秘めたものといった感じだろうか。
<以下、ネタバレしますので公演終了まで白字にします。公演は日曜日まで>
舞台は四方囲みで、真ん中に四角の空間があるだけの簡素なもの。
四角い部屋であり、そこに閉じ込められた人が脱出するまでを描いている。
前半はそこに閉じ込められた人、その周囲の死角から刺客のように現れる者たちによるパフォーマンスにより、この密室空間のイメージを植え付ける。
その説明はしにくいが、この劇団のブラックスペースを観たことがあるなら、それに近い感じか。
視覚できない扉やアイテム。
この部屋から脱出するのに必要な資格とは。
作品名のしかくを言葉遊びしながら、その舞台設定に入り込まされる。
中盤は密室空間に出入りすることになった登場人物たちの人物像が描かれる。
作家。書けない悩みからか薬物中毒になっているみたいだ。売人から薬を手に入れている。そして、ここに来る前にひき逃げを犯している。
看護士。トリップできる鎮痛剤を病院から流すことに手を染めている。お金に困っていて離婚の危機を抱えている様子。そして、横流しがばれそうになっている。
売人。薬の売買で警察はもちろん、私腹をこやそうとしたみたいで組織からも追われている。取立てから逃亡すつためにも、とにかく金が必要な状況。おまけに病気も抱えていて、何もかもうまくいっていない。
医師。ここに来る前にひき逃げにあったみたい。完全に寝たきりで痛みに耐えかねられない容態。患者の死で悩んだりもしているが、それ以上に最近、死んでしまったペットのことで精神的にまいっている。
ネットアイドル。ちょっと痛いアイドルで人気がそこそこあったみたいだが、恋人との破局、ブログ炎上、そしてリストラ候補になってしまっていることで、落ち込んでいる。
ネットアイドルのファン。なぜか便意をもよおした状態でここにやって来る。もう、限界の時も近いみたいだ。ネットアイドルの熱烈なファンで、その仲間と文通するみたいなこともしていたらしい。
元経営者。完全にブラックな事業を営んでおり、海外脱出の際に、難破して今は無人島暮らしをしている。生きるために、その島のジャガーと戦わなくてはいけないらしく、死と直面しながらもたくましく生き延びている。
人物像は、視覚できないアイテムの出現と共に、何か脱出ミッションのような指示書が部屋に飛び込んできて、同時に4つのキーワードが与えられる。
それが上記した人物像を想像させる仕組みとなる。
例えば、作家なら、作家・薬物中毒・ひき逃げ・盗作みたいな感じで。
全員、何かに追い詰められおり、それがこの閉鎖空間やその周囲の刺客に怯える環境を創り上げているみたいである。
後半。
密室にはあと一人の男がいる。
この男は、まだ追い詰められていることが明らかにされていない。
そして、もう一人、女の子。
この男の追い詰められていること、女の子の正体が明らかになった時、全ての謎が解明され、怒涛のごとく、ばらまかれた伏線が回収され、登場人物たちが繋がっていく。
最後は、この部屋の仕組みが閉じ込められた人たちにも分かってくる。
追い詰められたことが無くなると、この部屋から脱出できるみたいだ。
何人かは、それで一度、この部屋から脱出して外の世界に戻っている。
でも、結局、またここに戻ってきてしまう。
一時的な逃げではダメ。
自分の不安を完全に解消しなくてはいけない。
では、どうしたらいいのか。
どこかで、この密室にやって来た人たちは繋がっていた。
だから、互いに協力し合い、相手の助けになることが出来るはず。
作家は薬の鎮痛剤を医師に渡す。罪滅ぼしにもなる。医師は、けっこう金を持っているのだから看護士に少しぐらい渡せばいい。ついでに、売人の病気も治せるはず。元経営者はジャガーをしとめて、医師に渡せば、少しはペットを失った悲しみから癒されるはず。
ネットアイドルはもう一度、あの痛い姿を見せればファンの男の力になるはず。元経営者は、今は無人島暮らしでも、昔は羽振りのよかった経営者。ネットアイドルのリストラをその会社の社長にやめさせることが可能。
・・・
追い詰められて、自分自身を救うことは何も出来ず、密室でもがき苦しんでいた人たちだったが、けっこう人のために出来ることはあるみたいだ。そして、そのことが相手の苦しみを取り除くことに繋がった。
全ての不安が解消された時、この密室が開くはず。
最後は、追い詰められたことが明らかにされていない男。
男は気付く。
この密室にいる人は、娘がお世話になった人たちであったことを。
そして、自分は娘が危篤の知らせを受けて、急いで駆けつけようとした時にここにやって来たことを。
道で倒れた娘を病院に運んでくれた元経営者。お世話になった医師と看護士。同じ病室だった売人。
娘は作家のファンだった。ネットアイドルも好きで、同じ趣味の仲間との文通を楽しみにしていた。
その感謝の気持ちが、最後に少しでもみんなを救ってあげたいと、こんな異次元空間を創り出したようだ。
7人と父親である自分。
8個の頂点が作り出した四角い空間。
病室という閉鎖空間で過ごした娘は、その空間を単なる密室とは考えずに、自分と関わりを持った人たちが創り上げてくれた大切な空間だと考えていたのだろうか。
死という悲しい形ではあるが、娘はこの四角い空間から旅立たなくてはいけない。でも、きっと、自分の生きる場所を創り上げてくれていた頂点の人たちへの感謝の想いが強いのだろう。
何かに悩んで、閉鎖空間にいてしまっているという人たちも、その空間は、自分と何らかの関わりを持つ人たちによって出来上がった、自分の生きる空間であり、そこを閉鎖とは思わずに、その空間を作り出す頂点の人たち、その人たちによって出来上がる面を大事に想って生きて欲しいといったようなことを伝えたかったように感じる。
これはよくある閉鎖空間からの脱出劇ではなく、その空間をどう捉えるかと見詰め直した時に、そこは決して閉鎖区間ではなく、自分を想う色々な人たちによって出来上がった大切な空間だと気付くことで、その空間を開放するといった物語のように思った。
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